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続魔獣の壺  作者: 夢之中
15/28

パインの手記

この部分は、魔獣の壺のネタバレを含んでいます。

宇宙歴20年、3月4日、第10番艦アディスの個室


アディスとエリスは『魔獣の壺』という本に

一通り目を通した後、5人を呼び出した。

エリー:「何かわかったの?」

アディス:「あぁ、まずは話を聞いてくれ。」

そしてアディスはその物語を簡潔に話した。


---

遥か昔、人間は魔獣と戦っていた。

魔獣は人間よりも遥かに強く、人間は劣勢だった。

後に巫女と呼ばれる人間達が魔獣の王と戦うために、

幻獣と呼ばれる者達と契約を結んだ。

幻獣は魔獣に匹敵する強さを持っていたため、

少しずつではあるが、戦況は優位に傾いて行った。

そして魔獣の王との戦いになった。

幻獣は魔獣の王を魔獣界に封じ込める事に成功した。

この時幻獣と巫女達は魔獣の王が復活することを予想していた。

幻獣と巫女達は復活を防ぐための策を導き出した。

しかしそれには途方もない時間が必要だった。

それを実行するために巫女を未来に送る事を考えた。

そして、巫女と未来の人間にそれを託した。

その後、邪な人間によって、魔獣の王は繰り返し復活を続けた。

そのたびに巫女と英雄達は魔獣の王を追い返し続けた。

そして、ついにその時がやってきた。

巫女達の策が熟したんだ。

そして巫女と英雄達は魔獣の王を封じ込める事に成功した。

---


アディス:「簡単に説明するとこんな話だ。」

エリー:「それで、タイトルの『魔獣の壺』っていうのは、

    どこにでてくるの?」

アディス:「『魔獣の壺』というのは魔獣を召喚する壷。」

エリー:「魔獣を召喚する壺?」

アディス:「魔法陣が書かれた壺で魔獣の住む世界と

     この世界を繋ぐことが出来る。

     壷を使って魔獣を呼び出すんだ。」

エリー:「魔獣の住む世界と繋ぐ。

    魔法陣。

    まさかそれって、

    エネルギー生成装置じゃないの!?」

アディス:「やはり、そう思うか。

     そう名言されているわけじゃ無いが、

     モリー博士の言った小さな扉という言葉は、

     それを示しているとしか思えない。」

ドルス:「だとしたら、最悪だな。

    あれはコールドスリープ装置を動かすためには

    絶対に必要だ。

    停止する訳にはいかない。」

ヴィヴィアン:「そうね、

       さすがに全員起こすのは不可能だし、、、。」

アナキン:「そうだよな、

     100万人を起こすなんて不可能だよな。」

アディス:「皆の想像通り、あの獣はたぶん魔獣だろう。

     そして魔獣は火に耐性を持っている。」

アナキン:「火に耐性!!

