接触
宇宙歴20年、3月3日、異世界
音声:「対象は移動方向を変更し、マイク隊へ進路を変えました。
接触までおよそ60分です。」
ルードフ:「コンタクト適任者は誰だ?」
音声:「第107隊のキースです。
接触予想地点までの移動におよそ30分かかります。」
立体マップ上に接触予想地点である赤い球体が出現した。
ルードフ:「接触予想地点にキース隊を移動。
他の隊も集結、マイク隊は下がらせろ。
1000m以内にはキース隊以外入れるな。」
30分後、キース隊が目標地点に到着した。
他の隊も周辺に集まっていた。
キース隊は防護服*1を装着すると、3人とも車外へと出た。
それぞれが腰のレーザー*2銃を確認すると
異世界人の到着を待った。
全ての車両が接触予想地点から1000m離れた地点に集まり、
キース隊と異星人が接触するのを見守っていた。
マイク:「あれは人間じゃないか?」
ジョセフ:「確かに人間に見えます。」
ブラッド:「間違いなく人間だ。」
磁気嵐の影響で映像が乱れていたが、映し出されたものを
人間以外に見間違える者は皆無だった。
彼等は腰に剣を携え、背中に盾を背負っており、
服装は動物の皮を鞣したような鎧を身に着けていた。
彼等はキース達に気が付いたのか進路を少し変え、
キース達に向かって真直ぐに歩みを進めた。
ブラッド:「あの武器は中世代の装備だろうか?」
音声:「映像の解析に失敗しました。」
ブラッド:「解析失敗ばかりじゃないか!!」
ジョセフ:「そうイラつくな。
きっと磁気の影響が大きいのだろう。
通信の乱れ方も異常だしな。」
マイク:「確かにあの装備は過去の遺物だ。
我々よりも1000年単位で遅れた文明だということは
間違いない。
しかし、何か嫌な予感がする。」
ブラッド:「予感ですか?」
マイク:「あぁ、予感だ。
彼等は我々に驚きもせずに近づいてくる。
普通なら警戒するだろう。」
ジョセフ:「確かにそうですね。」
ブラッド:「何も起こらなければいいんですが。」
マイク達は彼等とキース達が接触するのをじっと待った。
異世界人は恐れる事も無く、動揺する事も無く、
真直ぐにキース達に向かって歩いてくる。
そしてついに接触した。
マイク、ブラッド、ジョセフの3人はキースから送られてくる
映像を食い入るように見ていた。
異世界人は見た目は完全に人間だった。
キース:「初めまして、私はキースと言います。」
キースが異世界人の目を見た時、その真っ黒な瞳に自分自身が
吸い込まれて行く感覚に襲われた。
とてつもない恐怖を感じ、背筋が凍り付いた。
それは自分自身が消えて行くような感覚だった。
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音声:「発音の言語は未知のものです。」
その時、突然映像が乱れ、音声もノイズのみになった。
ブラッド:「くそ、なんで重要な時に映像が乱れるんだ。」
音声:「磁気の影響で通信に乱れが生じています。
回復にはしばらく時間がかかります。」
5分後、映像と音声が回復した。
キース達がゆっくりと車両へと帰ろうとしている映像が
映し出された。
その足取りは重く、任務に失敗しているようにも見えた。
ルードフは接触で何が行われたのかが気がかりだった。
ルードフ:「キース、応答しろ。」
しかし、キースからの返事は無かった。
キース達が車両に戻ると突然車両が動き出し、
同時にレーザー砲の先端が輝きだす。
そして、砲塔が回転を始めた。
マイク:「まさか、攻撃する気じゃないだろうな?」
音声:「キース隊車両、レーザー砲の発射準備。
レーザー砲の最高出力*4と予想されます。」
ブラッド:「さっ、最高出力だと?!」
砲塔は異世界人に向かって回転して行く。
誰もが驚き、その映像に釘付けになっていた。
砲塔は回転を続け、そして最も近い味方車両に
照準を合わせた。
誰もが我が目を疑った。
次の瞬間、砲身が光に包まれた。
映像は白く光った後、着弾地点に切り替わる。
車両は見るも無残な状態だった。
車両の真ん中に1m程の円形の穴が開き、
後ろの景色が見えていた。
円の縁には赤く光る液体状の金属が滴り落ちていた。
その時、マイクは声を聞いた。
聞いたというよりも浮かんだと言った方が正しいかもしれない。
(直ぐにその場を離れろ。
全速力で戻れ。
お前にはまだ死んでもらっては困る。)
その声でマイクは正気を取り戻した。
モリー博士だ。
どうやったのかは分からないが、確かにモリー博士の声だった。
マイクの指示は早かった。
全速力で洞窟まで戻る指示を出す。
直後、別の声が頭の中に轟いた。
(@! ̄% ?# ^<#.!+!%)
同時に首から下げた石が光る。
そして車両内部が光に包まれた。
