四話
ベルフェゴール家が統治する城下街は活気に溢れかえっていた。
討伐した魔物のドロップアイテムは全てくれるという話なので、要らないものを換金する為、冒険者ギルドで冒険者登録を行うことになった。
「ロベルト、カルロス。まずは冒険者ギルドへ案内して貰っていい?登録と換金が終わったら、お昼を食べて、買い物に行きましょう」
「はい、シオン様」
「すげー上手い店知ってるからそこにしよーぜ」
しばらく歩くと、ゲームで見慣れた冒険者ギルドのマークが入った案内天板が目に入り、ロベルトが何の躊躇いもなく他の店よりも数倍の大きさの建物のドアを開いた。
ざわざわとしたギルド内が、入ってきた人物が視界に入るとシーンとした静けさがおとずれる。
ロベルトやカルロスの強さにではなく、もう一人シオンの姿に驚いてのことだった。
シオンの今の姿は、冒険者には見えない水色のドレス姿。
さすがにヒールではなく、茶色の編み上げブーツを履いている。
腰まで伸びたストレートの銀の髪がキラキラと艶めき、アーモンド型の大きな金の瞳は長いまつ毛で飾られ、見るものを虜にする。高い鼻梁と、真っ赤なふっくらとした唇。白くて美しい肌とスタイルの良い身体は、冒険者ギルドにいる者の全ての視線を独り占めにした。
魅力値99、実はカンストであった。
Lv差があるとあまり効果はないが、500も上がったシオンは普通よりちょっと良い女からとっても魅力的な女性に変化していた。
本人は下克上ゲームに魅力値は存在していなかった為、何故こんなにも注目されるのか気付いていない。
ロベルトもカルロスもLvが高すぎる為、シオンの魅力はあまり効果がない。
街を歩いている時もシオンに反応する者が大勢いたが、すれ違いなので、通り過ぎた後でビスクドールが歩いていたと噂になっていたのだ。
「冒険者登録をしたいのだけれど」
行列の出来ている美人なダークエルフのお姉さんや露出の激しい猫人のお姉さんではなく、地味で誰も並んでいないお兄さんの列へ並んだ。
「・・・」
「おいおい、何ぼーっとしてんだよ」
シオンの顔を見つめて、顔を真っ赤にさせた男。
不審に思ったカルロスの発言でようやく動き始めた。
「冒険者登録ですね。それではこちらの紙に記入をお願いします」
「わかりました。あの??」
ペンを貰おうと手を差し出すと、何故かペンを持っていない方の手でぎゅっと手を握られてしまった。
よろしくの挨拶にしては、おかしな流れである。
「手もお美しい。しっとり吸い付くもち肌でずっと触っていたいです」
「えっ??いや、離して」
グイッと引っ張られてカウンターから身を乗り出しそうになる所、ロベルトが肩を支えて、カルロスが相手の腕をひねりあげ、離れてくれた。
「この野郎」
バキッ――
静かな空間に鈍い音が響く。
男の職員の手はカルロスによって完璧に折れてしまっていた。
「いっぎゃぁあああああ」
悲鳴が聞こえたのか、2階からばたばたと音を立てて一人の男が降りてきた。
登場したのはサンタクロースのような真っ白い髪と髭のおじさん。
「いったい何の騒ぎだ」
「おや、ヨーダくんではありませんか」
意外にも、サンタクロースはロベルトの知り合いのようだ。
「何で、領主様直属の側近がここにいやがるんだ。仕事をクビになったのか?」
「馬鹿な事を言わないで下さい。それより私達を立たせて会話する気ですか?」
「はぁー。上に俺の部屋があるから案内する。おい、そいつの回復を頼むぞ。あと茶を四つ頼む」
ヨーダにとって、ロベルトもカルロスも逆らってはいけない恐ろしい魔族の上位にランクインする。
厄介な事に巻き込まれそうな予感に大きく溜息を吐き、上の部屋へと案内するのであった。
***
「俺がベルフェゴール領冒険者ギルド支部のギルドマスターのヨーダだ。で、何があった?」
顔見知りであっても、初めて顔合わせをする者もいる為、自己紹介をするヨーダ。
「なるほど、その嬢ちゃんの冒険者登録を行うはずが、職員の行動でカルロスが怒って腕を折ったと。気持ち悪い思いをさせて悪かったな嬢ちゃん。だがカルロスは過剰防衛だろ」
普段は大人しい職員の変態行動を不思議に思いつつ、ギルドを治める長として謝罪を行うも、手を握ったくらいでなにも折らなくてもいいのではと思ってしまう。
「こちらにいらっしゃるシオン様はレオンハルト様の妹君ですよ。知らないとはいえ、手を厚かましく握るなど局部を切り落としても過剰ではありません」
ロベルトの言葉にサーッと顔を青ざめるヨーダ。
レオンハルトが側近を付けて守る妹となれば、仕方のない対応。
むしろ、しっかりと罰を与えなければ更に酷いことになるのは目に見えていた。
