そのⅦ:ウルトラエイジャーのミドルジジイ賢司とロリババアの御茶請け話
どうも。新エピソードです。
明けて翌日の事。立場的に落ち着ける筈もないネビーに対して
原因をブッ放しまくった賢司や普通に数奇な人生だった
フリズステインはお互いの立場を越えて談笑していた。
「なるほど…ではとりあえず不要な記憶はその外部記憶とやらで…」
「そうそう…同じ人間でも天才肌なリズちゃんなら多分俺と同じか
そのレベルの時間でポンと使えるようになると思うんだわ」
会話なんて耳に入らないネビーは八杯目の泥みたいに濃い
ブラックコーヒーを流し込み終わった。
「であれば私もボケたわけではないのじゃな…」
「思い出せない記憶ってのは早い話、記憶を取り出せなくなっただけで、
脳みそはちゃんと覚えてるのさ。特に体で覚えた事とかな?」
「いやはや…ケンジ殿と話しておると心が若返っていく気がするのう」
傍目からは中年と幼女が談笑する「いかがわしさ全開」な状況だが、
片や300年を超えて生きる女魔術師であり、もう一方に至っては
3000年近く生き続ける、もしかしたらデフォ長寿な吸血鬼でも
引くかもしれないレベルの生き字引っちゃ生き字引な賢者である。
「でも災難だなぁリズちゃん…」
「ケンジ殿に比べればどうと言う事は無いのじゃ。憎き裏切り者である
クラテッロ一家も最早断絶というレベルですらないのじゃからのう」
「いやでも俺は普通に人間扱いだったけどさ…?」
「それこそ些末…こうも長生きすれば人間もドワーフも大差は無かろうて」
「300年ぽっちでそんな寂しいこと言うなよぉ…俺、泣くぞ?」
「しかしケンジ殿…私は本当に96万年も生きてしまうのか…?」
「俺の鑑定さんではそう出てる…俺なんか…サクッと226万年だぞ?
どう足掻いても俺リズちゃんの死に水コースで辛いんだからな…?」
「ふふ…少し嬉しいかもしれんな…」
「いや喜ぶなよ…」
夢なら覚めてほしいと思うネビーではあるが如何せんコーヒーがぶ飲みしすぎて
目がギンギラギンギンで眠気もクソも無い。
「あ、すまんすまんネビー…すっかり置いてけb」
「お構いなくぅ!! わ、私ごときが賢者様に意見などぉおおおお!?」
正直生きた心地がしない。何しろネビーが煩わしく思う実家の…
さっさとくたばれとさえ思っている現トショモリ本家総代にして
ゴブリンランドの知識層の大総本山である"ゴブル三賢機関"の
最高責任者である「ゴブル三賢者」の今代の一人にして大祖母の
ホンヤ81世が平身低頭を維持がデフォな超天上存在である神代の神子
アルパ・ミュシュメイ・ダンパ多大公爵が超絶で本気になっても
軽くあしらってしまうと口々に語られる賢者オーマ御本尊様である。
「ゴブリンランドは平民中心の議院内閣制と聞いておるが…」
「あーそれね…? やっぱ三大王家と多大公家だけに権力分立させても
世代を重ねるごとに単なる帝王制になるのは目に見えてるから…
かと言って民主制をやってもさ…ゴブリン達って同調意識強めだから、
ある程度は残しておかないと今度は共産主義にね…」
「何故にアカく染まるのかは知らんが…大変そうじゃのう」
「人口が膨れ上がった国家の宿命なのかも知れんと思ってる」
「難儀になるのは古今東西相も変わらずかの」
「ホント…マズい酒ばっかり無駄に進むわ…」
「私は酒を嗜まぬので分からんが…」
「知らなきゃ知らない方が良い事もあるんだぜ」
「そういうものかのう」
「そういうものですじゃ」
ヌッハッハッハと老獪に笑いあう賢司とフリズステイン。
九杯目の泥炭レベルもかくやで濃いコーヒーを飲みたかったネビーだが、
真面目に胃が悲鳴を上げると分かっているので踏ん張った。
「しかしケンジ殿…聞けばエルフ国からも離れてもう半月ほど
ここに居るようじゃが…大丈夫なのかや?」
「大丈夫だろ。俺だって一応寿命あるし、俺の決済印がいるブツは
基本三年前倒しなのがデフォだし、そろそろ西部遠征も
