七話
◆前回までのあらすじ
帰宅後錬金術で武器や道具を作成
部屋に置かれた檻には黒い布がかけられ、外の様子が見えないようにされている。
黒い布を捲れば、数人の瞳がシオンに向けられる事から、何人かは意識が残っている事がわかる。
意識がある者から始めるべきか、ない者から始めるべきか悩んでいると、勇者の男が口を開いた。
「殺してくれ」
そう願う気持ちもわからなくはない。
「ごめんなさい。お金を出して購入したから、その分は働いてもらうわ」
「俺達が働く事など出来ない」
「今のままでは無理ね。でも身体が治れば貴方達は強いから大丈夫よ。勿論治療費込で新しい者の採用費も兼ねての価格だからかなりの年月私に仕える事になるけれど」
Lv7万超えの健康奴隷となると10億Gは稼いで貰わないと割に合わない。
「俺達の身体を治すだと!?そんな事、聖女にしか無理に決まっている」
下克上ゲームでは、プレイヤーは簡単に蘇生やどんな怪我でも治せる魔法を使えたが、NPCが使っている所は見た事がなかったので誰でも使える魔法ではないのだろう。
「やって見なければわかないでしょ?じゃあ、1番元気の良い貴方から始めましょう」
「なるほど、実験というわけか。あの豚野郎と話していた内容を考えれば身体を治すなど嘘だとわかる。希望を持たせ非道な実験をさせるのだろう。この外道が」
このような状態になりながらも、意識を保ち会話を聞く余裕があるとはさすが勇者様。
奴隷を購入している時点で外道なのはわかっており、転生者といえど、既に色々な事をやっちゃってる記憶のある魔族なのだ。
今更すぎて気にもならない。
「まあ、スレてて仕方ないのもわかるけど怒らせても無駄よ。私が貴方達を殺すことはしないから。檻から出ましょうね。他の人達はじっとしていて」
「何をするつもりだ?」
「“ 完全回復”」
勇者の肩に触れて魔法を発動させる。
スキルの説明に間違いなければ、完全回復で身体の欠損状態や怪我、栄養失調状態も回復出来るはず。
勇者の身体が光り、徐々に手と足が再生されていく。
一瞬でとはいかなかったが、再生出来るのならよしとしよう。
それよりも、どんどんMPが減っている事が気になる。
魔法発動で15万使い、治るまでに1秒あたり100も減っている。
約10分で魔力が尽きるので、慌ててMP回復ポーションを口にした。
「これは本当に治っているのか?」
「ごくっごくっ・・・たぶんね」
「嘘だろう!まさか・・・この手首の剣のアザは確かに俺の腕だ」
15分後。
茶色の布から、本来は無かった手と足が生え元通りになっていた。
勇者は驚きの表情で、手と足を確認している。
それにしても、虹色の綺麗な目玉だと思ったが、顔も綺麗だ。
傷跡やコケていた頬、金の髪の艶まで回復し健康状態に戻ると、その場に立つ青年は絶世の美男子へと変化した。
レオンハルトにも匹敵する容姿で、あちらが冷血の宰相と呼ばれるのに対しこちらも氷の勇者と呼ばれそうな冷たい雰囲気を持つ。
「身体が無事治ったみたいで良かった。後は呪いの解除ね“解呪”」
「・・・!?力が戻った」
解呪も問題なく発動したようだ。
これで、少しは態度が軟化してくれるとありがたいのだが。
「良かった無事成功ね。それじゃ、改めて宜しく。貴方の主人になるシオン・ベルフェゴールよ」
「・・・ライディーンだ。本当に治るとは思っていなかった。疑ってすまない。治してくれた事には感謝する」
少し所か、大きく軟化した。
治される事を望んでなかったと言われるかと思ったが、頭を下げて感謝されるとは驚きだ。
「いいのよ私の為だから気にしないで。ライって呼ぶわね。でもこれからは敬語を使ってちょうだい。一応今後の予定では貴方達5人全員を私の部下に設定して、仕えてもらうわ。朝護衛二人と夜護衛一人と部屋務め一人の三交替制で勤務してもらい一人は休みにする予定よ。さっき言っていた様に死にたいなら、休みの日に稼いで自分を解放することね。でも休みの日の稼ぎの半額は納めてもらうから。ライディーンの価格は10億Gよ」
「そんな破格の条件でいいのかぁあっ、いいのですか?俺達は奴隷だっ・・ですよ。自由も身体も金も全て奪われないのですか?」
ライディーンが敬語を使わないと、首の鎖が赤く変化して首を絞めている。
奴隷契約とは本当に恐ろしい魔法だ。
主人の意にそわない事は出来ない上に、主人が亡くなっても奴隷契約の解除は出来ない。
解除を主人がする場合ペナルティは発生しないが、奴隷商人が行う場合奴隷側に何らかのペナルティが発生する。
「敬語を使わないと奴隷紋が反応するんだね。これでも結構酷い内容だと思うけれど、ライがそう言うなら問題なさそうね。貴方達が真面目に働くならお金を奪うつもりはないわ」
「わかりました。俺はその条件に従います」
「さっそく、部下に設定するね」
「部下に設定とは何ですか?」
「私の能力の1つよ。部下に設定すると、色々と便利なの。私の能力は他言無用でお願いね」
