箱の中身
宇宙歴20年、3月3日、第10番艦アディスの個室
エリー:「箱の中身も気になるけど、忘れないうちに
モリー博士の話の内容について話さない?
いくつか気になる点があるのよね。」
全員がこれに同意した。
エリー:「まず、モリー博士の中にいるゼロスという意識。
マルスが寝言で言っていた名前。
これが同一の名前だとしたら、マルス本人に自覚が
無いかもしれないけれど、知っている可能性も
あるわね。
それに、島での生活の中で知ったということは、
遺跡や老人に何か関係があるのかもしれない。」
マルス:「それって元々モリー博士の中にいたわけでは無く、
島の生活のなかで作られたって言ってる?」
エリー:「そう。
島での出来事の中にゼロスが生まれるきっかけが
有ったんじゃないかしら?」
アディス:「なるほど。」
エリー:「次に、『精神的な接触に失敗』というところ。
何故、精神的とわざわざ付け加えたのかしら?
『接触に失敗』、でもよかったと思うんだけど。」
マルス:「関係ないかもしれないが、精神の話なら
モリー博士から聞いた事がある。」
全員:「!!」
マルス:「この10番艦の移住者の人選を行っていたのは
知っているだろう。
その時の方法が特殊だったんだ。」
エリー:「特殊?」
マルス:「ホールに人を集め、それを見て人選していたんだ。」
エリー:「えっ、人を見て決めていたの?」
マルス:「あぁ、そうなんだ。
そこで、何を見て決めているのかと聞いた。
そうしたら、色を見ているというんだ。
全く驚いたよ。
外見で決めているのかと言い寄った。
そうしたら、外見ではない精神の色を見ていると
言ったんだ。」
エリー:「精神の色?」
マルス:「精神の色が白に近いか、黒に近いかを見ている。
目で見るのではない心でみろ。
そう言ったんだ。
続けて目を閉じろと言われた。
最初それが何か分からなかったが、
とりあえず目を閉じた。
モリー博士の手が両目の上に覆いかぶさるのを感じた。
そうしたら、目の前に人の形が見えたんだ。
白い影と黒い影。
邪な考えを持つ者は黒く見える。
そう言っていた。」
エリー:「・・・」
ドルス:「要するに善人だけ選別していたって意味か?」
マルス:「断言はできないが、たぶんそうだろう。」
ドルス:「そんなことまで分かるのか。
悪人にとっては脅威だな。」
エリー:「だとすると、
異世界人は精神の色を見る力を持っている
という事になるわけね。
それをモリー博士は知っていた。」
エリス:「それ、しっくりとこない。
モリー博士ではなくて
ゼロスが知っていたってことじゃない?」
アディス:「なるほど、ゼロスか。
ゼロスがモリー博士を使って実行している。
たしかにそう考えた方が良さそうな気もするな。」
エリー:「確かにそうね。
このような事態を引き起こしながら助け舟を出す。
行動に一貫性がないことからも、
モリー博士自身は我々を応援している。
そんなところかしら。」
モリー博士の言葉については、この後もしばらく続けられた。
そして対象が無くなると、彼らは箱を開ける事にした。
最初にマルスの箱が開けられた。
中には小さな壺と本が入っていた。
マルスが壺の蓋を開ける。
中身はキラキラと輝く白い粉末だった。
アナキン:「なんだそれは?」
マルスはそれが何かを知っていた。
マルス:「魔晶石の粉末*1だ。
それもこんなに沢山*2。」
アナキン:「魔晶石の粉末?」
マルス:「これを使って魔法陣を描くんだ。」
エリー:「他には?」
マルス:「本が入っている。」
その本の表紙には複数の不思議な図形と魔法陣が描かれていた。
マルスは本を手に取り、表紙の文字(?)を読み上げた。
マルス:「『初歩の魔法と魔法陣』だとさ。」
ヴィヴィアン:「その変な図形が読めるんですね。」
マルス:「変な図形?」
エリス:「どれどれ。
ん?普通の文字じゃない。」
アナキン:「えっ、図形だろ。」
ドルス:「私にも図形にしか見えないな。」
エリー:「私は文字に見える。」
アディス:「図形に見える人は?」
調べるとモリーの弟子の4人には文字に見え、
他の者には図形にみえるようだった。
バトラーに確認したところ図形と判断した。
結局魔法によるものではないかと結論付けられ、
先に進むことになった。
これまでのやり取りを見ていたヴィヴィアンは呟いた。
ヴィヴィアン:「少し安心した。」
エリー:「えっ、何がです?」
ヴィヴィアン:「魔法の全てを知っているのかと思っていた。
でも、そうでもないという事が判ったから。」
次に開いたのは、アディスの箱だった。
他の箱とは異なり長細い箱だ。
箱の中には剣、赤い宝石の付いた指輪、1冊の本が入っていた。
アディス:「まさか、この剣で戦えと言うのか?」
エリス:「そのまさかじゃないかな?
