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続魔獣の壺  作者: 夢之中
13/28

箱の中身

宇宙歴20年、3月3日、第10番艦アディスの個室


エリー:「箱の中身も気になるけど、忘れないうちに

    モリー博士の話の内容について話さない?

    いくつか気になる点があるのよね。」

全員がこれに同意した。


エリー:「まず、モリー博士の中にいるゼロスという意識。

    マルスが寝言で言っていた名前。

    これが同一の名前だとしたら、マルス本人に自覚が

    無いかもしれないけれど、知っている可能性も

    あるわね。

    それに、島での生活の中で知ったということは、

    遺跡や老人に何か関係があるのかもしれない。」

マルス:「それって元々モリー博士の中にいたわけでは無く、

    島の生活のなかで作られたって言ってる?」

エリー:「そう。

    島での出来事の中にゼロスが生まれるきっかけが

    有ったんじゃないかしら?」

アディス:「なるほど。」

エリー:「次に、『精神的な接触に失敗』というところ。

    何故、精神的とわざわざ付け加えたのかしら?

    『接触に失敗』、でもよかったと思うんだけど。」

マルス:「関係ないかもしれないが、精神の話なら

    モリー博士から聞いた事がある。」

全員:「!!」

マルス:「この10番艦の移住者の人選を行っていたのは

    知っているだろう。

    その時の方法が特殊だったんだ。」

エリー:「特殊?」

マルス:「ホールに人を集め、それを見て人選していたんだ。」

エリー:「えっ、人を見て決めていたの?」

マルス:「あぁ、そうなんだ。

    そこで、何を見て決めているのかと聞いた。

    そうしたら、色を見ているというんだ。

    全く驚いたよ。

    外見で決めているのかと言い寄った。

    そうしたら、外見ではない精神の色を見ていると

    言ったんだ。」

エリー:「精神の色?」

マルス:「精神の色が白に近いか、黒に近いかを見ている。

    目で見るのではない心でみろ。

    そう言ったんだ。

    続けて目を閉じろと言われた。

    最初それが何か分からなかったが、

    とりあえず目を閉じた。

    モリー博士の手が両目の上に覆いかぶさるのを感じた。

    そうしたら、目の前に人の形が見えたんだ。

    白い影と黒い影。

    (よこしま)な考えを持つ者は黒く見える。

    そう言っていた。」

エリー:「・・・」

ドルス:「要するに善人だけ選別していたって意味か?」

マルス:「断言はできないが、たぶんそうだろう。」

ドルス:「そんなことまで分かるのか。

    悪人にとっては脅威だな。」

エリー:「だとすると、

    異世界人は精神の色を見る力を持っている

    という事になるわけね。

    それをモリー博士は知っていた。」

エリス:「それ、しっくりとこない。

    モリー博士ではなくて

    ゼロスが知っていたってことじゃない?」

アディス:「なるほど、ゼロスか。

     ゼロスがモリー博士を使って実行している。

     たしかにそう考えた方が良さそうな気もするな。」

エリー:「確かにそうね。

    このような事態を引き起こしながら助け舟を出す。

    行動に一貫性がないことからも、

    モリー博士自身は我々を応援している。

    そんなところかしら。」

モリー博士の言葉については、この後もしばらく続けられた。

そして対象が無くなると、彼らは箱を開ける事にした。


最初にマルスの箱が開けられた。

中には小さな壺と本が入っていた。

マルスが壺の蓋を開ける。

中身はキラキラと輝く白い粉末だった。


アナキン:「なんだそれは?」

マルスはそれが何かを知っていた。

マルス:「魔晶石の粉末*1だ。

    それもこんなに沢山*2。」

アナキン:「魔晶石の粉末?」

マルス:「これを使って魔法陣を描くんだ。」

エリー:「他には?」

マルス:「本が入っている。」

その本の表紙には複数の不思議な図形と魔法陣が描かれていた。

マルスは本を手に取り、表紙の文字(?)を読み上げた。

マルス:「『初歩の魔法と魔法陣』だとさ。」

ヴィヴィアン:「その変な図形が読めるんですね。」

マルス:「変な図形?」

エリス:「どれどれ。

    ん?普通の文字じゃない。」

アナキン:「えっ、図形だろ。」

ドルス:「私にも図形にしか見えないな。」

エリー:「私は文字に見える。」

アディス:「図形に見える人は?」

調べるとモリーの弟子の4人には文字に見え、

他の者には図形にみえるようだった。

バトラーに確認したところ図形と判断した。

結局魔法によるものではないかと結論付けられ、

先に進むことになった。

これまでのやり取りを見ていたヴィヴィアンは呟いた。

ヴィヴィアン:「少し安心した。」

エリー:「えっ、何がです?」

ヴィヴィアン:「魔法の全てを知っているのかと思っていた。

       でも、そうでもないという事が判ったから。」


次に開いたのは、アディスの箱だった。

他の箱とは異なり長細い箱だ。

箱の中には剣、赤い宝石の付いた指輪、1冊の本が入っていた。

アディス:「まさか、この剣で戦えと言うのか?」

エリス:「そのまさかじゃないかな?

