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続魔獣の壺  作者: 夢之中
16/28

遭遇

宇宙歴20年、3月4日、第10番艦艦長室


艦長室に到着した時、クーカ船長は頭を抱えていた。


アディス:「何か起こったんですか?」

クーカ:「君達の予想通り、9、8番艦からも

    緊急発光信号を受信した。」

アディス:「そうですか。」

クーカ:「しかし問題はこっちだ。

    コールドスリープ区画で警備兵があの獣に襲われた。

    それに伴い、バトラーは最終的に

    全コールドスリープ区画を隔離してしまった。」

エリー:「なんですって!?」

クーカ:「まだ被害は出ていないが、問題は大きい。」

アディス:「何故そんなことに。」

クーカ:「コールドスリープ区画の定期的な巡回だった。

    その時、あの獣が突然襲って来たんだ。

    奇襲に対して警備兵はレーザー銃で応戦したんだが、

    獣にはあまり効果が無かったようだ。

    獣は一瞬動きを止めたあと、逃げ去ったということだ。

    バトラーはあの獣を倒せる武器を

    我々は持っていないと判断した。

    獣の侵入経路を配管路と特定し、

    対象のエネルギー生成装置の区画の完全閉鎖の判断を

    求めてきた。」

アディス:「配管路?」

アナキン:「多くの配管が通っている作業用の通路の事ですよ。

     一度入ったことがありますが、しゃがまないと

     通れないほど狭いんですよね。」

アディス:「閉鎖できないんですか?」

アナキン:「それは無理ですね。」

アディス:「どうして?」

アナキン:「コールドスリープ装置用の配管が通ってるんです。

     閉鎖したらコールドスリープ装置が

     停止してしまいます。」

アディス:「なるほど」

クーカ:「そこで私はコールドスリープ装置の停止を理由に

    判断を却下した。

    しかし、バトラーは緊急事態と判断したんだ。

    エネルギー生成装置の区画と全てのコールドスリープ

    区画を大きな塊として隔離したんだ。」

アディス:「何故そのような判断を?」

クーカ:「現在艦内で行動可能な者は、およそ100名だ。

    この内90名が乗務を行う。

    これは安全に航行するための、必要人数でもある。

    この人数は全員が行動不能に陥っていない場合での

    最重要項目なんだ。

    通常は、この人数が減った場合はコールドスリープ

    状態から蘇生することで調整を行うのだが、

    あの獣が現れた。

    バトラーは警備兵が襲われたことで、

    あの獣を駆除対象としたが、

    我々の武器では駆除できないことも分かった。

    配管路の為に完全閉鎖もできない。

    バトラーは緊急事態として、行動可能な100名の

    生命の安全を優先した。

    これがエネルギー生成装置と全コールドスリープ区画を

    大きな塊として隔離した理由だ。」

エリー:「それって、こちらから人質を差し出したような

    ものじゃない?」

クーカ:「その通りだ。

    奴らと会話が出来ればよかったのだが。

    今のところコールドスリープ装置に異常はないが、

    何が起こるかわからない。」

エリス:「隔離しているのに異常がないって、

    どうして分かるんですか?」

クーカ:「隔壁閉鎖前にバトラーがアロイドを派遣し、

    特定の場所で振動による通信を行っている。」

エリス:「特定の場所?」

クーカ:「排出用のエアダクト*1の隔離壁だ。

    有害なガス等が発生した場合に排出するダクトで、

    ここだけが単層構造の隔離壁なんだ。」

アナキン:「なるほど、

     そこだけ振動が通るってことですね。」

クーカ:「そうだ、アロイドは今は中継用として機能している。

    情報量は少ないが、最低限の情報取得は出来ている。

    ただし、破壊されるまでだがな。

    それにバトラーは武器の開発を始めた。

    しかし、どれだけ時間がかかるかは分からない。

    数ヶ月か、数年か。」

エリー:「そんなに、、、。」

アナキン:「ところで、突然襲われたって言ってましたが、

     バトラーは生体反応を検知できなかったんですか?」

クーカ:「配管路は監視装置の範囲外なんだ。」

隔離によって獣の侵入経路は無くなった。

しかし、コールドスリープ状態の人々は敵の手に落ちたといって

いいだろう。


エリー:「アディス。

    試してみない?」

アディス:「何を?」

エリー:「ショックバトンが魔獣に効果があるかどうか。」

クーカ:「魔獣だと?

