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続魔獣の壺  作者: 夢之中
3/28

乗船

宇宙歴20年、1月30日、発着ステーション


アディス、マルス、エリー、エリスの4人は、

第10発着ステーションにいた。

ここまでは軌道エレベータ*1を使い、シャトルと呼ばれる

小型の宇宙船に乗ってやってきていた。

降りるときに渡された船内用のブーツ*2に履き替え、

発着ロビーに向かった。

渡されたブーツは慣れるまで歩き辛かった。


発着ロビーはコールドスリープ*3の順番を待つ多くの人々で

あふれていた。

搭乗手続きは10日前から24時間態勢行われており、

4人は最終日に割り当てられていた。

惑星間移動は途方もない時間を必要とする。

当初の計画では、およそ386年と見積もられた。


ごったがえった人混みの中、壁際にはレーザライフルを携えた

警備兵が直立不動で立っていた。

一人の警備兵のヘルメットのバイザー部分が点滅した。

すぐにその警備兵がこちらへと歩いてきた。

警備兵:「君たちがモリー博士の弟子か?」

アディス:「はい。

     アディスですが、なにか?」

警備兵:「申し訳ないが、レベル4照合*4をさせてもらう。」

警備兵は、手首に付けたブレスレット端末*5をこちらに向けた。

警備兵:「4人のレベル4照合開始。」

マルス:「えっ、いきなりかよ。」

エリー:「まあ、いいじゃないですか。」

エリス:「そうそう、あんまり怒ると血管が爆発*6するぞ。」

マルス:「・・・」


   :

   :

   

音声:「照合完了しました。

   アディス、マルス、エリー、エリスと一致しました。

   詳細をお聞きになりますか?」

警備兵:「終了。」


照合が終わると警備兵の態度が激変した。

(ささ)(つつ)の構えを取ると、軍隊口調で言った。

警備兵:「失礼しました。

    こちらにおいで下さい。」

マルスは少しあきれ顔だった。

エリーとエリスはマルスを見て小声で笑っていた。


途中で手荷物をコンテナに入れて預けた。

一般の人々は1000立方センチメートルに収まるサイズまで

持ち込むことが可能だった。

VIPでも上限は1立方メートルと定められていた。


4人が通されたのは小さな会議室だった。

真ん中にテーブルが置かれ、その周りに椅子が並んでいる。

各自適当な場所に座ると雑談をしながら待った。


しばらくすると警備兵と思われる3人が入ってきた。

3人は同種のジャンプスーツを着ており、

ライフルを背負い、腰に短銃を携帯し、

右手にはヘルメットを抱えていた。

隊長と思われる男が話を始めた。


ドルス:「私は警備隊長のドルスです。

    搭乗する艦内の警護を任務としています。

    この2人は皆さんの護衛を行う者達です。」

アナキン:「アナキン。

     アナキンといいます。

     男性お二人の護衛を仰せつかりました。」

緊張しているのか、まるでアロイドのような動きで敬礼をした。

次に自己紹介したのは女性兵士だった。

優雅な敬礼だった。

ヴィヴィアン:「ヴィヴィアンといいます。

       エリーさん、エリスさんの護衛を行います。」


アディス:「我々に護衛は不要ですよ。」

ドルス:「いえ、これは、モリー博士の依頼なのです。

    博士は、護衛兵の人選まで行われました。」

アディス:「モリー博士の、、、。」

マルス:「なるほどね。

    VIP扱いか。

    あの爺さんならやりそうなことだな。」

エリー:「まあ、考えがあっての事でしょう。」

エリス:「ヴィヴィアンさん、よろしくね。」

エリスはそう言ってヴィヴィアンに微笑んだ。


ドルス:「これから乗船していただきます。

    一般の人達はコールドスリープのみですが、

    皆さんには個室が与えられます。

    コールドスリープの期間等は、

    個人の判断にお任せします。

    ただし護衛の関係上、お二人づつ同時に利用される事を

    お願いします。」

アディス:「分かりました。」

ドルス:「質問等あれば、この2人にお聞きください。

    私は他の任務もありますので、

    これで失礼します。」

ドルスは形式通りの敬礼をすると部屋を出ていった。


アディス:「とりあえず、座ってください。」

そう言って席を勧める。

緊張した2人対して、アディスは言った。

アディス:「これから、6人は仲間です。

     形式ばらずにざっくばらんにいきましょう。」

2人の顔から緊張が解けた。

アナキン:「ふぅ、いやー、そう言ってもらえると助かります。

     こういうのは慣れてないんですよ。

     実は、VIP護衛も初めてで、、、。

       :

