第百三十八話 自己紹介と懇親会
――勇者の自己紹介が始まった。
初めは一番存在感のある男の子だった。
「初めまして。俺はコウキと言います。僕たちの世界では全員が名字があります。だけど、この世界では高貴な人だけが名字があると言うので、僕たちは話し合いました。ダイチやヒミカ、グンジョウにも助言をもらい、名字を名乗らない事にしました。僕たちの世界では僕とダイチの年の差だと、ダイチさんと呼びます。だけどこの世界を救いたい。その為にはこの世界になじみます。だから僕たちが何かを成しえるまでは名字を名乗りません。ただのコウキと呼んでください。」
コウキは百八十センチに届きそうな身長で細マッチョ。黒髪が耳程度までの長さがある。
リーダー格かな?
「私はレイラと申します。まだまだこの世界のことはわかりませんがよろしくお願いします。」
レイラは百七十センチほどの身長。バレー部にいそうな、運動神経のよさそうな感じだ。黒髪でボブカット。
「俺はアレン。この国でも通用しそうな名前だろ? 宜しく。」
アレンもレイラと同じくらいの身長だ。短髪の茶髪。ややボクサー体型か?
こうして自己紹介が続いていく。
十二人の自己紹介が終わり、最後に来た勇者。
ん~。おそらくこの勇者を預けたかったんだろうな。
テイセキ・ポルフォらしい人物が心配そうな目で勇者を見ている。
「セツナです……。よろしくお願いします……」
セツナは百五十センチほど?の身長で小柄。つい前に会ったことある?と聞きたくなるような、どこにでもいるような女の子だった。
勇者全員の自己紹介が終わり、サンクリットが場を進行している。
公爵、ファンフート、バルモートなど貴族が自己紹介した。
冒険者ギルドの統括のガイアやウールなどが名乗った。
デーブンも名乗っていた。
騎士団長をはじめ、騎士団の主戦力が騎士団らしくと表現したら良いのか、騎士風に名乗った。
そしてとうとう僕たち冒険者の順番が来た。
初めに僕たちを馬鹿にした【破壊の鉄球】が名乗る。
僕は名前なんて覚えてやるかと思って、うまく聞き流した――って覚えてるな……
次は女性の冒険者でSランク。
狐の獣人で白銀の髪が美しい冒険者だった。名をチューランと言った。
Aランクの狐の獣人の仲間と三人で依頼を受けているそうだ。
その次は人族の冒険者でSランクのホイット。ベテランの雰囲気を醸し出している。
こちらは普段はソロで活動している。しかし、後進の育成には自信がある様子だ。
エルフの冒険者もいた。
ランクこそAランクだが、Sランクに近い実力の持ち主のモサルルと名乗った。
同じエルフとパーティーを組んでいる女性だった。
そして最後に僕たちの順番が来た。
あらかじめ僕が自己紹介し皆を紹介することになっている。
「僕はラウール。【黒猫】と言うパーティーを組んでいます。Sランク冒険者です。隣のサクラもSランクで、ソフィアはBランク、ヤマトもBランクです。そして肩にいるのはクロウ、僕の従魔です『我をよろしく』。いずればれるので言っておきますが、しばらく魔の森に籠っていたので、最近の世界の情勢はよくわからないです。」
「「「魔の森!?」」」
「基本的に体術も魔法もできます。クロウもですが。」
「「「あの肩に乗っている小さい鳥!!」」」
「僕たちはSランクの魔物と戦ってもかすり傷も負いません(一人ずつで戦ってもだけど)。」
「「「はっ~?!」」」
「この際だから宣言しておきますね……僕たちの敵に回る人には容赦はしません。」
「「「ごくっ!」」」
……
……
……
「ひあい、んっんっ……はい、ありがとうございます。全員の自己紹介が終わりましたね。それではこれから会場を移動して親睦を深めていただきたいと場を用意しています。案内に従い移動してください。教皇様はこれでご退場です。皆さまは頭を下げ、教皇様が移動が終わるまではそのままの姿勢でお願いいたします。」
――教皇が移動している物音と気配を感じる。
――物音が遠ざかり、退場したようだ。
「それでは皆様お顔を上げてください。そして移動を開始します。案内の者について移動してください。
~~~~~
案内の者について移動したら、宮殿の庭についた。
ここでも僕の語彙の少なさを恨む。
――素晴らしい庭園だ。
「いいところねラウール。私たちの拠点の魔の森と比べたら、魔物の気配もないし安全ね!」
比較するところがおかしくなってきている……
「そうだね。これからは街にも拠点を作る?」
「いいわね! ラウールの両親の家もいいけど、私たちの拠点があってもいいわね!」
「おう! 俺もいいぞ! しばらくはこの姿で過ごすからな。」
「私も長い人生で変化が欲しいですね。街に住んでいたことはありますけど、みんなで生活するのも面白そうですね。」
「我は任せる! 魔の森も好き!」
結構みんなが乗り気とは思わなかった。
これは一時でもいいから街に拠点を置いてもいいかな。
どこの街にしようかな~。
一人で楽しくなってきた。
「おい黒猫! お前らのせいで恥をかいた! どう謝ってくれるんだ!!」
は~、今一番話したくないやつらが来てしまった。
せっかく幸せな気分になっていたのに。
「ねえ、どこの街に拠点を置く? こんな奴らがいないところがいいんだけど。」
「おう! 俺は潔癖だ! 治安のいいところで頼むぞ。」
「そうね。私はラウールが選ぶところならどこでもいいけど、変な冒険者がいないところがいいな~。」
「私もですよ。本来は冒険者ランクが上がるほど謙虚になるのですよ。冒険者ランクの高い者の恥は、その冒険者が認めた街のギルドの恥。昔はそうだったんですけどね。質が落ちて来てますね。これはガイアに言っておかなければいけませんね。」
はっ? ソフィアはガイアの知り合い……
「ガイアが小さい頃は私が少し面倒を見たのですよ。あの子が二十歳のころ、森で野営をしているときにあの子はまだ駆け出しでした。眠っていたあの子は魔物の声で起きると、布団に……何と――『ちょっと待った!」し……」
僕たちがあの冒険者を無視していると、ガイアが話に割って入ってきた。
「ソフィアさんですよね? 相変わらずですね。あの頃と何も変わっていない。お久しぶりですが、今話そうとしたことは、今後も言わないでほしい。俺も今は統括だから、お願いします!」
ガイアがソフィアに頭を下げている。
「私は特に意味があって話そうとしたわけではないのでいいですが、ラウールに対して失礼な態度をとっている人は許せないですね。」
驚いた顔をしているガイア。
「ソフィアさんにそう言われるラウールという人物はどんな人物なんでしょう?」
「ラウールの仲間になって面白いですよ。私の人生は長いですが、今までの長い人生でも一番だと思いますよ。魔の森で普通の生活をするなんて、考えてもいませんでしたから。」
驚いた表情をしているガイア。
「その話は本当だったんですね。ん~……【破壊の鉄球】どうする?」
今までの話を聞いていた破壊の鉄球にガイアは質問していた。
「その話を聞いても俺たちは引けないぜ! 決闘だ!!」
街に拠点を置きたいと話していただけなのに、決闘騒ぎになってしまった……




