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続魔獣の壺  作者: 夢之中
4/28

見知らぬ箱

宇宙歴20年、1月30日、ブリッジ


ブリッジは、想像していたものとは違っていた*1。

それはまるで球型展望台*2だった。

全ての方向に星が見える。

その光景に驚いていると一人の男が近づいてきた。

大柄な体格、ひげもじゃな顎、探るような鋭い目。

すぐにアナキンとヴィヴィアンが敬礼をした。

4人は、その男が艦長ではないかと想像していた。


???:「ようこそ。

    フェニックス号へ。

    私が艦長のクーカです。」


クーカ艦長は、外見とは裏腹に気さくな人だった。

そしてブリッジの見学を申し出ると快く承諾してくれた。


クーカ:「ここがブリッジです。

    何もないのにさぞ驚かれたでしょう。

    人が行う作業は何も無く、全て人工知能である

    バトラークローン*3が行います。

    バトラークローンは、16個のコアがあり、

    個々が様々な観点から物事を判断して、

    多数決によって最善の方法を導き出します。

    人間と同じですね。

    しかし、コアは人間と違って感情を持ちません。

    常に最善の案を導き出すのです。

    その為、非人道的な結論も導き出します。

    それを監視、決定するのが人間の役割です。

    まあ、そのような事態はまず起こりえないですが。

    何が言いたいかと言いますと、

    ブリッジには決定者以外の人は不要ということです。

    その為、計器類などは必要無いのです。」

アディス:「故障とかによって

     おかしくなることは無いんですか?」

クーカ:「大丈夫*4です。

    コアは個々に診断機能を持っており、

    自身および他者の診断を定期的に行っています。

    故障が発見された場合は、直ちに予備のコアに

    切り替わった後に、アロイドが修理します。」

エリー:「修理ですか、、、。

    資源が枯渇することは無いんですか?」

クーカ:「大丈夫です。

    十分な資源は積んでありますし、

    再利用施設も艦内にあります。

    さらに、宇宙は資源が豊富*5なんです。

    資源収集用の小型宇宙船もあります。」

4人:「・・・」

クーカ:「ほかに何か聞きたいことはありますか?*6」

アディス:「いえ、特にありません。」

クーカ:「そうですか。

    あぁ、そう言えば、モリー博士から条件指定通信*7が

    入っていましたよ。」

アディス:「えっ、モリー博士から?」

クーカ:「どうやら、出発後でないと開封できないようですね。」

アディス:「一体なんだろう?」

4人は知らなかった。

これが、これから始まる悪夢のプロローグであることを。


一通り艦内を見学した後、4人は個室に案内された。

部屋割は、艦首側からマルス、アナキン、アディス、エリス、

ヴィヴィアン、エリーの順番だった。

ヴィヴィアンの話では、個室は100室程あるようで、

それが、勤務者の最大人数だという。

10年を1クールとして交代で勤務を行う。

つまり、到着予定期間の約386年のうち10年を勤務し、

残りの376年はコールドスリープで過ごす事になるわけだ。

しかし、4人は自由にコールドスリープの期間を設定できる

権限を持っているため、この限りではなかった。

護衛の2人は、4人と同時にコールドスリープで眠る事になる。


個室での用事を済ませた後、多目的ホールで落ち合う事になり、

ヴィヴィアンとアナキンは、4人の要望で先に向かった。

個室は狭かったが、一通りの生活環境が整っていた。

4人掛けの机と椅子、ベッド、トイレ、シャワールーム。

食事は多目的ホールで行う。

持参した荷物は収納ボックスに収められているとの事だった。


アディスが荷物を確認していると、見知らぬ箱があった。

それを取り出し、テーブルの上に置く。

その時、3人が部屋にやってきた。

それぞれが、様々な形の箱を手に持っていた。


机の上にそれらを置き箱を眺めていた。

4つの箱は今では珍しい木で出来ており、形状は、

平たく長い箱と残りは四角い箱だった。

全ての箱には良く知っている魔法陣が描かれていた。


アディス:「どうやらモリー博士からの荷物のようだな。」

エリー:「確かこの魔法陣は施錠の魔法陣*8。」

マルス:「俺もそう思う。」

エリス:「そう、施錠の魔法陣だよ。」

アディス:「ということは、鍵がいるってことか。

     当然知らないよな?」

4人とも心当たりは無かった。


エリー:「モリー博士からの条件指定通信。

    あれじゃないかしら?」

マルス:「あぁ、多分そうだろうな。」

アディス:「そうすると、今はできる事は無いということか。」

エリス:「気にはなるけど、諦めて多目的ホールに行こうよ。」

アディス:「そうだな。」

4人は箱を収納ボックスにしまうと多目的ホールへと向かった。