一旦止めていいんじゃねえかって西王家に打診しまくったし?」
―マジでぇ!?―と喉元までせり上がってきた言葉を飲み込むネビー。
ゴブリンランド…特に西王本家にとって西部…いや魔大陸制覇は
一族の…ゴブリンランド全国民の悲願であると銘打たれているのだ。
いかに事実上の最高権力者な賢者の賢司とはいえ、西部遠征一時停止を
打診しまくるというのは…流石に反発がありそうなのでは…? と、
分家筋とはいえ西王家出身な自分の偽りのない言が何度も出そうになる。
「偶発的な死者も数えられる程度まで落ち着いてきたし…
ぶっちゃけバカ可愛いスレーンの子供達が消耗していく様は…」
「そうじゃな…私も命じた言葉を至言として散っていった者たちは…
正直もう見たくはないの…」
長く生きてその目で見て聞いた言葉にはネビーも思考さえ止まる。
こればかりは想像の範疇でしかないが…親しい者達の死に行くさまを
嫌でも何度も見なければいけない苦しみは筆舌に尽くしがたい。
「実質そこから逃げてるような俺が言えた義理じゃねえけどな…」
「うむ…」
「………」
一気に空気が重くなってきた。
「やめやめ! 未来の事を不安に思ってたらロクなもんが
引き寄せられかねねえ! 良い未来だけ考えなきゃな!」
「そういう意味では研究に打ち込める私の方がまだ楽じゃな…」
「そういやリズちゃんは何の研究してんだ?」
「私か? 私の研究は"柔らかい石"の…」
「あのう…レーヴァキャルヴ辺境伯閣下…?」
実は結構前から客間の出入り口前に居たのだが、あまりにも
フリズステインが楽しそうだったので声をかけるに掛けられなかった
彼女の従者が申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。
「どうしたのかの?」
「それが…また面会の約束が来ているのですが…」
「事前連絡が無いのであればいつも通りに待たせよ」
「しかし…」
「今回は兎も角、先に連絡が無ければ別館に泊まらせて
待ちくたびれんようにもてなしておけと言っておるじゃろ」
「それはそうなのですが…」
「くどいぞ…! 特例の大王国王族でも来てるのか?!」
「も、申し訳ございません! 定例通りに対応いたしますッ!」
綺麗な回れ右で従者は客間を後にした。
「大丈夫なのか?」
「構わぬ。真面目な話、特例でも一日は待たせるようにしておる。
何でかって言ったらドワーフ相手じゃからな。酒なしに通すと
余計に拗れるんじゃ。ほんッとに面倒くさいわ…」
「あー…その辺はやっぱドワーフ文化って感じするなぁ」
「急かす癖に"酒くらい常に用意しておけ"と言うのじゃ…
ならば実験用の純粋酒精(無水アルコール)をぶち込んでやりたくもなるわ」
「違う意味で大変だなー」
「ケンジ殿よりは楽じゃて」
「いやー…どうだろ?」
どこまで通じ合えたかは定かではないが、お互いに苦笑する
賢司とフリズステイン。色々ありすぎたせいか考えるのも
面倒くさくなってきたネビーは「平民が一番楽なのかもぉ…」と零す。
「さて…そろそろ良い時間じゃし…折角じゃから私なりに
賢司殿を歓迎する宴でもしようかの…?」
「えっ、もう十分歓迎されてる気がするんだけど」
「一応私も貴族だからな…非公式とはいえ…他国の国主相当な
ケンジ殿に対して簡素な茶会だけ…というのは後々で外聞が悪いのじゃ。
じゃから大人しくもてなされてくれぬかぇ?」
「あー…そう言う事ならやぶさかじゃねえわ」
実際視察先ではそこの長者から外聞も込みで精一杯にもてなされるので
彼女の今後の立場やドワーフ大王国本土との印象云々も鑑みて
喜んで歓待されるのも大事な仕事かと思う賢司は
苦笑しているフリズステインに肩をすくめておどけて見せる。
「奥にある客室も準備できたじゃろうからそこでゆるりと過ごされよ…
あー…部屋は分けておいた方が良かったか」
「うーんと…?」
賢司はネビーを見るが、ネビーは金縛りである。
