第百五十三話 港での出来事
僕たちはみんなで相談し、交易都市サザへ移動することにした。
出来る限りわかりやすいように移動するため、僕たちが作ったゴーレム馬車を使おうと思ったがやめた。
あまりにも目立ちすぎるから……
だけどヤマトが自分の体重を軽くしながら馬車に乗るのは窮屈だといいだした。
「じゃあ歩くか走る方法だけど、歩くと遠いし、走ると僕たちがいつ、どうやって移動したかもわからないから、結局移動方法に秘術があるのではないかと考えられるよヤマト?」
「しかし、魔法はめんどくさいぞ!」
「我が手伝う? ヤマトに継続的な魔法をかけておこうか? 我できるよ?」
クロウ……出来るのか……
「おう! それなら馬車でいいぞ! 他の人物と移動か! 楽しみだ。」
クロウのおかげで解決した。
クロウはどこまで行くのか……
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僕たちは魔の森の拠点から、ニジュールのそばの森の中に転移した。
そこから走り、街の途中にある町に入り、移動馬車に乗る手続きをソフィアが行った。
移動馬車はすぐに出発する便があり、ソフィアが馬車に乗り、そばには僕達黒猫が陣どった。
僕たちの他には商人らしきものや護衛の冒険者、親子と思われる人物も乗っている。
その中で護衛の冒険者はソフィアの事を知っているようで、しきりに視線が向いていた。
馬車の移動も順調で、二日で港まで到着した。
この港を出発するとテザン皇国を出ることになる。
船に乗る時もクロウがヤマトに魔法をかけてくれると言うため、ヤマトは初めての船旅を楽しみにしている。
ここまでは誰もソフィアに声をかけて来ていない。
何事もなく出国できると安心し、乗船券を購入した。
船の出発はタイミングが合わずに二日後になっている。
今日は日も暮れそうな時間なのでこのまま休むことになるが、明日一日時間が空いた。
港と言うだけあって、港町は栄えているが、何をして過ごそうか考えながら眠りについた。
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眠りから覚め僕たちは港町の散策を始めた。
特にレアな物もなく、店をまわっているだけでも面白かった。
猫の姿でも入ることが出来る店を見つけ、僕たちは昼食をとった。
昼食後は海を見に行こうとみんなで相談し店の外に出た時、一人の人物が話しかけてきた。
その人物は後ろに二人の護衛を控えさせていた。
朝から気配を感じていたので、どのタイミングで来るかと待ち構えていたが、とうとう話しかけてきた。
「冒険者のソフィアだな。私はサンクリット様の部下でガジームと言う。少し話がしたいのだがよろしいか?」
「何か御用でしょうか? お話があるのであればお聞きしますが、あまり時間をかけないでいただけたら。」
――少し目の端がぴくっとしたガジーム。
「少しと言うが、私はこれでも男爵だ。貴族が話があると言うのにその態度はいかがなのか?」
「それは申し訳ありませんでした。しかし貴族とお聞きしたのは今ですので。」
「それはそうだが、話をしてもよいか?」
「先ほどと同じ返事ですが、少しの時間で有れば。私はこの後にこの子たちと海を見たいのであまり時間がありません。」
ガジームは表情をゆがめた。
「私の……貴族と話をするよりも、この獣との時間を大切にするのか!」
ガジームの後ろの護衛が腰の剣に手をかけている。
「獣とこの子たちを言うのであればもう話すことはございません。少しの時間もとることが出来ず申し訳ございません。それではごきげんよう……」
ガジームより前に護衛が進み出てきた。
「なんだその口の利き方は! ガジーム様が話しをするのだ。黙ってついてこい!」
「そんなこと言われましても、私には用事があるのです。私の家族を侮辱した者と話すことはございません」
「なんだと! その獣がそんなに大事か! その獣がいなければいいんだな!」
そう言って護衛は剣を抜き、一番小さなクロウに切りかかった。
僕達から見たら遅い攻撃だったが、クロウが躱すのも不自然だな~とのんきに考えていると、すでにソフィアが剣を抜き抑えていた。
「くっ! 黙って切られておけ!」
護衛は力を込めているようだがソフィアに押し負けている。
そしてこの場面を見ている民衆は悲鳴を上げている。
「話をしないと言う返事をしただけでこの仕打ちですか。私の家族を殺すとでも?」
ソフィアは静かな口調だが殺気を飛ばし始めた。
この殺気には貴族はもちろん、護衛の二人も耐えることが出来なかった。
「うぅーー。それを止めるのだ……。私たちに向かってそんな態度をとるという事は、サンクリット様の敵になるという事で良いんだな……?」
ガジームは震えながらも口を開いている。
「もともと敵対はしていませんでしたけど。先に攻撃的になったのはどちらでしょうか? 私たち民衆は黙って貴族にすべて奪われるのが正解なのですか?」
「そんなことは言っていない。しかし貴族に逆らうのはどういうことだ!?」
「その言葉は、私の質問を肯定していますよ? 貴族が言う事が絶対だと?」
「そうだ、絶対なのだ貴族とは!」
既に地面に座り込んでいるガジームはそのまま言葉を続けた。
「私はサンクリット様に頼まれここにいる。だからこのガジームの言う事を聞かないという事は、上級貴族や神様に逆らう事になるぞ!」
「それは大げさなことですね。神は我々にそういった優劣をつけてはいません。まして私の大切にしているこの子たちを勝手に殺そうとした。そんな者こそ神に罰せられるのではないでしょうか? そうではありませんか皆さん」
ソフィアは民衆を煽りだした。
「サンクリット様は立派な方だと聞いていたんだけど、噂だけだったのか?」
「我々は黙って死ねと――」
「ガジーム男爵……。初めて見たけど理不尽な……」
「あの人はエルフ? きれいだ・・・。」
「我々の命は、あの動物と同じ……光の神様は命は平等と……」
「教皇様も同じ感じなのかな?」
「教皇様とサンクリット様は仲がいいのかな?」
民衆も様々なことを言っている。
その民衆の言葉を聞いてガジームは難しい顔をし始めた。
――ザワザワザワザワ――
民衆は止まることなく周りの人たちと話をしている。
もちろん野次馬をしながら。
……
……
「帰るぞお前たち!」
そう言って護衛を進ませ、民衆をかき分けガジームは去っていった。
最後にソフィアにだけ聞こえる声で呟いて。
「お前の家族に気を付けるんだな。」
――そう、最後は敵対する言葉を投げかけて。
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ソフィアは海が見えるところまで移動した。
僕たちの声が聞こえる距離には誰もいないことを確認し、今あった出来事について話し合った。
明日には移動するとはいえ、船に乗り二日間。何事もなければよいが、悪い予感しかしない。
表立って敵対するつもりはなかったが、攻撃してくるものには痛い目に遭ってもらおう。
体にも心にも……
そして……
僕たちはいざと言うときの為にデーブンに連絡する手段を持っている。
その手段をもって、テザン皇国に敵対する気がないことだけは伝えておく。
その日の夜に手紙を書いた。
デーブンに手渡されるような方法で。
『テザン二十四世様へ。
我々【黒猫】はテザン皇国に敵対する意思はございません。
ただ、攻撃を加えてきた場合は反撃させていただきます。
冒険者パーティー【黒猫】より』
――そう、偉い人に対する文章としては半端な出来の手紙を――




