第百三十話 悩むな!
神様との邂逅で悩み事が増えたが、すぐに何かをする必要もないと思って、何となく生活していた。
「ねえソフィア? 精霊さんと友達になる不利益って何?」
朝ご飯を食べながらソフィアに聞いてみた。
「不利益というか、ラウール達には利益があまりないと思いますよ。精霊を使役していると常時魔力を吸われています。そして魔力を吸われ続けていても、実際に魔法を使ってくれるとは限りません。精霊は無邪気で善悪の区別もなく、興味があることだけしかしません。エルフの魔法より強い威力の魔法を使いますが、ラウール達の魔法に比べたら、弱すぎます。興味だけであれば、使役しなくてもいいと思いますよ。」
「へ~、精霊は強力な魔法を放ち、流暢に会話して、友達になってくれるものだと思ってた。」
「まったく違いますね。飽きた時はすぐにいなくなりますしね。」
ソフィアの会話を聞くとそこまで精霊と友達にならなくてもいいと思ってしまった。
そしてソフィアには、興味があったけど今は精霊と友達にならなくてもいいことを伝えた。
サクラも僕と同じことを考えていたようで、ソフィアの話を聞いてがっかりしていた。
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僕たちは魔物森に来て九ヵ月ほど生活していた。
なんだかんだと楽しんでいて、しばらくここにいてもいいと考えていた。
しかしここにきて魔王の情報を得てしまった。
僕たちが行動しても変わらないことがある。
だけども強さのある僕たちが誰とも交わっていないと、いざこの世界に危機が訪れても手伝うこともできな。
「サクラ? サクラは僕が街に戻りたいって言ったらどうする?」
僕が聞くとサクラは不思議そうな顔をしていた。
「えっ? もちろん一緒に街に行くわよ。私一人でここにいても楽しくないでしょ? ラウールと一緒に行くよ。逆に私が街に戻りたいって言ったら、ラウールはどうする?」
「もちろん一緒に街に戻るよ?」
「そうでしょ? 一緒なのよ、私たちはね。だからお互いにやりたいことがあった時は口に出したらいいじゃない。黒猫モードもそうだったでしょ?」
「そうだったね……。僕は何を悩んでたのか……。僕一人じゃないものね。悩んだら相談すればいいし……。じゃあ、一緒に考えて。」
そこに笑顔でソフィアも会話に入ってきた。
「私も仲間に入れてくださいね? これからの旅には私も入れていただけるんでしょ?」
「我も! 死ぬまで一緒!」
僕は悩みすぎなくてもいいことに気づいた。
今は一人じゃない。
前世の様に一人で悩まなくても、今は相談できる人がいる。
一人じゃないこの状況は、何でも相談してもいいんだ。
相談して、一緒に悩み、一緒に決める。
僕は今の状況に感謝した。
そこでこれからの方針を確認した。
なんとなく区切りが良い一年をめどに森を出る。
森を出て、ソフィアともパーティー登録をする。
みんなで依頼を受けながら、もっと強くなる。
冒険者活動を楽しむ。
魔王や勇者の情報も聞けたら聞く。
大雑把にこんな感じだ。
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緑龍にもこの森を離れることを伝えた。
残り三か月は一緒に楽しもうと言うと、緑龍が驚くべきことを言ってきた。
「俺も一緒に行くぞ! いいだろ!」
この言葉にはサクラもソフィアも、そしてクロウまで驚いた顔をしている。
クロウに至っては、目を真ん丸にしている――――元々か。
「いいの? この森の主でなかったの?」
「いいんだよ! 龍なんて気まぐれなもんだ! 誰かが代わりに主に収まるだろ!」
結構軽いね……
魔の森と恐れられているところの主ですよね……
いいのかな?僕達と一緒で。
「俺も冒険者になるぜ!! あ”~楽しみだ! 最近変わったことがなくて、お前らが来て楽しかったんだぜ!」
「本当にいいの? もし緑龍まで僕たちのパーティーに入るの?」
「おう! 宜しく頼む! もちろんリーダーはラウールな!」
「え~~~~! やだな~!」
他のメンバーは生暖かい目で見て、誰も反対してくれない。
「じゃあ、緑龍の名前は何にするの?」
「うむ、お前たちが決めてくれ!」
「それはいいの? 名前を付けたら使役されない?」
「それは大丈夫だ! さすがに俺ほどになると、使役されることはないだろう。」
それを聞いたみんなで緑龍の名前を考える。
僕は名づけの才能がない……
才能の神の加護があるのに……
しかし! 頑張って考える! 誰かの名にかけて!!
「――グリーン!でどう?」
「却下で!」
緑龍は即答だった。
「――じゃあ私は前世知識でヤマト!!」
「それだ!!」
緑龍はまた即答だった……
緑龍はこれからヤマトのと名乗ることになった。
変化の術で人族の姿になるのは面白みがないと、僕とサクラは人族。クロウは鳥型の従魔。ソフィアはハイエルフだが、エルフに思われるだろう。だからヤマトは獣人になると言って変身した。
そして目の前にいる獣人は何だろう……
龍が獣人になる。
それはいい。
しかし、この予想もしなかった獣型はなんだろう……
ヤマトが選んだ姿は……
黒猫だった……
龍なのに……緑なのに……なぜに黒? なぜに猫……
――いくら僕たちの姿が印象に残ったからと言って……
それも、マッチョな二メートルくらいは身長がある黒猫の猫獣人……
記念するべき龍を仲間にしたこの日は、初めてマッチョを仲間にした日になった。




