第百三十五話 ヤマトの初冒険者活動
一週間ほど時間が空いた僕たちは、久しぶりに依頼を受けようと冒険者ギルドに来ている。
何かめぼしい依頼がないかシトカさんに確認をした。
「ん~? 今ギルドで困っている依頼は…………長い時間がかかる依頼だけですね。何か――こういったものと言うのはありませんか?」
「――僕は特にないけど、ヤマトは何か希望はある?」
「俺もない!」
「ないの? じゃあ今日はやめる?」
「――いや、何かはしたい!」
「ん~? 討伐? 採取? 街中? 討伐なら、数日かかるものでも一応は見てみるけど。」
受け付け前で悩んでいるのも邪魔になると思い、色んな依頼票を確認するために移動した。
今は僕たちの事をデーブンが広めてくれているので、絡まれることもない。
むしろ、憧れの視線もあるような気がするが……
……
そんな視線の中で依頼票を確認していると、一つの依頼が目についた。
【薬草が不足している。出来るだけ沢山採取してきてほしい。】
んーー、やっぱり初めての依頼はこれかな?
僕はヤマトにも説明して、シトカさんに依頼票を見せると、やんわりと却下された。
冒険者としての経験は浅いが、高ランクの冒険者が低ランクの依頼を事情がなければ受けないでほしいとお願いされた。
低ランク冒険者にとっては、こういった依頼も大切な稼ぎになるから、低ランクのために残しておいてほしいそうだ。
――ん~?
もう一度依頼票を確認に行く。
大量の採取依頼や討伐依頼、素材集めの依頼があるが、時間がかかるかすでに僕たちが持っている物を集める依頼だった。
……冒険者を感じられる依頼は……配達依頼は……ないな。
――もしかして……全てデーブンのギルドに依頼が移ったのかな?
ん~?
……
【ゴブリン種の生態調査。野生のゴブリンを生きたままつれてきてほしい。】
おっ!これは良いのでは!
Bランク依頼だし。
「これなんてどうかな? ゴブリンだったら、おそらくロードでもいいんじゃない?」
「おう! 俺はいいぞ! 生け捕りなんて面倒だがな!」
ヤマトの了解が得られたので、シトカさんに早速聞いてみた。
「ラウールさん達が受けてくれるのであればお願いします。上手く捕まえることができたら、門を潜らず、誰かが冒険者ギルドまで報告に来てください。門からは冒険者ギルドが責任を持って依頼主にお渡しします。」
「わかったよ! じゃあ気合いを入れて、上位種を連れて来るね!」
僕がそう言うと、シトカさんの顔つきが変わった。何かを考えている顔をしたかと思うと、恐る恐るといった表情で声を出した。
「一応聞いておきますが、ホブゴブリン程度を考えていますよね……?」
「えっ! 上位種ほど欲しいのではないの?」
「――やっぱり聞いて良かった……。え~とラウールさん、ヤマトさん? 最上位種はやめてくださいね……。ほどほどでお願いします……。忘れてはいけませんが、忘れていましたよ、黒猫の強さを……。デーブンさんから戦争の情報を聞いておいてよかった……」
「戦争の情報? もしかして、王国の冒険者ギルドからではなく、デーブン情報?」
「そうですよ。戦争の事は極秘事項で、知るものだけが知る情報です。」
「でもデーブンは知っていた……」
「デーブンさん達は、小さな噂を多く集めて、信頼できる情報にまとめあげているのです。油断なりませんよ?」
「――んーー、確かに。」
デーブンの恐ろしさを改めて理解し、ゴブリンを生け捕りするために外に出た。
シトカさんには念入りに言われた。
ロード種はやめてくださいと……
~~~~~
ニジュールの周辺を探し回ったが、通常のゴブリンがいるくらいで、上位種はいなかった。
だから僕とヤマト、後はクロウで魔の森に向かった。
サクラとソフィアは今後のために、貴族の集まりに出られる程度の服を買いに行くと言うため別れた。
