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続魔獣の壺  作者: 夢之中
19/28

不思議な空間

宇宙歴20年、3月5日昼、第10番艦エリーの個室


エリーは短時間であったが、睡眠カプセルのおかげで十分な

睡眠をとることができた。

目を覚ますと自分の部屋に集まるようにメッセージを出した。


しばらくしてアディス達七人が集まりだした。

部屋に入った者は、部屋の中央の床に描かれた魔法陣を興味深く

眺めた。

そして、これから起こるであろう事を黙って想像するのだった。

エリーは、全員が揃ったのを確認して話始めた。


エリー:「見ての通り、魔法陣は完成しました。

    この箱を魔法陣の上に乗せれば

    魔法が発動するはず。」

エリーは一呼吸おくと、話を続けた。

エリー:「これを置くとどうなるのか、

    それは私にもわからない。」

アディス:「ん?

     不安なことでもあるのか?」

エリー:「不安?

    そうね、しいて言えば、

    何が起こるかわからない

    ことかしらね。

    それに、これが正しい事なのかも分からない。」

アディス:「そうだな。

     気持ちは分かる。

     だけど、進むべき道がそれしかないんだ。」

エリーは目線を下げ少し考えた。

エリー:「そうね。

    神殿に行くしかないのよね。

    じゃあ、初めてもよいかしら?」

アディス:「あぁ、頼む。」


エリーは小さな箱を手に持つと、魔法陣の中央へとそっと置いた。そして、少し下がると、何か呟いた。


アディス達は魔法陣の発動を目にした。

床に書かれた魔法陣が徐々に光を放ち始め、最後には

目が眩むほどの光に包まれた。


光が治まると目の前に巨大な壁があった。

いや、巨大というレベルではない。

空は闇に包まれており、

肉眼で確認する限り壁は闇に吸い込まれるように伸びていた。

左右も延々と壁が続いていた。

床も同一の素材なのだろう。

右側の先に壁にぽっかりと開いた真っ黒い穴(?)のような

入口(?)らしきものがあった。


ドルス:「なんだこれは?」

ドルスは思わず声を上げた。


ドルスが壁に向かって歩き出す。

そして、右手を壁に向かって突き出し、触れた。

ドルス:「これは!!

    実体があるのか。

    まさか、何処かにとばされたのか?」

ドルスが驚いていると後ろから声がした。


ヴィヴィアン:「後ろを見て!!」

全員が一斉に後ろを振り向き驚いた。

後方に見たものは、宇宙船の扉だった。

灰色の背景に扉だけが存在していた。

扉より奥は、遥か彼方まで続いているように見える。


最も近くにいたアナキンは、恐る恐る扉に近づいた。

扉は自動的に開いた。

アナキンは覗き込むように扉の外を覗き見た。

そこは、見慣れた宇宙船の通路だった。


アナキン:「宇宙船の中だ!!」

ヴィヴィアン:「見て。

       この扉、歪んでる。」

よく見ると扉外周は、外側に曲げられたように歪んでいた。

ヴィヴィアンは扉の後ろへと回り込んだ。

裏側は扉の形状はしておらず、同一の金属の板の様に見えた。


ドルスが大声で言った。

ドルス:「空間が歪んでいるのか?」


ドルスは我を忘れ、興奮気味にその部分を調べていた。

その時、後ろに気配を感じ、振り向いた。


後ろにいたのは、

エリー、アディス、マルス、エリスの4人だった。


エリー:「時間が無いので、私達は先に進みます。」

その言葉にドルスは我に返った。

ドルス:「申し訳ない。

    年甲斐も無く興奮してしまった。

    分かりました。」

エリー:「ドルスさん達は、ここを調べていてください。」

ドルスの顔が笑顔に変わり、突然敬礼をした。

ドルス:「了解しました。

    ここの調査はお任せください。」

ドルスはヴィヴィアンとアナキンを呼ぶと話始めた。


エリー:「それじゃあ、神殿に行きましょう。」

そして、エリーの先導で、壁にぽっかりと開いた、

真っ黒い穴の中へと入って行った。


残ったドルス達は、この不思議な空間の調査を始めた。


ドルス:「やはり、空間が歪んでるのだろうか?」

そう言いながら壁へと向かった。

そして目の前の壁を眺める。

壁は濃い灰色で、たぶん石で出来ているのだろう。

触ってみると、ざらざらとした質感だった。

上を見ても、左右をみてもつなぎ目が見当たらない。

見た目では凹凸も見当たらない。

一体どうやって作ったのだろうか?

