研究所1
「分かった。約束するよ」
ルリは浮かない顔をしていた――
行くと決まったら、エイタとルリは各々準備をして30分後にはホテルを出た。ホテルのロビーで待っていると階段から降りてきたルリは黒いトップスを着ていた。外に出るとまた積もることはないほどの雪が降っていて、その中を2人乗りの自転車で山を目指した。
「ちょっとそこのコンビニ寄らせて」
エイタは朝ご飯を食べていなかったので、コンビニに置いてあったブロックタイプの栄養補給バランス食品をペットボトル入りのお茶と一緒に飲み込んだ。口の中いっぱいの何とも言えない味のものをゆっくり飲み込みながら外に出て、また自転車に乗る。
ルリはコンビニの中にも入ってこず、道路のほうを眺めていた――山の上の研究所をこんなに嫌がる理由は何なんだろうか。世界を救うための研究をずっと続けているなんて悪い人ではないだろうし、やっぱりサトミさんと何かあったんだろうか――
悩んでいる様子のルリとは裏腹にエイタはやる気に満ちていた。ちょっとした坂なら踏ん張って登り切り、山の上と言っても見える範囲の距離なので、思っていたよりもすぐに山のふもとまで着いた。
「本当に大丈夫?ルリがあそこへ行くのが辛いなら俺一人で行ってくるよ。絶対今日中に帰るって約束するし」
「ううん。私も行く。帰るタイミングは私が決めるの忘れないでね」
自転車は両端が緑の上り坂の下に止めて、歩いて山を登った。こんなところに研究所なんてあるのかと思える木しかない道を進むと場違いに立派な建物が見えてきた。
遠くから見えていた白い学校の校舎のような建物は1つだけと思っていたが同じものが2つ並んでいた。大きさもちょうど学校の校舎くらいで二階建て、1人で使うには相当な大きさだ。
表の門には「衛生研究所」と書かれていた。開かれていた門を通り抜けると、木の匂いの中に初めて匂う香りがした。知らない薬品の香りだろうか。
ずけずけと勝手に入っていいのか分からないが、ルリも何も言ってこないので門からまっすぐ進んだ先に見えるドアを目指して進む。
「ここで研究している先生はどこにいるの?」
「前と同じ場所ならこの建物の二階の真ん中あたり」
重たいガラス扉を開いて、ルリと一緒に中に入る。内部は病院のような印象を受けた。並ぶドアの窓は半透明になっていて中が見えない。階段の下に置いてある謎の機械は赤や黄色のランプが付いていてジーと小さな音が鳴っていた。
なんとなく2人とも足音を小さくして歩いてしまった。廃病院のような雰囲気で急に大きな音が鳴ればビックリしてしまいそうだった。
「誰?」
階段の踊り場で次の階段に足を乗せた時、上から女性の声がした。