パインの手記
この部分は、魔獣の壺のネタバレを含んでいます。
宇宙歴20年、3月4日、第10番艦アディスの個室
アディスとエリスは『魔獣の壺』という本に
一通り目を通した後、5人を呼び出した。
エリー:「何かわかったの?」
アディス:「あぁ、まずは話を聞いてくれ。」
そしてアディスはその物語を簡潔に話した。
---
遥か昔、人間は魔獣と戦っていた。
魔獣は人間よりも遥かに強く、人間は劣勢だった。
後に巫女と呼ばれる人間達が魔獣の王と戦うために、
幻獣と呼ばれる者達と契約を結んだ。
幻獣は魔獣に匹敵する強さを持っていたため、
少しずつではあるが、戦況は優位に傾いて行った。
そして魔獣の王との戦いになった。
幻獣は魔獣の王を魔獣界に封じ込める事に成功した。
この時幻獣と巫女達は魔獣の王が復活することを予想していた。
幻獣と巫女達は復活を防ぐための策を導き出した。
しかしそれには途方もない時間が必要だった。
それを実行するために巫女を未来に送る事を考えた。
そして、巫女と未来の人間にそれを託した。
その後、邪な人間によって、魔獣の王は繰り返し復活を続けた。
そのたびに巫女と英雄達は魔獣の王を追い返し続けた。
そして、ついにその時がやってきた。
巫女達の策が熟したんだ。
そして巫女と英雄達は魔獣の王を封じ込める事に成功した。
---
アディス:「簡単に説明するとこんな話だ。」
エリー:「それで、タイトルの『魔獣の壺』っていうのは、
どこにでてくるの?」
アディス:「『魔獣の壺』というのは魔獣を召喚する壷。」
エリー:「魔獣を召喚する壺?」
アディス:「魔法陣が書かれた壺で魔獣の住む世界と
この世界を繋ぐことが出来る。
壷を使って魔獣を呼び出すんだ。」
エリー:「魔獣の住む世界と繋ぐ。
魔法陣。
まさかそれって、
エネルギー生成装置じゃないの!?」
アディス:「やはり、そう思うか。
そう名言されているわけじゃ無いが、
モリー博士の言った小さな扉という言葉は、
それを示しているとしか思えない。」
ドルス:「だとしたら、最悪だな。
あれはコールドスリープ装置を動かすためには
絶対に必要だ。
停止する訳にはいかない。」
ヴィヴィアン:「そうね、
さすがに全員起こすのは不可能だし、、、。」
アナキン:「そうだよな、
100万人を起こすなんて不可能だよな。」
アディス:「皆の想像通り、あの獣はたぶん魔獣だろう。
そして魔獣は火に耐性を持っている。」
アナキン:「火に耐性!!
レーザー銃は熱エネルギーで攻撃するんだ。
もしかして、レーザーは効果がないのか?」
アディス:「その可能性は十分あり得る。」
アナキン:「だとしたら、どう戦えば?」
全員:「・・・」
しばらく、沈黙が続いた。
沈黙を破ったのはアディスだった。
アディス:「話を進めよう。
ほかにも色々と分かったことがある。
まずは、転移の魔法陣だ。」
エリー:「それなら、私達が呼んでいる本に載っていたわ。
転送の魔法陣から転受の魔法陣に移動することが
できる魔法陣ね。」
アナキン:「移動って、まさか物質転移なのか?」
エリー:「理屈はわからないけど、そんな感じね。」
アナキン:「・・・」
アディス:「その転移の魔法陣なんだが、魔獣も使うらしい。」
ドルス:「それはやっかいだな。
いつでも奇襲を受ける可能性があるということか。」
アディス:「そうなんですよ。」
エリー:「それで、魔獣の王とやらは、いつ現れるの?」
アディス:「分からない。
ただ、物語の中では、魔獣の王を召喚できる
魔獣の壺は特別なもののようだった。
だから、現れないかもしれない。」
エリー:「あらそう、残念ね。」
アディス:「・・・」
ヴィヴィアン:「ところで召喚って、
その魔獣はどこから来るの?」
アディス:「まず、我々のいるこの世界だけど、
人間界と言うらしい。
そして魔獣は魔獣界というところにいる。
この2つを繋ぐのが召喚魔法陣らしい。」
ヴィヴィアン:「私達もその魔獣界とやらに行けるの?」
アディス:「いや、魔獣の壺は一方通行みたいだ。」
ヴィヴィアン:「じゃあ、
モリー博士が作ろうとしていたMSRGDは?」
アディス:「あれは、相互通行が可能な扉みたいだ。」
ヴィヴィアン:「それってまずくない?」
アディス:「あぁ、だが我々には為す術がない。」
ヴィヴィアン:「確かにそうよね。」
アディス:「話を続けよう。
魔獣の王を倒す為に使われた物がある。
まず、トールの剣。
渦雷の剣とも呼ばれるらしい。
たぶん、この剣の事だ。」
アディスは剣を手に取り持ち上げた。
ドルス:「その剣であの獣、いや魔獣を倒せるのか?」
アディス:「そのようですね。
この剣にはある力が備わっているようです。」
アナキン:「どんな力です?」
アディス:「電撃です。」
ドルス:「電撃が魔獣の弱点なのか?」
アディス:「いえ、魔獣の詠唱を止めるようです。」
ドルス:「なるほど。
魔法というのは、詠唱が必要で、
途中で止めると効果がないという訳か。
ならば、ショックバトンも有効かもしれんな。」
アディス:「その通りです。
試してみないと分からないですが、
ショックバトンで止められるかもしれません。」
ドルス:「やってみないと分からないと言う事か、、、。」
