映像
宇宙歴20年、3月4日、第10番アディスの個室
エリーを個室で寝かせた後、6人はアディスの部屋で
侵入時の映像を見ていた。
映像は先行して移動していたアロイドのものだ。
アディス:「ここから侵入したんだ。」
ドルス:「さて、一体なにが映っているやら?」
映像はゆっくりと慎重に前進するアディスだった。
その後ろに、ドルス、ヴィヴィアン、エリーが映っていた。
しばらく全身を続けたとき、それは起こった。
突然3人に捕りつくように魔獣が出現したのだ。
アディス:「止めてくれ。
一体、何処から現れたんだ?」
ドルス:「5秒戻して、スロー再生。」
ドルスが手際よく指示を出す。
映像が少し戻って、ゆっくりと進む。
ドルス:「ストップ。
よく見てくれ。
ここだ。」
ドルスが指差す先には、ぶれてはいるが、上から下へと移動する
物体が映っていた。
アディス:「天井か。」
そう、魔獣は天井から落下して3人に捕りついたのだ。
アディス:「再生開始。」
映像はアディスがそれに気が付き、
魔獣に襲われるところまで進んだ。
この先の映像は衝撃的だった。
突然、エリーを襲っていた魔獣の頭が弾け飛んだ。
そして、ゆっくりと立ち上がると、ヴィヴィアンを襲っていた
魔獣に近づき、その頭に手をあてる。
途端に魔獣の頭が弾けた。
続けてドルスの魔獣、アディスの魔獣と頭に触れるたびに
魔獣の頭が消えていった。
ドルス:「何だこれは!!」
マルス:「魔法だ。」
ヴィヴィアン:「えっ、これが魔法?」
ドルス:「・・・」
マルス:「あぁ、魔法だ。
あの本を読んで、エリーと一緒に色々と試した。
いくら試しても、魔法は発動しなかった。
何が原因なのかも分からなかった。
この時はやっぱり魔法は失われたか、
そもそも存在しなのではないかとも思った。
だけど、この映像を見て確信したよ。
エリーは魔獣に襲われることで何かを掴んだんだ。」
その時、クーカ船長が興奮した顔で飛び込んできた。
クーカ:「一体なにをやったんだ?!!!」
アディス:「どうしたんですか?」
クーカ:「あの獣、いや魔獣の頭が吹き飛ぶのをみた。」
アディス:「映像をみたんですね。」
クーカ:「あぁ、見ていたとも。
あれは一体どういうトリックなんだ?」
アディス:「艦長は、超能力や魔法といったものを信じますか?」
クーカ:「何を言っている。
この科学の時代にそんな非科学的なものを
信じる者など、、、。」
クーカは、その時『悪魔の証明*1』が頭を過り、
そして次の言葉を飲み込んだ。
クーカ:「まさか、超常現象だとでも言うのか?
そんなこと誰が信じるんだ!!?」
クーカ艦長の質問に対してドルスが静かな口調で答えた。
ドルス:「艦長。
実は私も今の今まで、完全に信じてはいませんでした。
しかし、今回の件で考えが変わりました。
やはり、魔法は存在するんですよ。」
クーカ:「ドルスくん、まさか君まで、、、。」
ドルス:「艦長は、この現象をどう説明するんですか?」
クーカ:「・・・」
ドルス:「これだけではないですよ。
モリー博士の作ったエネルギー生成装置。
あれは結局、世界最高の学者達が説明できなかった。
しかし、あれは現に実在する。
我々の知識の外に存在する何かを感じませんか?」
クーカ:「・・・」
続いてヴィヴィアンも意を決したように話始めた。
ヴィヴィアン:「私も半信半疑でした。
しかし、私達は窮地に立たされています。
この窮地を乗り越える為には、この事実を
受け入れるしかないんです。」
クーカ:「ヴィヴィアン、君もなのか。」
アナキン:「艦長、僕も信じる事にしましたよ。」
クーカ:「そうか、君もか。」
アディス:「前にも話しましたが、モリー博士は我々に
いくつかの品を託しました。
それらは神秘に満ちた物です。
確かに信じるに値する物かは分かりません。
しかし、他の道を見出す事ができないのです。
あの力が自由に使えるのなら、
何とかなるかもしれません。」
クーカ:「君達の考えはわかった。
少し考えさせてくれ。」
そう言うとクーカは艦長室へと戻っていった。
しばらくして、クーカと入れ違いに、
エリーが部屋へと入ってきた。
エリス:「エリー、起きて大丈夫なの?」
エリー:「えぇ、ありがとう。
もう大丈夫。」
エリー:「アディス。
残念だけど、あれは自由に使えるわけじゃないわ。」
アディス:「聞いていたのか?」
エリー:「ブレスレット端末の通信機能を切るの忘れたでしょ。
全部聞こえてたわよ。」
アディス:「そうだったのか。
起こしてしまったようだな。
すまない。」
エリー:「問題ないわ。」
アディス:「早速ですまないが、
なにが起こったのか教えてくれないか?」
エリー:「えぇ、もちろん。
それを話す為にきたのよ。」
エリーは少し間をおいてから話始めた。
エリー:「魔獣にいきなり襲われたとき、最初のうちは
魔獣の頭を掴んで耐えていたの。
でも、魔獣の力の強さに1度は死を覚悟したわ。
目の前の獣の顔が怖くて目を閉じた時、
遠くに小さな光が見えたの。」
アディス:「遠くの光?」
エリー:「そう、実際には遠くじゃ無かったかも知れないけれど、
何故か遠くって感じたのよ。
その直後、光が爆発するみたいに大きくなって、
破裂音と共に急に魔獣の力が無くなった。
目を開いたら魔獣の頭が無かったのよ。
横をみたら皆も襲われてるじゃない。
助けなきゃって思って立ち上がってから、
記憶が無いのよね。」
エリス:「ところで、
どんな力で魔獣の頭を吹き飛ばしたのかな?
