第三十三話 血の繋がりとは
僕は今混乱している?
目の前のこの男をどうしたらいいんだ?
混乱した頭のまま体はその男の前に進んで行く。
「おい!これはどういうことだ!! あ~、あいつもこいつも倒れていやがる! チィッ、お前の仕業か!? この悪魔が!!」
・・・・
「僕の名前はラウール。悪魔なんかじゃない。僕を産んだ女もラウールと呼んで微笑んでいたよ。今は親でも何でもない他人だけど。で、お前は?」
一定のリズムで言葉を発している。抑揚がなくなっている。
「あ”~! 名前を聞いてどうする!! ラウール?! 急に名乗りやがって、誰だよお前!!」
手に小さな剣を持ちながら、こちらに向かい中段で構えている。
「ラウールと申します。赤子の持ち方はもう少し丁寧にお願いします。苦しくて、意識を失いました。ま~あなたがクズのおかげで、ミックと言う素晴らしい父と、ララと言う聖母の子としてすくすく育ちましたが・・・。」
目の前の男は考えている様子があったが何か思い出したのか目が泳ぎだした。
「ミック、ララ・・・。お前ローリーが抱えていた赤子か? あいつらが俺の事を何か話しやがったのか!! あ~よっぽど悪く言いやがったんだろうな!!」
それを聞いたラウールは、今度は感情が沈んでいくのを感じた。
「父様も母様も人を悪く言わない・・。僕が覚えているだけだ。お前のつかみ方が悪くて、意識をなくしたのも全てな。お前もあの女も、僕がいなくなることを何とも思っていなかった。僕はお前の付属品で、あの女はお前だけいればいいんだったな。あの女はどうした。まだお前にくっついてるのか。」
驚いた表情をしたロドリゲス。そのあと苦い顔をした。
「あの女のことは言うんじゃね~!! あんな尻軽!! 今頃リーダーに腰を振ってるんじゃねーか!! あんな女は知らねーよ!! 俺はいらね~!!」
・・・・・
・・・・・
醜い・・・
こんな奴らの血が入ってるなんて・・・
僕もこんなやつらみたいに・・・・
頭に血が上りクラクラ目の前に靄がかかっているようになってきたと思ったら、僕の横を強い気配が通り抜けた。
スパッ!!
ロドリゲスの首が飛んだ・・・。
ロドリゲスの目の前にカシマスさんがいる。カシマスさんは剣の血を払い、こちらに向かって来た。
「ラウール君・・。君はこいつと同じか?」
僕は答えられない。
「違うでしょう、君は違う。君はわざわざ盗賊なんて討伐に来なくてもよかった。けど、あんなことを言ってまでここに来た。何故ここまで来たの? 善良な人が傷つくのを見るのが嫌だったのではないの? そうでなければここまでは来ないよ。君はこの辺を拠点にしていない。ギルマスから聞いたけど、ここの冒険者ギルドにはいい思いはないはずだ。けれど君はここまでやってくれた。だから・・・、君の親は僕が殺した。君は何もしていない。僕が殺したんだ・・・。」
・・・・・
・・・・・
「ごめんなさい・・・。」
そう呟いたが僕はまだ何も考えられず、建物の中に入った。まだ中には五人の気配がするのだ。
家の中に入ると、一人ずつ襲い掛かってきた。遅すぎる攻撃で、僕の武器月光で一閃した。
三人を殺して、残りは奥の二人だと感じとり気配がする方向に進んで行く。
その先のドアを開けると僕は思わず呟いた。
「やはりか・・・。」
転生して一番初めに見た人・・・。
僕の生みの親ローリーがそこにいた。
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「ねえ?誰か来たわよ・・、あなたのお仲間は弱かったのかしら? ロドリゲスも戻ってこないし・・? 使えない男・・。」
目の前にいる女が口を開いた。
その女は、僕が知っている姿より年を重ねた容姿でそこにいた。
きつい臭い袋の香りが充満し、より下品な雰囲気を醸し出している。
「おいてめーら!! 俺の部下に何をしやがった!! ただじゃ~済まさねーぞ!!」
そう叫び椅子から立ち上がり、盗賊のリーダーは斧を構えた。
女はその様子を見て胸元を隠し、にやにや笑っている。
「この人は強いわよ。だまって降参することね。いくらあなた達が強くても、仲間が戻ってきたら、なぶり殺しにされるわよ。」
「おめーらなんて、真っ二つにしてやらー!! 待ってろよローリー、すぐに終わらせてまた抱いてやる!!」
大きな声で叫びながら、後ろにいる女より前に出て、構えている。
「素敵よあなた・・。そんなあなたが大好き‥。」
ゾワッ!!
