第三十九話 貴族からの依頼
突然、護衛依頼を打診された。
このタイミングでなぜ?
僕はそろそろ隣の国に行こうと思っている。わざわざ護衛依頼を受けていると時間が取られる。
しかし隣の国へ行くとなると・・・。
それでもご貴族様の依頼?指名でなければ何とか躱せるか?
そう思っているとギルマスが口を開いた。
「この依頼は明確には指名依頼ではない。しかしラウールを見た貴族が、あの男ならと話をしていた。できたら受けてやってほしい。俺の友でもあるから。」
それを聞いていたカシマスは嘆いた。
「私はおまけですかね・・・。Sランクなのに・・。」
少しいじけている雰囲気を感じた。
「ちがうちがう・・。カシマスは指名だ。カシマスと【希望の家】のメンバー十名程度の人員を指名している。そこにラウールも入れてほしいと言う希望だ。しかし、あんなことがあったから、強制はできないという事だった。」
あんなこと、どんなこと?
「あんなことって、なんのことですか?」
「お前が貴族の子に絡まれたことだ。あの時に間に入ったカーシンが今回の依頼者だ。」
間に入ってくれた人物・・・。確かに穏やかに解決してくれた。でも僕は特に覚えられるほどの事はしていない。ただどうするか困っていただけなんだけど・・。
そんな思いが顔に出ていたのかな。
「お前は何もせずに躱していた。しかし見るものが見ると強者と言うのはわかるんだよ。カーシンはお前を強者と見た。だからこその指名だ。」
ん~、強者?雰囲気?わからない・・・。僕も時々は感じるけど、強者ってわかるのかな?
「僕は何もしていませんよ。ただ困っていただけで。強者ってわかるものなんですか?」
そこにカシマスが口を挟んできた。カシマスとギルマスが言うには、僕は強いという事だ。
僕が強くて、僕に実力が近い人がいないから僕にはわかりにくい感覚だと言う。
僕は納得はしないが、考えてみた。僕が強いと感じた人は・・・、確かににあまりいない。
強者の雰囲気は・・・。カシマスさんやギルマス?かな。盗賊のリーダーにも感じなかったし。
そう考えると、自分より強い人間はあまり知らなかったことにようやく気付いた。
「確かに・・。自分でいうのは恥ずかしいけど、あまり強いって感じた人間っていなかった。面倒くさいと思える人はいっぱいいたけど。」
「面倒くさいって・・。俺の事でないだろうな・・・。」
ギルマスはジトっとした目で見てきた。
いくらつぶらな目でも可愛くないですからね、ごついのは・・。
しかし、ここまでの話になっていると依頼は断り辛い。受けるのはいいけど、誰をどこまで、どうやって?
そして、馬鹿貴族だとさすがにゴメンだ。
「どんな人を護衛するんですか。その人によっては考えますけど?。」
そういうと、ギルマスは自分の知っている情報を教えてくれた。
クロース・フエフート:共和国について学ぶために留学する。国民にとって良いところを取り入れる事があれば、王国に還元するために:グレーの髪:ザンバラ頭の短髪:くだけた性格:男:十五歳:百七十センチの身長、細マッチョ。
「性格はいいぞ。貴族であって、平民にも平等の家柄だ。ま~三年前に見たのが最後で、後はこの前来たカーシンに聞いただけだけどな! っはっは!」
笑いごとですか・・・。
「わかりました。受けますよ。本当は貴族から遠ざかりたかったんですけど、どうせならいい貴族と関わった方がまだましですから。ギルマスが言うなら、いい人でしょ?」
「いい奴だぞ。俺と友になれるくらいだからな、この大雑把な俺と! 親の方だけどもな!」
頭が痛くなる、自分でおおざっぱって・・・。
「わかりました。依頼を受理することを伝えてください。そしてカシマスさん、逃げないでくださいよ、何があっても・・・。」
カシマスはビクッとした。何かあるのかと・・。
「(は~貴族には関り合いたくなくて早く出発しようと思っていたら・・・。うまくいかないな。そして、ここは娘の護衛を頼む! だろっ)」性別はどっちでも良かったけど、テンプレなら娘だろ!
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依頼を受け、顔合わせの当日となった。
さすがにご貴族様・・。依頼開始当日の集合はない。
だから僕は冒険者ギルドに向かっている。
貴族の護衛は初めてで、礼儀をどうしたらいいのか考えているうちに冒険者ギルドに到着した。そして、あれからずっと僕は【希望の家】に居候状態だった。
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冒険者ギルドまではカシマスさんとは別行動をした。親しくはなっているが、【希望の家】として依頼を受けたカシマスさんと、僕という関係がここにはある。やはり、家族同然と仲がいいくらいでは、これ以上の距離を詰めないようにしたほうがいい。別れがつらいから・・・。
そう思っているうちに冒険者ギルドについた。ギルドではもう当然のように二階に向かう。
今回はギルマスの部屋ではなく、会議室だ。
伯爵の息子であるからには、専属の護衛もいる。狭い部屋では、集まれないだろう。僕は一人・・・・。いつもソロ・・。
カシマスさんも【希望の家】のメンバーを二人連れ総勢三人。
伯爵家は何人のメンバーを連れて来るのか?
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「おう!今回はよろしく頼む。俺はクロース。よろしくな。」
僕はキョヲツカレタ。
親と一緒で気さくだな。お金を払う場面で払わずに不意を突かれるような人ではないな・・・きっと・・。
「今回はよろしくお願いします。ラウールと申します。ただラウールと呼んで下さい。」
面白そうなものを見た顔で視線を追ってきたクロードが会話を続けた。
「おう!父上から聞いているが、強いんだってな! 一度俺を守っているクリスと戦っているところを見てみたいところだ。」
クリス? 隣にいる僕より少し年上のような女性かな?
「めっそうもない。僕なんて一介の冒険者です。貴族様の護衛と戦うなんて・・。」
「そんなことを言うと嫌味になるぞラウール! 強い奴が言う言葉ではない。周りがかわいそうだ。」
そう言われた後はみんなで自己紹介や、今回の護衛依頼の話をした。
今回は護衛で隣の国のハンブートまでの護衛依頼だ。フイエウ共和国とサーシン王国の貿易拠点である街だ。そこまでの依頼は思いのほか長期間に及ぶものになる。スタスデの街からサーシンまでの距離と同じくくらいの距離。おそらく進行速度を考えると一か月の期間を予想する。そうなるとここで良い関係を築いておくことも必要だろう。
「この後、宴会をしませんか?僕はお酒を飲めませんが、十五歳を過ぎている人なら飲んでもいいのでしょ?だったら、貴族とか冒険者とか、庶民とか関係なく、長い期間一緒に移動する仲間として行動しませんか?」
僕的には賭けだった。これで乗ってこない貴族なら、一緒には一か月の単位では一緒にいられないと・・・。
「いい案だラウール! どこにする?」
のってきたよこの貴族!?
「希望の家の拠点に、食べ物やお酒を運び、そこで親睦を深めるのはどうでしょう?」
ここまで降りてこれるか試してしまった・・・。
「おう!いいな! じゃあ準備してくるから、夕方に待ち合わせでいいか?」
僕はびっくりしながらも言葉を返した。
「じゃあおいしいものを準備しておきますね。」と答え、別れたのであった。
「(前世で自炊していたことを思い出せ・・・。今世で食べたことのない料理。ほっぺが落ちるどころでなくなくしてやる)」
クロースの返事が嬉しく、久しぶりに舞い上がっていた・・・。
自分が思っていた貴族象が違っていたことを喜んで・・・。