アディスは剣を机に置くと、水差を取った。
アディス:「次に大河の水差。
この水は解呪の効果があるらしい。」
ヴィヴィアン:「解呪って何ですか?」
アディス:「呪いの効果を解く力ですね。」
アナキン:「呪いって、正にホラーだな。
それで、どんな呪いなんですか?」
アディス:「本に載っていたのは、石化。」
アナキン:「呪われると石になるって、あれですか?」
ヴィヴィアン:「まさか、信じられない。」
アナキン:「正直な話、自分も信じられません。
しかし、もし実在するなら、
これが無ければ行き詰まります。」
ヴィヴィアン:「確かにそうよね。
他の船が心配だわ。」
ドルス:「確かにそうだな。」
アディスは剣を机に置くと、2つの指輪を指さした。
アディス:「次はこの赤と青の指輪。
これは、条件が特殊なので後にします。
あと必要なのは、幻獣イフリート、幻獣シヴァ。
そして、ベンヌ。
これらが必要なようだ。」
エリー:「幻獣?
そんなもの何処にいるのよ。」
アディス:「まあ、最後まで聞いてくれ。
巫女は未来に送られたと言っただろ。
あれの意味は、コールドスリープと同じで、
未来に目覚める為なんだ。
それを実現するのに幻獣シヴァが必要となる。
そして、4人の赤ん坊が眠っていた魔法陣。」
エリー:「どういう事?
もしかして、私達は巫女の子孫なの?」
アディス:「そうなるだろうな。
だからゼロスは『最後の希望』と言ったんだ。
そして、これはあくまで予想だけど、
4人の内、2人の中に幻獣イフリートと
幻獣シヴァがいるはずだ。」
エリー:「まさか、、、。」
アディス:「モリー博士の中にいるゼロスと同じだよ。
どうやって目覚めさせるのかはわからないけど、
ここに書かれている事が事実であるならば、
そう言う事になるはずだ。」
エリー:「ベンヌは?」
アディス:「ベンヌは、元々幻獣だったんだが、
人間の為に幻獣をやめたんだ。」
ヴィヴィアン:「幻獣ってやめられるんですね。」
アディス:「そうみたいだ。
ベンヌは永遠の命を捨てて肉体を持ったらしい。
それが幻獣を捨てる事に繋がるらしいけど、
良く分からなかった。」
エリー:「幻獣って、幻の獣って書くのよね。
だとしたら、幻獣って魂みたいなものなの?」
アディス:「どうだろう?
物語の中では、精神体って呼んでたな。」
エリス:「私は魂って置き換えて読んでたけどね。」
ヴィヴィアン:「永遠の命って、不死ってこと?」
アディス:「肉体は滅びても、魂は死なずって事だと思う。」
ヴィヴィアン:「まさか、魔獣も同じとか言わないわよね?」
アディス:「いや、そのまさかだ。」
ヴィヴィアン:「・・・」
アディス:「幻獣も魔獣も同じ精神体で、ただ色が違うだけだと
書いてあった。」
エリー:「色が違うか。
なるほどね。
人間も元は同じ精神体って書いてなかった?」
アディス:「良く分かったな。
書いてあったよ。」
エリー:「全て同じ精神体で、色が違うだけってことでしょ。
人間は、ベンヌの様に永遠の命を捨てて肉体を得た。
よくありそうな、神話よね。」
アディス:「あぁ、そうだよな。
それで、赤と青の指輪の話に戻るけど、
まず魔法やトールの剣の電撃や幻獣を
呼び出すのには精神体を使うらしい。」
エリー:「付け加えておくけど、魔法を使う時にも使うわよ。」
ヴィヴィアン:「それって命を削るって意味ですか?」
アディス:「いや。
精神体というのは、人の身体の中でゆっくりと
作られているらしい。
あと、食事からも得られるらしいので、
命を削るのとは少し違うと思う。
この辺りはあまり詳しく書かれていなかったんだ。
それで、ベンヌと契約した者が赤の指輪、
シヴァと契約した者やトールの剣を使う者が
青の指輪をつける。
そうすると、ベンヌから赤へ、そして赤から青に
精神体が送られるらしい。」
アナキン:「中継器*1みたいなものですか?」
アディス:「増幅はしないけど、中継器みたいな物だよ。
それで、ベンヌと契約していない場合は、
危険だから使うなって書かれていた。」
ヴィヴィアン:「危険って?」
アディス:「死を伴う場合があるって書いてあった。」
ヴィヴィアン:「・・・」
エリス:「それじゃあ、使えないじゃない。」
アディス:「あぁ、ベンヌと契約するまでは使わないように
するしかない。」
しばらくの間沈黙が続いた。
エリス:「ところで、この箱は?」
アディス:「そう、その箱が謎なんだよな。
それで、色々と考えたんだけど、
この物語にはあと一つ重要なものがあるんだ。
それは、巫女の神殿。」
エリー:「巫女の神殿?」
アディス:「物語の中で巫女が言っている。
『巫女の神殿は巫女の居所であり、
幻獣、精霊、人間の契約の証でもある』と。」
エリー:「なるほど、巫女の神殿が何かわかれば、
その他の事がわかるかもしれないわね。
モリー博士から託された物のなかで、
何もわかっていないのは、この箱のみよ。
これが巫女の神殿ってことはない?」
アディス:「残念ながらそれについては書かれていなかった。
ただ、巫女の神殿は、巨大な建造物だった。
さすがに、この箱ではないだろう。」
エリー:「だとすると、これは巫女の神殿に入るための鍵?
