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続魔獣の壺  作者: 夢之中
11/28

始まり

宇宙歴20年、3月3日、第10番艦艦長室


最初の緊急発光信号を受けてから。5時間半が経過していた。

6人はクーカ艦長の直々の呼び出しに応じて艦長室に来ていた。


クーカ:「君達に来てもらったのは、

    この映像を見てもらいたいからなんだ。」

アディス:「映像ですか?」

クーカ:「この際、君達には本当のことを話しておこう。

    パニックを恐れてまだ非公開としているが、

    1,2,3番艦に続いて4,5,6番艦からも

    緊急発光信号が発信されている。」

6人:「!!!」

クーカ:「この映像は3番艦の救助部隊が撤退しようと

    したときに射出した情報カプセル*1からのものだ。」

アディス:「撤退しようとした?」

クーカ:「残念だが、彼等が生還できたかは定かではない。

    とにかくこの映像見て意見を聞かせてほしい。」

6人はクーカの言葉に従い映像を見る事にした。

それは、1番艦で発生していた事の記録だった。


緊急発光信号が発信される3時間前。

バトラーを除いて異変に気付く者はいなかった。

エネルギー生成装置が設置されている区画*2に1体の生体反応を

検知したのだ。

バトラーは突如現れた生体反応を計器の故障と判断していた。

当然の事だった。

人間大の生物が何もない場所に現れる訳がない*3。


バトラーはアロイドに修理を指示した。

区画管理担当*4のスミスは、ブレスレット端末で指示を

受けていた。

アロイドの作業をチェックするためだ。


スミス:(計器の故障か。

    めずらしいな。)

    

スミスは、多少訝(いぶか)しく思いながらも、対象装置の

設置されている場所へと向かった。

現場に到着すると、既にアロイドが修理作業を開始している

最中だった。

その時彼は、後ろに忍び寄る存在に気が付くことはなかった。



緊急発光信号が発信される2時間前。

リックは艦長室で仮眠をしていた。

音声:「リック艦長、起きてください。

       :

       :

   リック艦長、起きてください。

       :

       :」

リックは眠い目を擦りながら起き上がった。

リック:「もう、時間か?」

音声:「いえ、まだ指定された時間ではありません。」

リック:「何があった?」

音声:「エラー*5が発生しています。

   対処をお願いします。」

リックは目の前に表示されたエラーを見て驚いた。

リック:「なんだ、この量は!!」

1、2件程度を予想していたリックであったが、

ずらっと並ぶエラーに驚きを隠せなかった。

とりあえず1件目の内容を見る*6。

リック:(なるほど、計器の故障に向かったアロイドが

    停止したのが始まりか。

    そして、続けて向かったアロイドが次々に停止。

    なにがあった?

    最初に故障したのは監視装置*7か。

    だとすると、遠隔で状況を見れない。

    さてどうする?)

リック:「現在の区画管理担当はどうしている?」

音声:「スミス管理担当は故障個所に向かいましたが、

   監視装置が修理中の為、連絡が取れていません。」

リック:(問題があれば連絡があるだろうし、

    人命に関わる事態なのか?)

