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続魔獣の壺  作者: 夢之中
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移住計画

宇宙歴20年、2月1日


SVB(立体映像放送)には、第十移民船団出発記念番組が

放送されていた。


- SVBの映像 -


そこは広場だった。

広場の中ほどに1つの円柱物体があり、

その外面はガラスで覆われている。

中には直径1m程の石が入っており、

石の下には魔法陣と思われる模様が描かれていた。


特派員:「皆さん、こんばんは。

    国際宇宙局が進めている移民船団はご存知ですね。

    私達は数百年の間この居住ドームで生活しています。

    ドームの外は先人の愚かな政策の為、荒れ果て、

    人間の住める場所はごくわずかとなっています。

    新ドームの建設も不可能な状況となり、

    人口増加対策として、人類が居住可能な惑星へと

    移民する以外の道が無くなってしまいました。

    国際宇宙局は、約60年前に移住可能な惑星を発見し、

    その惑星へ移住するための宇宙船開発を開始しました。

    宇宙船の設計は完了したものの、生活および

    動力エネルギーの生成に苦慮しました。

    そこで35年前からエネルギー生成装置の

    一般公募を行ったのです。


    さて、この物体は何だと思いますか?

    およそ30年前にモリー博士が公開実験を行った、

    エネルギー生成装置です。

    なんとこの装置、30年間もの間、単独でエネルギーを

    生成し続けているのです。

    私達が生活するこの居住ドームは、およそ1000万人が

    生活しています。

    そのためのエネルギーは、巨大な核融合炉で

    賄っています。

    そのエネルギーをこの小さな装置で賄えると

    言われても信じる人は少ないでしょう。

    しかし、現にこの装置は30年もの間エネルギーを

    生成し続けているのです。

    一体どのような原理で動いているのでしょうか?

    それにはまず、モリー博士の理論について

    説明しなければなりません。

    これから説明する事柄は事実かどうかは不明であると

    初めに言っておきます。

    なぜならば、多くの学者はこの理論に

    否定的だからです。

    さて、それではその理論を垣間見ていきましょう。

    モリー博士は、以下のような事を述べています。

    

    全ての物質は空間からできており、

    素粒子はもちろんの事、目に見える物質自体が

    空間の密度によって生成され、

    空間密度が一定値を超えると光子となり、

    さらに密度が臨界点を超えると粒子となる。

    重力は空間密度である。

    エネルギーは空間振動である。

    それらは多次元的に別のベクトルである。

    

    他にも専門的な解説がありましたが、

    ここでは割愛させていただきます。

    

    さて、ここで重要な部分は、全ての物質やエネルギーが

    空間であるという考え方です。

    つまり、何も存在しない空間からエネルギーを

    生成する事ができるという事になります。

    

    博士の説明によると、その方法が魔法陣であると

    言っているのです。

    中に置かれている石は特別な石であり、

    一種の媒体の役目をになっているそうです。

    この石は科学的に評価され、普通の堆積岩であると

    結論付けられています。

    

    当時多くの科学者は、この魔法陣というものに対して、

    否定的であり、信じる者は皆無であったと

    記録されています。

    さらに理論の説明は無く、『事実をもって証明する』

    という言葉にも反感を持ったのでしょう。

    

    ほとんどの学者が退席する中、実験は開始されました。

    それは見事に成功し、現在でも稼働しています。

    

    稼働から10年後、多くの学者はその事実を

    認めなければなりませんでした。

    モリー博士の元には、多くの学者が教えを乞うために

    集まりましたが、

     『魔法陣の基礎を知らぬ者には説明しても

     わかるまい。

     それに弟子は4人で手一杯だ。』

    と言って、それらを断りました。

    彼の弟子は、幼少のころから教えを受けた、

    4人の弟子である、

    マルス、アディス、エリー、エリスのみが

    それを引き継ぐ者達となっています。

    

    4人の弟子は、モリー博士の要望により、

    第十移民船団に乗り込み、

    移住先の惑星へ向かう事になっています。

    彼等は移住先での生活の基盤を作り上げるのです。

    

    残ったモリー博士は、多次元空間路の実験を行います。

    これが成功した暁には、我々人類は新たなる大地を

    手に入れる事が出来るかもしれません。

    我々の未来は明るいのです。

    以上、特派員のジェンソンがお送りしました。

    


