不思議な空間
宇宙歴20年、3月5日昼、第10番艦エリーの個室
エリーは短時間であったが、睡眠カプセルのおかげで十分な
睡眠をとることができた。
目を覚ますと自分の部屋に集まるようにメッセージを出した。
しばらくしてアディス達七人が集まりだした。
部屋に入った者は、部屋の中央の床に描かれた魔法陣を興味深く
眺めた。
そして、これから起こるであろう事を黙って想像するのだった。
エリーは、全員が揃ったのを確認して話始めた。
エリー:「見ての通り、魔法陣は完成しました。
この箱を魔法陣の上に乗せれば
魔法が発動するはず。」
エリーは一呼吸おくと、話を続けた。
エリー:「これを置くとどうなるのか、
それは私にもわからない。」
アディス:「ん?
不安なことでもあるのか?」
エリー:「不安?
そうね、しいて言えば、
何が起こるかわからない
ことかしらね。
それに、これが正しい事なのかも分からない。」
アディス:「そうだな。
気持ちは分かる。
だけど、進むべき道がそれしかないんだ。」
エリーは目線を下げ少し考えた。
エリー:「そうね。
神殿に行くしかないのよね。
じゃあ、初めてもよいかしら?」
アディス:「あぁ、頼む。」
エリーは小さな箱を手に持つと、魔法陣の中央へとそっと置いた。そして、少し下がると、何か呟いた。
アディス達は魔法陣の発動を目にした。
床に書かれた魔法陣が徐々に光を放ち始め、最後には
目が眩むほどの光に包まれた。
光が治まると目の前に巨大な壁があった。
いや、巨大というレベルではない。
空は闇に包まれており、
肉眼で確認する限り壁は闇に吸い込まれるように伸びていた。
左右も延々と壁が続いていた。
床も同一の素材なのだろう。
右側の先に壁にぽっかりと開いた真っ黒い穴(?)のような
入口(?)らしきものがあった。
ドルス:「なんだこれは?」
ドルスは思わず声を上げた。
ドルスが壁に向かって歩き出す。
そして、右手を壁に向かって突き出し、触れた。
ドルス:「これは!!
実体があるのか。
まさか、何処かにとばされたのか?」
ドルスが驚いていると後ろから声がした。
ヴィヴィアン:「後ろを見て!!」
全員が一斉に後ろを振り向き驚いた。
後方に見たものは、宇宙船の扉だった。
灰色の背景に扉だけが存在していた。
扉より奥は、遥か彼方まで続いているように見える。
最も近くにいたアナキンは、恐る恐る扉に近づいた。
扉は自動的に開いた。
アナキンは覗き込むように扉の外を覗き見た。
そこは、見慣れた宇宙船の通路だった。
アナキン:「宇宙船の中だ!!」
ヴィヴィアン:「見て。
この扉、歪んでる。」
よく見ると扉外周は、外側に曲げられたように歪んでいた。
ヴィヴィアンは扉の後ろへと回り込んだ。
裏側は扉の形状はしておらず、同一の金属の板の様に見えた。
ドルスが大声で言った。
ドルス:「空間が歪んでいるのか?」
ドルスは我を忘れ、興奮気味にその部分を調べていた。
その時、後ろに気配を感じ、振り向いた。
後ろにいたのは、
エリー、アディス、マルス、エリスの4人だった。
エリー:「時間が無いので、私達は先に進みます。」
その言葉にドルスは我に返った。
ドルス:「申し訳ない。
年甲斐も無く興奮してしまった。
分かりました。」
エリー:「ドルスさん達は、ここを調べていてください。」
ドルスの顔が笑顔に変わり、突然敬礼をした。
ドルス:「了解しました。
ここの調査はお任せください。」
ドルスはヴィヴィアンとアナキンを呼ぶと話始めた。
エリー:「それじゃあ、神殿に行きましょう。」
そして、エリーの先導で、壁にぽっかりと開いた、
真っ黒い穴の中へと入って行った。
残ったドルス達は、この不思議な空間の調査を始めた。
ドルス:「やはり、空間が歪んでるのだろうか?」
そう言いながら壁へと向かった。
そして目の前の壁を眺める。
壁は濃い灰色で、たぶん石で出来ているのだろう。
触ってみると、ざらざらとした質感だった。
上を見ても、左右をみてもつなぎ目が見当たらない。
見た目では凹凸も見当たらない。
一体どうやって作ったのだろうか?