       :」

話好きなのか、アナキンは次々と話始めた。

4人があっけにとられていると、ヴィヴィアンがそれを止めた。

ヴィヴィアン:「アナキン、いいかげんにしなさい。」

その口調はまるで肉親であるかのようだった。

アナキン:「・・・」

エリー:「もしかして、2人は兄弟ですか?」

ヴィヴィアン:「あっ、わかりましたか。

       実は、アナキンは弟なんです。」

エリス:「へー、そうだったんだ。

    ちっともわからなかった。」

この後、6人は打ち解けると他愛もない雑談で時を過ごした。


雑談はヴィヴィアンのブレスレット端末によって打ち切られた。

ヴィヴィアン:「どうやら、搭乗許可が降りたようです。

       出発ロビーに向かいましょう。」

その顔は警備兵の顔に戻っていた。

2人はヘルメットをかぶり、バイザーを下し、

ヴィヴィアンが先頭、アナキンが最後尾についた。

出発ロビーの賑わいは収まっており、

少人数のVIPと思われる人達がいるだけだった。


搭乗はスムーズだった。

簡易的な健康診断*7が行われた後、搭乗通路を進んだ。

搭乗通路からは乗船する船の一部が見えた。

船はとても大きく船首や船尾がどこかは分からなかった。

当然の事だった。

100万人が搭乗する船なのだ。

実際には、殆んどの者が格子状に配置されたコールドスリープ

装置で眠る為、一辺が数百メートルの立方体*8に収まってしまう。


搭乗通路を進み、乗船口から船内へと入った。

エリス:「きれー。ゴミ一つない*9。

    シャトルと大違い。」

ヴィヴィアン:「新造艦ですからね。

       それに、この搭乗口はVIP専用なので

       一般人とは別です。

       あちらは、かなり汚れているかもしれません。」

エリスは、その言葉に返事もせずに艦内を眺めていた。

マルス:「ヴィヴィアン。

    エリスの言葉にいちいち返答する必要なし。

    あれは、ただの独り言*10だから。」

ヴィヴィアン:「えっ、そうなんですか?」

エリー:「はい。

    いつものことです。」

そう言ってエリーは微笑んだ。


ヴィヴィアン:「それでは皆さん、

       まずブリッジに行きましょう。

       艦長もそこにおられるはずです。」

アディス:「そうですね。

     艦長にもご挨拶しないと。」


船内は想像以上に広かった。

ブリッジへの移動中には、所々でアロイド達がすごいスピードで

作業をこなしていた。

それは、手足が細く、まるで骨格標本のようだった。

頭には様々なバリエーションがあるようだが、

アディスにはコッペパンを傾けて乗せたように見えた。

アロイド達は我々が近づくと動きを遅くし、

離れると再び動きを早くして作業を続けた。

アディスが興味をもってそれを見ていた。

アナキン:「アロイドを見るのは初めてですか?」

アディス:「初めてではないですが、

     作業しているアロイドは見たことなくて。」

アナキンはニコニコと笑顔を見せながら答えた。

アナキン:「アロイドには、内部に人センサー*11が

     組み込まれていまして、人が近づくと

     動きを遅くする仕組みが入っているんです。

     彼等は汎用のアロイドですね。

     コストを下げる為に動きの精度を落としています。

     そうは言っても、通常作業では

     全く問題はありませんけどね。」

アディス:「へぇー。

     お詳しいんですね。

     専門家ですか?」

アナキン:「いえ、専門家ではないです。

     好きなだけですよ。」


6人は少し進むと全方向エレベーター*12に乗り込んだ。

音声:「行先を指示してください。」

ヴィヴィアン:「ブリッジへ。」

音声:「ブリッジへ向かいます。」

アディス:「あれ?、照合とか認証とかは?」