「ネビーも一人で落ち着きたいだろうからそれで頼むわ」
「心得た。それでは…コホン……大したおもてなしは出来ませんが、
当方が考えうる上では最良のモノを用意させていただきますゆえ…」
「ああ…此方もその方の流儀に則って楽しませてもらう…」
今更な気がするが二人は対外的な態度で声を掛けあって
それぞれの客間を後にした。
>>>
本当はネビーを一人にしておきたかった賢司だが、ぶっちゃけると
転移前からマトモな海外旅行経験が無いのでその実誰よりも不安で
一杯一杯だったりする賢司だったので、今更意味が無いと思ったが
ホブゴブリンに変身して恐る恐るネビーが居る部屋に
か細い声とノックで訪ねることにした。
「……………どうぞ」
「いや…マジでごめんね…」
「イマイチ掴みどころのないマッケンジー小父様であればいざ知らず…
我らが賢者様であらせられると判明致しました後ですので…
正直どのように対応すればいいか迷っておりますゴブ…」
ゴブリンランドのゴブリンは疲れてたり興奮したりで余裕が無くなると
どうしても語尾にゴブが付いてしまうのは百も承知なだけに
色々と居た堪れない賢司。
「ごめんなぁ…西王家筋と分かった段階で何とか最後まで
はぐらかして誤魔化しきろうと頑張ったんだが…」
何とか考える=結果混乱する暇を与えさせないように賢司は
あらかじめ用意しておいた軽めのバーガーセットを収納魔法から出して
テーブルの上に並べていく。ちなみにゴブリンランドのゴブリンにとって
ハンバーガーは国民食である。時間と世代をかけて苦心に苦心を重ねて
再現したコーラはメキシコよろしく「風邪引いた時の水分補給に」と
医者が薦めちゃうレベルで浸透しちゃった国民的ソフトドリンクである。
「本当に…本当に本当に貴方様は賢者様なのですね…」
「あらららららっ!?」
どんな感情かは不明だが、ネビーはポロポロと涙を流す。
どんな状況だろうと女性に泣かれると形無しになってしまうのは
地球時代から全く改善の兆しさえない賢司である。
「ホントごめんなぁ…! 俺ついつい初代ホンヤちゃんを
思い出しちゃって…ぶっちゃけ俺が出会ってきたゴブリンで
一番気安くて良い子なところがマジでソックリでさぁ…! 君はあくまで
ホンヤちゃんの子孫であってもホンヤちゃん本人じゃないのに…」
「いえ…始祖様のようだと言われるのはとても光栄ですゴブ…」
「……………折角だから初代ホンヤちゃんの面白エピソードとか聞く?」
「えっ…? …あ、はい…御拝聴させて、いただきたく…」
「………」
沈黙。賢司はとりあえずコーラを飲むことにした。
「んー……あーこれこれ…偶然とはいえここまでソックリにできて…」
「………」
チラッと見てもネビーはこっちを見る事は無い。
「…本国に戻っても絶対にお前が不利になるようなことはしないよ。
ぶっちゃけネビーが居てくれたから俺もこの半月の間
ただの人間、大間賢司っぽく振舞えたし。正直感謝しかないんだ。
だから俺がマッケンジーだった時のお前の言動には何の過失も無い」
「あ…」
ネビーの顔に少し血の気が戻ってきたのでここがチャンスとばかりに
賢司はさらに語りを強めていく。
「むしろ褒賞モノだ。生家のウープスレーン家から離れたいなら
幾らでも手段を打てる。アルパにも文句は言わせねえ。
なんならゴブル三賢機関であろうとおいそれとは文句をつけられない
ゴブリンランド医療法人連盟の白魔術研究機関にも口利き…
いや、どうせなら俺以外に指図できない新規の白魔医療法人を創設して
そこの初期幹部としてネビーを…」
「ちょちょちょちょちょちょっと待ってください賢者様!?」
流石に話がヤバい感じになってきたのでネビーも立ち上がって止めようとする。
「…まぁ、それくらいには色々便宜を図るからさ…? だからもうちょっとだけ
俺の現実逃避に付き合ってくれ。この通りだ」
「あ、あのあのあのあ…あああ頭を上げてください賢者様…!
