第百二十九話 神との邂逅と魔王誕生の報
ラウールとサクラのハイテンションな生活が続いていた。
ある時は黒猫、ある時は黒猫の獣人。
変化の術を使用して、色々な方法で敵を倒しまくっていた。
……
ある時僕はハッと我に返った。
あまりにも楽しすぎてめちゃくちゃしていた……
前世と今世を合わせるとうん十歳……
少しは落ち着いて何かをしないと、大人の威厳がなくなる。
そう考えた僕は、三ヶ月は続いたハイテンションな生活を止めた。
「サクラ? そろそろ落ち着いた? 僕はようやく我に返ったよ……僕とサクラは何歳かな?」
ん~と考える格好をしたサクラは笑顔で言い切った。
「十七歳だよ!」
「うん……そうだね今はね……。でも実は……」
サクラは頭を激しく振り、いやいやをしている。
「認めたくないものだな……若さゆえの――」
「若いから! まだまだぴちぴちだから!」
「うん、現実に戻ろう。そろそろ一度落ち着こうね?」
「わかったわよ……だけど落ち着くって?」
「僕は少し考えたんだけど、神像を作ろうかと思っているんだ。」
そこへ不思議そうな顔をしたソフィアも入って来て話し始めた。
「ラウールはなぜ神像を作ろうと思ったんですか?」
「なぜって? 森と言ったら、世の中の生活に疲れた人がこもるところでしょ? こもると言ったら、木を削って仏像を作るでしょ? この世界は仏像ではなくて神像でしょ? だから僕は疲れた顔をして神像を彫る!」
僕の話を聞いた二人は、何を言っているんだこの人はという顔をしている。
クロウは何もわかっていない顔をしている。
「どうしてそんな連想になるのよ……神像を彫ることは反対しないけど……」
「なんとなくだよサクラ! こういう時はなんとなく行くんだよ!」
僕とサクラは会話を終えて、神像づくりに取り掛かることにした。
なんだかんだ言ってもサクラも神像を作ると言い出した。
だから、僕が才能の神で、サクラが創造神の像を作ることにした。
ものづくりが上手くなったというものの、前世でも物を削って仏像を作ったことはない。
だから結局、魔法を使い創ることになった。
材料となる気は上質なものがいいと、森の奥に行ってエルダートレント(Sランク)を数体狩って来た。
その材料に魔力をなじませて圧縮する。
圧縮した後は、出来上がりの姿を想像して魔力を練りこみ成形していく。
――それだけだ。
神像は意外や意外――出来が良く、短時間で出来てしまった。
出来上がった神像をそのままその辺に置いておくのも罰当たりなので、神像二つと人が三人は入れる神殿風を作った。
その大きさであればマジックボックスXなどで持ち運べる。
……
完成した神殿風に入りみんなで祈りをささげた。
――すると、あの白い空間にいた。
周りを見渡すと今回はサクラの他に、ソフィアやクロウもいた。
ソフィアは何が起きているのか分からず、ポカーンとしていた。
……少し時間を置き、目の前にあの神様二人が現れた。
「久しぶりラウール。元気だったかい。」
小さい神はラウールに話しかけた。
「久しぶりじゃなサクラ。そしてソフィアじゃな。顔を合わせるのは初めましてソフィア。私は創造神じゃ。」
鬚の付いた神は二人に話しかけている。
「クロウも元気?」
「我は元気! 才能の神様は元気?」
「僕も元気だよ。」
挨拶を交わした後は僕の旅の話を二柱の神は聞いた。
その後はソフィアに声をかけていた。
いつも通り丁寧な口調で会話しているが、こちらは緊張でガチガチになっていた。
信託の様に声を聞いてはいたが、実際の姿を見ることは普通にあり得ないからだ。
……クロウは神様にも態度は変わらない……
……
和気あいあいと神様と話をしていたが、最後に爆弾を落として去っていった。
「そろそろ魔王が出現するよ。そろそろって言っても、人間の時間で……二から~三年くらい? 強くなるまではそれくらいの時間がかかるかな? 僕達とは仲の良くない神が手を加えている可能性もあるから気を付けてね。本当の勇者召喚も続いて行われるだろうから、君達が出なくてもいいと思うけど……。だけど――この地は僕にとって大切なところ。君を呼んでまでバランスをとった世界。もし叶うなら……不幸な世界にならないようにしてほしい。」
そう言っていた。
……
……
「結局巻き込まれるのかな僕達の人生は……」
「魔王か~。実感がわかないけど、どうしようかな?」
「神様に会ってしまった……」
「我頑張る! ――何を?」
それぞれ反応は違った。
ソフィアはまだ魔王のことまで頭が回っていない。過去の勇者のことも知っているだろうから、魔王の事を聞きたいのに。
……
……
時間がたち、魔王の事をソフィアに聞くと反応が返ってきた。
ソフィアがまだ小さい頃だったので、実際には聞いた話だけどもと前置きして、話し出した。
「ハイエルフの言い伝えと合わせて話していきますね。まずは魔王の強さですが、その時によって全然違います。基礎となる生命、魔王となってからの経験で変わります。経験を積むほど強くなるのは、我々と同じですね。基礎となる生命も、人族から獣、魔物まで様々でした。魔素が集中しすぎて魔王種に至っているようです。だからどの生命でも早めに討伐することが一番です。この世界は魔素の量が増えすぎても減りすぎてもバランスを崩します。だから――魔王が長く生きているだけでも、世界のバランスは崩れていきます。日々魔素を吸収していますから。そして……弱い魔王なら、ラウールでも倒せるでしょう。」
「僕で倒せるの?」
「えーと、ラウールとサクラはもちろん、クロウもこの世界の生物の戦闘力を超えています。龍種ともやりあえているでしょ? 龍種は魔王とも戦えますし、倒すことが過去にはありました。だから緑龍が言う育ち切った勇者は強いと言うのもそのままです。魔王と同じで勇者も成長してこその勇者です。育った魔王と勇者、龍種は互角程度にはなるのです。」
「だったら、勇者に頼らなくても、この世界の人たちでも倒せるんじゃないの? 強くなるように努力していれば。」
「そこが難しいのです。才能がある人間が努力を重ねてようやくSランクの冒険者です。今のEXランクの人の名前は忘れましたが、その者でも一人では龍種と互角に戦えませんよ? だから勇者召喚に頼るのです。才能を持つのではなく、圧倒的な才能をもってこの世界に渡ってくる異世界人に……」
この日は魔王と勇者についての話で終わった。
おそらくそろそろ神託などで魔王誕生の報が世界に届くのだろう。
そして本当の勇者召喚――
僕はどんな立ち位置にいたらよいのか?
――これから先の生き方に悩みを持つラウールだった。