そんな疑問が頭を過った時、アナキンが呟いた。


アナキン:「この壁、どこまで続いているのだろう?」

当然疑問に思う事だろう。

ヴィヴィアン:「先も調べてみない?」

思いがけない提案だった。

ドルスも1度は考えた。

しかし、安全を考えるとこの場から離れるのは得策ではない。

ドルス:「いや、安全が確認できないかぎり、この場を

    離れるのは問題がある。

    危険があるかもしれない。」

ヴィヴィアン:「んー。

       ここへは、モリー博士が導いたのよね。」

ドルス:「結果的にはそうなるな。」

ヴィヴィアン:「モリー博士は私達を助けようとしてるのよね。」

ドルス:「そうなるな。」

ヴィヴィアン:「だとしたら、危険な場所に私達を導くかしら?」

ドルス:「・・・」

ヴィヴィアン:「ここは安全という事じゃないかしら?」

ドルス:「確かに、そう考える事もできる。」

ヴィヴィアン:「じゃあ、壁沿いのみ調査するというのはどう?」

ドルス:(それならば道に迷う事もないだろう。)

ドルス:「わかった、ならばこうしよう。

    きっちり1時間、3人そろって壁沿いを進もう。

    何も無ければ戻る。

    それでいいか?」

ヴィヴィアン:「えぇ、それでいいわ。」

こうして3人は、壁沿いを進む事になった。


まず、扉から壁へ真直ぐに向かい、その壁に発信機を

張り付けた。

これは万が一迷った場合の保険だった。

ブレスレット端末で発信機の発する信号が受信できることを

確認した後、左腕が壁側に向くように右側を向いてから*1

壁沿いを歩き始めた。

発信機からの情報で、方向と距離を知る事ができる。


この方法を実行した理由は、アナキンの

『見た目が現実とは限らない』という発言からだった。

アナキンの言う通りだった。

もし、空間が歪んでいるならば、見ているものが正しいとは

限らない。

人間の目は騙されやすいのだ。*2


アナキン:「それにしても、

     ここって、どれぐらい広いんだろう?」

アナキンは、右手側に広がる空間を眺めた。

地面しかない空間が延々と続いている。


ヴィヴィアン:「さあね。

       もしかしたら、無限に続いてるかもしれないよ。」

冗談交じりの発言だった。

しかし、ヴィヴィアンはその可能性を否定することが

できなかった。


3人は既に、50分程歩いていた。

景色には変化が全くない。

ヴィヴィアンが何気なくブレスレット端末を確認した。


ヴィヴィアン:「おかしいわ、壊れてるのかしら。」

ドルス:「どうしたんだ?」

ヴィヴィアン:「発信機の情報が出発する前と

       変わってないのよ。」

ドルス、アナキン:「!!」

2人は同時にブレスレット端末を見た。

そして、その情報が全く変わっていない事に気が付いた。

ドルス:「こっちも同じだ。」

アナキン:「変わってないね。」

ドルス:「まあいい、あと10分ある。

    予定通り、このまま進んでみよう。」

ヴィヴィアン:「そうね。」

アナキン:「了解。」


そして予定の60分になろうとした時アナキンは驚いた。

アナキン:「あっ、あれ。」

そう言って右側を指さす。

そこに有ったものは扉だった。

その扉は、見たことがあった。


ドルス:「まっ、まさか!!」

ドルスは壁に向かって走り出した。

2人もドルスに続く。

そして壁に貼り付けてある発信機を発見した。

ドルス:「何と言う事だ!!

    ここは出発地点だ。」

ヴィヴィアン:「どういう事?」

アナキン:「なるほど、そうか。」

ヴィヴィアン:「なに?」

アナキン:「この場所の形状なんだけど。

     ボールのような球体の上に円柱上の棒を突き立てる。

     その棒が、この壁なんだ。」

ドルス、ヴィヴィアン:「!!」

アナキン:「そして、その棒は、限りなく細いんだ。

     だから発信機の位置が変わらなかったんだ。

     やはり、空間が歪んでいるんだよ。

     あくまでも予想だけど、棒から離れるにしたがって

     空間が広がっている。

     但し、僕たち以外の空間がね。

     そんな感じかな。」

ドルス:「一体どうやって。」

ヴィヴィアン:「たぶん、それが魔法なんじゃないかな?」

アナキン:「これって、すごい事ですよ。

     もし、これが実現できたら、離れた所へ一瞬で

     移動できるってことですからね。」

ドルス:「瞬間移動*3ってことか。」

アナキン:「そう、きっと空間を操る魔法なんだ。」


その時、壁の穴から、アディス達が現れた。



*1:右手法(左手法)

 迷路等を探索する場合、右手或いは左手を壁に付けて、

 ひたすら壁沿いに進む方法。

 迷路の場合、この方法を使うと最終的には、

 入口に戻ってしまうか出口に到達するかのいずれかになる。


*2:錯視

 人間の視覚は非常に優秀である。

 視覚で見た情報が曖昧な場合、脳で補完される。

 これにより見た目と現実が異なる場合があるのだ。

 興味がある人は、『錯視』でググろう。


*3:瞬間移動

 ここでいう瞬間移動は、空間湾曲による移動である。

 某SF漫画でワープと呼ばれるものに近い。

 あのワープは3次元的には距離が離れているが、

 4次元的には近いということを利用して移動している。

 この物語では、空間を縮めるという方法である。


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