第百三十七話 顔合わせの開始
微妙な雰囲気に包まれた会場になった。
僕たちの騒ぎのあとに会場入りした人は隣の人たちと談笑していた。
だが僕たちの騒ぎを知っている人は、みんな静かにしている。
……
……
長く感じた短い時間が過ぎ、参加者全員が揃ったようだ。会場の扉の前に今までいなかった騎士が整列している。
それぞれの持ち場についたのか、メイド姿や執事姿の人も姿勢を正している。
……
……
――どこからか音楽が聞こえてきた。
この世界の独特な音楽が奏でられている。
その音楽に合わせ、前方右にある扉から数人が入場してきた。
中心にいるのが教皇か?
威厳のある出で立ちだ。
五十歳ほどか? 背筋もピンと伸び、体格も筋肉質だ。背も百九十センチはあるな。近くで対峙すると威圧感を感じそうだ。
顔は優しそうで、体型とのギャップが凄い。
「教皇様が入場なされました。皆さん、頭を下げ、合図があるまでは動かないでください。」
――ザザザザッ……
歩く音が聞こえたあとに、椅子に座る音。上座に座る気配がした。
「皆さん顔をあげても結構です。ここからも――私、サンクリット・デンスートが進行を勤めさせて頂きます。それでは教皇様、御言葉を頂けたら幸いです。」
……
……
教皇が立ち上がると会場の皆に話し始めた。
「皆のもの、よく集まってくれた。この集まりは魔王に対抗するものである。神託で光の神様から御言葉を頂いた。勇者を召喚し、皆で支え、この世界に平和をもたらして欲しいと! そこで今回は高位の爵位を持つ者には金銭負担を快く引き受けてもらった。そして冒険者ギルドや騎士団には戦闘力強化をお願いする。勇者を何人か預かり、鍛えて欲しい。いずれは皆をも越えるだろう。――今回はありがとう! 我がテザン二十四世の名において、平和な世界を!」
教皇が着席する。
「御言葉をありがたくお受け致します。それでは早速勇者の皆さんに入場して頂きます。」
――また音楽が鳴る。
今度は足音が多い。
扉が開くと騎士に挟まれ、大人になりかけの見た目の人たちが入場してきた。
ほとんどが黒髪だが、中には付け根が黒いが染色しているようで、茶髪の少年もいる。
さすが日本人である。
集団行動が素晴らしい。
ヤンチャそうな少年も足並みが揃っている。
勇者たちは一礼し、席についた。
「勇者の皆様、会場にいる皆様、我々は協力する関係にあります。会場の皆様の……会場にいる人物の顔を覚えてください。このあとに自己紹介をして頂きたいと考えていますので、よろしくお願い致します。」
……
一部の人が僕たちを恐る恐る見ている。
その人たちを更に他の人が不思議そうに見ている。
僕たちはその視線を無視し、会場内を見渡した。
勇者が一番気になるが、公爵はあの人かな?
教皇より年配で、こちらはだらしない体型をしている。顔はなんとなく教皇に似ているが、父の兄と言う間柄だからか?
あっちにいる強者は冒険者ギルド関係か? ウールも座っている。
周囲の四人は強い雰囲気がある。
その向かいにいるのは騎士団で、あの一番立派な鎧を着ているのが騎士団長かな。
――あれは共和国の首相? すでに元首相? バルモート・バビリスもいる。
他にも貴族や冒険者がいる。
こちらで気になるのは絡んできたあいつだけか。
「何か不穏な空気を感じますが、皆様が協力してこそ、この国の平和を守れるのです。わだかまりはなくして頂きたい。」
誰も口を開かないが、目は僕達を見ている。
「この場での発言を許したいところだが、勇者の皆様はまだこちらの世界に慣れていない。もめごとがあるのなら後にしていただこう。先に勇者様の自己紹介から始めましょうか?」
司会のサンクリットがそう言うと、冒険者ギルドの一団らしき集団の、真ん中に座っている男が話し出した。
「先に発言を許していただきたい。俺は……私は全ての冒険者ギルドの統括をしているガイアと申す。見ての通りエルフの血を引いている。勇者の皆様にはなじみがない姿かと思う。」
ガイアと名乗るエルフの血を引いていると名乗る細マッチョのイケメンが話し出した。
百七十センチ位の身長か? 細身だが強者の気配がする。
「さて、会場には最後に入ってきたが、事情を聞いたら我々冒険者ギルドの問題と思われる。勇者様の自己紹介が先になると、後であの冒険者とは一緒に冒険をしたくないとならないか心配だ。だから先にもめごとを解決させていただきたい。我が冒険者が失礼をした。」
統括のガイアが頭を下げている。
偉い人なのに立派だな……なんて他人ごとではないんだよな?