多目的ホールは、様々な用途に利用されるホールである。

およそ50m四方、高さ10m程の空間であり、

要望によって様々な使い方ができる。

部分的な変更も可能なため、非常に好評であった。


4人が多目的ホールに入った時に、ヴィヴィアンとアナキンは

入口から最奥の場所にテーブルを出して座っていた。

それ以外は何もない空間だった。


アディスの携帯ブレスレットから声が聞こえた。

音声:「アディス様、マルス様、エリー様、エリス様の

   4人を識別しました。

   いかがいたしましょうか?」

アディス:「ヴィヴィアンの隣に4人掛けのテーブルを

     出してくれ。」

音声:「かしこまりました。」


4人がヴィヴィアン達の方へ歩いて行くと、床からテーブルと

椅子が上がって来るのが見えた。

席に到着すると、2人はお茶を飲んでいた。

そして椅子に腰かける。


音声:「ご注文はありますか?」

アディス:「ホットコーヒーをブラックでもらおう。」

エリス:「私、オレンジジュース。」

マルス:「俺は、、、そうだな、

    アイスコーヒーにミルクのみ入れてくれ。」

エリー:「ダージリン・セカンドフラッシュを

    ストレートティーで。」

音声:「かしこまりました。

   御用がございましたらお呼びください。」


アディス:「エリーは、相変わらず注文が細かいな。」

エリー:「何頼んでも、合成なんだから*9、

    おいしい方がいいでしょ。」

アディス:「まあ、そうなんだけど、、、。」


直ぐに、テーブルの中央が円形に赤く光ると丸く穴が開き、

注文した品が上がってきた。

4人は、それを受け取り、その味を楽しんだ。


6人は、お互いに己の過去やこれからのことを話合った。

そして、それぞれが、それぞれの品を楽しみながら、

明後日の出発を待った。



*1:想像していたものとは違っていた

 大抵の人は、よくあるSF映画のような、

 計器類がずらっと並ぶブリッジを想像するだろう。

 しかし、人が操作していては瞬時の対応には限界がある。

 さらに人はミスを犯す。

 人工知能に任せた方が、より早く、より正確に、より確実に

 処理することができるのだ。

 人が操作しないのならば、計器類も不要であり、

 情報を取得するための仕組みさえあれば良い事になる。


*2:球型展望台

 透明な物質を球状にしてその中から展望する。

 よくあるのは半球型展望台である。

 

*3:バトラークローン

 バトラーの複製であるため、こう呼ばれる。

 複製直後から情報共有が遮断されるため、

 少しずつではあるが、オリジナルと思考に差異が

 出てくることになる。


*4:大丈夫

 通常この言葉には不測の事態は含まれていない。

 当然の事だが、想像できないことは含まれない。

 つまり知識、経験などによって、その範囲が異なるわけだ。

 大丈夫という言葉ほど怖いものは無い。

 小説などではフラグとして利用されたりする。

 

*5:宇宙は資源が豊富

 確かに宇宙には資源は豊富にある。

 しかし、それを入手するのにどれだけの時間が

 かかるのだろうか?

 一体どれだけ移動しなければならないのだろうか?

 疑問は尽きない。

 言わない方がよかったかもしれない。


*6:何か聞きたいことはありますか?

 大抵の場合、これは自ら話の続きをしない事を意味する。

 つまり、質問がなければ話は終わりとなる。

 困ったことに、質問がなければ納得したと判断する者もいる。

 

*7:条件指定通信

 条件が成立しないと閲覧できない通信データ。

 条件には様々な設定が可能で、日時や閲覧順番が一般的。

 バトラーが知り得る情報であるならば、

 条件にすることが出来る。

 

*8:施錠の魔法陣

 扉などを閉ざす為の魔法陣。

 開錠には鍵が必要となる。

 鍵は、合言葉や行動、物、人、魔法、魔法陣等様々である。

 破壊行為に対する処置も施されており、鍵が無ければ、

 開錠は、ほぼ不可能と言える。

 ほぼと言うのは、条件がそろえば開錠の魔法で

 開錠することが可能なためである。

 条件は大抵の場合、鍵の喪失、忘却などの対策として

 予め設定される。


*9:合成なんだから

 殆どの食品は培養された改良ユーグレナから生成されている。

 味、香り、食感は合成ではあるものの、

 忠実に再現されているため、

 人間の味覚程度では合成品を判別する術はない。

 その昔、食通を名乗る富裕層の者達が、

 当時では希少な素材を集め、料理を再現し、

 バトラーに記憶したのだ。

 料理の名称は秘密にされ、それを知っている者のみが

 味わう事ができた。

 そしていつしか一部の間で高値で取引されるまでになり、

 それらを探す者達が数多く現れた。

 探し当てた者のみが、その恩赦を享受できる。

 彼らは自分達の事をグルメと呼んだ。

 エリーは自称グルメであり、

 探し出す為の時間を惜しまなかった。

 

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