第8城爵の三女でしかないアタシなんかにそんな恐れ多い事を…!!」
「…ついでに言えばマッケンジーの時のノリだともっと嬉しいけど、
それは流石にお前に胃潰瘍とか神経性胃炎を煩わせそうだから
うっかり賢者様とか呼ばなきゃそれでいいや」
「そ、それそれそれは絶対厳守しますから! だからホントに
そろそろ頭を上げてくださいよぉ!」
「本国帰ってからじゃないと使えないけどお小遣いもあげちゃうよ!」
「ぶっ!?」
おもむろに賢司が出したのは1万カーネ(1万カーネ=約17000円)
数十数枚の束である。
「これだけ出すからお願い! お姉さん許してぇ!」
「…あのぉー…何だか公共放送ドラマや劇団公演とかで良い年したオジサンが
娘と同世代の子に強請られてるシーンみたいな感じに
見えてきちゃったんですけどぉ…」
「…ようやく大分余裕が戻って来たか?」
ちょっとニヤニヤしてる顔を上げた賢司を見て何とも言えない顔のネビー。
「はぁ…正直今でも夢を見てるんじゃないかなぁってキモチが一杯ですよぅ…」
「そんな時こそコーラをゴクゴク飲めばいいじゃない」
「いやコーラも地味に無視できないカロリーなんですけど…」
「ぬかりなく。これはゼロカロリーコーラですぞ」
「えぇー…人工甘味料ぉ…」
「…やっぱ意外と良い性格してるな、ネビーは」
「賢j…マッケンジーには言われたくありませぇん!」
ちょっと睨めっこ気味に見つめ合ってから二人は小さく笑い合った。
>
フリズステインとの晩餐では本人が薄味好みだったので久しぶりに
まったりした食事の時間を過ごせた賢司とネビー。
「やー…話に聞くタリアンガリー王国にも行ってみたいなぁ…」
「やめておけ…と、言いたいところじゃが、私が本当の子供だった頃に比べれば
権謀術数が渦巻く環境も多少はマシになっていると聞くのぅ」
「…ちなみにニッコロなんて名やマキャベリって感じの苗字の人いたりする?」
「なんじゃそれ…?」
現在はやたらとデカいバルコニーで賢司、ネビー、フリズステインの三人で
軽めのアルコール類を片手に色々な話を楽しんでいる。
「さて…月もまだまだ東に傾く気も無さそうじゃし…次は何を話そうかの……」
「んー…俺も俺で面白い系のネタが無精な野郎向けのしかなくなってきたしな…」
「………えぇっ!?」
酒の勢いなのか、賢司とフリズステインから視線が刺さって焦るネビー。
「あ、アタシの話なんか聞いてもしょうがないと思いませんかぁ?」
「誰も話したくない身の上を話せなどとは言っておらんじゃろ」
「そーだそーだw! おもしれー話オナシャスwww!」
酒の勢いでマジで素が出てるっぽい賢司にネビーは目頭を軽く押さえる。
「ウソでぇす! 年頃女子のプライベートに介入とかゲロセクハラじゃな~い☆」
「……酔っ払ったエルフでも流石にそのノリはやらんと思うの」