小さい頃から、モリー博士に剣術習ってたよね。」
アディス:「確かにな。
最初は気にしなかったが、途中から銃の時代に
剣術習って何の意味があるんだって思ってた時も
あったな。
博士は精神修業と言ってたけど、これを使いこなせと
言うのなら話は分かる。」
指輪については特に不思議なところは無かった。
エリー:「その本は?」
先ほどの本と同様に複数図形と魔法陣が描かれている。
アディスは本を取り出し、パラパラとめくる。
アディス:「『魔獣の壺』というタイトルだな。
著者はパインだって。」
音声:「パインと言う名前は特定地域の伝説として
記録があります。」
エリー:「どんな内容?」
音声:「繰り返される魔獣王との戦いをパイン、アリス、
シェリルという名の巫女とディック、トーマス、ソニア
という英雄が終止符を打つという伝説です。
内容からはファンタジー小説ではないかと予想されます。」
エリー:「ちょっと見せて。」
エリーが本を取り上げ、パラパラとめくる。
エリー:「これ、読めるの?
だとすると、さっきの本と同じようね。」
この本が読めたのはアディスとエリスだけだった。
次に開いたのは、エリスの箱だった。
中には注ぎ口の付いた瓶ような物と青い宝石の付いた指輪が
入っていた。
エリス:「これは瓶なのかな?」
音声:「これは水差と呼ばれる容器です。
中に液体を入れておき、他の器に液体を注ぐのに
利用します。」
エリス:「へー、おもしろい。
中に液体が入ってるみたいね。
何がはいってるか出してみよう。
コップだして。」
バトラーの成分分析の結果、中の液体は只の水だと判明した。
それから5分後、机の上には水の入った十数個のコップが
ならんでいた。
エリス:「んっもー、なんなのこれ。
この水差って一体どれだけの水が入ってるの?」
音声:「確認の為、アロイドを派遣します。」
直ぐにアロイドが部屋へと入ってきた。
アロイドは水差を持つとコップに水を注いだ。
音声:「水を注ぐ前後で水差の重量の変動はありません。
本現象は解析不能です。」
ドルス:「これはすごいな。」
ヴィヴィアン:「どういう仕組み?」
アナキン:「原理は分からないが、無限に水が湧き出るのか?」
エリー:「どうやらそのようね。」
アディス:「これが魔法の力か。
この水を何に使うのか分からないが、
モリー博士が託したということは、
何か意味があるのだろう。」
青い指輪は、赤い指輪と同様に普通の指輪の様に見えた。
次に開けたのはエリーの箱だった。
中には四角い箱が入っていた。
継ぎ目の無い四角い箱は7人を最も悩ませた。
これが何なのか?
何に使うのか?
全く分からなかった。
結局クーカ艦長から報告催促によって結論が出ずに、
話し合いは一時中断された。
アディス、エリスは、パインの本を読み、
マルス、エリーは、初歩の魔法の本を読む。
他の者は、水差と箱を調べるという事に決まった。
アディスは、クーカ艦長の元へ向かうと、
まだ時間がかかることを告げ、自室へと戻った。
中に入るとエリスが本を読んでいた。
アディス:「何かわかったか?」
エリス:「これって、ファンタジー小説だよね?」
アディス:「んー、どうだろう?
モリー博士がわざわざ託したってことは、
事実なのかもしれないしな。」
エリス:「だとしたら、とんでもないよ。」
アディス:「どうとんでもないんだ?」
エリス:「とにかく読んでみて。」
アディス:「あぁ、わかった。
読んでみるよ。」
アディスはエリスの見守る中、本を読み進めた。
*1:魔晶石の粉末
魔法を発動するための力の源となる粉。
この粉末をインクに混ぜて魔法陣を描く。
この粉を科学的に分析するとどのような結果がでるのか
興味津々だ。
*2:こんなに沢山
魔晶石を発見したという報告はない。
ただの水晶と思われているのかもしれないが、
かなり貴重な鉱物のようである。
*3:テレスコープ
いわゆる望遠鏡である。
デジタル解析機能を内蔵しており、ズームはもちろん
対象までの距離角度、自動追尾等様々な機能を内蔵している。




