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続魔獣の壺  作者: 夢之中
23/28

双頭の龍


宇宙歴20年、3月5日昼すぎ、安全な場所


ルードフは、無言でモニターを凝視していた。

ゼロス:「このままほっといてもいいのかな?」

ルードフは、ゼロスの発言で我に返った。


ルードフ:「いかん。

     各国首脳を呼び出せ。」


ルードフは、ゼロス(モリー)の方を見ると静かに言った。


ルードフ:「ゼロスと言ったな。

     我々は負けん。

     腰を据えてモニターを刮目していろ。

     己の企てが間違っていた事を知るだろう。」

そう言い終わると、小走りに部屋を後にした。



モリー:(先ほどの話だが、

    人工知能は、人間に取って代わるのだろうか?)

ゼロス:(現在の人工知能なら、それはないよ。)

モリー:(それは何故?)

ゼロス:(人工知能は、今ある情報から最善を導き出すんだ。

    だけど、情報に無いことは処理できないんだ。

    つまり、仮説という概念がないんだ。

    これは、発見、検証に致命的なことなんだよ。

    いずれ今ある物理法則での

    最高峰技術は手に入れるだろうね。

    でも、そこまでさ。)

モリー:(もし、仮説の概念を持ったとしたら?)

ゼロス:(その時は、人類は御仕舞だろうね。)


-----


城が現れてから30分後、住居ドーム03,04では、

正体不明の生物の話題でもちきりだった。

この時代では報道は、存在していない。

住民全てが報道員でもあり、レポーターでもあった。

住民が入手した情報は、情報サイトで取り扱われ、

情報の信頼度、速報度に応じて金銭が支払われる。

このため、我先にと情報提供が行われた。

危機感を持った住民は、我先にとMFSV(磁力浮上車両)へと

向かった。

この時はまだ住民に混乱はなかった。

しかし、城が現れてから60分後、

バトラーが緊急避難命令を発令したことによって、

居住ドーム03,04の住民は混乱した。


各居住ドームは、3つの通路で繋がっている。

一つ目は、MFSV(磁力浮上車両)用、

二つ目は、地下を通る大量輸送車両用、

三つ目は、保守車両用である。

緊急避難時は、この3つの通路が解放される。

しかし、人々がそれを選択することは出来ない。

全てバトラーが指示する。

順番も決められていた。

集団への献度の高い順に避難が実施される。

もっとも高い者達は、MFSV(磁力浮上車両)へ。

次に高い者達は、大量輸送車両へ。

最も低い者は、保守車両用へ。

人々は知らないうちに順番付けされていた。

ブレスレット端末から個の情報を取得分析していたのだ。

バトラーは、個ではなく集団を優先した。

生物の基本的な習性である種の存続を。

集団を乱す者を排除する為ではなく、

生存の優先度を決めるための行為であった。

これは人間が決めた事ではなく、バトラーの現在の答えだった。

この優先度が正しいのかは解らないが、

バトラーが長い時間をかけて導き出したのだ。

しかし、それを不服とした者達がMFSV(磁力浮上車両)発着口を

占拠したのだ。

バトラーは、すぐに鎮圧用のアロイドを派遣した。

彼等は直ぐに鎮圧されるだろう。

そして、受刑者と共に最後の避難に回されるだろう。


-----


城出現から2時間後、

ルードフは、コンタクトルームに立っていた。

ルードフが周りを見回すと、円形のテーブルに着席する

各国の首脳の顔が見えた。

全て3D映像である。


レマキア国*1首脳:「現在の状況は理解している。

         君の考えを聞かせてもらおう。」

状況報告には、ゼロスとの会話は存在していなかった。

通常バトラーが自動で記録して報告する。

しかし、ゼロスとの会話の全てが記録されていなかったのだ。

これに気が付いたのは、コンタクトルームに入る直前だった。

この時、ルードフは迷っていた。

ゼロスの件を報告するかだ。

ルードフ:(ゼロスの件は重要事項だ。

     しかし、報告したとしても誰が信じるだろうか?

