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続魔獣の壺  作者: 夢之中
21/28

神の槍

神の槍。

この兵器は大国同士の冷戦時代に発案された。

大国同士は大海を挟んでいたため、海戦が主流であり、

戦艦や空母を撃沈する目的で構想がねられた。

核兵器の使用が条約で禁止となり、

新たな兵器の開発が求められた。

戦術核兵器*1と違い、クリーンであることが利点でもあった。

この時点では、破壊力は核兵器に匹敵すると考えられていた。

しかしながら、衛星への輸送コストによって計画は頓挫した。

幸いなことに冷戦は終結し、かりそめの平和が訪れた。

再び脚光を浴びる事となったのは、直径数キロメートルの

小惑星の接近であった。

軌道エレベータの建造時期と重なった為、小惑星破壊の為に

急遽建造が計画された。

この時、初めて全世界の国が建造に協力した。

同時に各国から優秀な学者、技術者が集められ連合宇宙軍の

前身となる連合宇宙局が結成された。

これは、歴史的にみても世界各国が(形式だけだとしても)最も

良好な関係になった瞬間でもあった。

神の槍は、連合宇宙局にその使用権限が譲渡され、

小惑星に向けて射出された。

小惑星は小さな破片に変わった。

各国首脳はその威力に驚愕し、各国首脳の承認無しに地表への

射出を禁止した。

その後、連合宇宙局は異世界進出の為に、

連合宇宙軍と名前を変え、各国から戦闘車両や兵士を集めた。


-----


ルードフは、神の槍の準備映像の流れるモニターから

目が離せなかった。

神の槍を搭載した軍事衛星がその矛先を地上に向けるため、

回転していた。


音声:「エネルギー充填30%。

   姿勢制御完了。

   ターゲットロック完了。

   姿勢制御装置*2のダイアグ*3完了。

   軌道シミュレーション完了。

   命中誤差0.01m以内。

   命中確率100%。

   緊急避難命令発動します。

   作戦中止可能時間は、残り7分です。」


神の槍は、射出からおよそ5分で地上に着弾する。

12分の内7分という時間は、兵器の準備時間と避難の為の

猶予時間ともいえる。

これは、訓練における平均時間から算出されたもので、

不慮の事態を想定しているわけではなかった。


-----


この実験場は、軍の施設である。

軍施設とはいえ、その予算でドームを建造することは

不可能だった。

その為、過去に作られた建物を補修して使用していた。

防衛の為、通路は入り組んでいた。


床に発着ゲートへと向かう為の目印が点滅していた。

壁にも方向を示す目印が表示されている。

発着ゲートへ誘導するのは、MFSV(磁力浮上車両)での脱出目的

だけではなく、その場所が地下深くにあり、簡易シェルターの

役割を成す為でもある。


ルストはB棟へ向かうため、目印とは逆方向に走っていた。

ルストは、焦っていた。

隔壁の閉鎖が始まったからだ。

MFSV(磁力浮上車両)発着ゲート以外への経路は

人が存在しない場合、順次閉鎖される。

これは防衛の為でもあり、発着ゲートの経路へ

誘導する為(他の道への移動を阻止するため)でもあった。

一度発着ゲートへ向かい、その後発着ゲートから

B棟へ向かうコースをとらねばならなかった。

B棟の最上階の扉の向こうは脱出経路の一つとして

登録されているはずである。

目印が表示されないまでも、閉鎖されることは無いと判断した。


ルストは頭の中の地図を確認しながら走っていた。

B棟へは、あと少しだった。

その時突然、目の前の隔壁が閉鎖された。

ルストは、勢いあまって隔壁に激突した。


ルスト:「隔壁を開けろ。」

音声:「申し訳ありません。

   緊急事態が解除されるまで開くことはできません。」

ルスト:「くそ。

    使えないな。」

ルストは頭の中の地図を再度確認した。

ルスト:(そうか、あっちの通路だったか。

    間に合うのか?

    いや、やるしかない。)

ルストは、激突した肩をさすりながら来た道を引き返した。

この時、ブレスレット端末が振動と共にアラームを発した。

音声:「設定された合流時間まで、あと1分です。」


-----


B棟最上階の扉の前に3人の警備兵らしき者達が集まっていた。


警備兵A:「隊長、遅いな。」

警備兵B:「あぁ、そうだな。

     合流時間まで、あと1分だ。」

警備兵C:「来なかったらどうする?

     少し待つか?」

警備兵A:「いや、遅れた者は置いて行くと言っていたんだ。

     当然、同じ条件だ。」

警備兵B:「その通りだな。」

警備兵C:「ところでパスコードは知っているのか?」

警備兵A,B:「いや、知らない。」

警備兵C:「それじゃあ、開かないじゃないか。」

警備兵A,B:「・・・」


-----


音声:「全シーケンス、オールグリーン。

   射出まで残り2分。」


ルードフは、例の腕の映像に目を移した。

生き残っている戦闘車両が腕に対して攻撃を仕掛けていた。

しかし、腕はひるむことも無く、何事も無かったように

攻撃をしかけていた。

各棟の広場に面した壁は穴が開き部屋がむき出しになっていた。

壁は、崩れ至り溶けている物も見られた。


ルードフ:(あの火の玉はなんだ?

     プラズマなのか?

