二話
別宅は別荘の様な造りで日本で平凡に暮らしていたシオンにとっては高級リゾートホテルに宿泊している気分にさせられたが、本宅は城で、スケールのデカさが違った。
転移魔法が設置されたゲートを使い、本宅の門の前に移動するシオン。
門の前には衛兵が二人立っていたので、兄に会わせて欲しいと頼む。
連絡がされたのか、数分で、執事長のオルフェノクがやってきた。
見た目40代の渋いおじ様で、本宅を完璧に取り仕切り、兄の忠実な下僕として働くナイスミドル。
「お久しぶりでございます。シオン様」
「オルフェノク、半年ぶりね」
「いったいどうなされたのですか?今まで一度も会いに来られなかったシオン様が今更会いたいなど」
「魔王様の花嫁に選ばれてから、私が弱いせいで何度も殺されかけてるの。別宅が安全になるまでお兄様に助けてもらいたくて。今も毒で倒れてしまい・・・そう・・・」
ばたんきゅ~。
倒れるシオンを咄嗟に受け止めたオルフェノク。
突然の出来事で戸惑いつつも主人の妹を放置するわけにもいかず、客室に寝かせ、優秀な彼はシオンの最後に残した毒という言葉を手掛かりに解毒剤を用意させた。
もちろん主人への連絡も忘れずに行った。
***
「知らない天井だ」
目を覚ますと、立派なシャンデリアが吊るされた天井が視界にはいる。
「お前が幼い頃に何度も見ているでしょう」
独り言に返事を返され、身体を起こしてすぐに声がした方に顔を向けると、金の髪と紫の瞳の容姿の整った男性が椅子に座りシオンを見下ろしていた。
「・・・お兄ちゃん?」
レオンハルト・ベルフェゴール。
ベルフェゴール公爵家の現当主。
銀髪に紫瞳の父。
金髪に金瞳の母。
両親の特徴をそれぞれ引き継いだ兄と妹。
両親は現在、引退して人界で老後を楽しんでいる。
「あ、間違えました。お久しぶりです、お兄様」
つい、日本に居た頃の癖でお兄ちゃん呼びをしてしまったシオン。
兄の顔を見ると、信じられないといった風の唖然とした表情でシオンを見つめている。
「さっきの呼び名で気軽に話して下さい」
「お兄ちゃん?」
「・・・今後はそう呼んで下さい。オルフェノクから聞きましたが、シオンの体内に残っていた毒は浄化されました。しばらくはこちらで暮らしていいですよ」
いつになく、機嫌の良さそうに話す兄。
もしかすると、俗に言うシスコンなのかもしれない。
怖がって近ずかなかった妹が、お兄ちゃん呼びで頼って来たから、嬉しくて兄らしくしたいのだろう。
「ありがとう、お兄ちゃん。あとね、図々しいお願いがあるんだけれどいいかな?」
「なんです?」
「こんな事で死なないくらい、強くなりたいの。だから、南の魔の森に行きたくて」
南の魔の森は、ベルフェゴール家が管理する魔物の住処で、最低でLv100最高はLv10000を越える超ヤバイ地域だ。
レベリングにはもってこいの場所。
「今の状態では瞬殺ですね」
「お兄ちゃんの部下を1日だけでいいから護衛として貸して欲しいの」
ゲームではLv50000越えのシオンが部下を育てるレベリングをしていたが、今のLv1では戦えないので手っ取り早くLv上げして、スキルを獲得する狙いだった。
半年後には魔王の花嫁になるのに、Lv1では瞬殺ものだ。
邪道だが、強い者の力を借りるしかない。
「分かりました。カルロスとロベルトを貸し出します」
「ありがとう、お兄ちゃん。大好き!」
カルロスとロベルトがどのくらいの強さか不明だが、兄が用意させるのだから南の魔の森は問題ないレベルであろう。
断られたら、地道なレベルアップでかなりの時間を無駄にする所であった為、嬉しすぎて兄に抱きつくシオン。
ついでにささっと兄を鑑定したが、残念ながら全く見えなかった。
レオンハルト・ベルフェゴール
年齢:275
??????????
Lv:?????
年齢とレベルしか分からないのは、鑑定のランクが低く、実力の差が有りすぎるからである。
名前と年齢は知っているから表示されたにすぎない。
「今までの態度が嘘の様ですね」
「死にかけて、藁にもすがる想いでお兄ちゃんを頼ったら助けてくれたから、今までの感情なんて全部吹き飛んだの。お兄ちゃんは格好良くて、強くて、優しい、頼りになる自慢のお兄ちゃんだよ」
「ふふふ。現金な子ですね。でも今のシオンは愛しく思えます。今後は私を頼って下さい」
抱きつくシオンの頭を優しく撫でるレオンハルト。
細いが、しっかりと筋肉のついた身体を堪能し、安心して再度眠りにつくシオン。
シオンは兄の保護を手に入れた。