     レーザー銃は熱エネルギーで攻撃するんだ。

     もしかして、レーザーは効果がないのか?」

アディス:「その可能性は十分あり得る。」

アナキン:「だとしたら、どう戦えば?」

全員:「・・・」

しばらく、沈黙が続いた。


沈黙を破ったのはアディスだった。

アディス:「話を進めよう。

     ほかにも色々と分かったことがある。

     まずは、転移の魔法陣だ。」

エリー:「それなら、私達が呼んでいる本に載っていたわ。

    転送の魔法陣から転受の魔法陣に移動することが

    できる魔法陣ね。」

アナキン:「移動って、まさか物質転移なのか?」

エリー:「理屈はわからないけど、そんな感じね。」

アナキン:「・・・」

アディス:「その転移の魔法陣なんだが、魔獣も使うらしい。」

ドルス:「それはやっかいだな。

    いつでも奇襲を受ける可能性があるということか。」

アディス:「そうなんですよ。」

エリー:「それで、魔獣の王とやらは、いつ現れるの?」

アディス:「分からない。

     ただ、物語の中では、魔獣の王を召喚できる

     魔獣の壺は特別なもののようだった。

     だから、現れないかもしれない。」

エリー:「あらそう、残念ね。」

アディス:「・・・」

ヴィヴィアン:「ところで召喚って、

       その魔獣はどこから来るの?」

アディス:「まず、我々のいるこの世界だけど、

     人間界と言うらしい。

     そして魔獣は魔獣界というところにいる。

     この2つを繋ぐのが召喚魔法陣らしい。」

ヴィヴィアン:「私達もその魔獣界とやらに行けるの?」

アディス:「いや、魔獣の壺は一方通行みたいだ。」

ヴィヴィアン:「じゃあ、

       モリー博士が作ろうとしていたMSRGDは?」

アディス:「あれは、相互通行が可能な扉みたいだ。」

ヴィヴィアン:「それってまずくない?」

アディス:「あぁ、だが我々には為す術がない。」

ヴィヴィアン:「確かにそうよね。」

アディス:「話を続けよう。

     魔獣の王を倒す為に使われた物がある。

     まず、トールの(つるぎ)

     渦雷(うずらい)(けん)とも呼ばれるらしい。

     たぶん、この剣の事だ。」

アディスは剣を手に取り持ち上げた。

ドルス:「その剣であの獣、いや魔獣を倒せるのか?」

アディス:「そのようですね。

     この剣にはある力が備わっているようです。」

アナキン:「どんな力です?」

アディス:「電撃です。」

ドルス:「電撃が魔獣の弱点なのか?」

アディス:「いえ、魔獣の詠唱を止めるようです。」

ドルス:「なるほど。

    魔法というのは、詠唱が必要で、

    途中で止めると効果がないという訳か。

    ならば、ショックバトンも有効かもしれんな。」

アディス:「その通りです。

     試してみないと分からないですが、

     ショックバトンで止められるかもしれません。」

ドルス:「やってみないと分からないと言う事か、、、。」

アディスは剣を机に置くと、水差を取った。

アディス:「次に大河の水差。

     この水は解呪の効果があるらしい。」

ヴィヴィアン:「解呪って何ですか?」

アディス:「呪いの効果を解く力ですね。」

アナキン:「呪いって、正にホラーだな。

     それで、どんな呪いなんですか?」

アディス:「本に載っていたのは、石化。」

アナキン:「呪われると石になるって、あれですか?」

ヴィヴィアン:「まさか、信じられない。」

アナキン:「正直な話、自分も信じられません。

     しかし、もし実在するなら、

     これが無ければ行き詰まります。」

ヴィヴィアン:「確かにそうよね。

       他の船が心配だわ。」

ドルス:「確かにそうだな。」

アディスは剣を机に置くと、2つの指輪を指さした。

アディス:「次はこの赤と青の指輪。

     これは、条件が特殊なので後にします。

     あと必要なのは、幻獣イフリート、幻獣シヴァ。

     そして、ベンヌ。

     これらが必要なようだ。」

エリー:「幻獣?

    そんなもの何処にいるのよ。」

アディス:「まあ、最後まで聞いてくれ。

     巫女は未来に送られたと言っただろ。

     あれの意味は、コールドスリープと同じで、

     未来に目覚める為なんだ。

     それを実現するのに幻獣シヴァが必要となる。

     そして、4人の赤ん坊が眠っていた魔法陣。」

エリー:「どういう事?