「マジかよ。それは知らないとはいえ、こちらの落ち度だ。すまなかったな、シオンお嬢様。レオンハルト様には後で詫びに行く。はぁーーー何でシオンお嬢様が冒険者登録に来るんだ」
「ヨーダくんには関係ないでしょう」
「そーだそーだ関係ねーよ」
出されたお茶を飲み、くつろぎながら憎まれ口を叩く様子は、誰が見ても気のおけない仲である。
不思議に思い聞いてみると、予想していた答えが返ってきた。
「元同期同僚ですよ。ヨーダくんは中々素質があったんですが、先輩方からの異常な愛に耐えきれず「おいっ、人の古傷をえぐるな!!」
「こいつ、このモジャヒゲを剃ると可愛い童顔なんだよ。男から狙われる数が多くて領主様の側近を諦めたんだ」
「それはご愁傷さまでしたね」
予想していなかった内容もあったのだが、男の職場ではそういった事もあるらしい。
オタクであり少々腐ってもいたので、同情の言葉をかけるも、ニヤニヤが止まらない。
「とっとと登録して出て行ってくれ」
嫌な過去を思い出したヨーダは、厄介者を追い出す為に仕事を再開することにした。
先程の職員が準備していた紙と同じ物が用意され、今度はペンを手に取ったシオンは契約書の内容を良く読み、黙々と記入を続ける。
「私達へのお詫びは、昼食でいいですよ」
「よいよい亭の豪華ランチ三つ」
「わかったよ」
書いている間に、そんな会話がされ、ヨーダは昼食の配達予約を部下に頼む為1階に降りていった。
***
「記入終わりました」
「ふむ・・・内容に不備はないな。じゃあギルドの説明をする」
目の前には豪華なステーキが置かれ、食事をしながらの説明となった。
よいよい亭はカルロスおすすめの食事処らしい。
大きなお肉は少し硬く、ケモノ臭がするが、普段食べる食事よりとても美味しかった。
日本のステーキ肉と比べると、断然日本が勝っているけれど、別宅で出され続けたダイエットフードよりは断然美味しい。
冒険者ギルドは魔都に本部があり、各領に支部が存在する。
ランクとカードの色はSSS(金色)、SS(銀色)、S(銅色)、A(赤色)、B(黄色)、C(青色)、D(緑色)、E(水色)、F(黒色)、G(白色)の10ランクあり、Gが新人で、Dで一人前となる。納品や討伐や依頼達成でFEDCBASの順にクラスアップする。Bランクからは、ギルドマスターの推薦が必要になり、緊急依頼や指名依頼が出てくる。各領地に存在するダンジョンはギルドランクDから入場出来る。ギルドカードには名前ギルドランク依頼内容が記載されており、ギルドカードを提出することで依頼を受け、依頼完了にも必要になるから紛失しないようにしなければならない。無くした場合銀貨10枚で再発行出来る。また、依頼を1年受けない場合、冒険者登録が抹消され、再登録に同じく銀貨10枚が必要になる。身分証としても使える。魔力で本人登録がされる為、別の者がカードを使っても文字が現れず使えない。ギルドの貸金庫が使え、どこの支部でも引き出しが可能。
「ステータスの鑑定はしないの?」
説明を聞き終わり、質問タイムへと突入する。
下克上ゲームでは、冒険者ギルドで自分のステータスをいじれたので当然出来るかと思っていたが、ヨーダの反応を見る限りそうではないようだ。
「ステータスの鑑定?なんだそりゃ」
「例えばカルロスが一振りでサラマンダーを倒せる力があるとわかったり、黒魔術をBまで使えるとか」
「そんなもん、一緒に戦って実力を確かめるしかないだろ。見ただけで分かったら、強さに見合ったランクをさっさと与えるぞ」
確かにその通りだ。
ステータス鑑定が存在しないのであれば、他のものより一歩リード出来ると自信がつくシオン。
「じゃあ、この草はムーンドロップ草だけど、これとそっくりな草が沢山あるでしょ?職員はどうやって調べているの?」
「シオンお嬢様はアイテムボックスの持ち主なんだな。容量がでかければパーティーを組んでくれって人気になるぜ。アイテムの鑑定であれば、鑑定玉を使って判断出来る。鑑定玉にはこの世のアイテムの全知識が入っているから各支部に一つしか存在しない貴重品だ。見せろと言われても部外者にはみせられねぇからな」
突然出されたムーンドロップ草を見たヨーダは勘違いをした。
正確に言うと、時間調整がない容量に限界があるアイテムボックスではなく【インベントリ】から取り出したのだ。
瑞々しい草は見るものが見ればすぐに異常に気付くが、残念ながらヨーダには無理だった。
「レオンハルト様は鑑定玉も個人的にお持ちですよ」
「凄いよ、お兄ちゃん」
この世界に数点しか存在しない貴重品を、個人で持てるなんてさすが公爵領の現当主。