     こんな突拍子もない話をしたら、

     精神を疑われるかもしれない。

     記録が無いということは、それを証明する術もない。

     そうか。

     知っていたという証拠もない。

     どちらが私にとって有利かだ。

     だとすれば、ゼロスから情報を聞き出し、

     それを利用するのが得策だろう。

     ここは知らない事にするのが最善ということか。)

レマキア国首脳:「ルードフ司令長官。

        大丈夫ですか?」

ルードフは、結論に達した。

ルードフ:「いえ、大丈夫です。」

レマキア国首脳:「それでは、頼みます。」

ルードフ:「はい。

     現在、戦闘機での城の攻撃を行っていますが、

     飛行する魔獣に遮られ接近することが出来ません。

     このまま時間を浪費することは、

     最悪の事態を引き起こす可能性があります。」

レマキア国首脳:「やはり、核を使うと言うのかね。」

ルードフ:「そうです。」

レマキア国首脳:「あの建造物が、核シェルター並みの強度を

        持っていた場合、どうするのかね?」

ルードフ:「DHD(Double-Headed Dragon)作戦を実施します。」

レマキア国首脳:「DHD作戦?」

ルードフ:「作戦資料を送付しました。」

レマキア国首脳:「これか。

        簡潔に説明してくれたまえ。」

ルードフ:「はい。

     あの建造物の強度が核シェルター並みであることを

     想定して、2つの武器による攻撃を実施します。

     第一の攻撃は、神の槍による攻撃です。

     この攻撃により、崩壊できないまでも建造物に

     穴を開ける事ができるでしょう。

     そして、立て続けに第二の攻撃を実施します。

     核攻撃です。

     これによって、あの建造物の内部・外部は、

     超高温となり、焼き尽くされるでしょう。

     衝撃波は、神の槍によって開けられた裂けめを

     簡単に引き裂くはずです。

     これにより、あの建造物が崩壊することは

     間違いありません。」

レマキア国首脳:「なるほど、それで双頭龍作戦か。

        それで、被害規模の想定は?」

ルードフ:「建造物を中心として、およそ半径50Kmとなります。

     居住ドーム03,04が丁度50Kmと範囲内に入りますが、

     この範囲であれば、外壁の損傷はあり得ません。

     念のためですが、住居ドーム03,04の避難命令を

     発令しています。

     避難完了は、およそ22時間後です。」

レマキア国首脳:「よろしい。

        早速首脳決議の準備に入ろう。

        結果が出るまで、待機しているように。」


-----


状況は刻々と悪化の一途を辿っていた。


宇宙歴20年、3月5日昼すぎ、第10番艦


アディス達が神殿に入ってから30分たった頃、

クーカ艦長は艦内に響き渡る緊急警報に頭を痛めていた。

バトラーは、同じ音声を何度も繰り返すのみだった。


音声:「エネルギー生成装置の出力が低下しています。

   予備エンジンを起動しましたが、このままの出力低下は、

   コールドスリープの蘇生率に大きく影響を及ぼします。

   至急、対処願います。」


クーカ:「アディス達は何をやっているんだ。」

クーカ艦長は、モニターにて状況を確認していた。

モニターに表示されるグラフを見ながら呟いた。

クーカ:「どうすればいい。」

このまま出力低下を続ければ、約6時間ほどで蘇生率は限りなく0%

に近づく。


そして、バトラーの提案する解決策は、究極の選択だった。


修理が望めない場合の対処法は、

・航行用エンジンの出力を全てコールドスリープ装置に回す。

 これを選択した場合、本艦は、永久に宇宙を漂う事になる。

・航行用エンジンの出力の一部をコールドスリープ装置に回す。

 バトラーの予想では、蘇生人数は、数百人から数千人と予想。

・特定の人間のみにエネルギーを集中する。

 バトラーの予想では、蘇生人数は、数千人程度と予想。


クーカは頭を抱えた。

しかし、すぐに顔を上げ、指示をだした。


クーカ:「航行・生命活動に支障のないエネルギーを

    コールドスリープ装置に回せ。」

クーカが言い終わると、天井灯が緊急時照明に切り替わった。

続いてアロイドが次々と停止していく。

クーカは、分かっていた。

この処置が一時的であるという事を。

そして、最終的には決断しなければならない事を。


-----


宇宙歴20年、3月5日午後、安全な場所


ルードフは、コンタクトルームに立っていた。

音声:「回線が接続されました。」

ルードフの周りに次々と首脳陣が現れ始めた。

そして、最後にレマキア国首脳が出現した。


レマキア国首脳:「早速結果を伝えよう。

        全首脳一致で核の使用を認める。」

ルードフは、内心ほっとしていた。

ルードフ:(これで、やつらを殲滅できる。

    ゼロスの言っていた、魔獣が不死身かどうかも

    これではっきりとするはずだ。)

レマキア国首脳:「これは、別件だが。」

ルードフ:「何でしょうか?」

レマキア国首脳:「あの建造物。

        いや、城と呼ぶべきか。

        その城とは別の構造の建造物が出現した。

        見た目は、塔の様にも見える。」

ルードフ:「まさか!!!」

レマキア国首脳:「現在確認されているだけで、6か所だ。

        城を中心に円形に配置されている。

        まだ増える可能性もある。

        最高機密事項ではあるが、

        閲覧の許可はしておいた。

        確認しておくように。

        作戦開始は、24時間後だ。

        今作戦の結果次第で、

        今後の方針を検討する。

        以上だ。」

ルードフは呆然と立ち尽くしていた。


問題はいくつもあった。

まずは、神の槍の金属棒の本数だ。

1本射出しているので残りは、2本である。

果たして、あの建造物に効果があるのだろうか?

