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夢Ⅱ

作者: 河野章

「おかしな夢だったら僕にもありますよ」

 そう言ったのは学生のMくんだった。

 Mくんはスポーツ特待生で大学に入り、途中でそのスポーツを止めてしまったために、大学を中退したという残念な過去を持つ青年なのだが、最初はその大学の寮生活で見た夢が始まりだという。

「寮ではベッドで寝てました。二人部屋です。それぞれにベッドがあって、僕は入って左側のベッドを使っていました」

 入学してしばらくしてから、妙な夢を見るようになったという。

「体がふわふわ浮き上がるんです。僕の意思に反して、風船でも体にくくりつけられているようでした」

 場所は決まって、寮のその部屋か当時行っていたスポーツのグラウンドだったという。

 Mくんは必死になってベッドや椅子、グラウンドに立ててあるポールなどにしがみつくのだが、腰のあたりに特大の風船をつけられているようでどうしても体が持ち上がってしまう。自由になるのは手足のみで、たったそれだけの夢なのだけれど、どうしようもない恐怖が襲ってくるのだという。

「夢の中の僕は本当に困ってるんですよ。このまま攫われる、気持ち悪い、怖いって……何度か、掴まっていた手が離れて浮かび上がったこともあります」

 私はそこまで聞いてメモを取る手を止めてしまった。空に浮かぶ夢ならばわりと誰でも見る夢ではないだろうか。その問を失礼ながらぶつけてみた。

「そう思うでしょ?」

 Mくんは怒りもせずに、逆に面白そうににっと笑った。

 そして、なんの予告もなく、いきなり自分の来ていたTシャツをまくりあげた。そこには、右脇腹に両手一杯分の大きな痣が残っていた。痣の中心は痛々しい赤黒いいろに染まり、周囲は青黒く治りかけている様子だった。

「昨日、ちょうどその夢を見たんです」

 Mくんは笑った。私が驚いているとMくんは続けた。

「最初からこうなんです。夢の中で我慢できずに手を離してしまうと、体が浮かび上がって戻れなくなるんです。そして、天井や屋根を突き抜けて、電線を超えて体が浮かび上がってしまう。それで、もう止めてくれ、ここらへんで良いよ……って僕が諦めた途端ですよ」

 ドンっと、急加速してMくんは落とされてしまうのだという。

 それはすごいスピードで、地面や床にぶち当たる前に目が覚める。そうすると、手足でかばわなかった場所に大きな痣が翌朝できているという。

「寮で過ごしている間は、寝ている間にベッドから落ちたのかなって思ってました。けど今僕、下宿先で布団で寝ているんですよね。勿論、畳の部屋に、体をぶつける場所なんてありません」

 今朝もうつ伏せになって目が覚めて、しまったなぁって思ったところなんです。せめて顔でなくてよかったですよと、Mくんは笑った。


【end】

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