終焉?の序章
宇宙歴20年、3月5日昼、安全な場所
モリーは、瞑想していた。
モリー:(声(どうやら、ルストは脱出したようだよ。)
そうか。
声(それにしても、あのバトラーとかいう人工知能は
すばらしいね。
すでに人間を超えた存在かもしれない。)
何故そう思う?
声(ルールの善悪は無視したとして。
人間はルールの本質を無視した上で、
ルールの欠陥を突いて有利にしようとするんだ。
大抵の場合、その行動の元になるものは欲なんだ。
それに対して、バトラーはルールの本質を
理解した上で、その本質を遵守しながら最善の策を
導き出すんだ。
ルールの本質が善ならば、その行為こそ尊いんだよ。
ルールを作ったのは人間だし、バトラーはただ
ルールの本質に忠実であるということなんだ。)
確かに、その通りだが、
それが無ければ、人間とは呼べない。
だとすると、人間の存在自体が悪なのか?
声(そう悲観することもないよ。
僕は遥か昔から人間を見て来た。
数千年前は、遥かに原始的な考え方だったから、
凄い進歩だと思うよ。
まあ、進化しない人も存在するけどね。
中には本質を理解していた人もいたね。
そのほとんどが人間の欲によって消されたんだ。
自分自身や欲を満足させる何かを守るためにね。)
・・・)
その時、部屋の扉が開いた。
モリーがゆっくりと目を開く。
最初に見えたものは、満面の笑みのルードフだった。
ルードフ:「モリー、君も見ていたかね?」
モリー:「何をだ?」
ルードフ:「神の槍の着弾だよ。」
ルードフは、衛星からの映像をモリーの部屋にも流していた。
モリー:「あぁ、見ていた。」
ルードフ:「あれこそが人類の力だよ。」
モリー:「『おめでとう』とでも言ってほしいのか?」
ルードフはモリーの言葉を無視して話し続けた。
ルードフ:「あの腕も魔獣とかいう輩も消滅した。
残念ながら、あの球体は消せなかったがね。」
モリー:「・・・」
ルードフ:「さて、本題に入ろう。
君は、あの球体は消えるといっていた。
何故それを知っている?」
???:「それは僕が答えよう。」
ルードフは驚いた。
声の主は明らかにモリーだった。
しかし、その声、口調は明らかにモリーの声では無かった。
ルードフ:「モリーなのか?」
???:「んー、肉体はモリー。
精神、いや、魂はモリー以外かな。」
ルードフ:「貴様、何者だ?」
???:「そうだね、ゼロスとでも呼んでくれればいいよ。」
ルードフ:「ゼロス?」
ゼロス:「そう、ゼロス。
モリーに知識を与えた者とでも思ってもらえれば
いいかな。」
ルードフ:「そうか、全て貴様の企みか。
一体何をしたいんだ?」
ゼロス:「その質問の前に、先ほどの質問に答えるね。
あの球体だけど。
僕は扉って呼んでる。
そして、あの異世界人の事は魔獣って呼んでる。」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「神殿に入ったから、あの扉はもうじき閉じるよ。」
ルードフ:「神殿とは何だ?」
ゼロス:「これは、この星の住人には関係が無い事だから、
答えるつもりはないよ。」
ルードフ:「・・・」
ルードフは黙って、このゼロスという者の本心を探ろうとした。
ゼロス:「2つ目の質問、『全て貴様の企みか?』に答えよう。
そう、全て僕の企みだよ。」
ルードフ:「ゼロスとか言ったな。
一体何が目的だ?
人類の支配か?」
ルードフは思っていた。
あの、巨大な腕、魔獣。
あれらがまだ存在し、さらに自由に扱えるなら、
世界を牛耳ることも不可能ではない。
ゼロス:「人類の支配?
君は面白い事を言うね。
それは自分の願望かい?
こんな死ぬ間際の星を手に入れて
どうするっていうの?」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「これは、人類の存続の為の行動だよ。」
ルードフ:「人類の存続だと?
攻撃することが、存続だとでも言うのか?」
ゼロス:「全ては、移住を成功させるための行動さ。」
この発言にルードフは驚いた。
ルードフ:「まさか、この星を生贄にしようとでもしてるのか?」
ゼロス:「ルードフって言ったっけ。
君、なかなか賢いね。」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「そう、この星はある意味生贄かな。
魔獣の眼を一次的に逸らす為の策とでも
言った方がいいかな。」
ルードフ:「一時的?
この星はもう終わりだとでも言うのか?」
ゼロス:「終わるか終わらないかは、この星の住人の
努力しだいかな。」
ルードフは核、神の槍などの武器の存在を思い浮かべた。
ルードフ:「我々には核や神の槍等の武器がある。
決して負ける事は無い。」
ゼロス:「強がりだね。
あれらの武器は、身を削る行為だって解って言ってる?」
ルードフ:「身を削る?
何が言いたい?」
ゼロス:「あの武器は、この星を壊してるんだよ。
つまり、人間の生存可能領域を狭めてるんだ。
今の世界を見ても分かる。
どれだけの自然を壊してきた?