    ショックバトンで倒せるのか?」

アディス:「やってみないと何とも言えません。」



宇宙歴20年、3月4日、第10番艦アディスの個室


クーカ艦長との話し合いの結果、状況把握前提という事で、

侵入許可を得るとこができた。

個室へ戻った7人は、少しの時間、先ほどの話の続きをした。

アディス:「マルス、何があったのか覚えていないのか?」

マルス:「すまない。

    転移の魔法陣辺りで、急に眠気に襲われて、

    それ以降の記憶がないんだ。

    そうだ、転移の魔法陣で気になる事がある。

    1番艦の映像で見た魔法陣なんだが、

    転移の魔法陣じゃないかと思うんだ。

    しかし、転受の魔法陣は作成に時間がかかると

    書いてあった。

    だとすると、あまりにも早すぎる。」

アディス:「なるほど。

     そう言う意味だったのか。

     『パインの手記』の中に補足説明でこんな事が

     書いてあった。

     『召喚の魔法陣と転移の魔法陣の基本は同じである。

      どちらも2つの世界を繋ぐ扉である。

      その違いは精神体のみを送るものと

      全てを送るものの違いである。』

     だそうだ。」

マルス:「やはり、魔獣は精神体だということか?

    しかし、肉体を持っているようにしか見えないが。」

アディス:「それについても記述があった。

     『精神体が物質化することによって肉体を持つ。』

     とね。」


その後、7人は侵入する人員を決める為に話し合いをした。

エリー:「私は絶対にいくからね。」

ドルス:「まあまあ、落ち着いて。」


レーザー銃の効果に期待できない為、

主力武器はショックバトンのみとなることは確実であり、

ショックバトンの経験者は、ドルス、ヴィヴィアン、アナキン、

エリーの4人だった。

当初は、3人での行動を考えていたが、

エリーの強引な押しによって4人での行動となった。

そして、話し合いの結果、アディス、ドルス、ヴィヴィアン、

エリーと決まった。


7人は、立体マップで侵入経路を検討していた。

コールドスリープ装置のある区画は、

エネルギー生成装置の区画の回りに配置されていた。

これはエネルギー損失*2や配置効率を考えた設計であった。

今回の目的はあくまでも状況把握であり、エネルギー生成装置の

区画への侵入は考えていなかった。


アナキン:「隔離中の区画は非常用電源になっているため、

     薄暗いんですよ。

     発光シート*3を持っていくべきだと思うんですが。」

ヴィヴィアン:「アナキンの言う通りです。

       早速準備しましょう。

       アナキン、一緒に来て。」

アナキン:「わかった。」

ドルス:「ショックバトンも忘れるなよ。」

ヴィヴィアン:「はい。」


他の者はドルスの勧めにより、防護服に着替えをしていた。

エリー:「この防護服って動きやすいんだけど、身体の線が

    出ちゃうのよね。」

エリス:「エリーは、プロポーションいいから大丈夫だよ。」

エリー:「そう言う意味じゃないんだけど。

    まあ、いいわ。

    いきましょう。」

シャワールームから出ると丁度、ヴィヴィアンと

荷物を抱えたアナキンが戻ってきた。

アナキン:「まったく、ただの荷物運びかよ。」

ヴィヴィアン:「文句言わない。

       これもお仕事よ。」

アナキン:「姉貴は人使いが荒すぎなんだよ。

     少しは弟の身も考えろよな。」

ヴィヴィアン:「それを言うなら、男なんだから

       女性に気遣いなさい。

       そんなことだから彼女ができないのよ。」

アナキン:「・・・」

ヴィヴィアン:「変なところをお見せして、

       申し訳ありません。

       いつもの事なので気にしないでくださいね。」

アナキンが、荷物を机の上に置くと、

箱の中からショックバトンを取り出した。

ドルスがショックバトンを腰のベルトに取り付けながら言った。

ドルス:「効果があるといいんだがな。」



宇宙歴20年、3月4日、第10番艦隔壁前