ヴィヴィアン:「艦内では、全ての行動がバトラーによって

       監視されています。

       まあ、監視といっても、移動場所だけですが、

       気分の良いものでは無いですね。

       警備側としては仕事が減るので、

       非常に助かっています。」

マルス:「なるほどね。

    どうせなら、全部やってくれれば、

    仕事をしなくて済むということだな。」

ヴィヴィアン:「それは困ります。

       私達の仕事が無くなってしまいます。」

5人は確かにと頷きながら笑った。


音声:「あと5秒で到着します。

   赤く光った扉が開きます。

   ご注意ください。」

右側の扉が赤く変化した。

そして、ゆっくりと扉が開いた。



*1:軌道エレベータ

 惑星などの表面から静止軌道以上まで伸びる軌道を持つ

 エレベーター。


*2:船内用のブーツ

 身体が浮き上がらないように地面に張り付く機能を持つ。

 脚の筋肉の微量な電気信号により、脚を持ち上げるときに

 かかる抵抗を変化させ、地上と変わらない歩き心地を

 実現したもの。

 残念ながら人によっては違和感がありすぎると不評。


*3:コールドスリープ

 惑星間移動などにおいて、人体を低温状態に保ち、

 目的地に着くまでの時間経過による搭乗員の老化を防ぐ装置、

 もしくは同装置による睡眠状態の事を言う。

 生還率99.99%。


*4:レベル照合(認証)

 本人と確認するための照合(認証)であり、0から5までの

 レベルが存在する。

 対象となるレベル以下の照合(認証)が求められる。

 レベル0:映像のみ

 レベル1:声紋

 レベル2:指紋

 レベル3:静脈

 レベル4:虹彩(網膜によるもの)

 レベル5:DNA


*5:ブレスレット端末

 携帯端末で、その全てを音声認識で行う。

 マイク、スピーカー、カメラ、嗅覚センサー、味覚センサー、

 投影機等を内蔵している。

 また、レベル4までの照合機能をもつ。


*6:血管が爆発

 普通の人なら「血管が破裂するぞ」と言うところだが、

 エリスは、こういう言い方をする。

 他の者は、「まあわかるからいいか」と放置している。


*7:簡易的な健康診断

 簡易的といっても、99.9%で病巣を発見することが出来る。

 人体をスキャンし、細胞レベルで検査するのだ。

 それを判断するのはバトラー(人工知能)だった。

 当然だが、精神的な病を発見することはできないので、

 簡易的と呼ばれている。


*8:一辺が数百メートルの立方体

 100万人をコールドスリープ装置で眠らせた場合、

 それに必要な体積は、どのぐらいだろうか?

 簡単にするために、1人が1mの立方体で考える。

 100人x100人x100人=1000000人となる。

 つまり、100メートル四方の立方体に収まる事になる。

 装置の大きさなどを考えた場合でも数倍あれば足りそうだ。

 でも、これって、詰め込みすぎでしょ。


*9:きれー、ゴミ一つない

 エリスの着眼点は、たぶん他の人とは大きく異なる。

 それが理由なのか、普通なら見逃すようなことにも

 よく気が付く。


*10:ただの独り言

 エリスは考えている事を思わず口に出してしまう事がある。

 まるで話しかけているように話す為、初対面の人は

 思わず回答してしまう。


*11:人センサー

 様々な外部要因と映像情報、人が発する熱や動きなどから

 それが人なのかを判断するセンサー。

 アロイドには、安全上の理由により組み込みが

 義務付けられている。


*12:全方向エレベーター

 昇降型のエレベータと違い、上下だけでなく

 前後左右にも移動する。

 磁力によって浮かせ、ガイドに沿って移動するだけである。


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