第百六話 顔ぶれ
ラウールが気合を入れて冒険者ギルドのドアを開けた。
……
ガチャ!
ラウール達が中に入ると、中にいた冒険者は一瞬品定めをするように目を向けた。
大体の冒険者はすぐに視線を戻したが、何人かの冒険者がそのまま固まっている。
「漆黒の翼……?」
「あいつが帰ってきた……」
「でかくなったな。漆黒の翼だよな?」
「おい!仲間に伝えておけ!見たことのない奴にはあいつらの特徴を伝えろ!」
「この街にまた……」
「久しぶりだなーー元気だったのかなーー」
「誰だあいつ?やけに注目されてるな?」
サクラが……
「ぶふっ! ラ……ラウールさん?漆黒の翼の……ご帰還だーー!ってしなくて良いの?」
「おい! それをネタにしないでくれよーー。僕だって言われたくてこうなったんじゃないから……」
「でも……ぷっ……一目見て思い出させるなんて……恐怖の大魔王はラウールだった!」
「んーー! 冗談でもやめてよ!」
「ラウール凄い!我もすごい!」
「クロウはわかってないだろ……。ここにいてもしょうがないから、えーーと……あっ、いた! やっぱり何かあったとしても、知ってる顔があるのは良いな。」
そう言って受付にいたチルミの列に僕は並ぼうとした。
すると僕が進んだ方向の冒険者が道を開けた……
僕を見たことのない冒険者は、周りの冒険者に話を聞いた後……やはり道を開けていた。
「は~、こんな状態か……。僕はまだ何もしてないのに……」
……
すぐにチルミの目の前に到着してしまった。
「こんにちはラウールさん、お久しぶりです。あれから何年か経ちましたけど、まだまだこの冒険者ギルドではあなたの話題が出ていますよ。」
つい額に手を当て絞まったが僕は眉間に皺がよっていただろう。
「まだですか……だけど……今回すぐに王都サーシンに移動するので、そんなに怖がらなくても良いと、周りの冒険者に伝えてください。」
「そうですか……少し依頼のご相談もしたかったのですが、冒険者プレートを見せていただいてもよろしいですか?」
「もちろん良いですよ。」
そう言った僕は冒険者プレートをチルミさんに渡した。
受け取ったチルミさんは一瞬目を見開いたが、僕の冒険者ランクや履歴を口に出すことはなかった。
返してもらった冒険者プレートをしまうと、もう冒険者ギルドには用事がないので帰ろうとした……
「ちょっと待ってくださいね。いつになるのか分からないけど、この国に戻ってきたら一度会いたいと、クロース様から伝言を承っております。クロース様は一年に一度手紙の交換に自ら出向いていましたよ。」
「へーーだったら伝言を飛ばしてくれたら良いのに。」
「それはラウール様がこのくらいになっているとは思っていなかったのでしょう。それに送る側にも力がないと、結局は伝言が届かない時もありますから。相手が毎回きちんと、誰と誰の伝言は受け取ってほしいと伝えないといけませんよ。」
僕はやってない……
はーー
「あっーーそこまでしてなかった……それだと届かないよね……」
手紙を受け取り僕は今度こそ受付を離れた。
すると目の前からまぶしい人物が現れた。
「うっ! まぶしい!!」
「お前は変わらないのか? そしてまぶしいわけがないだろ!!」
そう、目の前にはナダルが立っていた。
ナダルはこの冒険者ギルドで真っ先に僕に絡んできた人物だった。
少し大人びた程度で何も変わらない。
「だって光ってるもの。」
「光ってない。さすがに髪がないくらいでは光らん!」
「そう……久しぶり! 元気にしてた?」
「おうよ! 俺もゆっくりかもしれないが、Cランクになったぜ!」
「へーーおめでとう! すごいね!」
「ありがとよ。だけどラウールはもっとすごいんだろ?」
「んーー僕はSランクになったよ。それにパーティーメンバーがいるよ! 今は【黒猫】って言う冒険者パーティーなんだ。僕の隣にいるサクラと僕と……肩に乗ってるクロウと旅をしているよ。」
「んな! 隣の女の子も……。負けた……。だけどやっぱりすごいなお前ら。俺もクラン【希望の家】に入れてもらったが、お前ら凄い! ここにギルマスがいたら慌てただろうな。」
「ギルマスはいないの? 魔物に殺られた?」
「勝手にギルマスを殺すな! ただ王都サーシンに行ってるみたいだぜ。」
「へーー僕たちもすぐにサーシンに行くから、もしかしたら会うかもね?」
「そうか……すぐに行くのか。カシマスさんには会わないのか? 時々懐かしそうにお前らのことを話してるぞ。」
……
「カシマスさんにはお世話になりっぱなしだから、出発前に挨拶はしていくよ。あっ……そうだ。明日伺いますって言っておいてよ!」
「おうよ! ラウールが来るって聞いたら喜ぶぜ。じゃあ俺は一回クランの拠点に戻るよ。」
……
そう言ってナダルは冒険者ギルドを出て行った。
後姿を見送ったラウールだが、用件が終わったので冒険者ギルドから出た。
ラウールがいなくなった冒険者ギルドでは……
「漆黒の翼がパーティーを組んだってな!」
「俺は聞こえたぜ! あの女の子もSランクだって!」
「性別は強さに関係ないが、まだ子供に見えるのにな……」
「私も負けた……私はCランク…。」
「……っていうか、漆黒の翼は何歳だ?」
「肩に乗っていた鳥は何だ?」
「俺はデーブン情報でラウールの事は聞いてるから、目も合わせないぜ!」
「デーブンってなんだ?」
「なんでも荷物運び情報網を作ってるやつみたいだぜ。この街にもよっただろ。」
……この街でもデーブンの軌跡があったのだった。




