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珈琲とケーキと女友達

 明日は新月、私は街にある『カシワの旦那の別宅』で、今これを書いている。あの子も当然だが一緒だ。馬に蹴られて死にましたやら、階段から落ちて死にました等と、旦那が、ここで仕事を終え、本邸に帰った時に奥方から、そうサラリと聞きたくないのだろう。


 ふむ、そう考えるとこの子の事を考えているのか………。こちらに来ると、それなりに応じた服を着てるしな。てか、この瀟洒な屋敷。実直を形にした様な執事と、年老いた馬番以、年若い少年?しかいない様子なのだが、


 やはり事実だったのか、噂には聞いていた。私は花屋で売り子をしていた時に、聞いた話を思い出す。


 山の手のとある金持ちの屋敷は、見目麗しい少年ばかり集めてる。それは主の趣味で、新月の夜には、地下室でパーティーを開くという。当然の事だが、私にその招待状は来ていないし、その日は本邸に帰るか、外に出るかしてくれと言われている。


「外にか、別にいいが、そうだな、一人では退屈でもあるし、話し相手にあの子も連れていっていいかね?」


 カシワの旦那にそう問いかけた。さてさて、どんな反応をしたのかは、彼に語ってもらおうか。



『ジョン・サルベニーニの覗き窓 薔薇の花咲く屋敷』



「ジェシーを?連れて行くのか?やけに気に入った様だな………」


 僕は今、彼の『別宅』にいる。山の手と言われる、金持ち達が住んでいる区画、ここはイマノリチャード達が言う『成り上がり』と言われる階級達が住んでいる。


 先祖の財産など無く、いわば叩き上げ、己の才覚でのし上がって来た金持ち達。リチャードもかつてはその世界の一人だったが………。人間、金の次は名誉と地位が、欲しくなるなるらしい。


「明日のここの夜会、僕に出るなと言うのだろう?まあ、興味もないし、苦手だから、外で過ごすのはありがたいけどね、退屈だしなぁ、なのでジェシーを借りて行こうかな、と、世話になってる事だし、美味いものでも食べさせようかと」


 僕の提案に、リチャードが探るように視線を向けてきた、おいおいまてよ、僕は美しい女性が好きだよ、年相応の。ふーん、やっぱりそうか………、ならば哀れな子羊を一頭救っておくか。


「気に入るも何も、僕の世話をしているのは、ジェシーだけだろう?他にはいない、借りちゃ悪い訳でも、あるのかい?」


 あっけらからんと聞くと、イヤ………別に、そうだったな。無口な子供だから心配していたのだが………。と端切れが悪く答えてくる。渋っ面のリチャードに対して、言いくるめるように話していく。


「嫌なら別にいいが、何も話し相手ならば酒場に行けば、いくらでもいるからね、()()()と、久しぶりに遊ぶのも悪くない」


 おいおい、イヤなのかよと、内心愉快になる。僕は『彼女達』をわざと、強調してリチャードに話した。そのキーワード『彼女達』を、即座に拾ったリチャードは、いやいや、連れて行きなさい、と安心したような声で、話をふってきた。


「………ん?ああ!いや、それはいかん!私の友人がいかがわしい場所に出入りするのは、行動を謹んでくれたまえ、そうだな、お目付け役にジェシーは必要だなジェシー、わかったね、と命じるリチャード、思いもかけない展開に、びっくりしたジェシーだが、僕の顔と主の顔に視線を泳がした後、こくんと頷いた。



「久しぶりだな、ここに帰るのは、閉めっぱなしだから汚いぞ」


 時々に戻る隠れ家、下町のアパートの一部屋。リチャードを始め、幾人かの支援、それとと共に収入も上がり、今は以前よりはマシな所に、部屋を借りている。


 ろくに掃除してないと、シャツにベスト、膝丈のズボンの、ジェシーに話しながら、ガチャリと鍵を開ける。中はソファーが一つ、テーブルが一つ、執筆用の机に、ベット、それ以外は置いていない。


