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その3,5:有翼人種たちのゴブリンランド温泉めぐり

 前々にも語ったがゴブリンランドは魔大陸の三分の一を掌握している。

人界領域ことノ=アーク大陸全土の軽く五倍の広さを持つ魔大陸の三分の一をだ。

 現在判明している範囲では最大域である魔大陸の三分の一を制覇している。


 それが何を意味しているのかといえば、制覇した範囲は全てが

同じ土地ではないということである。


 だから何だと言えばこういうことだ。つまり探せば天然温泉や

間欠泉の類がボコボコ見つかっても不思議ではないのだ。


 というかボコボコ見つかっていたのだ。古くは原始の水源確保の偶然から、

最近は地殻変動だの地質学術的調査の結果などで、ボコボコ見つかっているのだ。

そして温泉大好き民族の一民族な日本人の大間賢司がそれを放置する理由は無い。


 なので余裕があれば結構な頻度で温泉地開発をガツガツ続けているため、

ゴブリンランドにはちょっと引くレベルで温泉宿場町とかがドカドカあるのだ。

色々手を加えているから多種多様なのだ。ゴブリンランドの命名の際に

「健康(温泉)ランド」のランドを使っちゃってるレベルなのだ。


「はぁ…はぁ…おかーさん…まだぁ…?」

「まだよ、もう少し頑張って飛びなさい」

「ふぇぇ……」


 ゴブリンランドは国家としての交流はドワーフの国ドヴェルグリング大王国と

エルフの国アルヴェンライヒヘイム帝王国だけだが、実は魔大陸のごく一部の

平和協定を結んだ諸魔人氏族や周辺の島々で暮らす諸種族との民間交流は多い。


 今もゴブリンランド領空をバサバサと飛んでいる有翼人種達の親子等がそうだ。

主に交流しているのはハーピー族、ガルーダ族、セイレーン族、

そしてこの親子らが属する一言で言えば天使に似た姿のアンギル族である。

この親子らの氏族は一番近しいセイレーン族(アンギル族の姿+猛禽系手足)の

テルクシエペイアー氏族の庇護下に置かれている。


「クェッ! 今日はドコ行くカ?!」

「クキョッ! 今日はアッチ行くカ!?」

「クルキョッ! アッチってドコなんだカ?!」


 クェクェカァカァ喧しく話しながらアンギル族の親子を追い抜くのは

ガルーダ族のヤタ氏族である。彼らの姿は簡単に言えばカラスの人型鳥。

もちろん人間を初めとした他人種と互角前後の知能を持ち、独自の文化もある

立派な文明人種族だ。一々クェクェ喧しいのは単に彼ら個人と訛りの問題である。


「おかーさぁん…!」

「一杯汗かいて良いのよ。そうすればよりオンセンが気持ち良いから」

「えぇぇ…」


 それは体の彼方此方が凝りやすい大人の理屈であり、熱いお湯等に対して

敏感な肌を持つ子供には通らない話である。故にアンギル族の子は不満で一杯だ。


「オンセンから上がったら甘~い"ふるーつ牛乳"も飲ませてあげるから」

「はぁ~い…」


 不承不承だが子供は母親が買ってくれる"ふるーつ牛乳"が好きなので

仕方なく、本当に仕方なく言いつけどおり頑張って目的地まで飛び続ける。


>>>


 ここはゴブリンランド大参西王区…ゴブリン三大王の中では最年少であり、

代で見るなら一番世襲数が多い当代はミレン・ヴァレン・スレーン西王103世が

賢者オーマに王権を認められ神大曾祖伯b…悪寒がッ!? …永遠の王女にして

東王族宗家総代のアルパ・ミュシュメイ・ダンパ多大公よりこの大地区の統治と

西軍こと魔大陸西方大征伐軍の最高司令官インペラートゥルを任命されている。


 そしてこの地区が一番ゴブリンランドで最も温泉地+αが多い地である。


「ふぇぇ…ついたぁ…」

「はい、お疲れ様…ちょっと休んだらオンセンに入りに行くわよ~☆」

「ふぁーい…」


「クルキョッ! まずはココから攻めるカ!!」

「クェッ?! ヤベェ、俺セッケン忘れちゃったカ?!」

「クキョッ!! 仕方ねぇカらオレの予備をやろうカ?」


「ブッヒッヒ…今日は何処を…ブッヒッヒ…!!」