    小さい頃から、モリー博士に剣術習ってたよね。」

アディス:「確かにな。

     最初は気にしなかったが、途中から銃の時代に

     剣術習って何の意味があるんだって思ってた時も

     あったな。

     博士は精神修業と言ってたけど、これを使いこなせと

     言うのなら話は分かる。」

指輪については特に不思議なところは無かった。

エリー:「その本は?」

先ほどの本と同様に複数図形と魔法陣が描かれている。

アディスは本を取り出し、パラパラとめくる。

アディス:「『魔獣の壺』というタイトルだな。

     著者はパインだって。」

音声:「パインと言う名前は特定地域の伝説として

   記録があります。」

エリー:「どんな内容?」

音声:「繰り返される魔獣王との戦いをパイン、アリス、

   シェリルという名の巫女とディック、トーマス、ソニア

   という英雄が終止符を打つという伝説です。

   内容からはファンタジー小説ではないかと予想されます。」

エリー:「ちょっと見せて。」

エリーが本を取り上げ、パラパラとめくる。

エリー:「これ、読めるの?

    だとすると、さっきの本と同じようね。」

この本が読めたのはアディスとエリスだけだった。


次に開いたのは、エリスの箱だった。

中には注ぎ口の付いた瓶ような物と青い宝石の付いた指輪が

入っていた。

エリス:「これは瓶なのかな?」

音声:「これは水差と呼ばれる容器です。

   中に液体を入れておき、他の器に液体を注ぐのに

   利用します。」

エリス:「へー、おもしろい。

    中に液体が入ってるみたいね。

    何がはいってるか出してみよう。

    コップだして。」

バトラーの成分分析の結果、中の液体は只の水だと判明した。

それから5分後、机の上には水の入った十数個のコップが

ならんでいた。

エリス:「んっもー、なんなのこれ。

    この水差って一体どれだけの水が入ってるの?」

音声:「確認の為、アロイドを派遣します。」

直ぐにアロイドが部屋へと入ってきた。

アロイドは水差を持つとコップに水を注いだ。

音声:「水を注ぐ前後で水差の重量の変動はありません。

   本現象は解析不能です。」

ドルス:「これはすごいな。」

ヴィヴィアン:「どういう仕組み?」

アナキン:「原理は分からないが、無限に水が湧き出るのか?」

エリー:「どうやらそのようね。」

アディス:「これが魔法の力か。

     この水を何に使うのか分からないが、

     モリー博士が託したということは、

     何か意味があるのだろう。」

青い指輪は、赤い指輪と同様に普通の指輪の様に見えた。


次に開けたのはエリーの箱だった。

中には四角い箱が入っていた。

継ぎ目の無い四角い箱は7人を最も悩ませた。

これが何なのか?

何に使うのか?

全く分からなかった。

結局クーカ艦長から報告催促によって結論が出ずに、

話し合いは一時中断された。

アディス、エリスは、パインの本を読み、

マルス、エリーは、初歩の魔法の本を読む。

他の者は、水差と箱を調べるという事に決まった。

アディスは、クーカ艦長の元へ向かうと、

まだ時間がかかることを告げ、自室へと戻った。

中に入るとエリスが本を読んでいた。


アディス:「何かわかったか?」

エリス:「これって、ファンタジー小説だよね?」

アディス:「んー、どうだろう?

     モリー博士がわざわざ託したってことは、

     事実なのかもしれないしな。」

エリス:「だとしたら、とんでもないよ。」

アディス:「どうとんでもないんだ?」

エリス:「とにかく読んでみて。」

アディス:「あぁ、わかった。

     読んでみるよ。」

アディスはエリスの見守る中、本を読み進めた。



*1:魔晶石の粉末

 魔法を発動するための力の源となる粉。

 この粉末をインクに混ぜて魔法陣を描く。

 この粉を科学的に分析するとどのような結果がでるのか

 興味津々だ。


*2:こんなに沢山

 魔晶石を発見したという報告はない。

 ただの水晶と思われているのかもしれないが、

 かなり貴重な鉱物のようである。


*3:テレスコープ

 いわゆる望遠鏡である。

 デジタル解析機能を内蔵しており、ズームはもちろん

 対象までの距離角度、自動追尾等様々な機能を内蔵している。

 

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