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続魔獣の壺  作者: 夢之中
20/28

決断


宇宙歴20年、3月5日昼前、安全な場所


そこは、一見豪華に見える部屋だった。

5メートル四方の空間の中に、生活に必要な家具が

コンパクトに収納されていた。

しかし、入り口の扉は硬く閉じられ、至る所に監視カメラが

設置されていた。

モリー博士は、部屋の中ほどの椅子に目を閉じて座っていた。

監視カメラのLEDが赤く点灯している。

絶賛監視中ということだろう。


モリー:((声)どうやら、魔法陣は完成したようだよ。)

    (そうか、第二段階完了もあと少しだな。)


その時、固く閉ざされた扉が音を立てて開いた。

モリーはおもむろに目を開いた。


開いた扉の前には、ルードフが立っていた。

モリーは、黙ってルードフを見つめた。

ルードフは、鬼の形相でモリーを睨んだ。


ルードフ:「一体何を企んでいる。」

モリー:「何の事だ?」

ルードフ:「とぼけるのも大概にしろ。」

モリー:「・・・」

ルードフ:「まあいい。

     本題に入ろう。」

モリー:「・・・」

ルードフ:「あの球体はどうやったら閉じられる?」

モリー:「残念ながら、我々ではあれは閉じられない。」

ルードフ:「我々では?」

モリー:「安心しろ。

    あの球体はもうじき閉じる。

    しかし、異世界との繋がりは消えることはない。」

ルードフ:「いつ閉じるんだ?」

モリー:「1時間か、2時間か、それは私にも解らない。」


ルードフ:「繋がりは消える事は無いとは、どういう意味だ?」

モリー:「染まってしまったのだよ。

    そして、我々の存在を知ってしまった。

    それを忘れることはない。」


突然、ルードフのブレスレット端末が振動と共に、

けたたましく鳴り響いた。


ルードフ:「何事だ?」

音声:「MSRGD実験場から通信が入っています。」

ルードフ:「しばらく通信は遮断しろと指示したはずだが?」

音声:「レベルA通信*1です。」

ルードフ:「レベルAだと!!」


ルードフ:「話の続きは、またあとでだ。」

ルードフは小走りに部屋を後にした。


モリー:「どうやら、始まったようだな。」


ルードフは、レベルA通信での呼び出しに焦ってた。

速足で指令室まで移動する。

ルードフ:(あの異星人が球体を超えてやってきたのだろう。

     どうする?

     モリーは、あと1、2時間で

     球体は閉じると言っていた。

     信じれられるのか?

     やつの発言は、曖昧な事も多かった。

     しかし、やつは私に嘘をついたことがない。

     LAS(嘘発見器)*3もそれを確認しているし、

     事実がそれを証明している。

     やつを信じるか?)

そう考えながら部屋に入る。


ルードフ:「MSRGD実験場の映像を映せ。」

直ぐに複数のモニタに映像が表示された。

モニタは、所々ブラックアウトしていた。

映像が届いていないのだろう。

映っている映像は一部は散々たるた状況だった。

壁は破壊され、所々に火の手が上がっている。

ルードフの眼は、1つのモニタに釘付けになった。

ルードフ:「なんだこれは?」


----------


レベルA通信が発信される30分程前。

宇宙歴20年、3月5日昼前、MSRGD実験場


MSRGD実験場はいまだ静かだった。

出現した魔獣は既に4匹になっていた。

3匹目と4匹目は非常に長い時間を要した。

5匹目が出現する兆候はない。

4匹の魔獣達は何をするでもなく、辺りをきょろきょろと

眺めているだけだった。


ルスト:(奴らは一体何をしているんだ?

    何かを待っているのか?)

    

音声:「職員の移動が完了しました。

   なお、MFSV(磁力浮上車両)の車両数の関係上、

   数時間の間、利用はできませんので、

   ご留意ください。」

職員の移動は、昼夜問わず実施された。

通常であるならば、緊急時以外の夜間の移動など

考えられないだろう。

誰もが緊急事態と考えるだろう。

しかし、職員はいつもと変わりなく行動していた。

当然だった。

ここへの移動時も同様に昼夜を問わず実施されたのだ。

これは、モリー博士の提案だった。

通常と異なる初めての行動は人に不安を与える。

それを事前に実施しておくことにより、それを抑える。

避難訓練等はその最たるものだ。


ルスト:「そうか。

    完了したか。」


ルードフが実験場を任されたとき、ルードフ司令長官から

いくつかの指示を受けていた。

それは以下のようなものだった。

・職員の移動を最優先とすること。

・球体の映像は、専用回線で送信しているため、

 決して停止してはならない。

・定期報告は不要。

・異世界の生物が現れた場合、

 こちらから攻撃をしてはいけない。


ルスト:「ルードフ司令長官とコンタクトはどうなった?」

音声:「ルードフ司令長官とのコンタクトに失敗しました。」

ルスト:「長官はなにをやっているんだ。」

音声:「軍事レベル通信*2のレベルには達していません。」

ルスト:「使えないやつだ。

    融通が利かん。」

音声:「ルールには忠実である必要があります。」

ルスト:「くそ。」

ルスト:(何を言っているんだ。

    そんなことは分かっていることじゃないか。)