僕はそんなやり取りを見て鳥肌が立った・・・。こんな女から僕は生まれたのか・・・。
どんなやり取りがあったかわからない。それでも自分が産んだ子の父親のロドリゲスを先に出し、自分は強い男に乗り換えその後ろで守ってもらう・・。
その為には体でも許す・・。
「気持ち悪い・・。」
「あ”~、何が気持ちわるいだ~! 俺の何が気持ち悪い!!」
盗賊のリーダーが反応してしまった。
「僕が気持ち悪いのはその後ろの女ですよ・・・。」
「俺の女が気持ち悪いだと!! てめー、殺してやる!!」
そう盗賊のリーダーが叫んだ瞬間、男の首元には剣が添えられていた。
金髪をまとめた髪を、しっぽのように揺らし、カシマスは男が気づかない速さで近づいていた。
「ちょっと静かにしましょう。ラウール君が何か言いたいみたいだからね・・。」
と殺気を飛ばしていた。
「ちょっと・・・、ラウールって聞いたことがある名前ね・・。」
女は首を傾げて考える仕草をしている。
「僕はラウール、十二歳ですよ。どこの誰が産んだか知りませんが、父様と母様に幸せに育てられたラウールです。産まれてすぐに男から売ると言われて、その男の好い人だった女も拒否しなかった。男がいれば自分が産んだ子供だって捨てるような女の腹にいたラウールです・・・。」
自分でも何がいいたいのか分からない。でも言葉が出て来る。
・・・・・・
・・・・・・
女は何かに気づいたように話し出した。
「ラウンド・・、えーとラウールなの? あ~大きくなって・・。でも、産まれたばかりの時? ロドリゲスもそこまで売った相手に話してないはずよ・・、私たち夫婦の話は?」
「名前すら・・・。全部知ってますよ・・・。産まれた時、いや売られる場面からね。初めはラウールと三人で一緒に暮らしたいと言ってパパであるロドリゲスの帰りを待っていたことも・・・。そのあと売ると言われた僕・・・。三人で暮らせないならこの子はいらないと言われた僕・・・。そして今はロドリゲスまで捨てた最低な女・・・。」
僕は産まれ、売られたときの場面を思い出していた。
その言葉を聞きながら口を開けていたローリーは「あんたなんて知らないわ。やってしまってあなた!! こんなの少しの間でも見ていたくない!!」そう甲高い声で叫んだ。
それを聞いても盗賊のリーダーはカシマスが首に剣を当てているため、身動きが取れないでいる。
そして、カシマスは今の話を聞いて、少しだけラウールの事情を把握していた。
いくら醜い心の持ち主でも、この子にとっては・・。
そう思い、一度カシマスは剣を離し、ラウールの隣に並んだ。
「ねえラウール君、君はどうしたい? 君が望むなら、僕が殺してあげるよ・・。」
その言葉を聞いたラウールは考えた。僕はこの女をどうしたいのか?僕の過去はいつまでもこの女に縛られるのか?だったらいっそのこと・・。
「おい!! この女が死んでいいのか!? 今の話を聞けばお前の母親なんだろ? 殺されたくなければ道を開けな!! こいつは置いて行ってやる!」
盗賊のリーダーはそう叫び、斧をローリーに向けている。
「あなた!! 何言ってるのよお~!! 私の為に戦ってよ~!! おねが~い!」
媚びを売った声が聞こえる・・。
「うるせー!」と叫んだ瞬間盗賊のリーダーはローリーを蹴り、後ろからローリーを切りつけた。そしてローリーが倒れたところで、走って外に逃げようとした。しかしそれを逃すカシマスではなかった。カシマスは一瞬で移動すると、盗賊のリーダーの腹をすさまじい勢いで殴った。
殴られた盗賊のリーダーは、意識を手放した。
そして、倒れているローリーをラウールが確認すると、真っ赤な液体の絨毯の上に倒れていた。まだ息をしている。その女にラウールは近づいていく。顔を覗き込むラウールにローリーが話しかけた。
『あなたみたいな子供を私は知らない。私は私が良ければいいの・・・。私の為にならないものなら、私はいらない・・・』と話し、二度と動くことのないものが、ラウールの目の前に残された。