リック:「至急、調査隊を結成してくれ。」



緊急発光信号が発信される1時間前。

相変わらず原因は判明しておらず、

調査隊員3名からの連絡も無かった。

リック艦長は警備兵に緊急徴集をかけ、

ブリッジには十人の警備兵が集まっていた。


リック:「エネルギー生成装置の区画で異常事態が発生している。

    原因調査に向かった3名からの連絡も途絶えた。

    最悪の場合を想定し、第一級警戒態勢を発動する。

    対象区画は隔壁で閉鎖中だ。

    今後はラウル警備隊長の指示に従って行動してほしい。」

警備兵の間でざわめきが起こった。


ラウル:「行動は5名単位とし、警戒を行いながら現場へ向かう。

    通信優先の為、区画の磁気シールドは解除する。

    これは訓練ではない。

    そのことを肝に銘じておくように。」

そして、ラウルを含む5人が選ばれた。


緊急発光信号が発信される30分前。

6人は防護服を装備した後に、侵入経路を確認する為に

立体マップを見ていた。

対象区画は、45m x 45m x 7mの空間が5層になっていた。

中央の3層目にエネルギー生成装置が設置されており、

他の層は倉庫として利用されている。

船の設計段階では、エネルギー生成装置の選択が

未決定であった為、この様な無駄な空間*8ができてしまった。

3層目は細かく部屋に分かれている。

取り囲むように通路があり、その中央の部屋に

エネルギー生成装置が設置されている。

その通路に監視装置があった。


ラウル:「目的の場所は、3層目のこの場所だ。

    ここは、エネルギー生成装置の置かれている層だ。

    コールドスリープ装置へのエネルギー供給は、

    全てこれで賄われている。

    事は重大だ。

    直ぐにでも安全を確保しなければならない。

    問題が無ければ出発する。」

そして6人は対象区画へと向かった。


リック艦長の発言通り、3層目の隔壁は閉鎖されていた。

目的の場所は隔壁から入り、左に進んだ先を

右に曲がったところだった。


ラウル:「隔壁を開けてくれ。」

音声:「対象の隔壁を開きます。

   なお隔離中の為、補助電源*9に切り替わっています。」

隔壁がゆっくりと開いて行く。


中は薄暗かった。

補助照明が足元のみを照らし出している。

銃を構え慎重に侵入する。

ラウル:「ヘッドライト点灯。」

ヘルメット上部のライトが点灯する。

光が壁を照らしたとき、ラウル達は異様な光景を目にした。

床、壁の至る所に不思議な模様が描かれていた。

ラウル:「これは何だ?」

誰かが呟いた。

???:「魔法陣?」

ラウルは思い出した。

モリー博士が作ったエネルギー生成装置にもこの図形が

描かれていた。

同じものかは分からなかったが、確かにあの図形に似ている。

ラウル:「魔法陣のようだな。

    なんでこんなものが、、、。」

その時、視界の端に黒い影が動くのを感じ、

咄嗟に影に向かって銃を構えた。

しかしそこには何もいなかった。

ラウル:「ふぅ、驚かせてくれる。」


ラウル達は左右を確認した後、すぐに左へと進んだ。

通路は真直ぐに延び、右に曲がっていた。

直前まで進み、右側を覗き込んだ。

ラウルは驚いた。

そこには、多くのアロイドの部品が転がっていた。

ラウルは、しゃがみ込んで部品の1つを手に取ると、

しげしげと眺めた。

それはアロイドの腕だった。

切断面は引きちぎられており、

人間業でないことは一目瞭然だった。


ラウル:「これは。」

その時、後方から悲鳴が聞こえた。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

一人ではない、立て続けに悲鳴が上がる。

後ろを振り向いた時、上空から覆いかぶさるように襲われた。


ラウルは見た。

人間ではない、獣の顔を。

それはまるで血に飢えた犬あるいは狼のような顔をしていた。

そこで映像は途絶えた。

この映像を見ていたリック艦長は

直ぐに緊急発光信号を発信した。


クーカ:「どう思うかね?」

アディス:「・・・」

クーカ:「別に私は君達を疑っているわけでは無い。

    通路に書かれた魔法陣、突如現れ襲い掛かってきた獣。

    モリー博士と関係があるとしか思えない。

    知っていることがあれば、話してほしい。」

アディス:「見た事も無い魔法陣ですし、

     あの獣のような生物も知りません。」

クーカ:「そうか、残念だ。

    何か得られると思ったのだが。」

エリス:「あのー、艦長。」

クーカ:「何ですか?」