    もしかして、私達は巫女の子孫なの?」

アディス:「そうなるだろうな。

     だからゼロスは『最後の希望』と言ったんだ。

     そして、これはあくまで予想だけど、

     4人の内、2人の中に幻獣イフリートと

     幻獣シヴァがいるはずだ。」

エリー:「まさか、、、。」

アディス:「モリー博士の中にいるゼロスと同じだよ。

     どうやって目覚めさせるのかはわからないけど、

     ここに書かれている事が事実であるならば、

     そう言う事になるはずだ。」

エリー:「ベンヌは?」

アディス:「ベンヌは、元々幻獣だったんだが、

     人間の為に幻獣をやめたんだ。」

ヴィヴィアン:「幻獣ってやめられるんですね。」

アディス:「そうみたいだ。

     ベンヌは永遠の命を捨てて肉体を持ったらしい。

     それが幻獣を捨てる事に繋がるらしいけど、

     良く分からなかった。」

エリー:「幻獣って、幻の獣って書くのよね。

    だとしたら、幻獣って魂みたいなものなの?」

アディス:「どうだろう?

     物語の中では、精神体って呼んでたな。」

エリス:「私は魂って置き換えて読んでたけどね。」

ヴィヴィアン:「永遠の命って、不死ってこと?」

アディス:「肉体は滅びても、魂は死なずって事だと思う。」

ヴィヴィアン:「まさか、魔獣も同じとか言わないわよね?」

アディス:「いや、そのまさかだ。」

ヴィヴィアン:「・・・」

アディス:「幻獣も魔獣も同じ精神体で、ただ色が違うだけだと

     書いてあった。」

エリー:「色が違うか。

    なるほどね。

    人間も元は同じ精神体って書いてなかった?」

アディス:「良く分かったな。

     書いてあったよ。」

エリー:「全て同じ精神体で、色が違うだけってことでしょ。

    人間は、ベンヌの様に永遠の命を捨てて肉体を得た。

    よくありそうな、神話よね。」

アディス:「あぁ、そうだよな。

     それで、赤と青の指輪の話に戻るけど、

     まず魔法やトールの剣の電撃や幻獣を

     呼び出すのには精神体を使うらしい。」

エリー:「付け加えておくけど、魔法を使う時にも使うわよ。」

ヴィヴィアン:「それって命を削るって意味ですか?」

アディス:「いや。

     精神体というのは、人の身体の中でゆっくりと

     作られているらしい。

     あと、食事からも得られるらしいので、

     命を削るのとは少し違うと思う。

     この辺りはあまり詳しく書かれていなかったんだ。

     それで、ベンヌと契約した者が赤の指輪、

     シヴァと契約した者やトールの剣を使う者が

     青の指輪をつける。

     そうすると、ベンヌから赤へ、そして赤から青に

     精神体が送られるらしい。」

アナキン:「中継器*1みたいなものですか?」

アディス:「増幅はしないけど、中継器みたいな物だよ。

     それで、ベンヌと契約していない場合は、

     危険だから使うなって書かれていた。」

ヴィヴィアン:「危険って?」

アディス:「死を伴う場合があるって書いてあった。」

ヴィヴィアン:「・・・」

エリス:「それじゃあ、使えないじゃない。」

アディス:「あぁ、ベンヌと契約するまでは使わないように

     するしかない。」

しばらくの間沈黙が続いた。

エリス:「ところで、この箱は?」

アディス:「そう、その箱が謎なんだよな。

     それで、色々と考えたんだけど、

     この物語にはあと一つ重要なものがあるんだ。

     それは、巫女の神殿。」

エリー:「巫女の神殿?」

アディス:「物語の中で巫女が言っている。

     『巫女の神殿は巫女の居所であり、

     幻獣、精霊、人間の契約の証でもある』と。」

エリー:「なるほど、巫女の神殿が何かわかれば、

    その他の事がわかるかもしれないわね。

    モリー博士から託された物のなかで、

    何もわかっていないのは、この箱のみよ。

    これが巫女の神殿ってことはない?」

アディス:「残念ながらそれについては書かれていなかった。

     ただ、巫女の神殿は、巨大な建造物だった。

     さすがに、この箱ではないだろう。」

エリー:「だとすると、これは巫女の神殿に入るための鍵?

