第三十一話 盗賊討伐依頼開始前日
話し合い当日、僕は冒険者ギルドに入った。
話し合いはギルド二階、会議室で行われるという事で、チルミさんに案内された。
案内された部屋には、ギルドマスターのランバードさんが座って待っていた。その横には男が二人座っている。
その二人に挨拶をすると、ギルドマスターは僕に紹介してくれた。相手にも僕の事を説明してくれていたようで、ごたごたすることはなかった。
冒険者クラン【希望の家】
リーダー:Sランク冒険者:カシマス:男:三十歳:片手剣使い:百九十センチはある長身。細マッチョ:金髪:肩まである髪を男ながらにポニーテールに結んだイケメンだ。
サブリーダー:Aランク冒険者:フラロ:男:二十七歳:土魔法使い:百七十センチやせ型:赤いスポーツ刈り:四角い輪郭で、眉が太くいかつい
まるで職業が逆のような二人だが、実力は高いという。クランも五十名と大所帯で、僕が入らなければ、このクランだけで討伐依頼を進めるようだった。騎士がいるため、二十五名の参加で、バランスよい人材を選ぶという。
クランの信頼度も高く、スタスデの街に迫る危険があった時には、必ずクランの誰かを参加させているという事。後輩の育成にも定評があり、孤児を引き取り育てることもあるようだ。今回は、この街へ不利益を与える盗賊を許すことが出来ず、リーダー自ら参加するそうだ。
僕たちはお互い握手を交わした後、無言で騎士を待っていた。
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待ち合わせの時間をかなりすぎ、騎士たちが到着したという報告があった。騎士も二名話し合いに参加するようだ。
騎士の偉そうなほうが入ってくるなり話し出した。
『さー話し合いを始めよう。』と言い出したところで、隣にいた小柄な騎士が遮り、「隊長、まずは遅れたお詫びを・・。皆さん申し訳ありませんでした。出発前にちょっとひと悶着ありまして…。」
偉そうな騎士も謝った。
「すまなかった。ランバードもすまん。騎士の間でも色々あってな。」
「お前がそういうならそうなんだろう。俺はお前は信頼している。そのお前の言う事ならな。遅れたことは何も言わない。」
「ありがとう。それでは早速だが、俺の上司である大隊長が、冒険者の手を借りなくとも討伐できるだろうと言い出した。それを領主まで話しに行き、今回の共同討伐が中止になった。ワシも出発前に知らされて・・。何が何だかわからないが、すまん。」
困惑した顔のランバードが聞き返した。
「それはどういうことだ! 騎士の人数を増やすという事か? お前たち騎士は、機動力が冒険者より悪いから、今回の計画になったはずだ!」
顔をしかめた隊長も話し出す。
「そうだ、だからこそ話を持ち掛けた。しかし、決定は覆らん。ギルドには迷惑をかけた。迷惑料はワシがだす!許してくれ・・・。」
隣で聞いていたカシマスが話に介入した。
「では、私たちは単独で討伐に向かう。依頼でなければ騎士も何も言えないはずだ。この街の危険は見逃せん。私たちのクランのすべてをかけて盗賊を根絶やしにしてこよう。」
「ちょっと待て、ギルドはそこにいた盗賊を討伐することについては何も言えん。だからと言って二百人の盗賊の集団に向かうのは、止めさせてもらう。」
ランバードは立ち上がり、必死な表情で話し始めた。
「すまん・・。どちらも遠慮してくれ。今回は領主が、盗賊討伐隊の邪魔をした者は全て処罰すると言っている。お前たちも邪魔をしたとされ、クランを解体させられる危険がある。冒険者ギルドに他者の権力は及ばないが、街の人々の命に関わる失敗があった場合には押さえられないかもしれない。」
・・・・・
・・・・
話し合いが続いている。僕が口をは挟むタイミングが無い。
クランに手を出したら許さないとか、クランがすべて相手になるとか、リーダー止めてとか、ギルドを敵にするのかとか、ワシの顔に免じてとか、隊長は悪くないとか言い合いが続いている。
僕もだいぶ聞いてるだけなのもつまらなくなってきたので
「帰っていいですか?」
と切り出した。
「「「いやいやいや!!」」」
「ラウール、お前の言いたいこともわかるが、もう少し待ってくれ。このギルドをかけて、盗賊は討伐したい。こいつを説得するまで待ってくれ。」
焦りながらもランバードが返事をしてくる。
「いやいや、もう無理ですよね。街の偉い人が決めていますから。貴族?とかですよね。いくらギルドとはいえ、貴族に表立って反発するのは良くないですよね??」
「そうだが・・。」
そこでラウールがひらめいた。僕は盗賊討伐をしたいと今は思っている。善良な人が大切に思っている人に危害が加えられないように・・。
こんないきなり作戦を変える上司がいる組織など、チートな人一人がひっくり返すことが出来ると。
「僕はこれから散歩に出かけます。子供の一人歩きは危ないだろうな~。少し金目のものがあれば、強そうな護衛がいても襲ってくるだろうな~。怖いな~誰かついてきてくれないかな~。」
そう話し出すと、カシマスさんが何か気づいたように視線を送ってきた。
「ラウール君、私がついて行こうか。子供の一人歩きは危ない。Sランクの僕がいれば百人や二百人、いやもっと襲ってきても返り討ちにしてあげるよ。もし危ないところに間違って入っていっても、僕が守ってあげるよ。」
カシマスは人の強さをなんとなく察することが出来る。Sランクになる人は観察力がないといけない。相手の強さを見抜くことも能力の一つだ。そのカシマスが、目の前にいるラウール君は強い、そう自分の感覚が教えてくれる。
「ありがとう。じゃあ行こう。ここにいても依頼がなくなったから。じゃあギルマス。また明日!」
「私たちも帰りましょう。ではごきげんよう。」
・・・・・・。
後に残されたギルマスと騎士は、話し合いを続けるのであった。
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カシマスは驚いた。
盗賊討伐依頼のため冒険者ギルドに来た。ギルマスとあいさつを交わし、会議室で待つ。
ギルマスは、今回依頼を受けたソロの冒険者の事を少し説明してくれた。
十二歳でBランク、名前をラウール君と言うそうだ。彼の威圧にはこのギルマスも参ったと言っていた。
そんな年で本当の強いのか?
少しするとラウール君が入ってきた。
ラウール君が入ってきた瞬間、僕の感覚が警鐘を鳴らした。
『(強い・・)』
この年でどうやってここまでの気配を漂わせることが出来る。
一度ゆっくりと話をしてみたい・・。
騎士も到着し、ようやく話し合いが始まった。
どういうことだ、街の人たちの危険を除きたいのに・・・。
領主の考え・・・。
力の争いだろうそれは。あの領主は敵がいる。その敵につけ入れられないよう、騎士だけで討伐出来たら自分の立場が良くなる。それだけだろう。
冒険者ギルドを頼るべきだと言う有力者に負けないように・・。
この騎士やギルマスと話をしていてもらちが明かない。
成功したらよいが、この状況だと、逃げられるのでは?
そう、僕一人のほうがまだ全員を討伐できる可能性が高いのではないか?
言い争いに決着がつかない。
しかしここで、ラウール君がとんでもないことを言いだした。
それだ!
私も勝手に行こう!
クランでなくカシマス個人として、ラウール君と散歩に行こう。
散歩の先にどんな悪い人がいても、どんなに多くいても。
僕が守り切ってあげよう。
それが偶然・・・・であっても。




