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続魔獣の壺  作者: 夢之中
6/28

未知への扉


MSRGD(多次元空間路生成装置)については、情報の一部が一般に

公開されていた。

情報公開は、憶測による人々の不安を避ける為であったが、

情報の一部公開が逆に特定の者達の間に憶測を生ませる

結果になった。

彼等はデモを行い、実験の中止を求めていた。

軍の投入は秘密裡に行われていたが、軍事ジャーナリストにより

それは白日の下にさらされ、多くの人々に不安を与える

こととなった。

これに対し連合軍高官の記者会見があり、、

 「軍の投入はあくまでも不測の事態の対応目的であり、

 それ以外の意図はありません。」

という声明があったばかりである。



宇宙歴20年、2月1日、MSRGD実験場


モリー博士は監視棟からそれを眺めていた。

それは、巨大な魔法陣だった。

山を直角に切り出して崖の様になった面に、

金属の骨組みが設置され、その内側に直径10mの魔法陣が

描かれていた。

魔法陣の前には大きな広場があり、

そこには多数の装甲戦闘車両*1が整列していた。

それは宇宙歴元年に新設された連合宇宙軍*2の車両であり、

各国の兵隊を徴集して構成されている。


モリー:「作業の進捗はどうなっている?」

音声:「進捗率98%、最終調整工程にて遅延が発生しています。

   これは、魔法陣の情報不足が原因です。」

モリー:「そうか、やはり直接手を下す必要があるようだな。

    工程の見直しを頼む。」

モリー博士の介入により、この後の進捗は大きく進み、

ついに初実験を迎える運びとなった。



宇宙歴20年、2月15日、MSRGD実験場


音声:「MSRGDの起動を開始します。

   レーザー照射開始まで、あと10秒。

   9、8、7、6、5、4、3、2、1、

   レーザー照射開始。」

この時モリー博士が何か呟いたのを聞いた者は誰もいなかった。


職員達:「おぉー。」

レーザー照射によって、魔法陣が淡く光り始め、

その前方に小さな赤い球体が出現した。


音声:「魔法陣前方に赤色球体出現を確認。

   急速な温度上昇を確認。

   放電現象を確認。

   屈折率の変動を確認。

   オゾンの発生を確認。

   プラズマ*3発生を確認。

   急速な球体の膨張を確認。

     :

     :

   球体の膨張停止を確認。

   プラズマの消滅を確認。

   急速な温度下降を確認。

   色調変化を確認、赤から黒へと変化しています。」


出現した赤い球体は急速に大きくなり、その膨張が止まると、

赤色から黒色へと変化して行った。

最終的には、およそ10m程の真っ黒な球体がそこにあった。


音声:「球体の安定を確認しました。

   球体温度は外気温と同じ35度。

   球体周辺で、光の屈折率の変動および放電現象を

   確認しています。

   オゾンの発生はごく微量であり、

   人体への影響はありません。」

モリー:「うむ、レーザー照射停止。」

音声:「レーザー照射停止します。

      :

      :

   レーザー停止確認後、1分経過しました。」

モリーは黙って球体を見つめていた。

モリー:(ついに扉が開かれたか。

    そうだ、これが始まりなのだ。)


職員:「モリー博士、成功ですか?」

モリー:「あぁ、成功だ。」

その一言に職員達の間に歓声が上がった。

職員達は歓喜に震えていた。

しかし、モリーは職員達とは一線を置くように、

淡々と指示を出し続けた。

そこには喜びなどの感情は皆無であった。


モリー:「無人偵察車両*4を進行してくれ。」

音声:「無人偵察車両、始動します。」


黒い球体に横付けされた足場の上を無人偵察車両が進んで行く。

職員達はそれを固唾を呑んで見守っていた。

そして、車両はその大きく開いた球体の中へと消えていった。

突然、無人偵察車両からの映像が途絶えた。

音声:「通信が切断されました。

   ケーブルの損傷はありません。

   再接続を実行します。

   無人偵察車両との接続を確認。

   無人偵察車両との通信は良好です。」


モリーは無人偵察車両からの映像を眺めていた。

周囲は暗闇に覆われているようで、映像は真っ暗だった。

音声:「移動による、車両損傷および分子構造の変化は

   確認できませんでした。

   周囲の光源はありません。

   車両照明を点灯します。」

照明の点灯により辺りの映像が映し出された。


職員:「どうやら、洞窟の中のようですね。」

モリー:「そのようだな。

    帰還用次元路の確認。」

音声:「無人偵察車両の後方に球体を確認しました。」


モリー:「大気および地質調査を実行。」

音声:「大気および地質調査を実行します。

   主な大気成分は、

   窒素 75%、

   酸素 21%、

    :

    :

