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第百四十三話 拠点改造とヤマトの気まぐれ

サクラがポツリと呟いた。


「――私たちもとんだチートパーティーになっちゃった……」


今日はテザン皇国での拠点を改造しようと、牧場全体を眺めている。

僕はサクラの言葉を聞いて、地味に改造しなくとも隠せる能力があることを改めて感じた。


――うん、全体的に改造しよう!


僕が心の中で意気込んでいるとデーブンがやってきた。


「――おう!ラウール! 今日は暇か?」


「暇なわけないでしょデーブン。僕は今日、牧場の整備をしようと考えてるんだよ。」


「――そうか~。そうだよな。買ったばかりの拠点だものな。」


「そうだよ。まだ何も手を付けていないから、ところどころの痛みが凄いことになってるよ。」


「……じゃあ頼み事はできないな~。」


ちょっと困った顔をしたデーブン。


「何か僕たちでないとできないことがあったの?」


「そう言うわけでもないが、できたら【黒猫】に依頼したかったんだが。」


「何を?」


「……【破壊の鉄球】の騒ぎがあったろ? だからちょっと配達を装って情報を集めに行きたかったんだ……。今いるメンバーだとSランク並みの奴がいたら危険だから、護衛を兼ねて一緒に行ってもらいたかったんだが……」


「――それは全員で?」


「いや、黒猫のメンバーなら一人だけでもいいが……」


デーブンが困った顔をしながら話をして、僕がどうしようか考えていると、後ろから声がかかった。


「俺が行ってやろうか? 俺はここの改造をする役には向いてないからな! はっは~! だから、クロウ、一緒に行くか!」


「我も向いてない。ヤマト、行こう!」


「ヤマトとクロウがこう言っているけど、それでいい?」


「助かる! 頼むよヤマト、クロウ!」


自分に合った役割をすることで話が付き、デーブンがヤマトとクロウに仕事の説明をしていた。


一緒に荷物を配達して、危ない場面があったら助けに入る役割だ。

何件か回るそうだが、情報収集はデーブンのギルドの者がする。


話が決まり僕はさっそく牧場、拠点の改造の構想を練る。

ソフィアとサクラもアイデアを出しながらできる限り僕たちに合った拠点にしていく。



初めは牧場に併設された家に取り掛かる。

外観は古いままで強度を上げていく。見た目は古いが、そこらの魔物が攻撃しても壊れない程度に補強する。


家の中の間取りも大幅に変更する。

一室は十人程度が集まれる部屋を作る。

各自の部屋は狭くてもいいので、五部屋作る。

風呂場も複数人で入ることはないので、広さは最低限にする。

トイレは魔道具も設置し、汚れることもなく、汚物も処理できるように改造。

地下室を増設し、スペースだけは確保しておく。今後何か必要に応じて作る予定だ。


家にこだわりがないので、これで完成とする。


次に牧場部分だ。

牧場は今のところ僕たちの遊び場になるのでそのままだ。


しかし、周りから丸見えなのは気分が落ち着かないので、敷地全体に結界を張る。

周りからは以前のままの見た目だが、敷地の周囲に強固な壁を設置する。

ここも必要に応じて今後改造していく。


……

……


さて、見た目をそのままにする結界を張っているが、敷地に入ると変化はわかる。

その為に鍵を作る。

僕達以外の人物は鍵を渡されるか招かれないと入れないようにする。


今はこの程度の改造で十分だ。

これなら僕たちの訓練にも耐えられ、外からの攻撃もSランクの魔物でも壁を壊せないだろう。


満足してさっそく家の中でくつろぐ僕達だった。



~~~~~



――そのころのヤマトたちは――


「おう! 受け取れこの荷物を! 次も俺たちに頼むんだぜ!」


礼儀も何もない配達員のヤマトだ。

情報を収集する場所以外もカモフラージュのため荷物を配達している。

デーブンが用意した馬車に乗り、指定された家を訪ねる。


情報収集は荷物運び情報ギルドのメンバーが行っており、ヤマトとクロウは警戒しながらのお手伝いだ。


「次はどこだ! 俺に荷物運びは任せておけ!」


ヤマトは初めての経験で、なんとなく配達を気に入っていた。


「ヤマトさん……もう少し丁寧に話してください……我々のギルドの評判も……」


「おうすまんな! 俺は今まで丁寧? なんて言葉とは無縁だったからな! 気を付ける。」


「できるだけでもお願いします……。できなければ私も一緒に家まで行きますから。」


「一緒にか~。俺は一人でもできるがな。ほら、さっきの奴も笑顔だったろ?」


「やや頬がひくひくしてましたよ……」



――それでも最後の方にはヤマトもだいぶ慣れてきた。



「お待たせしました! これですね! ありがとうございます!」


……

……


「――それですよヤマトさん! そのくらいが出来たなら配達が出来ます。我々のギルドでは、礼儀正しいほど貢献度も上がっていきますから!」


「そうか! じゃあ俺がラウールより先にSランクになる! というか、Sランクはあるのか!」


「ありますよ! 今はまだできたばかりのギルドでSランクは一人もいませんよ。」


「じゃあ俺が一番を目指してもいいな!」


「はい! そのためには礼儀やできるだけ時間を守ること。その他にも情報を集めていますから、情報の引き出し方や集め方。情報の信憑性を高めるための分析。配達だけではランクを上げられませんよ?」


「ん……細かいことは苦手だ! 俺は配達だけを極める!」


「そうですか……」


そう言いながらもヤマトは今後も滅多に依頼を受けずに、ランクのことも頭から抜けているのであった。



~~~~~



ヤマトとクロウが家に帰って来て僕に報告してくれた。


「ラウール! 今日は今まで経験したことがない配達は楽しかったぜ!」


「そう? よかったね。ちゃんとできた?」


「最後の方は一緒に言ったやつにも合格点をもらったぞ! また行くぜ!」


「けど目立ったんじゃない? 二mの黒猫の獣人なんて見たことないし、ヤマトは迫力があるから。」


「ん~、見てるやつは大勢いたぞ! 俺は馬車から出て姿が見えるように座っていたからな!」


そう、ヤマトは器用にも重力減少の魔法で体重を見た目くらいにして、馬車に乗っていたのだ。


「黒猫……配達……目立つ――――」


……

……


デーブンからは必要な情報を集めることが出来たと伝えられた。


トラブルもなくヤマトとクロウの武力行使もなかった。



そしてニジュールの街では時々現れるヤマトの配達が注目された。


――ヤマトの配達人――


――またの名を……


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