「……ごめん。なんか俺外部記憶多用しすぎたせいか、相変わらず性格とかが
ずっと中年のままなんだよね…まぁウチのアルパはもっとヤベーけどな」
「ほとんど同じ年で永遠の14歳とか言っておるんじゃったな…」
「そう! 流石にそれはどうかと思うんだけどさ…今じゃもう歴史ありすぎる
大規模ファンクラブがね…思いっきり歌姫活動とかやってるし…」
「私が知ってる偶像が何か音を立てて崩れ去っていくぞぇ」
ネビーが深くため息をつく中、賢司とフリズステインはまさにドワーフ級で
かっぱかっぱと酒を流し込み、魔術の専門用語や文化の話を盛り上げていく。
「時にネビーとやら、おぬしの専攻しておる魔術で少々聞いてもよいかの?」
「ふぇ!?」
「酒の席で思い切りキツイこと聞くリズちゃんも割とエグくない?」
「ケンジ殿よりはマシじゃろ。第一私から魔術を取ったら唯の偽幼女じゃ」
「えっ…ちょ、そこはもうロリババアって開き直っ」
「……あァ?」
「ままままままま! 御一つどうぞどうぞ!! 呑みませう呑みませう!」
かつてないストレスマッハいやストレス光速クラス飲みニケーションにネビーは
「今後は嫌われても良いから飲み会は基本断ることにしよう」と心に誓った。
「へ、辺境伯閣下!!」
「「んぁ?」」
「?」
(ネビー以外には)楽しい楽しい飲みニケーションタイムは青い顔した
フリズステインの従者が駆け込んできて中断される。
「どうした」
「あの! 先の客間での面会希望者が…!」
「チッ…何があったのじゃ」
酒も回ってるから目つきが今日一番鋭い感じのフリズステインの応対に
賢司はすすすーっとネビーの隣に移ってくる。
「あの、賢者様…?」
「こういう時くらいは許してくれ…キレかけたアルパに似た雰囲気ががが…!」
「うえぇ…?!」
自らが知る神子アルパのキレた云々は知らないので返事に困るネビー。
「あ? ゴブリンランドの?! 馬鹿な!? 何故あの時に言わんのじゃ!?」
「も、ももも申し訳ございません!! 特例条項のままで良いかと判断を…」
「「えっ」」
これには賢司もビックリして思わず立ち上がるのだが、酒の勢いなので
おもいっきり足がもつれてネビーの方に倒れてしまう。
「おわぁ!?」「ひやぁ!?」
「…? ふぅ…やれやれ…客間にて待つように言っておけ。
”一時間後に行く”と言付けるのは忘れるでないぞ」
「はいっ! 直ちに!!」
従者がダッシュで消えたのを確認してから、パッと見はモロに賢司がネビーを
何も知らない第三者が見たら色々勘違いされそうな感じで倒れこんでいるソファに
肩を竦めながら近寄った意地悪そうな表情のフリズステイン。
「何じゃ、何だかんだでネビーはケンジ殿とそんな関係かぇ?」
「えええええええええええええええ!?」
「いやー、リズちゃん…やめようね? そういうのよくないよ?