     あの耐熱処理された外壁を溶かすとは、、、。

     あれの原理さえわかれば、、、。)


ルードフは、モニターを見ながらぶつぶつと呟いていた。


----


ルストは走っていた。

息が切れる。

心臓は経験したことが無いほどに力強く鼓動していた。

そして、疲労は限界を超えていた。

ルスト:(体が重い。

    心臓が破裂しそうだ。

    がんばれ。

    あと少しだ。)


角を曲がると、目の前が開けた。

そこに3人の警備兵が立っていた。

そしてそのまま崩れ落ちた。

その時、ルストは意識が遠のいて行くのを感じていた。


-----


神の槍の射出のカウントダウンが始まった。

音声:「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、射出。

   目標に向かって正常に射出されました。

   命中までおよそ5分*4です。」


ルードフは衛星からの映像を食い入るように見た。

映像は、目標地点を中心とした映像で、巨大な腕の付け根に

円形のロックオンマーカーが表示されていた。


ルードフ:(あと数分で結果が出る。

     異世界人はこれで消滅するのだ。

     人類の勝利は間違いないだろう。)

   :

   :

   :

音声:「大気圏に突入しました。

   命中まで30秒です。」

射出された金属棒は、大気との摩擦によって発熱し、

真っ赤に光っていた。

それは隕石の落下のようにも見えた。

   :

   :

   :

音声:「命中まで、5、4、3、2、1、命中しました。」

火の玉は巨大な腕の付け根に吸い込まれた。


凄まじいまでの衝撃に地面は陥没した。

衝撃エネルギーの一部は、地表面を揺らし、

一部は熱に変換され、地面を溶岩の様に溶かした。

最も広範囲に被害を及ぼしたのは衝撃波だった。

スローで見たらそれは、ドーナツ状に広がって行く、

目に見えない破壊者(デストロイヤー)だっただろう。

衝撃波が通過する場所にあった建造物は次々と崩壊していった。

それはまるでドミノ倒しのようでもあった。

辛うじて残っている物は柱に使用されていた

下層の鉄骨のみだろう。

巻き上げられた土砂や瓦礫等で詳細を見る事はできなかった。

そして細かい塵が辺り煙のように覆い、視界を閉ざした。


ルードフはその光景を呆然と見つめていた。

神の槍の破壊力に恐怖した。

そして、この攻撃に耐えられるものなどいないと思った。

同時にその力が我が手にあることに歓喜した。

その力がまるで自分の力の様に思えた。


数秒後、我に返った。

ルードフは思った。

もし、この攻撃に巨大な腕が耐えられるのなら、

人類は生き残る術を失うだろうと。

ルードフ:「あの腕は?

     あの腕はどうなった?

     やったのか?」

音声:「MSRGD実験場との通信が途絶えました。

   粉塵により生命反応を識別することはできません。

   現在、衛星からのデータを解析中です。

      :

   不規則な移動物体の存在*5を

   確認することはできませんでした。」

ルードフ:「どうやら、やったようだな。

     先ずは一安心というところか。

     球体はどうなった?」

音声:「球体の存在は確認されました。」

ルードフ:(あの衝撃にも耐えるのか!!)

ルードフは神妙な顔をした。

ルードフ:(モリーともう一度話さなければ

     ならないようだな。)

ルードフ:「モリーと面会する。」


----


ルストは、部屋の中にいた。

窓から例の球体が見える。

巨大な腕がゆっくりした動作で地面を叩いていた。

そのたびに建物が揺れる。

その時、腕の遥か先に光を確認した。

それは次第に大きくなり、こちらに向かってくるのが分かった。

光は急速に大きくなっていった。

目前に落ちた。

突然スローモーションのように動き始めた。

壁にヒビが入り、まるでジグソーパズルのピースの様に

分割されるとそのピースが自分に向かって飛んできた。

次の瞬間、

身体が後方に吹き飛ばされた。


ルスト:「うあー!!」

警備兵A:「隊長が目を覚ましたぞ!!」

霞に包まれた意識の中、ルストは考えた。

ルスト:(どうやら、寝ているようだ。

    一体、何が起きたんだ。

    いや、これは夢なのか?)

警備兵B:「隊長、大丈夫ですか?

     分かりますか?」

その声で、3人の男が自分を覗き込んでいるのが分かった。

ルストは次第に意識がはっきりとしてきた。

ルスト:「ここは?」

警備兵C:「ここは、VTOL機の中です。」

ルストは全てを思い出した。

ルスト:「一体何が起きたんだ?」

警備兵A:「隊長はB棟最上階の扉の前で意識を失ったんです。

     我々は、脱出に成功したんですよ。」

ルストはその言葉に安堵した。

同時に一つの疑問が脳裏をよぎった。

ルスト:「そうか、よかった。

    ところで、どうやって扉を開けたんだ?」

警備兵A:「隊長のブレスレット端末が扉を

     開けてくれたんです。」

ルスト:「そうか。

    バトラーが。

    バトラーに感謝しなければならないな。」


*1:戦術核兵器

 戦場単位で通常兵器の延長線上での使用を想定した

 核兵器である。

 この分類は使用目的と運用方法によるもので、

 必ずしも核弾頭の威力の大小とは一致しない。


*2:姿勢制御装置

 気圧、温度、風などの影響により流される為、

 対象に真直ぐ進むための姿勢制御装置。


*3:ダイアグ(ダイアグノスティックス)

 自己診断機能のこと。


*4:およそ5分

 神の槍を搭載した軍事衛星は地上1000Kmに位置している。

 射出後、およそ5分で地上に到達する。

 つまり、神の槍は平均時速12000Kmである。

 これは、マッハ9.8に相当する。


*5:不規則な移動物体の存在

 粉塵の移動情報から内部に不規則な移動物体の存在有無を

 予測する。


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