第三十二話 物騒な散歩
僕たちは一度【希望の家】の拠点によった。
そしてカシマスさんの装備を整え、必要なものを持ち門を出た。
盗賊の拠点はスタスデの街から南の方角にあると言われていたため、駆け足の散歩を開始した。
さすがSランク冒険者、僕と同じスピードで歩いている(早い)。そして僕は歩き(早い)ながら、気配を探っている。
カシマスさんは何も言わず僕についてくる。まるで僕が盗賊の拠点に必ずたどり着くと思っているように。
僕たちのスピードで三十分走ったころ、十人程度の気配がした。
ここは街道から外れているため、カシマスさんにこの辺は人が立ち入るところか聞くと『貴重な薬草が採れるけど、十人の集団で来るところではない』と言う。
そこからは、僕が方向を示し、気配を殺し、物音を立てないように進んだ。
数は十人だった。その集団に僕一人で近づいて行くと相手が直ぐに気付いた。
「よーよー、こんなところで何をしているんだい。」
「馬鹿なガキが迷ったか!!」
「これくらいのガキなら男でも売れるぜ!!」
「おい!おとなしくついて…」
言い終わる前にエアカッターで九人の首を狩った。
「ひっ・・・なにが・・。」
生き残った盗賊が、しりもちをつき、動けなくなっている。
「ねえ、素直に教えてね・・・。お前らの拠点はどこだ?」
威圧を込めて質問した。
盗賊は声を絞り出し答えた。
「ひっ・・ふー、ふ~・・・。あっちです・・」
それだけ聞けたらもう用はないな。
「わかった(エアカッター)。」
生きている盗賊がいなくなった。
「カシマスさん行きましょう。この状況で嘘をつけるような大物なら盗賊をしていないと思いますから。」
カシマスはようやく動き出した。
「容赦ないね~、私より容赦ない・・・。」
そういう声を聞いて、また走り出した。
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しばらく走っていくと、小さな集落?のようなところについた。ある程度傷んだ家が見えるが、人の気配が多い。廃村になった所かな? そこを拠点にしていたのか?
もう獣道すらないから拠点にしていてもばれなかったのか・・・。
僕は魔力を込め、建物すべてを囲めるように岩壁の魔法を唱えた。
するとすぐに廃村を囲むように、絶対に登れない位の高く固い壁が出現した。
「行きましょうカシマスさん。中に入る時だけ穴をあけます。」
僕はこのくらいの魔法を使用しても、魔力が減っている気がしない。どれだけ魔力効率がいいんだ。
僕とカシマスさんが廃村に突入すると、訳が分からない様子の盗賊が叫んでいる。
「なんだこれ!!」
「おい!見張りは何してる!!」
「・・。」
盗賊が混乱している姿が見えた。僕達なら、この中の盗賊なら負けることはない。
「カシマスさん、手分けして殲滅してしまいましょう!」
僕の気配察知には二百人は引っかかっている。おそらく盗賊の集団がほとんど残っているはずだ。ここを殲滅してしまえば、しばらくは善良な人の被害が減る。
「わかりましたよ~!」と言いながらカシマスさんは盗賊の首をはねている。
「ラウール君も無理しないでねっ!」
とまた一振りに一人倒していく。
僕も負けていられないと、目に見える盗賊は全て倒しながら進んで行った・・・。
向かってくる盗賊は切り捨て、遠くに見える盗賊は魔法を使い、徐々に徐々に盗賊の気配が消えていく。
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盗賊を倒しながら奥に進んで行くと、一軒の家があった。そこで初めて、家から盗賊が出てくる気配がないことに気づいた。
「ここが盗賊のリーダーがいる家か?」
周りの盗賊を一掃し、家に近づいていく。
家のドアに近づくと、一人が外に出ようとする気配を感じた。
息を殺し、敵が出てきたところに攻撃しようと待っている。
そこへカシマスさんも近づき、一緒にタイミングをうかがう。
・・・・・・
・・・・・・
カチャカチャ・・・
ドアを開ける音がし始めたから身構える。
一気にドアを開け放ち、駆けだしてくる盗賊。
????見覚えがある顔だ????
????茶髪?少し人相が悪いけど・・、顔は悪くない・・・。
あの顔は・・・・。
僕を売った親、ロドリゲスか!!
解析を使うと名前が【ロドリゲス】と表示される。その後ろに、【ラウールの父だよ。】と浮かんでくる。
神様・・・。
僕の父は父様だけだ!! ミックであって、ロドリゲスなんて親はいない!!
浮かび上がった文字を見て、一気に僕の頭が沸騰した。
『どうしたんだい、ラウール君?』
と隣のカシマスさんが声をかけてきたが、声が遠く感じる・・・。
こいつを僕はどうすればいい・・・。
誰かの大切な人を傷付けるこの盗賊をどうしたらいい・・・。
否定しても、僕の血にはこいつの血が混じっている・・・。
神様・・・僕はどうしたら・・・。
もちろん返事は返ってこない・・・。
僕が選ばなければいけない・・・。
悪い奴はどうなるべきなのか?
僕は前世で言う遺伝子上は親になる男を見つけてしまい、難しい決断が求められる状況に出会ってしまった。