木々を切り、海を汚し、空気を汚染してきた?
その結果がこの世界さ。
人間は住む場所を限定され、外に出る事さえできない。
広大な自然に触れる事さえ夢物語なんだ。
人間はさらに生存可能領域を狭めることになる。」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「大事なことを一つ教えてあげるよ。
:
魔獣は死なない。」
その言葉にルードフの顔は真っ青に変わった。
そして、震える声で言った。
ルードフ:「なっ、何だと。
不死だとでも言うのか?
まっ、まさか、そんなことがあるはずがない。」
ゼロス:「人間には理解できない事が色々と存在するんだ。」
ルードフは、ゼロスの言った『扉は閉じる』と言う言葉で、
全てが終わると思っていた。
しかし、その考えが間違えではないかと思い始めていた。
ルードフ:「扉は閉じると言っていたな。
それで、終わりではないのか?」
ゼロス:「あの扉はもうすぐ閉じるよ。
あの扉はね。」
ルードフ:「あの扉?
他にもあると言うのか?」
ゼロス:「異世界での行動。
あれは、最後のチャンスだった。
変な欲を出さずに、友好的に接するべきだったかな。」
ルードフ:「何を言う、攻撃してきたのは奴らだぞ。」
ゼロス:「魔獣は色がみえるんだ。」
ルードフ:「色?」
ゼロス:「そう、魂の色だよ。
欲に囚われし者は魂が黒く染まるんだよ。
魔獣もその色に染まる。
つまり、チャンスを逃したんだ。」
ルードフ:「・・・」
ゼロス:「もう、後戻りはできない。
魔獣は黒く染まってしまった。
この星の人類は、戦い続けなければならない。」
ルードフ:「・・・」
突然、ブレスレット端末が鳴り響いた。
音声:「黒い球体が急速に収縮しています。
同時に、居住ドーム03と居住ドーム04の中間地点に
巨大なプラズマが出現しました。」
ルードフ:「なんだと!!
ゼロス、何が起こるんだ?」
ゼロス:「黙って見ていればいい。
結果は直ぐに解るよ。
数分というところかな。」
ルードフはブレスレット端末をいじると指示を出した。
ルードフ:「戦闘機をスクランブル発進させろ。
目標はプラズマの発生源だ。」
音声:「目標に向けて戦闘機を発進します。
到着まで、10分です。」
ルードフ:「衛星からの映像をこの部屋のモニターに表示。」
直ぐに、モニターに映像が表示された。
ルードフ:「なんだこれは!!」
ルードフは驚いた。
モニターには巨大な球体が表示されていた。
球体はまるで透明な膜におおわれているようであり、
内側には真っ黒い煙のような何かが漂っていた。
その真っ黒い煙のような何かは、みるみるうちに
球体の中に充満していった。
ゼロス:「どうやら、驚いているようだね。
大きさに驚いているのかい?
それとも、その異様さかな?」
その時、部屋の扉が開き、数人の兵士が入ってきた。
そして、モリーに対して銃を構えた。
ルードフは落ち着きを取り戻し、考えていた。
全ての元凶が、このゼロスであるとするならば、
ゼロスを消去することが解決策ではないかと。
しかし、その行為の是非にも疑問を持っていた。
ゼロスは、人類の存続といっていた。
そして異世界の行動も最後のチャンスと言っていた。
ルードフ:(チャンスは与えられていた?
ゼロスの言っている事が、真実であるなら、
ゼロスは人類の見方なのか?
ならば、ゼロスから聞き出さなければならない。
生き残るすべを。)
ゼロスは兵士達を見回すと言った。
ゼロス:「なるほど。
ひとつ教えてあげよう。
僕やモリーは、只の起動スイッチさ。
スイッチが押されてしまった現在では、
この件に関して物質としての存在価値はないよ。」
ルードフ:「では、どうしたら、この状況をよくできる?」
ゼロス:「そうだね。
特別に教えてあげるよ。
それはね、進化することさ。
物質的にも、精神的にもね。
そう、黒から白に変わる事。
そして、魔獣の王を倒す事。」
ルードフ:「魔獣の王?」
音声:「プラズマのエネルギー反応が急速減少。
プラズマは消滅しました。」
ルードフはモニターに目を移した。
映像に映っている物は、球体ではなく建造物だった。
ルードフ:「あれは何だ?」
ゼロス:「あれは、魔獣の王の城、魔獣の王の住処さ。
人類はあそこに住む、
魔獣の王を倒さなければならない。
今のままでは、勝つことは出来ないだろうね。
何せ、魔獣は不死だからね。」
その時ルードフは、恐怖していた。
モニターに映る映像には、魔獣の城から飛び立つ無数の
羽の生えた魔獣が映っていたからだ。
魔獣は手に丸い何かを持っていた。
それが何かは確認できなかった。
しかし、それがこの星に住む人間にとって影響を及ぼすことは
間違いないだろう。
それが、生き残りをかけた戦いの始まりであることは
疑いの余地はなかった。