   です。

   大気中に人体への有害成分は検出されませんでした*5。

   地質に人体への有害成分は検出されませんでした。

   地質に未知の分子構造を多数検出しました。

   調査には、調査車両の搬入が必要です。」

モリー:「調査車両の搬入開始。」

音声:「調査車両の搬入を開始します。」

モリー:「ケーブルの届く範囲の偵察を実行。

    結果をマップ表示。」

音声:「偵察を実行し、結果を立体マップ*6表示します。」

目の前に立体マップが出現した。

それを見ながら、モリーは次々と指示を出した。

調査は引き続き行われたが、洞窟は深くケーブル限界に達し、

それ以上の偵察は不可能だった。

残念ながら生物は発見できなかった。


モリー:「さて、どうするかだな。」

職員:「車両は完全密閉型です。

   有人車両を送り込みましょう。」

モリーはその言葉で思い出したように言った。

モリー:「いや、まだだ。

    車両に積載したマウスの状況報告*7。」

音声:「3匹供、肉体の損傷、細胞レベルの変化は

   確認されませんでした。

   バイタルサイン*8および行動においても、

   異常は確認されませんでした。」

モリー:「無線通信機能テスト開始。」

音声:「無線通信テスト開始します。

     :

     :

   全帯域で通信に失敗しました。」

モリー:「無人偵察車両を無線中継基地に設定。」

音声:「無人偵察車両を無線中継基地に設定しました。」


モリー:「よし。

    兵士の中に志願者はいるか?」

音声:「13名の志願者が存在します。」

モリー:「3名を人選し、

    明日、歩兵戦闘車両での進行を試みる。」



宇宙歴20年、2月16日、MSRGD実験場


歩兵戦闘車両内には3人の兵士が異世界への進行を待っていた。

ジョセフ:「異世界か。

     ところで、兵士長はどんな理由で志願したんですか?」

マイク:「名を売るチャンスだからな。

    これに成功すれば、一躍有名人だ。」

そしてマイクは1枚の写真を取り出し、それを見つめた。

ブラッド:「それは、奥さんですか?」

マイク:「いや、婚約者だ。

    無事に戻ったら結婚するつもりだ*9。」

ジョセフ:「そうなんですか、それはおめでとうございます。」

ブラッド:「おめでとうございます。

     それにしても、有名人か。

     インタビューとかされるのかな?」

会話は音声によって止められた。

音声:「進行開始30分前です。

   車両ダイアグ*10を実行します。

     :

     :

   車両ダイアグ結果、オールグリーン。

   バイタル確認開始。

   バイタルに異常値なし。

   緊張による心拍数増加を確認しました。

   リラックスするため、大きく深呼吸しましょう。*11」


マイク:「あぁ、そうだな。

    深呼吸始め。

    吸ってー。

    吐いてー。

      :

      :」

ジョセフ、ブラッド:「すーーー。

          はーーー。

            :

            :」

音声:「心拍数低下を確認。

   そのまま待機してください。」


30分後、人類初の多次元空間への進行が開始される。

果たしてそこは、楽園なのだろうか?



*1:装甲戦闘車両

 装甲化され攻撃兵器を備えた戦闘用の軍用車両のことであり、

 戦車や歩兵戦闘車などが含まれる。

 完全密閉型であり、宇宙空間、水中などの行動も可能。

 なお、兵器を装備した無人車両は条約によって存在しない。

 これは無人攻撃は虐殺でしかないという考えによるものだ。

 このため、アロイドにも兵器の搭載は禁止されている。


*2:連合宇宙軍

 宇宙軍という名称から宇宙戦艦などを保有していると

 思われるかもしれないが、予算の大半は移民船に

 割り当てられた為、一隻も保有していない。

 戦闘能力の大半は装甲戦闘車両と歩兵である。


*3:プラズマ

 温度が上昇すると物質は固体から液体へ、液体から気体へと

 状態が変化する。

 気体の温度が上昇すると気体の分子は解離して原子となり、

 さらに温度が上昇すると原子核のまわりを回っていた電子が

 原子から離れて、正イオンと電子に分かれる。

 この現象は電離と呼ばれており、電離によって生じた

 荷電粒子を含む気体をプラズマと呼ぶ。


*4:無人偵察車両

 MSRGDの為に作られた無人の偵察車両。

 無線が使えない事を考慮して有線で操作する。

 

*5:立体マップ

 取得した情報を元にリアルタイムに立体的な地図を生成する。


*6:有害成分は検出されませんでした

 あくまでも、バトラーの知識の範囲内での回答であるため、

 推測の域を超えた未知の成分は含まれない。

 

*7:車両に積載したマウスの状況報告

 いわゆる動物実験である。

 非道と呼ぶ人もいるが、これがあってこそ医療が

 進歩するのである。

 冥福を祈り、感謝するだけだ。


*8:バイタルサイン

 人間が生きている状態であることを示す兆候(生命兆候)。

 一般的にバイタルサインで確認される項目は、血圧、脈拍、

 呼吸速度、体温であり、それを数値化して使用する。

 瞳孔反射、尿量、意識レベル、痛み、動脈血酸素飽和度等を

 採用する場合もある。


*9:無事に戻ったら結婚するつもりだ

 小説、映画、ドラマ、漫画、アニメ等ではフラグとして利用

 されることが多い言葉の一つである。


*10:ダイアグ

 ダイアグノーシスの略で、自動車の各種センサーが正常に

 作動しているかを確認するための自己診断機能のこと。

 他の分野でも、自己診断機能の意味で使われる。


*11:リラックスするため、大きく深呼吸しましょう

 緊張状態は自律神経の交感神経が優位になっている状態。

 深呼吸により副交感神経を優位にすることで、

 リラックス効果を得る事ができる。



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