だとしても、巫女の神殿に行けるのかしら?」
アディス:「んー、残念だけど、まだわからない。
あと、これについては対処が分からない。」
エリス:「まだあるんだ。」
アディス:「最も厄介な問題かもしれない。
一部の魔獣は、幻影や魅了を使うんだ。」
ヴィヴィアン:「幻影って、幻覚のことよね。
魅了っていうのは、虜にするってことよね。
どうして厄介なの?」
アディス:「幻影は自滅や同士打ちの危険があるし、
魅了は操れるってことなんだ。」
ヴィヴィアン;「つまり、味方が敵になるってことね。」
アディス:「そう、だから対策が無しだと
最悪の事態になりかねない。
んっ?
マルスどうした?」
アディスはマルスに近づき顔を覗き込む。
目の焦点が合っていなかった。
アディス:「マルスしっかりしろ。」
マルスが突然、顔を上げた。
マルス:「やぁ、初めましてかな?」
全員:「!!!」
マルス:「少しだけど、君達に力を貸そう。」
アディス:「マスル?
マルスじゃないのか?
マルスはどうした?」
マルス:「あぁ、彼ならしばらく眠ってもらっている。
危害を加えたりしないよ。
だから落ち着いて話を聞いてくれないか?」
アディスは、目を閉じて瞑想した。
しばらくの間沈黙が続く。
アディスが目を開いた時、アディスは落ち着いていた。
アディス:「貴様は誰だ?
幻獣なのか?」
マルス:「その質問にはまだ答えられないな。
ただ、幻獣ではないと言っておこう。」
アディス:「まさか、ゼロスなのか?」
マルス:「君、なかなか鋭いね。
だけど、ゼロスはまだモリー博士の中さ。」
アディス:「教えないという事か。
なら、何故我々に力を貸すんだ。」
マルス:「モリー博士への恩返しさ。」
アディス:「恩返し?」
マルス:「僕はモリー博士に世話になった。
そう、計り知れないような恩。
その恩に報いようと思う。
それが、君達に手を貸す事なんだ。」
アディス:「それで、何をしてくれるんだ?」
マルス:「君達が不安に思っている事を解決してあげよう。」
アディス:「なんだって?」
マルス:「まず、幻影、魅了だ。
君達が戦う魔獣は、それらを使わない。
使わないというよりも使えないが正しいか。
条件がそろわないんだよ。」
アディス:「条件?」
マルス:「それは教えられないな。
次に、シヴァ、イフリート、ベンヌには
いずれ会う事になるだろう。」
アディス:「何時だ?」
マルス:「残念だけど、それは僕にもわからない。
君達の行動次第さ。」
アディス:「・・・」
マルス:「あと、巫女の神殿だけど、
いずれ君達の前に現れるだろう。
最後に言っておこう。
君達には前に進む道しかないんだ。
そろそろ、時間かな。
また会える日を楽しみにしているよ。」
マルスは、全身の力が抜けたように崩れ落ちた。
アディスがそれを支えた。
マルス:「あっ、アディスか。」
アディス:「大丈夫か?」
マルス:「あぁ、なんともない。
すまない、寝てしまったようだ。
ところで、どうした?
皆、素っ頓狂*2な顔して。」
その時、全員のブレスレット端末が同時に鳴った。
それはクーカ艦長からの呼び出しだった。
アディス:「いや、なんでもない。
この話は、後にしよう。」
7人は話し合いの結果、ここでの事はクーカ艦長には、
まだ話さない事にした。
ただの物語であり、事実と証明することが出来ないからだ。
7人は話を中断し、艦長室へと向かった。
*1:中継器
遠距離に電気通信信号を送る場合、信号の減衰が発生する。
途中に増幅器を設置することにより、
より遠くに信号を送ることが可能となる。
途中に設置する装置を中継器という。
*2:素っ頓狂
ひどく調子はずれで、まぬけなさま。