マイクは、その光が自分達を守っているという気がした。
離脱する車両の中でマイク達は見ていた。
何が起こっているのか分からなかったが、
只、映像に見えている全ての車両の砲身が
輝き始めている事だけはわかった。
しばらくして彼等は信じられない光景を目撃することになる。
それは、味方同士が攻撃し合う地獄絵図であった。
指令室はパニック状態だった。
最高出力で発射されるレーザー。
それは味方車両に向けての攻撃だった。
ルードフは呆然と映像を見ていた。
音声:「キース隊車両破壊されました。
ルーツ隊車両破壊されました。
:
:」
次々と破壊報告が耳にはいる。
その音声で我に返った。
ルードフ:「うるさい。
報告はもういい。」
ルードフはその時気が付いた。
1台の車両が戦線を離脱しようとしていた。
ルードフ:「あれは誰の車両だ?」
音声:「マイク隊の車両です。」
ルードフ:「マイク隊との専用回線を開け。」
直ぐにマイク隊との回線が確立された。
ルードフ:「何が起こった?」
マイク:「わかりません。
突然キースがレーザー砲を発射しました。」
ルードフ:「では、何故君たちは離脱した?」
マイクは首からぶら下がるペンダントの石を握りしめた。
そして、ペンダントを受け取った時の事を思い出していた。
マイクは突然モリー博士に呼び出された。
この時は何か失敗したのではと、内心びくびくであった。
モリー:「マイク隊長。
君たちには期待している。
異世界では何が起こるかわからない。
そこで君にこれを進呈しよう。」
それはペンダントだった。
鎖には1つの石が付けられており、その石には魔法陣が
描かれていた。
マイク:「それは?」
モリー:「君は魔法を信じるかね?」
マイク:「魔法ですか?
いやー、信じるかと言われても見た事も
聞いた事もありませんし、、、。
しかし、超常現象やオカルトは好きです。
それに、博士の作ったエネルギー生成装置は
とても興味をそそられます。
装置には魔法陣が描かれているとか、、、。」
モリー:「そうだろう、そうだろう。」
モリーはニコニコとしながら頷いた。
モリー:「これは、君達の身を守るペンダントだ。
但し、ひとつ守ってもらわなければ
ならないことがある。」
マイク:「何をですか?」
モリー:「大したことではない。
このペンダントの事を誰にも話してはいけない。
ペンダントの力の事。
誰から受け取ったのか。
それら全てだ。
これらが守られている限り、このペンダントは
君達の身を守ってくれる。」
マイクは半信半疑ながらペンダントを受け取った。
そして今回の件である。
確かに守られている。
そう実感せずにはいられなかった。
マイクは答えた。
マイク:「砲塔がこちらに向けて回転を始めたので、
非難行動を開始したのです。
味方車両の攻撃を避ける為、戦線を離脱しました。」
ルードフ:「異世界人との接触で何か起こったのか?」
マイク:「突然の攻撃で何が起こったのか分かりません。」
ルードフ:「そうか。
まずはこちらへ帰還してくれ。
ゆっくりと話を聞きたい。」
ものの30分の間に部隊は全滅し、
生き残ったのはマイク達のみであった。
*1:防護服
防護服という名称だが、どちらかというと宇宙服である。
SFアニメであるような、上下一体型のスーツであり、
一般的にはヘルメット、スーツ、グローブ、ブーツ、ベルトの
5点セットで構成される。
完全な密閉仕様であり、宇宙、水中等幅広く利用されている。
簡易的な生命維持装置をヘルメットに内蔵しており、
超小型燃料電池により必要なエネルギーを生成している。
ベルト部に追加パーツを取り付ける事により
様々な用途に使用できる。
*2:レーザー
強いエネルギーを持つ光線を照射し、照射対象の温度を
上昇することにより溶解する。
レーザー銃は対人用であるため、出力はあまり高くない。
車両に搭載されるレーザー砲は高出力であり、
照射時間にもよるが、数十メートル程の距離であるならば、
車両を貫通する出力をもっている。
*3:*#^!>! ̄! ?#<! ^;$$%?? @&
!.!%.% ;! ̄&$
言語として分からないものを表現する時に使われる記号羅列。
一般的には意味の無い羅列であるが、
稀に変換処理をしている場合もある。
なお、本作の文中に記載される記号は特定のルールによって
文字変換している。
ちなみに「*&???#=<#<!」は、「こんにちは」だ。
暇な人は解読に挑戦してみるのも良いだろう。
*4:レーザー砲の最高出力
レーザー砲は出力によって攻撃力を変化できる。
通常は出力を落とし、対人用として連続発射で使用される。
最高出力ではエネルギー生成の問題で連続発射は不可能だが、
車両を沈黙させるには十分な出力を叩き出す事ができる。