第二十話 浜辺にて
テントを設営し終え、ロドリコさんがいる場所に向かった。今日狩った動物の焼肉も準備してくれると言っていた。
だから今回準備した母様の食事はあまり出番がないが、ありがたいことだ。
僕がみんなに近づき、声をかけると、振り向くのが早い早い・・・。ビルンさん以外はじ~~~とこちらを見ている。
「さて、ラウール君、ちょっと君に聞きたいことがある。ここに来るまでのあの出来事は何かな?僕たちに何か言うことはありますか?」
とフルートさんが一歩前に出て代表のように話し出した。
「えーと、他の人も魔物と戦いたかった?それとも、あの魔法をちょっとミスったこと?うまくごまかしたと思ってたけど、みんな気付いて黙ってくれたの? ん! 僕が見逃した魔物がいましたか、すいません!!」
「「「ちがーう!」」」
みんなが一斉に手を横に振りだした。
おっ! 動きが揃っている・・・、じゃなくて何を言われているのか見当もつかない。
「え~と、僕ではわからないので、教えてもらってもいいですか?」
僕の言葉に返事は直ぐに返ってきた。
「・・ラウール君はDランクの冒険者だよね?」
「そうですよ、ギルドのプレートもちゃんと持ってますし。」
「だけど、僕たちはそれが信じられなくてね・・・。もっと上のランクでないのかい?」
「ふぇっ・・・。普通に父様と依頼を受けるくらいで戦いましたけど・・・。木も、草も燃えないように魔法も調整しましたし・・・。大体これくらいがDランクの強さではないのですか?」
・・・みんなが天を仰いでいる・・・
「えーと、君は今までパーティーを組んだことは?」
「ほとんど父様と母様と組んでいましたけど・・・。最近はほとんどソロで討伐依頼を受けていました・・・、パーティーを組む友達や仲間がいなくて・・・。」
ちょっと間が空いた、悲しい・・・。
「ん~友達がいないのは置いておいて、それだけ強ければ誰かがパーティーに誘ってこなかったのかい?」
うっ! 胸の傷が・・・、無いけど。
「僕が両親と冒険者活動をしていることはギルドで有名ですし、やっとみんなが普通に接してくれるようになったばかりで・・・、誘ってくれる人はいませんっ!」
・・・・・・・
・・・・・・
(こんなに強い子を誘わない?何か訳あり?ん~強い以外はいい子だと思うんだけど、どこかに地雷があるのか?)
フルートがそんなことを考えていた。
そこに今まで黙っていたビルンが言い放った。
「こんなガキなんて誰も誘わないだろ~! 両親と冒険? 冒険者ごっこかー、けっ! よほど馬鹿な親だな!!ガキがガキなら親も親だ!! だまって親の後ろをついて歩けよ! 親の顔が見てみてーよっ!」
突然話しにビルンが入ってきたと思うと、戦いも見ていないくせに馬鹿にしている。フルートは割って入ろうと、口を開きかけたが、その前に・・・、僕の頭の中が沸騰するかの様に熱くなった!
「父様も母様も馬鹿じゃない! ・・・・何も知らないお前が馬鹿にするな! ・・・・それ以上言ってみろ!!僕も・・・」
(あのラウール君が怒っている。道中一人後ろを歩かされても、ビルンに馬鹿にされても怒らなかったのに。)
今度こそフルートが口を開きかけたその時・・・、またビルンが騒ぎ誰も何も言えなかった。
「あーー!!馬鹿親に馬鹿って言って何が悪い!! こんな目上に対する言葉遣いもわからないガキが! もしかして、お前の親は本当の親でなくて、お前の稼ぎを当てにしているただのクズか~~~~!」
その時、空気が凍ったかのように冷たく、重く、まるで自分の体が自分の体でないように・・・・動けない!!
何が起きているかわからないフルートだが、【破壊の斧】の回復役ラエラが声を振り絞った。
「くっ・・・くろ・・い?・・・は・羽・・・。せ な かに・・・。」
視線は僕に向いているみたいだ。だけど僕にはそれに反応する余裕はない。
「苦しんで死ね(父様と母様を・・・大事な僕の大事な大事な・・)。」
僕はビルンに手を向けた。
「重力波・・・。」
一気に重さが押し寄せてくるだろ?
僕をどう悪く言ってもいいけど、両親を悪く言う奴は死ね・・・。
「ががーがっ!!!!」
ビルンが地面に押しつけられ、砂に顔を埋めている・・・。はじめはバタバタ動いていたが、しだいに動きが小さくなってきた・・・。
それを見てようやくラエラが膝をつき、僕にに手を合わせて来た。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ゆるしてゆるしてー!こんなんでもうちのリーダーなの!!その魔法を止めてー! お願いします!おねがい!!!」
その声を聴いて僕の頭の熱がスッと引いた。
我に返り僕が慌てて魔法を止めた時、周りにかかっていた圧力もなくなったようで、ラエラやビビアン、ハーシンがビルンに駆け寄り起こしていた。
ラエラは回復魔法を唱えている。
ビルンは意識はあるものの、朦朧としており、みんなに抱えられていた。
「「「すいませんでした・・」」」
「ありがとう・・・こんなバカにも情けをかけてくれて・・・、もうラウール君に近寄らせないから・・・。」
ビビアンが頭を下げながら謝罪してきた。
「僕こそすいませんでした・・・。一緒に依頼を受けた仲間に魔法を向けるなんて・・・。けど・・けど・・・、父様はいつでも僕が間違いを犯すと叱ってくれる・・・。母様も厳しいけど、何か僕が変な様子になってると・・・いつまでも横にいてくれる・・・。本当の両親なんだ・・・。僕をいくら悪く言ってもいいけど、大切な人を馬鹿にされたら・・・。」
この場にいるみんながはっとした。魔法を味方に向けることは良いことではない。けど、自分だって大切な人を馬鹿にされたら怒ると思う。
現にこんなやつだって、リーダーだからとパーティーメンバーが必死に謝っている・・・。
今で口を開けなかったロドリコさんは、冒険者のルールはそこまで詳しくないけど、と前置きして話し出した。
「まだ依頼の途中です。今回は一緒に依頼を受けたメンバーで喧嘩をしました。しかし、喧嘩両成敗で、引き続き依頼をしていただきたい。」
その言葉にみんなが頷いた。
さすがにその日はみんなで集まって食事をする雰囲気でなく、それぞれが食料を持ち、テントに戻っていった。
見張りは、パーティーごとで半分の時間を受け持ち、僕だけは、見張りを免除された。




