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続魔獣の壺  作者: 夢之中
8/28

最高司令長官

異世界へと進行し半月、数多くの問題が発生しており、

その中でも磁気嵐*1が直接的な最大の問題だった。

定期的に発生する磁気嵐、それは通信に影響を与えていた。


宇宙歴20年、3月2日、異世界


一人の男が録画された映像を眺めていた。

???:(素晴らしい。

    これの利権を手に入れさえすれば、数百年に渡り

    我が一族の繁栄は確約されたようなものだ。)


モリー博士は兵士達に向けて演説をしていた。

モリー:「諸君、既にこの世界の大自然を目にしたことだろう。

    我々が欲してやまないものが目の前にあるのだ。

    しかし焦ってはいけない。

    この世界にも知的生命体が存在するやも知れない。

    我々は侵略者ではない。

    知的生命体と協議、合意の元に移住を行う必要がある。

    よって火器の使用は指示があるまで禁止とする。

       :

       :

    」


モリーは演説を終え、自室へと戻った。

部屋に入ると1人の男が拍手と共にモリーを迎えた。

その顔には見覚えがあった。

ルードフ司令長官。

連合宇宙軍の最高司令長官であり、

世界を統べる者達の一人でもあった。

モリーが指揮権を得る事に最後まで反対した人物でもある。

彼がここに来る計画は無かったはずであった。


ルードフ:「素晴らしい演説でした。」

モリーは少し嫌そうな態度で言った。

モリー:「司令長官、一体どのような御用でしょうか?」

ルードフ:「そう邪険にする必要もなかろう。

     私の軍を提供しているのだよ。」

モリー:(私の軍?)

ルードフ:「当初の計画通り進んでいる事に

     お礼申し上げる。

     さて、連合国の合意を得られたので、

     本日は辞令を持ってきた。」

モリー:「辞令!?」

ルードフ:「そうです。

     この時点をもってモリー博士の指揮権*2を

     剥奪する。」

モリーは顔色を変えずに言った。

モリー:「それで私をどうするつもりなのかな?」

ルードフ:「ほう。

     予想通りというわけですか。」

モリー:(予想通り?

    笑わせてくれる。)

ルードフ:「博士は人類の救世主です。

     もちろん手荒な真似はしませんよ。

     安全な場所で生涯を閉じていただければ結構です。

     もちろんですが護衛付きですよ。」

モリー:(護衛?

    監視の間違えだろ。)

ルードフ:「環境も食事も最高級の物*3を提供します。

     よろしいですかな?」

モリー:「拒否権はないのだろ?」

ルードフ:「よくご存じで。

     入れ。」

それを合図に数人の武装した兵士が部屋に入ってきた。

モリー:「武装兵か。」

ルードフ:「護衛兵ですよ。

     ご安心を。」

モリー:「最後に1つ教えてほしい。」

ルードフ:「なんでしょうか?」

モリー:「知的生命体が居た場合、どうするつもりですかな?」

ルードフ:「もちろん話し合いを行いますよ。」

モリー:「交渉が決裂した場合は?」

ルードフ:「そうですね。

     多少は譲歩しますが、受け入れられなかった場合、

     武力で制圧するしかないでしょうね。」

モリー:「それが連合の最終決定だというのか?」

ルードフ:「そうですね。

     まあ、各国首脳は既に私の手の内だと

     言っておきましょう。」

モリー:「なるほど、仕方あるまい。」

ルードフ:「よし、連れて行け。」

モリーは振り向くとルードフに言った。

モリー:「最後に頼みがある。」

ルードフ:「なんでしょうか?」

モリー:「安全な場所とやらで、こちらの映像を見れるように

    してもらえないだろうか?」

ルードフは少し考えると答えた。

ルードフ:「そうですね。

     最後まで見たいという気持ちも分かります。

     護衛もついていることですし、

     許可しましょう。」

モリー:「それは、ありがたい。

    影ながら御武運を祈りますよ。」

兵士達はモリー博士を連行した。

モリー:(チェックメイト*4だな。)



宇宙歴20年、3月3日、安全な場所


モリー博士は安全な場所に軟禁されていた。

目隠しをされた上での移動であったため、現在位置を

知るすべはなかった。

唯一の救いは、約束が守られたことだ。

それは異世界の映像を見る事が出来た事だった。

反故にすることも可能だったが、ルードフはそれを守った。

しかし映像を見る事ができたとしても、この状態では如何なる

抵抗も不可能であることは子供でもわかることであった。


モリー:(さて、これからどうするかだ?

    (声)まあ、焦る事はないんじゃない?

      曲がりくねってはいるけど確実に進んでる。

      もう後戻りはできないんだ。

    確かにそうだ、気になるのはバトラーだけだ。

    奴には感情はない。

    最善の策を導くだけだ。

    (声)知っているかい?