ルストは、ルードフとのコンタクトを諦め、真っ黒い霧の

状態を確認した。


ルスト:「あれは、なんだ?」

黒い霧は再び集まり始めていた。

しかし、魔獣が生まれた時のような集まり方ではない。

それは急速に形を形成していった。

横倒しになった巨大な円柱の柱の様にも見える。

ルストは、それから目が離せなかった。

息を呑んでそれを凝視していた。

それは、突然現れた。


ルスト:「腕?」

それは巨大な腕だった。

毛むくじゃらの腕。

そう、魔獣の腕そのものだった。

握られた拳が開いた。

上向きに広げられた手のひらの上に突然火の玉が出現した。

そして、その火の玉が先頭車両に放たれた。

数台の戦闘車両が炎に包まれる。

直ぐに応戦が始まった。

残りの全戦闘車両がパルスレーザーやプラズマ砲を発射する。

攻撃は的確に腕に命中していいた。

しかし、それらは一部の毛むくじゃらな毛を

焦がしたに過ぎなかった。

一方的だった。

魔獣の放った火の玉に1台、また1台と破壊されて行った。


ルスト:「攻撃が効いていないじゃないか。

    ミサイルは無いのか?」

音声:「当施設にはミサイル対象の目標がありません。

   そのため、ミサイルの在庫はありません。」

MSRGD実験場は、宇宙軍の施設であるものの、防衛施設としては

貧弱なものだった。

ミサイルなどの中長距離武器は皆無であった。

もしあったとしても距離が近すぎて使用は不可能だっただろう。


ルスト:「まずいな。

    軍事レベル通信を発信しろ。」

音声:「既にレベルAを発信しました。」

ルスト:「そうか・・・。」


----------


ルードフは、巨大な腕の攻撃に見入っていた。

それはまるで映画のようだった。


音声:「対処方法の指示をお願いします。

   最善の対処法は、撤退と判断します。」

ルードフは、黙ったままだった。


ルードフ:(あの腕の攻撃は危険だ。

     やはり、神の槍を使うか?)

ルードフ:「神の槍の使用許可は下りているのか?」

音声:「既に承認されています。」

ルードフ:「対象をあの腕とした場合の

     神の槍の被害規模をシミュレート。」

音声:「数メートの範囲が地盤陥没。

   MSRGD実験場内のほぼ全ての建築物は、

   80%-100%の崩壊となります。」

ルードフ:「壊滅ということか。」

ルードフは、しばらく考えた。

そして、結論をだした。


ルードフ:「神の槍を使う。

     射出準備開始。」

音声:「射出準備に入ります。

   おおよそ10分で完了します。」


----------


丁度その時、MSRGD実験場に警報がけたたましく鳴り響いた。

ルストは、この警報は聞いた事がなかった。

ルスト:「どうした?

    何があった?」

音声:「神の槍の発射準備に入りました。

   着弾まで12分。

   総員は、直ちに避難してください。」

ルスト:「地下シェルターでの生存確率は?」

音声:「地下シェルターの一部が着弾地点と重なるため、

   生存確率は1%未満となります。」

ルスト:「なんてことだ。

    緊急用MFSV(磁力浮上車両)の確保をしろ。」

音声:「MFSV(磁力浮上車両)の確保を実施しました。

   完了まで2時間かかります。」

ルスト:「ばかな。」

音声:「神の槍の発射準備に入りました。

   着弾まで11分。

   総員は、直ちに避難してください。」


その時、ルストの頭の中に声が聞こえた。

その声は、紛れもなくモリー博士だった。


モリー:((ルストよく聞くんだ。))

ルスト:((モリー博士。

    どうやって。))

モリー:((今は時間がない。

    生き残ることを最優先とするんだ。

    B棟の最上階に

    VTOL機(垂直離着陸機)*4を準備している。

    パスコードは、XXXXXXXXだ。))

ルスト:「緊急放送。

    生存者は5分以内にB棟最上階に集合。

    遅れた者は置いて行く。」


----------


ルードフは、神の槍の準備映像を見ていた。

ルードフ:「MSRGD実験場の衛星映像に切り替えろ。」

直ぐにMSRGD実験場の上空からの映像に切り替わった。


音声:「神の槍を射出します。」

2分後、ルードフは人類初の神の槍の地表着弾を

目撃することになる。



*1:軍事レベル通信

 如何なる理由よりも優先される緊急通信。

 バトラー(人工知能)によって判断され、自動的に発信される。

 A:軍事的撤退が余儀なしとされる場合。

 B:軍事的援助が必須な場合。

 C:軍事的援助が必要な場合。


*2:コンタクトに失敗

 会議中などの場合、コンタクトが禁止されることがある。

 この場合、終了次第再コンタクトが実施される。

 個別でのブロック設定も可能であり、

 発信者は、それを知ることはできない。


*3:LAS(LieAnalysisSystem)

 いわゆる嘘発見器である。

 音声の変化、眼球の変化、筋肉の変化等から嘘を見抜く。

 但し、精度は100%ではない為、それを鵜呑みにはできない。

 将官以上の階級のブレスレット端末に搭載されている。

 これは、トップシークレットでもある。


*4:VTOL機(垂直離着陸機)

 ヘリコプターのように垂直に離着陸できる飛行機。


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