やっぱり、魔法なの?」
エリー:「残念だけど、分からないわ。」
アディス:「解析してみよう。
何かわかるかもしれない。
映像解析開始。」
音声:「全映像中で4回の急速な熱量の上昇を確認しました。
対象の頭部破壊後、急速に温度低下しています。
頭部中心に熱源が発生したものと考えられます。」
エリス:「やっぱり。」
アディス:「えっ?
何がやっぱりなんだ?」
エリスは、人差し指を立て、胸の位置まで上げると、
左右に動かしながら言った。
エリス:「それはですね。
エリーの中には幻獣イフリートがいるんですよ。」
アディス:「あぁ、俺もそう思う。」
エリス:「いや、そうではなくて。
じゃあ、順をおって説明しますね。
まず、物語に出てくる人で幻獣を従えたのは、
パインがベンヌ。
アリスがシヴァ。
シェリルがイフリートです。
そして、パインが赤い指輪、アリスが青い指輪。
パインが剣を持ち、アリスが水差を使った*2。
モリー博士は所縁の品を託したんですよ。
つまり、アディスはパイン、私がアリス、
エリーがシェリルという事になります。
とすると、
アディスがベンヌ。
私が、シヴァ。
そして、エリーがイフリートになるわけです。」
アディス:「なるほど。
確かに。
じゃあ、マルスは?」
エリス:「わかりません。」
アディス:「・・・」
エリー:「んー、よくわからないわ。
確かにあの後から光を感じる。
でも、それがイフリートなの?
それに、声も聞こえる。」
アディス:「声?
なんと言っているんだ?」
エリー:「ぼそぼそって感じで、よく聞き取れないのよ。」
その時、エリーは何かに驚いた。
エリー:「ちょっとまって、別の何かが急に大きく、、、。」
エリーは目を閉じて意識を集中していった。
他の者は黙ってそれを見守った。
しばらくすると、エリーは目を開き呟いた。
エリー:「なるほど、わかった。」
アディス:「何かわかったのか?」
エリー:「えぇ、巫女の神殿への行き方がね。」
アディス:「どうやって知ったんだ?」
エリー:「教えてくれたのよ。」
アディス:「誰が?」
エリー:「たぶん、光りが。」
アディス:「たぶん?」
エリー:「なんて言ったらいいのかしら。
閃き?
何も考えてもいない事、知識に無い事が突然閃いた。
そんな感じ。
それで、状況から光が教えてくれたって言ったの。」
アディス:「それで、どうやって神殿に行くんだ?」
そもそも巫女の神殿はどこにあるんだ?」
エリー:「場所?、さぁ?」
アディス:「さぁって、、、。」
エリー:「分かったのは、行き方はだけ。
それ以外の事は分からない。」
アディス:「そうか。
なら、早速そこへ行こう。」
エリー:「それは、まだ無理。
準備がいるのよ。
明日まで待ってもらえる?」
アディス:「あぁ、それで何か手伝う事はあるか?」
エリー:「手伝いはいらない。
ただ、例の箱と魔晶石の粉末が必要よ。」
アディス:「そうか、ならば準備は頼んだ。」
アナキン:「巫女の神殿か。
なんか、ワクワクすすな。
楽しみだ。」
エリー:「あっ、言うの忘れてた。
巫女の神殿に入れるのは、
私、アディス、マルス、エリスの4人のみ。
残念だけど他の人はお留守番。」
アナキン:「なぜ?」
エリー:「今は閉じられているため資格が必要みたい。」
アディス:「閉じている?」
エリー:「詳しくはわからないけど、
主のいない部屋という意味に思えた。
そして、鍵がかかった部屋。
行き方は、鍵を開ける方法という訳ね。」
アディス:「なるほど、あの箱が鍵なのか。」
エリー:「たぶん。」
アディス:「それで資格というのは?」
エリー:「血の契約。
子孫に代々受け継がれる契約の事よ。」
ドルス:「DNA*3ってことなのか?」
エリー:「そこまでは解らないわ。
でも、その可能性は否定できないわね。」
アディス:「そうか、大体分かった。
エリー、すまないが準備を急いでくれ。
準備が出来次第、神殿に向かおう。」
エリー:「そうね。」
*1:悪魔の証明
証明することが不可能か非常に困難な事象を悪魔に
例えたものをいう。
無い事を証明することは基本的に不可能であるため、
その場合に使用される場合もある。
*2:アリスが水差を使った
ここで書かれているのは、魔獣の壺-本編-の話ではなく、
魔獣を完全に封じ込めた最終戦の話。
本編では、氷属性と契約したレミューズが使用しました。
*3:DNA
DNA(デオキシリボ核酸)は、核酸の一種。
地球上の多くの生物において遺伝情報の継承と発現を担う
高分子生体物質である。
(wikipediaより抜粋)