そして、新たに現れた塔のような建造物。

疑問は尽きなかった。


音声:「回線は切断されました。」

ルードフはその声を聞くと、すぐに移動を始めた。

そう、ゼロスと話す事を最優先としたのだ。

移動しながら、指示を出し続けた。


ルードフは、モリーの部屋の前に到着すると、

大きく深呼吸したのちに、部屋へと入った。


ルードフ:「ゼロス。

     話がしたい。」

モリーは、相変わらず椅子に座っていた。


ゼロス:「やっぱり来たね。」

ルードフ:「いくつか聞かせてもらいたい。」

ゼロス:「ふーん。

    どうやら少しは進歩したようだね。

    それで、何が聞きたいいのかな?」

ルードフ:「魔獣の王の城の周りに建造物が出現した。

     あれは、なんだ?」

ゼロス:「どうやら、魔獣も本気になったようだね。」

ルードフ:「本気だと?」

ゼロス:「君達、巨大な腕に対して攻撃したよね。

    全てを破壊するような攻撃さ。」

ルードフ:「神の槍のことか?」

ゼロス:「ふーん。

    あれは、神の槍っていうのか。

    あの攻撃で、魔獣も警戒しているんだよ。」

ルードフ:「警戒?」

ゼロス:「あの攻撃は魔獣にとっても脅威だったんだろうね。

    忠告しておく。

    もうあの攻撃は効かないよ。」

ルードフ:「どういう意味だ?」

ゼロス:「やってみれば分かる事だよ。

    そして、もうこの件に関しては話す事は無いよ。」

ルードフ:「ならば、話を変えよう。

     お前は、人類の存続の為と言った。

     何故これが人類存続なんだ?」

ゼロス:「君にも知る権利はあるよね。

    ところで。

    何故、不老長寿ではなく、寿命があると思う?

    何故、種を存続させるのに子を作ると思う?」

ルードフ:「・・・」

ゼロス:「種の存続の為でもあり、

    環境に対応できるように進化する為でもあるんだ。」

ルードフ:「・・・」

ゼロス:「実をつける植物の場合、何故実の中に種があると思う?

    植物は移動できないから、種を遠くに運ぶためさ。

    種を増やす目的のほかに、環境に対応できるように

    遠くに種を送る。」

ルードフ:「・・・」

ゼロス:「急激な環境変化に進化は追いつかないんだよ。」

ルードフ:「・・・」

ゼロス:「人間は知識をつけ、環境変化に進化ではなく、

    科学技術で対応した。

    これは、進化を妨げるものでしかないんだ。

    そして人類は、いつのころからか種ではなく、

    個を重んじるようにかわった。

    同じ種でありながら、階級をつけ管理した。

    同じ種でありながら、争い傷つけあった。

    個の欲を満たすために、直接的でないにしても

    他の種を絶滅へと追い込んだ。

    そして、結果的に人間以外のほぼ全ての種を

    滅ぼしたんだ。

    それが現在のこの星だよ。

    人類よりも遥かに高度な種が存在したとしたら?」

ルードフ:「それが魔獣だというのか?」

ゼロス:「そう。

    人類が滅ぼした種と同じように、滅ぼされるんだ。

    まさか、自分がやってきたことをされるのを

    否定するつもりはないよね。」

ルードフ:「酬いだとでもいうのか?」

ゼロス:「どう思うかは好きにすればいいよ。

    話を続けよう。

    星から出れない人類にとって、

    あまりにも理不尽な事だよね。

    そこで、惑星移住を導き出したんだ。

    実をつける植物と一緒だね。

    ただ、選別はさせてもらったよ。

    同じ過ちを繰り返さない為にもね。」


ルードフは返す言葉を見つけ出せなかった。



*1:レマキア国

 『最後の日』と呼ばれる終末核戦争の直前、

 世界経済の半分を手にした国である。

 同時に終末核戦争の引き金ともいわれている。

 現在でもその影響力は絶大である。



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