エリス:「すぐに隔壁を閉鎖するべきではないでしょうか?」

クーカ:「どういう意味です?」

エリス:「緊急発進信号の発信順番と時間は?」

クーカは少し戸惑いながら答えた。

クーカ:「1番艦が6時間前。

    2番艦、3番艦が、4時間前。

    4番艦、5番艦が、2時間半前。

    そして6番艦が1時間前だ。」

エリス:「それって、1時間毎に次々に問題が

    発生しているように見えませんか?」

クーカ:「確かに、、、。」

エリス:「そして、1番艦の原因発生が、その3時間前。

    つまり、9時間前ということです。」

クーカ:「まさか、、、。」

クーカは、エリスの言わんとしている事を理解した。

直ぐにエネルギー生成装置の区画からの退去と

隔壁閉鎖の指示を出した。


その直後だった。

音声:「7番艦からの緊急発光信号を受信しました。」

全員:「!!!」


クーカ:「この艦にも危険が迫っているということか。

    エネルギー生成装置の区画の故障判定ログを表示。」

クーカがログを確認すると、それを見つけた。

クーカ:「あったぞ。

    5分前に生体反応を感知している。

    バトラーはそれを故障と判断。

    アロイドを派遣している。

    1番艦と全く同じだ。」

アディス:「区画管理者はどうです?」

クーカ:「隔壁閉鎖でキャンセルされたようだ。」

アディス:「監視装置は?」

クーカ:「残念だが、遅かった。

    既に停止している。」

クーカは頭を抱えた。

クーカ:「一体どうすればいいんだ?」

その時、アティスのブレスレット端末が鳴った。

 「ピピッ」

アディスが端末を見る。

そして言った。

アディス:「条件指定データのロックが解除されました。

     モリー博士はこの件を予想していたのかも

     しれません。」

クーカ:「そうか、ならばこうしよう。

    私は情報を集める。

    君達はそのデータを調べ、結果を報告してほしい。」

アディス:「わかりました。」




*1:情報カプセル

 無線が使えない場合に多くの情報を送りたい場合は、

 通常はランチを使用するが、それが使用できない場合や

 多数に送る場合、情報をカプセルに入れて射出する。

 各艦は様々な個別識別信号を発しているためそれに向かって

 移動するだけである。


*2:区画

 宇宙船内部は一辺50mの立方体の区画で分割されている。

 宇宙船の外壁に損傷を受けた際、その区画を閉鎖する

 ことにより隣接区画への被害を抑える。

 宇宙空間にさらされることを考慮し、区画単位で

 磁気シールドが設置されている。

 磁気シールドによる弊害は区画外通信が遮断されることで、

 その対策の為に監視装置経由で繋がっている。


*3:何もない場所に現れる訳がない

 物質転送装置は夢の装置なのだ。

 物質を量子レベルまで分解し転送・再構築する。

 再構築できるということは、物質的に完全なクローンを

 生成可能でもある。


*4:区画管理担当

 乗員は区画内で作業するアロイドの管理が主な職務である。

 アロイドは優秀ではあるが、指示作業以外の事は出来ない。

 つまり全く別な要因で発生した事象に対しては無力だ。

 それら突発的な事象の対処は基本バトラーが行っているが、

 その都度アロイドを送っていたら、

 時間がいくらあっても足りない。

 突発的な事象の解決のためも管理担当者は必要となる。


*5:エラー

 バトラーが判断不能と判定した案件に関しては、

 処理は保留されエラーとして保存される。

 誰も知らない、かつ予想できない事には危険が付きまとう。

 バトラーは、それを知っているため判断を人間に

 任せることになる。


*6:とりあえず1件目の内容を見る

 多くの処理異常に驚いてはいけない。

 1件目での失敗が次に影響を及ぼしている可能性がある。


*7:監視装置

 区画内の監視対象の情報を一元的に管理する装置。

 音声、映像、位置、通信等様々な情報を管理している。


*8:無駄な空間

 決して無駄な空間ではない。

 この空間のおかげで現地調達する予定であった資材や

 10cmの立方体程度とはいえ、一般乗船者の持ち込みが

 許可された経緯がある。


*9:補助電源

 災害等で主電源が切断された場合、多くの装置が

 停止してしまう。

 これを避ける為、各区画には補助電源装置があり、

 数日間、最低限の電力は保障されている。


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