      バトラーは最善の策を選択する。

      それは人間に都合の良い案を導きだしているに

      しか他ならない。

      そう自己益の為だけなんだ。

      そこに他の生物は関係ないんだ。

      人はそのようにバトラーを作ったんだ。

      人はバトラーの選択を信じ切っている。

      そこに間違いは無いと思っているんだ。

    そう、人が奴の言葉をどう受け取るかだ。

    バトラーに質問さえしなければ問題はない。

    最悪の場合にも手段はある。

    (声)細工は流々仕上げを御覧じろとというところだね。

    そうあってほしいものだ。)



宇宙歴20年、3月3日、異世界


昇降機の設置も終わり、装甲車両は草原に整列していた。

ルードフ:「素晴らしい。」

ルードフは洞窟の出口に設置された監視所からそれを見ていた。

ルードフ:(想像以上だ。

     まさかこれほどの世界だとは、、、。

     これを手中に収めれば、、、。

     慎重に進めなければならんな。)

ルードフ:「ゆっくりと前進だ。」

ルードフ:(知的生命体は存在するのだろうか?

     この環境であるならば、まず存在するだろう。

     あとは、友好的か好戦的かで別れる。

     友好的であるならば、こちらが有利になるように

     進めればよい。

     好戦的であるならば、ただ武力にまかせて制圧すれば

     良いのだ。

     簡単なことだ。

     どう転んでも最終的には、この世界は私の物だ*5。)

ルードフの指示で車両は崖を背にして扇状に前進を始めた。


この時兵士達の間で違和感を感じる者が存在していたことを

ルードフは知る由も無かった。

マイクもその中の一人であった。

しかし、誰もその違和感を口にすることは無かった。

この楽園(?)を否定することが(はばか)られたのだ。


マイク達の乗る車両はゆっくりと前進を続けていた。

ブラッド:「聞きたい事ってなんですか?」

マイク:「この世界の事だが、何か違和感を感じないか?」

ブラッド:「特に感じていませんが。」

マイク:「ジョセフはどうだ?」

ジョセフ:「いや、とくには。」

マイク:「そうか、取り越し苦労かもしれないな。」

ブラッド:「違和感というのはどんなことなんですか?」

マイク:「そう、現在もそうだが、昆虫を見ないんだ。

    草木の多い場所なのに虫がいない。

    どうもしっくりとこない。」

ジョセフ:「そういう違和感ですか。

     そう言うのなら私もありますよ。」

マイク:「それは?」

ジョセフ:「草木が揺れていますよね。

     普通なら風が吹いていると考えるんですが、

     データ上では無風なんですよ。」

マイク:「どういうことだ?」

音声:「現在、車両外は無風です。

   映像の解析に失敗しているため、予測不能です。」

マイク:「うーん。

    まったく分からん。」

音声:「前方およそ5kmに生体反応を感知しました。」

全員:「!!」

音声:「このままの速度で前進した場合、

   接触までおよそ80分。」

マイク:「一旦停止だ。

    ターゲットロックオン*6。

    情報解析実行。

    指示を仰ぐ。」

音声:「車両を停止します。

   対象にターゲットロックします。

   情報解析を実行します。

      :

      :

   解析が完了しました。

   対象は二足歩行で、その出で立ちから、

   知的生命体であると判断されます。」

マイク、ブラッド、ジョセフ:「!!!」

音声:「同種の生命体は3体確認されました。」

マイクは首からぶら下げたペンダントの石を握りしめた。

ペンダントには小さな石が付けられており、その石には

魔法陣が描かれていた。



宇宙歴20年、3月3日、安全な場所


モリー:(ついに見つけたか。

    さてルードフよ、どう動く?)



*1:磁気嵐

 地磁気が通常の状態から変化し、乱れが生じること。

 磁気嵐が発生すると人工衛星の電子精密機器の故障、

 無線通信の障害などの悪影響が出る場合がある。


*2:指揮権

 割り当てられた使命の達成のために資源を効果的に利用し、

 軍事力の行使を企画・組織・調整・統制する事を

 指導・命令する権限。

 指揮統制権とも呼ばれることもある。


*3:最高級の物

 一般民は改良ユーグレナから生成されているが、

 極一部の者達はそれほど広くない安全な土地で栽培を

 行っており、収穫物を高額で販売し生計を立てている。

 種等も高額で取引されており、一般民には手が出ないのが

 現状である。


*4:チェックメイト

 チャトランガ系統のボードゲームの用語の一つで、

 先手・後手どちらかの玉将キングが、完全に捕獲された

 状態を指す。


*5:この世界は私の物だ

 悪役の使う典型的な言葉で、最終目標は世界を手に入れる事。

 そのあとどうするかは語られることは無いが、

 話の流れから理想郷だったりすることは想像できない。


*6:ターゲットロックオン

 対象の詳細情報を収集するために目標を固定し自動捕捉する。

 戦闘時などは、ターゲットロックオンすることによって、

 精密射撃、自動追尾等を実現できる。


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