そう言っていても出たくはないくせに……
魔の森についた僕たちは、高速移動を開始した。ゴブリン以外は見逃している。
先にゴブリンの集団を発見したのはクロウだった。
クロウが感じた方向に向かうと、三百匹位の集落を発見した。
「おっ! 流石クロウ! 僕より早いよ。」
「――我が一番~!」
「おう! 見つけるのは一番だな! じゃあ次は誰が一番貴重なゴブリンを見つけるか競争だな!」
「「わかった!」」
みんなで競争することになり、三方向に別れた。
それで僕は目の前のゴブリンを蹴散らしながら先に進んだ。
しかし、僕が来た方向はゴブリンキングがいたくらいで、めぼしい成果がなかった。
もちろんゴブリンキングは魔法で麻痺させ、捕獲済みだ。
そして捕獲後はとりあえず集落の中心と思われるところに移動した。
移動する先にはすでに僕を狙うゴブリンはいなかった。
……
ちょっとだけ時間が過ぎると、ヤマトが戻ってきた。
ヤマトの背中には、気絶しているゴブリンがいた。
そしてすぐにクロウも戻ってきた。あの小さな体で、ゴブリンを持って飛んでいる……
「クロウ! そのゴブリンは? 見たことのない姿だぞ?」
クロウが持っているゴブリンは、メス?
この世界でメスのゴブリンは見たことがなかった。
中々の大きさで、二メートルはあるか?幅もオーク並みにある…… クイーン?
「我見つけた! 雄でない強い気配! 周りを強い雄が守ってた!」
「へ~。じゃあ魂に刻まれた種族は見ないことにするよ。何か知っていて報告したら、シトカさんに怒られそうだし。」
「俺はこいつだ!」
そう言いながらヤマトはゴブリンを地面に置いた。
「ん~~! ヤマトはアウト! それはロードだ。」
「なに~! アウトとはなんだ?」
「ダメってことだよ。」
「ダメなのか! 一応連れていくくらいは?」
「ま~怒られるの覚悟で連れて行こうか! もったいないし!」
僕たちはロード種の事を簡単に考えていて、みんなで捕まえたゴブリンの全てを持ち、転移でニジュールの近くに戻った。
そして荷車に乗せ、布を被せた。――周りからはこれでわからないだろう。
……
門に行き門番に説明すると、僕たちが行かなくとも、冒険者ギルド職員を呼んできてくれることになった。
……
……
無言でドキドキしながら待つこと十分。
シトカさんにウールさんまで来た。
「依頼達成か? 今日は私も時間があったのでな。どんなゴブリンを連れてきたか見せてくれ!」
そうウールさんが言っている後ろからシトカさんが声をかけてきた。
「私は悪い予感がしましたので、マスターも連れてきました。」
「悪い予感って……。大丈夫ですよ? ダメなら連れていたところに返して来ますから!」
「いや、狂暴な魔物を戻されるのは困る。どんなゴブリンでも引き取ろう!」
……
そう言ってくれたウールさんに見えるよう、布を外した。
――ヤマトはどや顔だ!
――クロウは目が真ん丸だ! いつも通り。
そこに門番さんも覗きに来た。
「こりゃーキングとロードじゃないか~~!?」
門番さんの声が木霊する。
「――ラウール、すまないがこれはクイーンではないのか?」
「ん~? 僕にはわかりませんが、強い雄に守られてたみたいですよ。クロウ、説明を!」
「我は雌の周りにいたこの隣の雄たちを倒した。強い者に守られていたから――だからこの雌は貴重!」
「……クイーンか……」
……
……
このあとはシトカさんに冷静に怒られて怖かった……
ウールさんは責任を持って引き取ってくれたが、逃げられないようにして欲しいと言うので、ダンジョンで手に入れたと嘘を付いて、自作の封印具をゴブリン達にはめた。
これでゴブリンの戦闘力はなくなった。
最後に門番さん……
これでデーブンに情報が渡ってしまっただろう……
その後はしばらくはおとなしくして、買い物や訓練に時間を費やし、一週間が経過した。




