第百三十二話 ヤマトの冒険者登録
僕たちは両親と別れ、ニジュールヘ移動した。……そして街に入り、冒険者ギルドに向かう。
街の中では美しさでソフィアが目立ち、厳つさでヤマトが目立っている。
結果的には僕とサクラ、クロウも目立つことになりみんなが注目された。
何人かは、僕たちを見つけた後に走り出していた。
……
目立ちながらも冒険者ギルドに到着し、受付の所に進む。
さすがに僕たちに順番を譲る冒険者はいなかったが、明らかに避けられている……
「お久しぶりですシトカさん! 今日は冒険者活動の再開とパーティー登録、それと……ヤマトの冒険者登録をお願いします!」
急に話しかけられたシトカさんは動きが止まっている。何度か目をパチパチさせ、ようやく口を開いた。
「お久しぶりですラウールさん。冒険者活動を再開とは?」
「一年ほど魔の森に籠っていたので、全く依頼を受けていなかったんですよ~。だけどそろそろ依頼を受けようかな~と思って。仲間も増えましたしね。」
「ま……魔の森ですか……。そこは籠る所でしょうか……」
「まーまー、それは置いておいて、ヤマトの冒険者登録を頼むよ!」
「おう! 俺を冒険者に登録してくれ!」
シトカさんは目の前の獣人が登録するとは思っていなかったようで、また止まった。
……
……
「よう! ダメか!?」
「はっ! 申し訳ありません……。強そうな姿を見て、てっきり登録されているものと思っていました。」
「初めてだぞ! よろしくな!」
「……よろしくお願いします。それではこちらに必要事項を記入してください。」
そう言うとシトカさんは登録用紙を出した。
その紙にヤマトが必要事項を記入し、シトカさんに渡した。
シトカさんはヤマトが書いた用紙を見て、僕に質問をしてきた。
僕は聞かれたままに答えた。
ヤマトの戦闘力は僕たちと同じくらいある。採取も上手い。罪のあるものを討伐することができる。人柄も僕が保証する。
その言葉を聞き、シトカさんは少し待っていて欲しいと言って、奥の部屋に消えた。
……
少しの時間待っているとシトカさんが戻ってきて、ヤマトに告げた。
「ギルドマスターのウールに確認をとりました。Sランクのラウールさんが保証する人物であれば、Bランクで登録するようにとのことです。」
……
……
「いきなりBランクになるんだ……。すごいねヤマト!」
「イヤイヤ、お前らが凄いからこそだろ!」
それを聞いていたシトカさんが口を挟んだ。
「二人ともですよ。強さが保証され、一緒にパーティーも組む。それだけでギルドは依頼を円滑に達成できる可能性が上がる冒険者が増えて喜ばしいことです。高ランクの依頼は多くはないのですが、難しいので……。ラウールさんたち【黒猫】には頑張って頂きたいとのことですよ。」
……
……
こうして無事にヤマトの冒険者登録を終えた。
ソフィアも冒険者活動を再開するためにプレートを見せると、またシトカが驚いていた。
僕たち【黒猫】も冒険者活動を再開し、ヤマトとソフィアをパーティーに加える手続きをする。
そしてしばらくはニジュールで活動することも伝えた。
「それではこれで手続きは終了です。【黒猫】の皆さんはこれからお時間はありますか?」
時間?
僕たちはすぐに何かをすると決めていなかったが、小声で話し合った。
誰も急ぐものはないという結果になり、シトカさんに「ありますが?」と返事をする。
「できましたら、ウールが話をしたいと申しています。別室に移動して頂けますか?」
――これからの事も考え、ウールとは話をしておこうと、案内されるがまま移動した。
部屋に入り飲み物が出され、一息つくとドアがノックされた。
そして「今回はすまない。急な願いに応えてくれて感謝する。」と部屋に入るなりウールは頭を下げた。
それからテーブルを挟んだ僕の目の前の椅子に座った。
「今回話すことは内緒にしてもらいたいが良いか?」
どんな話かはわからないが、僕たちは誰かに何かを言う人もいないので……仲間以外に仲が良い人もいないし……だから同意する。
「ありがたい。これから話すことは、この国の機密にも関わる事だ。国からの依頼があり、信頼できる者にのみ話をしている。各国の冒険者ギルドも同様な動きをしている。」
……
ウールはそこで一度飲み物をのみ、一呼吸おいてから話し始めた。
内容はある程度僕たちに有意義なものだった。
三ヶ月前に神託があり、魔王が出現することを国は知っている。
一ヶ月前に、正しい手順で勇者召喚を行った。
今現在は基礎訓練を終えた勇者が、騎士や高ランク冒険者と旅に出る準備をしている。
二~三年後に魔王が出現すると言われているため、少しでも早く勇者を強くしたいそうだ。
旅の途中で新たな情報を得られたらもうけものだし、魔王に変化する前に討伐することができたらな尚更良い。そんな考えもあるようだ。
今回の魔王は、魔物が進化するのか、魔王として初めから現れるのかはわかっていないので、被害をできる限り少なくしたい。
これは苦肉の策にも思えるが……
召喚された勇者達は……達と言われるくらいの人数だが、初めは混乱していたが、諦めなのか今は訓練に勤しんでいる。
金銭面では各貴族が負担している。だが貴族の中には悪巧みをする者もいるため、勇者が取り込まれないように、できるだけ信頼できる冒険者に預けたいようだ。
もちろんファンフート・テザンも受け持っている勇者がおり、ダイチたちが先輩として、一つのグループを受け持つことが決定している。
出来れば今回の勇者を鍛える依頼を引き受けて欲しいとウールに頭を下げられた。
勇者は特殊な能力があり、能力は上がりやすい。ただ、戦闘に向かないものもいる。
そこで依頼期間は勇者が独り立ちするまで。もしくは魔王を討伐するまでとなる。
勇者にかかる金銭的負担は貴族が負う。
旅の間の負担は、各ギルドに請求すると受けとることができる。
金銭負担は無制限ではない。
さて――ここまでの情報で、この依頼はどうしようかな。




