第百三十六話 【黒猫】の会場入り
冒険者ギルドで、勇者関係者が集まる日を伝えられた。
ここからまた一週間後に、教皇の宮殿に集まることになった。
僕たちは冒険者ギルドから招待状を預かり保管する。
それから一週間の間も特に依頼を受けることなく過ごしていた。
勇者と一緒に旅する場合は、何か成長につながる依頼を受けることが増えると考えていた。
僕たちは集合するまでの間は魔の森に戻り特訓したりと、結局魔の森が拠点になりつつある。
そして今日ようやく教皇の宮殿に集まる日を迎えた。
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僕たちは昼過ぎに集合と言われていたため、時間に余裕を持ち宮殿に向かった。
宮殿についてからも招待状があるため、混乱なく一室に案内された。
案内されたセンスの良い部屋で僕たちは待つことになり、準備が出来たら呼びに来ると言い残しメイドさんは退室した。
……
僕たちは今日の為に装備を考えた。
良い案が出てこないので、結局は【黒猫】のパーティー名にちなみ、全身黒のコーデとなった。
もちろん黒のフード付きのローブを羽織り、中は黒いジャケット、黒いズボン、一応シャツだけは白になっている。どこぞの怪しい集団だ。
そんな怪しい集団でもためらいなく宮殿に入ることが出来るように準備をしている教皇は――やりてな印象を受ける。
僕たちは、部屋の外のあちこちから探られている気配を感じたから、言葉少なく待っていた。
……そして熱かった紅茶が冷たくなった頃……メイドに案内され、宮殿の奥に進んだ。
宮殿の中は質素ながら綺麗で、それでいて高級感があってと、僕の語彙では説明できないような素晴らしさだった。
宮殿の中を田舎者の様に眺めながら、僕たちは大きな扉の前までまで到着した。
「こちらになります。【黒猫】の皆さんは私について来てください。冒険者の皆様と招待されている貴族の皆様がそろいましたら、会場の者の指示に従ってください。――そして、教皇様の指示が最優先ですのでお間違えなく……」
そう指示を受けて会場に入った。
てっきり謁見の間と思っていたが、大きな会議室かなという印象を受ける会場が目の前にあった。
大きな長テーブルに椅子が並び、一番上座には立派な椅子。
立派な椅子の横には十三個の椅子が並んでいる。
既に着席している人もおり、上座に近い位置は貴族らしき者がいる。
下座は冒険者らしき集団だ。
僕たちは一番下座……入り口からすぐのところに座るように指示を受けた。
……
その後も続々と会場に人が集まって来て、にぎやかになってきた。
顔見知りらしき貴族は貴族同士会話し、冒険者もパーティー単位で会話している。
僕たちは特に今話をすることもないので、無言で周りの人たちを見ていた。
周りの人たちも僕たちの姿を見て何かを言っている。
――中には苦笑している者もいる。
他の冒険者は僕達を値踏みしているようで、大っぴらに馬鹿にした目線や、指さして小声で笑い、にやにやしている奴もいる。
……
……
……
『帰ろうかな?』
そう頭に言葉が浮かんでしまう。
なぜこの場に僕たちが来ているかと言う……実力もわからずに何故僕たちを馬鹿にできるのか?
単純に僕の被害妄想か?
しかし、にやにやしているやつは同じことを繰り返している。
周りの仲間も積極的に止めていない。
何だろう?
僕はここまでこらえ性がなかったのか?
今にも爆発しそうだ……
「おい! そこのお前! 俺たちを馬鹿にしているのか!!」
先にヤマトが切れた。
「そうですね。私にもその視線や態度は不快ですね。今すぐにやめてもらいたいですね。」
ソフィアも静かに切れている。
ソフィアの怒り方が一番怖かった。
そしてそう言われた斜め向かいに位置する冒険者達も一瞬動きを止めた。
「あ”っ! 俺たちに言ってるのか!」
にやにやしていた冒険者が立ち上がり、僕たちをにらみつけてきた。
「えーと、あなたたち以外に私たちを見てにやにやしている人がいましたか?」
「何因縁付けてるんだこのエルフが! 俺たちはSランクだぞ!!」
「へ~そうなんですか? 冒険者ギルドも甘くなりましたね。私はまだBランクですけど、昔ならこんな冒険者ギルドの評判を落とすような人をSランクにはしていませんよ?」
今にも突進してきそうな冒険者のにやにやしていた男を……隣の男が止めている。
「あ”~! なにBランク程度がSランク様に意見してるんだ! 殺すぞ!」
――ピキッ!! ――
僕達四人と一匹から刺すような殺気が飛んだ。
久しぶりにキレそうな僕は、魔素の制御をうまくできていない――
――
――――
――――――
「「「黒い翼!?」」」
――会場にいた全員の動きが止まった。
……
…………
………………
……無言の時間が過ぎ、誰もがどうしたら良いのか思いつかず、行動に移せていなかったその時……会場に入ってきた三人の人物がいた。
「おい! 久しぶりに会ったって言うのに。ラウール! ――相変わらずすごい殺気だな!」
「そうよ! だいぶ強くなったのに! 差が開く一方じゃない!」
「僕は今は動きたくありませんよ……。ラウール…………手加減してほしいな?」
この懐かしい顔ぶれを見て、僕とサクラの殺気は止まった。
そこでまだ殺気立っているヤマトとソフィアに勇者三人を紹介した。
紹介している途中からは元の二人に戻り、僕たちの周りだけ和やかなムードになった。
……
この出来事の後から入ってくる人たちは、会場の雰囲気を感じて不思議な顔をしたいたが、僕達だけは穏やかに談笑していた。
「二人とも僕よりキレるのが早いね! 僕も限界だったけど。」
「――俺は直接言ってこないやつが大っ嫌いだ! 文句があるなら直接来いと言ってやりたいね!」とヤマトは会場に響くほどの大声で話す。
「私も腐った性格の男は嫌いです。馬鹿につける薬草はないですから、圧倒的な力を見せるのが一番です。」とソフィアもよく通る声で話す。
「我はラウールとサクラを殺すって言ったやつを殺すよ! 我の知識なら、正当防衛! 先に攻撃する意思を示したのはあいつ! 殺される覚悟がない奴が殺すって言ったらだめ! ただの馬鹿!」とクロウが……詳しい説明をしている。
魔の森で長い会話にも慣れた成果がここに。
そしてクロウが話したことに周りが驚いている。
ペットと思い、従魔とは思っていなかったんだろうな。
ただのペットがここに入れるわけないだろ……
「私はラウールに危害を加えることは許さない。仲間も同じ……黒い悪魔の二つ名にかけて、相手に後悔を与える……」
サクラも怒ると怖い……
「僕はあの冒険者が敵対するなら、この依頼は拒否してもいい。ペナルティーがあるなら、受け入れます。行動を共にするわけではないけど、一緒の依頼を受けたって言うだけで反吐が出る! 漆黒の翼の二つ名にかけて僕たちのことは、僕達で守る。僕たちを馬鹿にしないでほしい!」
僕の言葉で会場が静まり返った。
目立ちたくはなかったのに……
だけど、今の僕たちはSランク冒険者だ。
僕達をSランクに昇格させてくれた冒険者ギルドをも馬鹿にしている言葉になるから、許せない。
一触即発?
会場を青ざめさせた僕たちの言葉から顔合わせが始まった。




