一話
物凄い苦しみや悲しみが身体中を駆け巡って、深く奥底に沈んでいた意識を無理矢理覚醒させられた。
本来の持ち主の魂が永遠に消え去り骸となる身体へ、別の魂が残っていたのだ。
残っていた魂が覚醒し、目覚めた時、走馬灯の様に記憶が駆け巡り亡くなった魂の生涯を心に刻む。
「シオンに安らかな眠りを」
シオン・ベルフェゴール。
銀の髪に、黄金の瞳の美しい少女。
15歳という若さで暗殺による心労からこの世を去り、新しく生まれ変わった。
中の人物は、鈴村 紫苑。
日本というこの世界とは別の世界で、平凡かつオタクに育った娘で享年75歳。
それなりに楽しい人生を過ごした。
「まさか、ゲームで使用していたアバターに転生するとは・・・」
シオン・ベルフェゴールはかつて紫苑がどハマりしたRPGゲームで使用していたアバターである。
内容は性別と天界か魔界を選び、ランダムで設定されたステータスや家柄を使い、底辺からTOPに登る下克上ゲーム。
シオン・ベルフェゴールは最初鑑定のみのステータスが低い激弱キャラであったが、コツコツとLvを上げて魔王軍中将まで育てた想い入れのあるキャラである。
“ステータスオープン”
心の中で唱えれば、半透明のボードが空中に出現した。
ボードにはシオンのステータスが詳しく載っている。
シオン・ベルフェゴール
年齢:15
職業:無職
状態:毒・衰弱中
部下:なし
Lv:1
HP:20/100
MP:200/200
SP:10
攻撃:15
防御:15
魔攻:30
魔防:25
俊敏:15
魅力:99
幸運:77
★スキル
【鑑定E】物、者の鑑定が出来る。
★ユニークスキル
【インベントリ】無限収納、時間調整可能
【全言語理解】全ての者と言葉が通じる
【ステータスボード】ゲームと同様にステータス画面が見え、スキルポイントを使用してスキルの獲得、ステータス数値に追加可能、部下の設定が可能
★称号
【転生者】生前経験した事のある能力が付与される。インベントリ、全言語理解、ステータスボードの使用可能。
「見事に魅力と幸運以外のステータスが低いな。状態は毒で死にかけだし。まあ、称号で【転生者】を貰えているのはありがたい。【ステータスボード】が使えるならこれでLvを上げて強くなれそう。まずは本宅を探索して解毒剤を手に入れましょうか」
シオンが住んでいるのは、離れの別宅で、ここは味方が誰なのかわからなかった。
ここの料理を食べて毒になったのだが、疑わしいのは離れの者達。
本宅には、兄が当主として住んでおり、血の繋がった二人兄弟だが、関係は薄い。
兄は今年200歳を超え、年の差が離れすぎていることや、魔力量の差からシオンが怯えており、半年前に新魔王の666人の花嫁の1人として決まった時すら手紙での通知だった。
お互いをいない者として接する関係で、シオンが死のうが生きていようが全く関係ないと思っているので、わざわざ毒殺するはずもない兄の住処は今のシオンにとっては安全地帯。
花嫁の中でも最弱クラスの為に魔王と血縁関係を結びたい者達の暗殺で危険にさらされるシオン。
下克上ゲームにはなかった、魔王の花嫁設定。
無事に生き残れるかは、この先の行動次第である。