- 国際宇宙局 -


宇宙歴20年、2月1日、国際宇宙局コントロールセンター


一人の老人と三人の中年の男女が椅子に座り、上空に浮かぶ

立体映像を眺めていた。

第十移民船団の出発映像であった。


職員1:「全移民船団の出発を確認しました。」

盛大な拍手が沸き上がった。

同時に多くの職員がモリー博士の周りに集まり、

成功を祝福した。


職員2:「モリー博士、ついにやりましたね。

    最後の移民船団も出発できました。」

モリー:「いや、まだ浮かれるのは早い。

    MSRGD(多次元空間路生成装置)の稼働が残っている。

    これが成功しなければ我々に未来はない。」

職員3:「そうですね。

    では早速、MSRGDの現場に行きますか?」

モリー:「そうだな。

    直ぐに出発しよう。」


そして1人の職員を連れて、MFSV(磁力浮上車両)に乗り込んだ。

MFSVは目的地別車両とも呼ばれ、車両毎に行き先を設定すると、

何もせずに最短で目的地まで移動してくれる。

座席に座ると、優しい女性の声が流れた。

音声:「映像から人物情報を取得しています。

    モリー博士ですね。

    行き先を指示してください。」

人工知能は、2人を認識すると、

より権限の高いモリーを選んだ。

モリー:「MSRGD実験場を頼む。」

音声:「MSRGD実験場ですね。

   クラス5、最高機密指定エリアです。

   本人確認の為、声紋認証、指紋認証、静脈認証、

   虹彩認証、DNA認証が必要となります。

   両手を検査台においてください。」

モリー博士はその指示に従い、前の席の後ろに空いた空間に

両手を入れる。

音声:「認証を開始します。」

直ぐに認証は終了した。

音声:「認証が終了しました。

   両手をお戻し下さい。

   モリー博士であると確定されました。

   MSRGD実験場に移動します。」

MFSVは滑らかに浮上し、徐々に加速して行く。

音声:「MSRGD実験場までは、およそ1145キロメートル。

   所要時間にして約45分になります。

   なお、クラス3以上のエリアの為、

   途中降車はできません。

   詳細を説明しますか?」

モリー博士:「不要だ。」

音声:「不要ですね。

   了解しました。

   音声連絡を車両の連結時、切り離し時、

   到着時のみに設定しました。

   御用がございましたら、

   個別に指示をお願い致します。」


居住ドームは、クリアチューブで繋がっている。

真空にしたクリアチューブ内を連結されたMFSV(磁力浮上車両)が

走行する。

どちらも外壁にHHM(半硬化物質)*1が利用されていた。

全てのシステムはバトラー*3と呼ばれる人工知能*4で

管理されていた。

仕事は全て人型のアロイド*5が従事する。

人間はトラブル発生時にアロイドに対して最終決定を下す

だけである。

一般的な仕事であれば遠隔での決定も可能であるが、機密指定

エリア内は隔離されているため、現地に行く必要があった。



- MFSV車内 -


モリー博士は、外に広がる景色を眺めていた。

見渡す限り砂漠であった。

殆どの草木は死に絶え砂漠となり、さらに赤みががった空は

その異様さを増していた。

博士はボソッと呟いた。

モリー:「ついにこの時が来たな。

    この景色とも別れの時だ。」

隣に座った職員はそれに答えた。

職員:「そうですね。

   扉が開かれれば、我々の未来は明るいですね。」

モリーはその答えには返答せずに外を眺め続けた。


しばらくすると、音声が流れた。

音声:「まもなく居住ドーム04に到着します。

   切り離しは当車両となります。

   本ドームは宇宙開発局職員以外の乗降は禁止されて

   おりますのでご注意ください。

   なお、停車時間は5分となっております。」


居住ドーム04の北西にある山脈のカルデラ*1内に

MSRGD(多次元空間路生成装置)が建設された。

この場所は、居住ドームやクリアチューブから離れており、

山並みに遮断されている為、秘匿性にも優れていた。

車両が到着すると、モリー博士達の乗車する車両の切り離しが

行われ、車両ごと地下へと降りて行った。

専用の通路を進み、数分程で目的地に到着した。



*1:HHM(半硬化物質)

 この物質は衝撃エネルギーの一部を自身の硬化に使用し、

 残りのエネルギーを分散伝達する物質である。

 居住ドームもクリアチューブも外壁にHHMが使われている。

 この素材は布状にすることが可能であり、防護服としても

 利用された。

 このため、遥か昔に使用された衝突時のエネルギーに頼った

 銃器は完全に姿を消し、レーザーが主流になっている。


*2:カルデラ

 火山の活動によってできた大きな凹地のこと。

 

*3:バトラー

 全てのシステムを管理している人工知能*4の名称。

 複数存在しているが、全てが繋がっており、

 全ての情報を共有しているため、1つであるとも言える。

 身の回りの世話を行うという意味でバトラーと命名された。

 

*4:人工知能

 ここでいう人工知能は、計算結果から最善を選択する

 方法ではなく、知識と経験から最善を推測する仕組みを

 持つものを言っている。


*5:アロイド

 人工知能を持つロボット。

 人間にかわり、医療行為から単純労働まで能力に応じた

 さまざまな作業に従事する。

 軍事利用は条約によって禁止されているため、

 武器等は装備することはない。

 

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