第百二十話 今の【黒猫】の全力
あっーーという間に開戦だ。
あの後にラシーア帝国貴族からの宣戦布告があり、戦争状態になった。
サーシン王国も準備は進めており、国境近辺で戦端が開かれた。
まだ小競り合いという程度だが、お互いに死者は出ていた。
ラウールは死者が出ている事に心を痛めたが、自分の出番がまだだという事で何とか動かずにいた。
……
【黒猫】が今回の総大将、カーシン伯爵の傍にいることを良しとしない者もいて、ラウール達が自由に動きにくい事にも、小競り合い程度で死者が出る原因となっている。ラウールは「もし僕が参戦していたら……」と悩んではいたのだ。
だから今はカーシン伯爵が上手く事を運び、黒ローブのフードで顔を隠しながら、護衛と言うことで傍らにいる。
反発する者が出るのは予想内であったため気にも留めなかったが、僕達の力で先んじて攻撃することが出来なかった。
僕は躊躇った事を後悔していたが、今、この時点で目の前に敵がいる状況になり、心を平静に保とうとしている。
そう、とうとう敵と向かい合ている状況だった。
隣では、敵を目の前にしたカーシン伯爵が相手に怒鳴っている。
「帝国とはいかに卑怯か!? 我が忠誠を誓う王国の地を狙うとは!!」
相手の偉そうな人物も怒鳴りつけた。
「この地は誰のものでもない! 我が帝国に差し出すのだ!! 我は帝国の次期後継者の先兵である!!」
おい……この地は誰のものでもないなら。帝国の物でもないだろう……
「そうはさせない! 今のバランスで平和な世の中になっているのだ! この地の事で争うなど……また戦争の時代にしたいのか!!」
カーシンが叫び返した。
「そうではない! だまって帝国に全てをよこせば何も問題ない!!」
相手の偉そうな人が叫ぶと、僕の心の傷がうずいた。
黙ってーー!! 何をーー! ただただ自分が偉いと思っている者に従えと!!
僕の殺気が周囲に充満し始めた……
その充満した殺気を感じた者は、カーシン伯爵の傍に僕達がいることを反対したことを後悔した。
戦争の後に敵にはしたくないんだろうな。情けない顔で僕達を見ていた。
「くっーー! 帝国の者よーー! それでは開始しようではないか!? どちらが生き残れるかを!」
殺気を浴びたカーシン伯爵は早々に相手に降伏をしてもらうことをあきらめた。
「おう! 王国の者よ! 我らの精鋭の力を見よ! 行け!」
wawawーーgagaーーwaーwowowowoーー!!!
戦端は開かれた。
目の前で本気の攻撃が繰り広げられている。
「じゃあお願い、サクラもクロウも合わせて……」
「「わかった!」」
「「「……我が願いを聞け 我らの前にある敵対する魔力は我に来い すべてを喰らいつくせ我が魔力 我に従う魔力よ 我に協力する魔力よ この地の魔力よ 我は願う 今敵対する声明を拒絶することを 我が願いは平穏 平穏を崩す者は敵 敵は滅ぶべき者 一間選べ 天雷の裁き!」」」
僕達が詠唱を終えたその瞬間……静寂が一間訪れた。
味方はもちろん、敵も静まり返る……
そして次の瞬間……稲妻が駆け巡り轟音が響く。
稲妻が敵陣、味方の陣営を駆け巡り、命を散らす……
あーーあれは裏切りの光……
あーーあれは敵対する者への罰……
味方にも裏切り者がいたようだ。
この魔法は僕にもだが、それよりもこの国に害するものを罰する詠唱。
詠唱で罰を与える範囲を決めたのだが……
思っていたよりも味方陣営にも罰が……
「……ラウール? 味方の被害はない魔法だったのでは……?」
カーシン伯爵が聞いてきた。
「味方? この魔法は、王国に敵対するものを攻撃するように設定した魔法。僕だけではなく、サクラとクロウも一緒に唱えているので、僕だけの敵判断ではないですよ。」
…………
……
カーシンは考えた。
味方にも単純に攻撃するのなら、ここまで決まった人物だけに攻撃は行かないと……
攻撃を喰らったものに、自分自身が正体を怪しんでいた者もいることも確認していた。
……
「今攻撃された者は王国の敵だ!!」
カーシン伯爵は宣言した。
そして目の前で生き延びている帝国兵士にも言った。
「お前たちは王国に敵対していないものと考える。だから投降しろ!! 悪いようにはせん!! 武器を置け!!」
そう言われた兵士たちはすぐに武器を置き、手を万歳の様に上げて降参している。
「ラウール? 言いたいことは色々あるが、それは全てが終わった後でな! 今はこの戦争を終わらせる。幸いお前たちの姿を確認できたのは俺の傍にいる者たちだけだ。」
そうこの辺の人達は、僕達の詠唱を聞いている。
「俺のこの声を聴いている者よ! しばらくは他言無用だ! 国王には俺から説明する!」
あーーそうだよな。僕たちのことは国王には報告は行くよな。
僕は覚悟はしていたが実感した。
そして大量虐殺も……
「俺の声が聞こえた者よ。俺達は勝利した! すべての勝利は王国へ!! すべての不利益は俺にもってこい!! いくらでも背負ってやる!」
!!
カーシン伯爵……
か格好良いよあなたは。
僕たちの憂いを除こうと……
帝国との関係は悪くなるのかもしれない。
しかし今は両親の生活環境が守れたことを喜んでおこう。
「ラウールとサクラ、ありがとう!! ここまで犠牲が少ない戦争もないぞ!! 防衛戦とはいえ、これは俺達の勝利だ!! これから嫌であろうが、国王には会ってもらわなければいけない。俺が無理は言わせないが……頼む! 何かあっても王国だけは見捨てないでくれ……。国王は良い奴だ! 周りの奴らは置いておいても……。お前たちは俺が守る!!」
守るって……
何かが起きるんだろうな……
覚悟はしておく。
ただ残念のなのは、帝国に旅することが難しくなっている事かな?
そう余計なことを考えながらも時間は過ぎていく。
戦場からは人の気配がなくなっていき、人だったものもなくなっていく。
地形も均され、何事もなかったような状態になっていく。
宿で休みながら時間が過ぎ、僕達はどうなるのか?
この先の心配をしているラウールだった。