「会場にいた者に聞きましたが、すぐに解決するものですか? 私は司会としてスムーズな進行を望んでいるのですが?」
「ん~、どうだお前たち。何をすれば解決できる?」
ガイアは僕達と絡んできた冒険者に視線を向けた。
……
……
僕は意地でも先に口を開かないと決めている。
僕が口を開かないことで仲間も口を開かない。
……
……
「俺たちは悪くない!」
僕達ににやにやして馬鹿にした視線を向けてきた冒険者が口を開いた。
「そうだな。俺たちは悪くない。勝手に馬鹿にされているように思ったんだろ!?」
飛び出しそうな男を止めていた男も話に乗った。
「じゃあどういうことだ【破壊の鉄球】?」
ガイアの隣にいた男が問いかけた。
「ギルマス! 俺たちはただ周りを見ていただけだぜ! 馬鹿にされたのは俺たちだ! どこの冒険者だ!! 黒い悪魔と漆黒の翼の名前をかたる奴なんて!」
「先にお前たちが殺すと叫んだと聞いたが?」
「俺は言ってない。殺すなんて聞こえたやつがいるのか!?」
男は周りを睨むように見渡している。
「は~。お前らは帰れ。俺たちのギルドに汚点を残した。そこにいるのは本物の【黒猫】だ。ちょっとパーティーメンバーが増えたから、わかりにくいみたいだがな。」
「は~! 男と女の二人パーティーで、もっといかつい格好をしたやつらじゃないのか!」
そこにウールも参戦してきた。
「情報が古いな。【黒猫】は四人と従魔一匹のパーティーだ。私が依頼してこの場に来てもらった。私の耳にも、もう会場での出来事は聞こえている。我々のギルドや荷物運び情報ギルドも敵にするのか?」
「なぜ荷物運び情報ギルドも!? あそこににらまれたら俺たちに入る情報が少なくなるじゃないか!」
冒険者ギルド関係者以外は自分の有利になる情報を聞き逃さないように、話を注意深く聞いている。
「デーブンギルド長は黒猫の大ファンだ。黒猫を追っていたがためにあそこまでの組織になったのだ。今日もそこにいるだろ?」
はっ?
デーブンがいるの?
どこに?
「ばれましたか……。我ながら皆をだませたと思いましたが……」
そう言うと、どや顔をしながら立ち上がり、顎の所から自分の皮膚をめくっている。
人工的な皮膚風カモフラージュか!
デーブンなのにこんな所で高等な技術を……
「デーブン? 今は黙ってね。僕たちの問題がややこしくなるから……」
僕はつい殺気を飛ばしてしまった。
「はい!」
デーブンがしおらしく椅子に座り直すと、教皇が口を開いた。
「醜いぞ冒険者ギルドの諸君。我らは共に戦うのだ。今は味方同士で争うではない。すべては勇者様に選んでいただくのだ。勇者様が拒否した者とは一緒に旅立たせん。ファンフート? 冒険者が減るとお前の勇者様に少し負担がかかるが良いか?」
上座にいたファンフート・テザンに教皇は問うている。
「はい。教皇様の御心のままに。頼むぞダイチ、ヒミカ、グンジョウ。」
少し離れた席に座っているダイチが代表して答えた。
「しょうがないな。ファンフート様の頼みは断れませんよ。」
この言葉を聞き、満足そうに教皇は頷いた。
「うむ。それでは勇者様に先に自己紹介していただき、その後一緒に旅する候補者と話をして決めましょう。元々は担当が決まっていたが、予定を変更しよう。それでよいかサンクリット。」
「はっ! かしこまりました。」
……
「それでは先に勇者様は自己紹介をお願いします。その後に一緒に旅をする候補のみ、騎士や冒険者の皆様に自己紹介していただきます。勇者様の都合はおありでしょうが、みんなで一緒に冒険とはなりません。そこは事前に話をしていた通りご了承を……。それでは進行が途切れてしまいましたが、私がまた取り仕切ります。」
こうして勇者の自己紹介が始まった。