 シャッ!と黄ばんでいるカーテンを、久しぶりに開ける。ギシっと枠をきしませ窓を開けた。風が入りこもった空気をかき混ぜる。窓の下から、活気に満ちたモノが届いて来る。


 ふぅ………と息を大きく吸い込み、空を見上げる。目を下ろすと、行き交う人達、馬車。ここは表通りに面している。上から眺めるのが、ここでの僕の楽しみの一つでもある。


「あ、の、掃除してもいい、ですか?」


 ほぉ⁉背後からの声に、驚いた。そのままに振り向くと、手持ちぶたさなジェシーが辺りを見渡しながら、僕に問いかけていた。へ、え………、話、するのか。僕は初めて見る彼の様子を目にし、何か、そう、面白い話が聞けそうな予感に包まれた。


 なので、この機会を逃してはならないと思い、慌ててそれに答えた。


「あいにく無いね、掃除道具は管理人からするときに、借りているんだ。わかった、借りてこよう」


 待っていて、と僕は部屋を出る。ククク、これはこれは、彼はきっと色々見ているだろう。あの屋敷の表も裏も、ドアを閉めるとき、目があった。ニコリと愛想よく、それに返しておく。


 さて………部屋の掃除が住んだら、食事にでも行こう、楽しみかてきたよ。連れてきて正解だ。


 続く


 パトリシア・コールとエミール・ハルウェン



「まぁ!パティ、そんなもの読んで、やめなさいよ。お金が勿体ないわ」


 最近、煙草と共に流行りだした、珈琲と、菓子を出す店に訪れたエミール・ハルウェンは、辺りに構わず声を上げた。待ち合わせていたテーブルに、座っていた友人が、面白そうに読んでる雑誌に、気がついたからだ。


「もう、エミィったら、お客になんてこと言うのよ、わざわざ発売日に、きちんと買って読んでるのに、終わったの?お仕事」


 店内にいくつか置かれている、丸テーブル、その向かい側に座るエミールに、苦笑しながらパトリシアは答える。


「私も同じものを」


 注文を取りに来た女給に、エミールはパトリシアが頼んでいた品を注文する。店内は、煙草の匂いと、香ばしい珈琲の匂いが混ざっている。大陸から渡ってくる大量の、香辛料と珈琲、煙草、それらを出す店は大小あるが、街のいたるところにある。


 待ち合せに使う者、ペンと紙を持ち込み草案を練るもの、声高に討論し合う者、他愛のない時間を潰すもの、雰囲気に酔い、己の中のミューズを呼び出す者、提供された場の使い方は様々だ。


「終わったわ、そっちは?今晩は空いてるの?」


「ええ、大丈夫よ、お芝居に誘ってくれるのは、嬉しいけれど、二人で楽しんでくればいいのに」


「んー、彼は仕事よ、後で批評とやらを書くんだって、だからねぇ、あれこれ聞かれるのよ、私じゃ物足りないみたい、ほらこの前もそうだったでしょう?」 


「ええ、私とばっかり話すのですもの、気がとがめたわ、あの作品も、とても面白かったわね、泥雲雀の囀る春だったかしら?」


「んー、私には難しくて、サルベニーニの脚本なのよね、その日暮らしの母親子と、町長との………あれねぇ、彼の求める感想なんてムリ!、ああ、ありがとう」


 香り高いそれが、目の前に置かれた。続いて置かれた、白い皿の上には、どっしりしたシロップに漬け込んだフルーツケーキがひと切れ。うれしそうに食べ始めるエミール。


 ふ、ん………、その様子を目を細めて眺めるパトリシア、残っている珈琲を口に運びながら、二人は時間までの間、他愛のない話で盛りあがる。


 仕事先のあれこれ、流行りの服、髪型、夕食はどこでとる?彼は、開演時間に来るから、先に済ませる?見てる間にお腹が空きそう、矢継ぎ早に話すエミール、それに相づちをうちつつ、穏やかに付き合うパトリシア


「ね、そういえば『あれ』!やっぱり、サルベニーニの爺さんだったのよ!信じられない!あんなのも書くなんて」


「へぇ、やっぱりそうだったの、貴方が魅力的な服を着てるから、そんな事を書かれるのよ」


 ふつれっつらの友人に、くすくすと笑いながら諭すように話す、泥雲雀の囀る春、か、パトリシアは目の前で可愛らしく動く、薄く紅を塗った唇を眺めながら、その時の舞台を思い出していた。



 二人はお互いを『親友』とそう呼び合っている。














































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