第四十話 貴族と親睦会
僕は気合を入れていた。前世の料理が通用するのかと。ここにきて生産チート?と。
残念ながらそれは出来なかった。
地球の世界の記憶を持ったままこの世界に来た人が、絶対にいると。
元々井戸があった。ポンプがあった。
風呂があった。木を燃やし、お湯を温めていた。
下水道のようなものがあった。スライムを使っていた。
米があった。懐かしくならないうちに食べることが出来た。
そんな中で料理無双は・・・。無理だ。
僕は宿屋わかばのおかみさんに助けを求めた。
「ラウール君と付き合いは短いですけど、フエフート伯爵に料理を出し、うなられた宿屋の料理人と言うのも宣伝効果があるかも・・・。料理人の紹介は、料理の評価が良かった時でよいかしら。料理が不評であれば、ラウール君が不利益をすべて受けてくれるのであれば、そのお願いを聞きます。私たちもさすがにリスクが大きいので・・。ごめんなさいね。」
そうおかみさんは言ってくれた。
不評な時のに僕の責任になることはまったく気にしない。
なぜなら、不評であれば全て僕の責任として、一緒に移動することを相手から断ってくれる可能性も出てくるから。
権力は怖いけど、僕一人ならいくらでも逃げることが出来る。だから、引き受けてくれるだけありがたい。ここの料理はおいしいし、このおいしさを共有できない人とは一か月もの間一緒に移動なんてできないと思う。
「大丈夫ですよおかみさん。ここの料理はおいしいですから。もしだめなら、僕一人の責任ですましますから。」
そう説得し、ダンさんを【希望の家】に連れて行くのであった。
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【希望の家】は大忙しだった。料理を作り、会場を作り、飲みものを買いに行き・・・。
貴族向け、庶民向けの物を準備して、どちらも口にしてもらう予定だ。
相手も僕を試すだろうけど、僕も相手を試すのだ。
そうやって忙しく準備をして、準備が出来そうなときに希望の家の門を叩く者がいた。
「おーいラウール、俺が来たぞ。カシマス、入っていいかー!」
そう、門の方から声が聞こえた。
おいおい、予定より早いぞ。人の家を訪ねる時は、準備があるから少し遅れて行くのがマナーではないのかこの世界は?
そして、カシマスさんは既に迎えに行っている。早いよ対応が、貴族はSランクの冒険者も気を使う程の存在なんだな。
僕も迎えに行き挨拶をする。
「クロース様、いらっしゃいませ。僕の家ではないのですが、歓迎いたします。」
「クロースでいい。」
はっ! ハードルを上げやがったこの貴族!
「いえいえ、貴族のクロース様を呼び捨てなど・・。庶民には無理でございます。」
そこから壮絶な争いが始まった。絶対に呼び捨てにさせたいクロース。
絶対にそこまで気安くしたくないラウール。
今世で一番と言えるほどの緊張感を持ち戦っていた。
しかし、そこは庶民・・・。押し負けてしまった。
「せめてクロースさんでお願いします。それ以上は無理です・・・。」
勝負に勝ったクロースは勝ち誇った顔をして話し出した。
「わかった。それくらいでいい。でもなラウール、俺は貴族の子と言っても三男だ。貴族の子も跡取りであれば親と同じ貴族位となる。しかし三男程度であれば、良くても貴族の端くれ程度になるくらいだ。俺は貴族になれなくとも良いと思っている。ただ父の役には立ちたいから、貴族の子という立場を利用して共和国について学びたいと思っている。」
意外に考えていると思い僕は感心した。
「だからラウール。俺と一緒に世界を回り、俺の父のために働く気はないか?」
マタボクハキョヲツカレタ。
「いえ、僕は自由に旅をしたいと考えています。クロースさんと依頼の後も旅をすることは考えていません。また僕がいる街等で依頼を頂けたら、依頼は優先的に受けることは可能ですが・・・。」
少し考えるそぶりを見せたクロース。
「今はそれでいい。まずは、隣の国までの道のりの護衛依頼をよろしく頼む。」
そう言って、頭を下げた。
その後はダンさんの料理を食べて、酒を飲める者は飲んで、酔いつぶれていた。
夜も更けたがクロースは帰ることなく、結局は希望の家にみんなで泊まることになるのであった。
「「意外に気が合うな・・。」」
そう呟いている者がいた。