そんな疑問が頭を過った時、アナキンが呟いた。
アナキン:「この壁、どこまで続いているのだろう?」
当然疑問に思う事だろう。
ヴィヴィアン:「先も調べてみない?」
思いがけない提案だった。
ドルスも1度は考えた。
しかし、安全を考えるとこの場から離れるのは得策ではない。
ドルス:「いや、安全が確認できないかぎり、この場を
離れるのは問題がある。
危険があるかもしれない。」
ヴィヴィアン:「んー。
ここへは、モリー博士が導いたのよね。」
ドルス:「結果的にはそうなるな。」
ヴィヴィアン:「モリー博士は私達を助けようとしてるのよね。」
ドルス:「そうなるな。」
ヴィヴィアン:「だとしたら、危険な場所に私達を導くかしら?」
ドルス:「・・・」
ヴィヴィアン:「ここは安全という事じゃないかしら?」
ドルス:「確かに、そう考える事もできる。」
ヴィヴィアン:「じゃあ、壁沿いのみ調査するというのはどう?」
ドルス:(それならば道に迷う事もないだろう。)
ドルス:「わかった、ならばこうしよう。
きっちり1時間、3人そろって壁沿いを進もう。
何も無ければ戻る。
それでいいか?」
ヴィヴィアン:「えぇ、それでいいわ。」
こうして3人は、壁沿いを進む事になった。
まず、扉から壁へ真直ぐに向かい、その壁に発信機を
張り付けた。
これは万が一迷った場合の保険だった。
ブレスレット端末で発信機の発する信号が受信できることを
確認した後、左腕が壁側に向くように右側を向いてから*1
壁沿いを歩き始めた。
発信機からの情報で、方向と距離を知る事ができる。
この方法を実行した理由は、アナキンの
『見た目が現実とは限らない』という発言からだった。
アナキンの言う通りだった。
もし、空間が歪んでいるならば、見ているものが正しいとは
限らない。
人間の目は騙されやすいのだ。*2
アナキン:「それにしても、
ここって、どれぐらい広いんだろう?」
アナキンは、右手側に広がる空間を眺めた。
地面しかない空間が延々と続いている。
ヴィヴィアン:「さあね。
もしかしたら、無限に続いてるかもしれないよ。」
冗談交じりの発言だった。
しかし、ヴィヴィアンはその可能性を否定することが
できなかった。
3人は既に、50分程歩いていた。
景色には変化が全くない。
ヴィヴィアンが何気なくブレスレット端末を確認した。
ヴィヴィアン:「おかしいわ、壊れてるのかしら。」
ドルス:「どうしたんだ?」
ヴィヴィアン:「発信機の情報が出発する前と
変わってないのよ。」
ドルス、アナキン:「!!」
2人は同時にブレスレット端末を見た。
そして、その情報が全く変わっていない事に気が付いた。
ドルス:「こっちも同じだ。」
アナキン:「変わってないね。」
ドルス:「まあいい、あと10分ある。
予定通り、このまま進んでみよう。」
ヴィヴィアン:「そうね。」
アナキン:「了解。」
そして予定の60分になろうとした時アナキンは驚いた。
アナキン:「あっ、あれ。」
そう言って右側を指さす。
そこに有ったものは扉だった。
その扉は、見たことがあった。
ドルス:「まっ、まさか!!」
ドルスは壁に向かって走り出した。
2人もドルスに続く。
そして壁に貼り付けてある発信機を発見した。
ドルス:「何と言う事だ!!
ここは出発地点だ。」
ヴィヴィアン:「どういう事?」
アナキン:「なるほど、そうか。」
ヴィヴィアン:「なに?」
アナキン:「この場所の形状なんだけど。
ボールのような球体の上に円柱上の棒を突き立てる。
その棒が、この壁なんだ。」
ドルス、ヴィヴィアン:「!!」
アナキン:「そして、その棒は、限りなく細いんだ。
だから発信機の位置が変わらなかったんだ。
やはり、空間が歪んでいるんだよ。
あくまでも予想だけど、棒から離れるにしたがって
空間が広がっている。
但し、僕たち以外の空間がね。
そんな感じかな。」
ドルス:「一体どうやって。」
ヴィヴィアン:「たぶん、それが魔法なんじゃないかな?」
アナキン:「これって、すごい事ですよ。
もし、これが実現できたら、離れた所へ一瞬で
移動できるってことですからね。」
ドルス:「瞬間移動*3ってことか。」
アナキン:「そう、きっと空間を操る魔法なんだ。」
その時、壁の穴から、アディス達が現れた。
*1:右手法(左手法)
迷路等を探索する場合、右手或いは左手を壁に付けて、
ひたすら壁沿いに進む方法。
迷路の場合、この方法を使うと最終的には、
入口に戻ってしまうか出口に到達するかのいずれかになる。
*2:錯視
人間の視覚は非常に優秀である。
視覚で見た情報が曖昧な場合、脳で補完される。
これにより見た目と現実が異なる場合があるのだ。
興味がある人は、『錯視』でググろう。
*3:瞬間移動
ここでいう瞬間移動は、空間湾曲による移動である。
某SF漫画でワープと呼ばれるものに近い。
あのワープは3次元的には距離が離れているが、
4次元的には近いということを利用して移動している。
この物語では、空間を縮めるという方法である。