アディス、ドルス、ヴィヴィアン、エリーの4人と

1台のアロイドが隔壁の近くに集まっていた。

アロイドは映像の送信を目的として、

クーカ艦長が寄こしたものだ。


隔壁前には部屋があった。

アディス:「こんな部屋はマップには無かったはず。

     これはなんだろう?」

ドルス:「これは移動式滅菌中和ルーム*3ですよ。

    バトラーが配置したのでしょう。」


アロイドに発光パネルの貼り付けを指示し、準備が整った。

滅菌中和ルームに入り、消毒を受ける。

アディス:「隔壁を上げてください。」

クーカ:「分かった。

    隔壁を上げる。」


静かにそしてゆっくりと隔壁が上がっていった。

4人は腰のショックバトンを手に取ると

隔壁が上がるのを待った。


区画に入ってすぐは通路になっている。

中は薄暗かった。

アロイドが真っ先に侵入し、発光パネルを張り付けて行く。

4人は明かりが灯ったのを確認した後、慎重に侵入した。

ピリピリした空気が漂う。

『ブーン』というコールドスリープ装置が発する音が耳につく。

いつ襲われてもおかしくはないという思いが、恐怖を煽る。

アロイドが無機的な動作で先を進み、

発光パネルを張り付けていた。

アディスは意を決して、歩みを進めた。

アディスの後ろをドルス、ヴィヴィアン、エリーの順で

進んで行った。

しばらく進んだ時、悲鳴が上がった。

 「きゃぁぁ!!。」

 「いやぁぁ!!。」

 「うぁぁ!!。」

アディスが後ろを振り向くと魔獣が3人に伸し掛かっていた。

アディスは最も近いドルスに駆け寄ると、

ショックバトンを振り上げた。

その時、肩に力を感じた。

凄い力だった。

アディスはバランスを崩し、そのまま仰向けに倒れ込んだ。

ショックバトンが手から滑り落ちる。

アディス:「しまった。」

自分の上に何かが伸し掛かってきた。

目の前には魔獣が大きな口を開けていた。

アディスはとっさに魔獣の顔を両手で掴む。

魔獣の力は想像以上に強かった。

徐々に魔獣の牙が近づいてくる。

その時、音が聞こえた。

 「ボン。」

何かが破裂したような鈍い音。

しかし、アディスには音の方向を確認する余裕は無かった。

直ぐに、また破裂音がした。

 「ボン。」

  :

 「ボン。」

アディス:(なにが起こっている?)

そう考えた時、また破裂音がした。

 「ボン。」

突然、目の前が真っ赤に染まる。

同時に魔獣の力が一気に無くなった。

アディスは伸し掛かっている塊を押しのけると、立ち上がった。

バイザーを拭う。

それは、血だった。

背筋が凍るような寒気を感じた。

辺りを見回すと、ドルスとヴィヴィアンが

立ち上がろうとしていた。

彼等も魔獣の真っ赤な血に染まっており、

その近くには4匹の頭の無い魔獣が転がっていた。

アディス:「エリーはどこだ?」

アディスは辺りを見回しエリーを探した。

後ろを振り向くと壁に寄り掛かるように座っているエリーを

見つけた。

エリーに近寄る。

アディス:「エリー、大丈夫か?」

エリーの返事はない。

ドルスとヴィヴィアンがやってきた。

音声:「バイタルデータには異常ありません。

   睡眠状態にあります。」

アディスは2人を見ると言った。

アディス:「なにが起こったのか分からないが、

     一旦撤退しよう。」



*1:エアダクト

 換気・冷却用などの空気を導くパイプ。


*2:エネルギー損失

 エネルギー伝送上での損失。


*3:発光シート

 化学反応によってシート全体が面発光するシート型簡易照明。

 電極に通電することにより発光を始める。

 発光時間は72時間程度であるため仮照明として使用される。

 裏面が粘着加工されており、張り付ける事が可能。

 薄く柔軟なため、携帯にも適している。


*4:滅菌中和ルーム

 パンデミック(流行病)や有毒ガスなどに汚染された区画は

 隔離されるが、その場合に隔壁前に設置される専用部屋。

 有毒ガスの中和、防護服の洗浄・消毒を行う。

 中和・消毒が終了しない限り先へは進めない。



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