ショッピングモール2
自分の心の中の恐怖を抑えて、強がって言った言葉だった。それは自分への約束でもある。どんなことがあってもこの子だけは守ると。
「ショッピングモールまで行こうか。歩けばちょっと遠いけど……今日の昼にも約束したしな……」
心のまま守るなんてなかなか言うことがないセリフをかけてしまってなんだか恥ずかしい気持ちが湧いてきた。気づけばもうルリと手を繋ぐのは3回目だが自分からではなくルリから手を握ってきたので今回が一番異性と手を繋いでいるということを意識してしまう。
死を見た時の恐怖という人として当然の感情から涙まで浮かべたルリを見て、自分がしっかりしなければという思いが不安や恐怖よりもエイタの心を強く支配していた。
とりあえずショッピングモールに行っとけば間違いないだろう。何か必要になれば何でも揃うだろうし、近くの駅の周りにはホテルだってあるだろうしそこで寝てもいい。それにルリを元気にすることができるものもあるはずだ。
ほとんどの窓から光は見えず寂しい色をしている中、わずかにある明かりを灯す窓。公民館の近くに住んでいるが、公民館での共同生活に参加しなかったものはエイタが知る限りでも十数名いる。そういう人たちの住居だろうか。裕福な者が住んでいたであろう高層マンションやその奥の道に見える一軒家をぼんやりと眺めながらルリの手を引く。
「自転車に乗っていこうか」
エイタは店の表に色とりどりのママチャリが立ち並ぶサイクルショップを見つけた。入口の上にでかでかと赤い字でウエダと張り付けられていて電気はついていない。
「2人乗りで、俺が乗せてくよ」
少し元気な声を作ってルリの手を引っ張る――。
店の前に並べられているママチャリから目立つ9800円の値札が貼れているものより隅に置かれている12800円で赤色をしているものを選んだ。かごに付いている値札を剥がして隣の自転車に投げ込み、スタンドをあげる。
「よし、乗って」
ルリは戸惑った様子で一つ一つ動作を確認するように自転車の荷台にまたがった。
「しっかり捕まっといてね」
そう言うと、一瞬の間が空いてから腰のあたりの服を弱く掴まれ、エイタはゆっくりとペダルを踏み出した。
女の子を後ろに乗せて2人乗りをするのは初めてだ。タイシや男友達を乗せた時より軽くてスムーズにスピードに乗れた。
反応を見る限りルリは2人乗りをすること自体初めてだろう。なるべくふらつかないようにガタガタと衝撃がいかないように注意して自転車を漕いだ――。
歩道ではなく車道を進み、きめ細かく整備されたアスファルトの上でエイタは高鳴る心臓の音を聞かれることを心配しながらもルリを乗せてショッピングモールまでたどり着いた。