強くて顔も良い、お金も身長もある。
天は何故二もつも三もつも与えちゃうのか。
「レオンハルト様と仲が良いんだな」
「昨日仲直り?して、今は仲良しなの。お兄ちゃん呼びも許してくれるし、私のわがままで側近の部下を二人も貸してくれるし」
「大切にされているシオン様が同じ目に合わないよう、今後はヨーダが対応してくだい」
しっかりと釘を刺すロベルト。
護衛任務は今日までとはいえ、主人が大切にする妹に何かあっては主人が気に病む。
「分かっているが、その容姿だと無理じゃねぇか。職員に聞いた話、弱い奴程絶世の美女に見えるみてぇだ。俺には可愛い嬢ちゃんにしか見えないが」
おそらく、強さで魅力耐性が変化するのかもしれない。
【偽装】を使い、魅力値を下げて、有り触れた茶色に髪と瞳を変化させれば問題ないだろう。
レベルを上げれば、ロベルトやカルロス、もしかするとレオンハルトまで魅力出来るかもしれない。
レベル上げの楽しみが増えた。
「【偽装】が使えるから今後は地味になる予定よ。ギルドカードを見せてヨーダを呼び出すから、ギルドマスター室に案内してね」
「了解。俺としては、この支部に強い冒険者が増え、アイテム品が充実するのは大歓迎だ。期待してるぜ」
手を差し出すヨーダに、応えるシオン。
握手を交わした後、今日の狩りのドロップ品をインベントリから取り出す。
「さっそく、精算してちょうだい」
「なんだ、この大量のアイテムは・・・お前ら何日狩りをしてたんだよ」
こんもりと置かれたドロップ品の山トータル308個。
「いえ、今日の午前中だけで50体程ですよ」
「普通は魔物一体で2個程度のドロップ品だけど、今日は最低5個あったからな。最高は7個だぜ?おそらくお嬢様は幸運者なんだろ」
「幸運者?」
聞き慣れない言葉に、首を傾げて問いかけるシオン。
「一緒に戦うと、ドロップ品が多くなる奴の事」
「なるほど。てっきり、いつも5個くらいあるのかと思ってた」
「ないない。俺は最高3」
「私は4です」
「俺は2」
カルロスくヨーダくロベルトくシオンの順で幸運値が大きいのかもしれない。
こっそり鑑定した結果それぞれの幸運値はカルロス22ヨーダ35ロベルト42だった。
「沢山貰えるっていい事だよね。さ、精算しよー」
「ちょっくら精算してくる。ちなみにギルド員は不正した場合、重い罰が与えられる契約を交わしているから数をちょろまかす奴はいねぇ。その点は安心していいぞ」
「それは良いわね」
ドロップ品を一度アイテムボックスに収納するヨーダ。
先程話していた鑑定玉を使用するため、部屋を退出した。
***
「全部で168500Gだ。これが内訳。納品された中に、納品依頼が出ていたアイテムがあったから勝手に依頼と完了をするがいいか?」
明細書を貰い値段を確認したが、下克上ゲームでも同じくらいの換金率だったので何も問題はなかった。
1Gは100円と同じ価値で、銅貨1枚=100円、銅貨10枚=銀貨1枚=1000円、銀貨10枚=金貨1枚=10000円、金貨100枚=白金貨1枚=100万円となっている。
今回は白金貨16枚金貨85枚で日本円で約1700万の収入だった。
「勿論。お金はこの後使うから、全額現金で貰うわ」
ギルドカードを手渡すと、バーコードリーダーの様な機械でスキャンされ、カードが白色から黒色へと変化する。
「GランクからFランクに昇格だ。おめでとう」
「ありがとう」
自分で討伐したわけではないが、早く昇格してダンジョンに行きたい。
良いレベリング場所や、稼げる場所が沢山存在するのだ。
「16万G超えってすげぇな。冒険者は簡単に儲かるんだな」
「幸運者の特権だろ。稼げる奴は1日で10万Gを超えるが、ダメな奴は300G稼ぐ為に命を落とす。楽でもねぇよ」
多くの冒険者を見て来たギルドマスターだからこその言葉であろう。
「さ、換金も終わった事だし買い物に行きましょう!ヨーダ色々とありがとう。これから宜しくね。たぶん明日も昼にお邪魔するから」
「了解。騒ぎを起こすなよ」
部屋を後にし、ロベルトの案内で道具屋へと向かう。
道具屋では、錬金術で使うアイテムを大量購入し、11万Gも散財してしまった。
錬金術を行う為に必要な錬金術キットが8万Gもするなんて知らなかったが、後悔はしていない。
これから必ず必要となるのだから。
問題はあと5万Gで奴隷を何体購入出来るかどうかだ。
ここまでお読み下さりありがとうございます^^
登場人物が多いと書くって難しいですね。
視点がぶれぶれで申し訳ないです。
のろのろ更新だったり、文字数が少なかったり、読みにくかったりしますが少しでも楽しんで頂ければ幸いです。