「わかりました」
ステータスボードの部下一覧に灰色でライディーンの名前が記載されており、名前を押すと、〈部下に設定しますか?YES・NO〉のアイコンが表示されたのでYESを選択。
すると文字が黒に変化したので、もう一度ライディーンの名前を選択すると、ライディーンのステータス画面が表示された。
ライディーン
年齢:7258
職業:奴隷
状態:
忠誠:シオン・ベルフェゴール
Lv:72746
HP:99999999
MP:99999999
攻撃:99999999
防御:99999999
魔攻:99999999
魔防:99999999
俊敏:99999999
魅力:99
幸運:99
★スキル
【剣術S】【槍術A】【格闘A】【黒魔術S】【時空魔法】【体力強化】【魔力増強】【心眼】【縮地】【威圧】【予測】【看破】【状態異常耐性】【魔法攻撃耐性】【物理攻撃耐性】【忍耐】【魔力制御】【魔力感知】【無詠唱】
★ユニークスキル
【インベントリ】【全言語理解】【成長・大】【オールフォーワン】
★称号
【勇者】【女神に愛されし者】【ハーレム】
「さすが称号に【勇者】がある人ね。妬ましいくらいに充実したスキルとカンストしたステータス」
ステータスを見て噴き出さなかった自分を褒めてやりたい。
「何故それを!シオン様には人のスキルが見えるんですね」
「ライにも見える様になって貰うわ」
「そんな事出来るんですか?」
「部下に設定した場合の特典よ。私が取得可能なスキルから5個だけ部下にスキルを付けれるの。ライには【鑑定S】【偽装S】【従者S】を覚えてもらって、後の2個はおいおい考えましょうか」
【鑑定】があれば簡単に者も物も調べられ、レベルが高いライディーンであれば、シオンが鑑定出来ない対象も鑑定出来るだろう。
【偽装】は勇者を知っている者が存命している場合もあり、潜入捜査や、単に目立つ容姿を隠せる。
【従者】はシオンの身の回りの世話をお願いしたいが、1から覚えるよりスキルを取得した方が早そうなので取ってみた。
「普通スキルを取得するには、元々の素質や長年の努力、特定の行動が必要になるのものなんですが。さすがシオン様です。この能力があれば魔王にも」
「無理無理。部下に設定出来るのは5人って決まっているし、今の私の実力だと、皆に一対一でも瞬殺されるくらい弱いから。取ってみたけれど、どう?私を鑑定してみてもいいわよ」
喋りながらも手を動かし、ライディーンにスキルを取得させた。
見た目の変化では分からないため、本人に確認をする。
「凄いです。従者に必要な知識を一瞬で得ました。スキル最高ランクの従者となると、戦闘面でも生活面でもかなり活躍が期待出来そうですね。家事を一切行った事がない私でも料理洗濯掃除を卒無くこなせそうです。失礼ながら、シオン様を鑑定致しましたが、確かに瞬殺されるレベルですね。私が今後しっかりとお守り致します。貴女様に何かあっては我々が困りますので」
「あら、心強いわね。一人称が俺から私になってるし、立ち姿勢も全然違う。従者って思ったより便利そうな能力ね。私もレベルが上がったら取る事にしようかな。お兄ちゃんに美味しい紅茶を入れてあげたいし」
予想外に【従者】スキルが活躍したようだ。
ライディーンにとって奴隷契約で仕える主人がシオンだからこそ、今発動するのだろう。
下克上ゲームをやっている時には、戦闘スキルが主で、生活面で役立つスキルは論外だったので面白そうなスキルを知れて良かった。
「部屋務めは不安でしたが、全員【従者S】スキルを取得するのであれば問題ないですね」
「うんうん。回復させて、部下設定も終わったし、後はその格好をどうにかしよう。私の部下専用の執事服とメイド服を作成しようかな。戦闘服も欲しいわね。私服は自分達でなんとかしてね」
「仕事着はお願い致しますが、私服は勿論自分で用意致します。シオン様がお持ちの錬金術は便利そうですね。他に誰か覚えさせてもいいかもしれません。私でもよろしいですよ?」
「武器に消耗品を使う人にお願いする予定なの」
「差し出がましい真似を致しました」
「そんな事ないわ。ただ褒めて頷くご機嫌取りにはならないで。これからも意見があったら言ってちょうだい。私が気付かない事って沢山あると思うから」
「かしこまりました」
急ぎ、余っている素材で出来る服を錬金術で作成する。
初期の素材だと洋服に付与される効果は低いので、見た目を重視する。
執事服は悪魔な執事さん風の燕尾服、メイド服は魔界では常識のフレンチミニスカ風にした。
このメイド服はセクハラしたくなる露出度。
「はい、これが執事服よ。他の人達も順に回復させるから着替えておいて。ライはインベントリ持ちだから、全部渡しておくわね」
「ありがとうございますシオン様」
さて、次はこちらを凝視する龍人にしますか。
ライディーンを治した後から、檻からの熱い視線が痛い程伝わってくるのだ。