状況が酒飲み会じゃないなら真面目にウチの国じゃ洒落にならない
ハイパーセンセーショナル事件で各社新聞の一面がヤベーことになるってw」
「下手したら国家が東西に割れますぅ!! 冗談でもやめてくださいぃ!!」
女子として、西王家一門の者として止むを得ず賢司を突き飛ばそうとした
ネビーだったのだが彼女もそこそこ酒が入っていたので押し返しきれず
単にソファから二人とも転げ落ちるだけとなった。
「クカカカキキキキケケケケゲゲゲヒャアアア!!!」
「「えっ?」」
「ん…? ………な、なん…じゃと…!?」
魔物みたいな人間の声が月夜から聞こえてきたので三人は見る。
「あは、あは…アハハハハ八八ノヽノヽノヽノ\/\…! クヒヒ…!!
クカキキキ…クカカカキケケケケゲゲゲヒャハハ八八ノヽノヽノヽノ\/\!!!」
「おい小娘。落ち着けや。殺意の波動は冷徹なる理性を以って制御すんだよ」
そこには飛行魔術で浮遊する薄藍色肌の将官軍服ゴブ女…ゴブリンランドの
最高守備戦力である八門将軍の一人にして八門最強の若き星門将軍である
サキィ・エネミーテイカーと、ゴブリンランド国父の養女、東王宗家総代
「準終身独裁官にして神代の王女」アルパ・ミュシュメイ・ダンパ多大公が
片やゴブリンランドのゴブリン族でほぼ漏れなく近接魔法戦闘特化タイプの
ヘルズテイカー種のみが先天的に持つ特殊召喚による特殊魔法武器の大鉈刀…
銘は乞われたので賢司が名づけた「万魔斬刀キルゼムオール」に試作品のみだが
完成度最高の魔術光学式アサルトライフル「デストロイジオール」を構え、
片や「血塗れ笑顔の竜種滅者」の異名を得る戦いの際に始めて使われてから
神器扱いされてる「心境喉輪」「識憶頭輪」をガッチリ装備し、背中から生やす
四枚の悪魔的な翼に素人が見ても「絶対ヤベーやつ」だと分かる魔方陣を
多数ボコボコと出現させ、どちらもゴブリン特有の赤い瞳を爛々煌々と
輝かせ、サキィは狂気全力全開絶好調の笑顔、アルパは目を合わせただけで
凍りつきそうな冷え切った焦点の合わない目で微笑んでいる。
「あれれー? おっかしいなーぁ…こんな所にいるはずがねーはずの神が、たかが
西王分家の第八城爵の放蕩クソメスガキと乳繰り合いそうな感じしてんなー」
「クカカカキケケケケゲゲゲヒャハハ八八ノヽノヽノヽノ\/\!」
「いい加減に殺意の波動くらい制御できるようになれや小娘」
「ゲゲゲヒャハハ八八ノヽノヽノヽノ\/\!」
フリズステインは無言で後方へ縮地、ネビーは吹き出る魔力と殺意の波動に
土気色の肌となって泡を吹いて気絶。
なんか鼻水が垂れてきた賢司は飛び上がって飛行魔術を使いつつ空中で
多段ジャンピング土下座をアルパとサキィの目の前で行った。
「この身に誓って俺は童貞暦2800年級です!!」
こんなセリフはあと千年生きても多分聞くことはないんだろうなと、
フリズステインは懐に入れてた緊急事態報知用の魔法の呼び鈴を静かに鳴らした。
ゴブリンランドでは王族=貴族であり爵位持ちはほぼ全員王家の血筋。
爵位もあくまで王族同士の序列を表すためにしか使われていない。
ちなみに爵位は地球のと名称が違う。現王>上王(生前引退した王専用)>
頂爵(旧大公)>峰爵(旧公爵)>山爵(旧侯爵)>城爵(旧辺境伯)>
塔爵(旧伯爵)>屋爵(旧子爵・末端の爵位)同じ爵位の場合は
国家への貢献度に応じて第一、第二、第三X爵という扱いで差をつけている。
長い歴史であるため王族の数だけでも一千万人近くいるせいか、ゴブリンランドの
国民たちにとって爵位は王族を見抜く為の指標程度にしか考えられていない。