    だとしても、巫女の神殿に行けるのかしら?」

アディス:「んー、残念だけど、まだわからない。

     あと、これについては対処が分からない。」

エリス:「まだあるんだ。」

アディス:「最も厄介な問題かもしれない。

     一部の魔獣は、幻影や魅了を使うんだ。」

ヴィヴィアン:「幻影って、幻覚のことよね。

       魅了っていうのは、虜にするってことよね。

       どうして厄介なの?」

アディス:「幻影は自滅や同士打ちの危険があるし、

     魅了は操れるってことなんだ。」

ヴィヴィアン;「つまり、味方が敵になるってことね。」

アディス:「そう、だから対策が無しだと

     最悪の事態になりかねない。

     んっ?

     マルスどうした?」

アディスはマルスに近づき顔を覗き込む。

目の焦点が合っていなかった。


アディス:「マルスしっかりしろ。」


マルスが突然、顔を上げた。

マルス:「やぁ、初めましてかな?」

全員:「!!!」

マルス:「少しだけど、君達に力を貸そう。」

アディス:「マスル?

     マルスじゃないのか?

     マルスはどうした?」

マルス:「あぁ、彼ならしばらく眠ってもらっている。

    危害を加えたりしないよ。

    だから落ち着いて話を聞いてくれないか?」

アディスは、目を閉じて瞑想した。

しばらくの間沈黙が続く。

アディスが目を開いた時、アディスは落ち着いていた。

アディス:「貴様は誰だ?

     幻獣なのか?」

マルス:「その質問にはまだ答えられないな。

    ただ、幻獣ではないと言っておこう。」

アディス:「まさか、ゼロスなのか?」

マルス:「君、なかなか鋭いね。

    だけど、ゼロスはまだモリー博士の中さ。」

アディス:「教えないという事か。

     なら、何故我々に力を貸すんだ。」

マルス:「モリー博士への恩返しさ。」

アディス:「恩返し?」

マルス:「僕はモリー博士に世話になった。

    そう、計り知れないような恩。

    その恩に報いようと思う。

    それが、君達に手を貸す事なんだ。」

アディス:「それで、何をしてくれるんだ?」

マルス:「君達が不安に思っている事を解決してあげよう。」

アディス:「なんだって?」

マルス:「まず、幻影、魅了だ。

    君達が戦う魔獣は、それらを使わない。

    使わないというよりも使えないが正しいか。

    条件がそろわないんだよ。」

アディス:「条件?」

マルス:「それは教えられないな。

    次に、シヴァ、イフリート、ベンヌには

    いずれ会う事になるだろう。」

アディス:「何時だ?」

マルス:「残念だけど、それは僕にもわからない。

    君達の行動次第さ。」

アディス:「・・・」

マルス:「あと、巫女の神殿だけど、

    いずれ君達の前に現れるだろう。

    最後に言っておこう。

    君達には前に進む道しかないんだ。

    そろそろ、時間かな。

    また会える日を楽しみにしているよ。」

マルスは、全身の力が抜けたように崩れ落ちた。

アディスがそれを支えた。


マルス:「あっ、アディスか。」

アディス:「大丈夫か?」

マルス:「あぁ、なんともない。

    すまない、寝てしまったようだ。

    ところで、どうした?

    皆、素っ頓狂*2な顔して。」

その時、全員のブレスレット端末が同時に鳴った。

それはクーカ艦長からの呼び出しだった。

アディス:「いや、なんでもない。

     この話は、後にしよう。」


7人は話し合いの結果、ここでの事はクーカ艦長には、

まだ話さない事にした。

ただの物語であり、事実と証明することが出来ないからだ。

7人は話を中断し、艦長室へと向かった。



*1:中継器

 遠距離に電気通信信号を送る場合、信号の減衰が発生する。

 途中に増幅器を設置することにより、

 より遠くに信号を送ることが可能となる。

 途中に設置する装置を中継器という。


*2:素っ頓狂

 ひどく調子はずれで、まぬけなさま。


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