「おいトンジル。今のお前古代の変態ド畜生のマヂキチーノ卿っぽいブヒよ」

「ブホォ!? ボキ変態じゃないブヒ!! 全くトンだブタ野郎ブヒ!」


「わふぅ…体が重くなるのさえ無ければ気持ちいいんだけどねぇ…」

「限界までトリミングすりゃ良いんでわふ?」


 忘れられているかもしれないが、ゴブリンランドに暮らしているのは

ゴブリン族だけじゃない。二番目に多いオーク族やコボルト族等が暮らしていて、

賢司の洗脳か調教か影響かは定かではないが皆各々温泉で体を清潔にし、

体の疲れや心の汚れを諸共に落とし、それぞれ楽しんでいるのである。


「いらっしゃい! いらっしゃい! そこの奥様、淑女様! 本日は

当旅館"オンタマの里"名物"卵肌の湯"は日帰り入浴48カーネのところを

当日限り24カーネとなっておりますゴブ! 入るなら是非当館へ!!」

「こっちは蒸し風呂12カーネで冷やしバナ茶を一杯サービス中~!!」

「アカスリをご希望のお客様はどうぞこちらの宿へ~!」


 あちらこちらで客の呼び込みをやかましく忙しなく行っている。

と言うのも、ゴブリンランド国民は大半が入浴は無料扱いになる軍人…

国防士族なので平民の観光客や外国の観光客相手に結構必死なのだ。

ちなみに温泉宿にも平民向け、士族、王族向けで住み分けはされている。

当然宿泊料金に関しては士族以上は階級グレードに見合った高価格だ。


「オンタマの里ねぇ…私らは良いかもしれないけど子供たちにはちょっと

熱すぎるから…どうしましょうか…?」

「俺サウナ入りたいんだが…」

「お父さん。私、熱いの嫌だからね!」


「クェ…ぬるめのお湯は何処だったカ…?」

「クキョ…? あれ、何処だったカ…?」

「クル…? とりあえず宿泊料金安いとこを探すカ…?」


「温泉卵食べ放題の店は…ブヒィ…!? 今日休業ブヒ?! ふぁっくブヒ!」

「トンカツ…汚い言葉を使うなブヒ。そんなだからこの間職質されるブヒよ?」

「誰が不審者ブヒ!? お前の方が余程ロ★コン臭ぇキモブタ顔のクセに!!」

「「ブガァ?! やんのかオルァ!?」」

「トンカツもトンジルも"ヘンタイの貶し合い"ブヒね…全く…お巡りさーん?」


 ちなみに温泉街なので肌色成分はどうしたって出る。そして前にも語られたが、

ゴブリンランドに暮らすゴブリンとオークは人界にいる魔物ら程ではないが

案の定結構な性欲旺盛さなので、結構危ない事が起こる。なので大抵の温泉街は

いつも警察も兼ねた西部守備隊のとても丁寧な軍人たちが目を光らせている。


「おかーさん…早く"ふるーつ牛乳"~!」

「まだ何処のお風呂か決めてないわよ? あなたは何処に入りたいの?」

「わたし、別にドコでもいいよぉ…早く"ふるーつ牛乳"のみたい~」


 先ほどのアンギル族の母子おやこは何処の温泉に入るか決めあぐねていた。


「そこの奥さん…? 親子連れでゆっくり入れる所をお探しですか?」

「っ?!」

「おじちゃんだあれ? なんで頭巾かぶってるの?」


 不意に母子に話しかけてきたのは温泉街ですっかりお馴染みなユカタと 

呼ばれているゴブリンランド温泉街の宿泊者なら基本無料で貸し出される

薄めで風合いが良い腰を帯で結ぶタイプの着脱容易なチュニックを着て

頭巾を被るまではまあ分かるのだが、口元を別な頭巾で隠すちょっと怪しい男。


「おじ…?! あぁ…そうだ…うん…そうだな…いい加減慣れないと駄目だよな」


 アンギル族の幼子の悪意のカケラもない素直な物言いに凹む怪しい男。

見えている顔の部分から推察するにゴブリンやオークではない他人種のようだ。


「あ、あの…な、何か御用ですか?」


 アンギル族の母は我が子を後ろに隠して訝しげに尋ね返してきた。


「あー…いや、最近外国の親子連れも増えてきたんでね…

何も知らないのを良いことにボッタクリも出るようになったもんで…」


 格好が格好であることを警戒+先ほどの幼子の物言いに

大分テンションが下がっている怪しい男は、腰さえ低くして母子に切り出す。


「なので親子でノンビリできてお値段も手頃な温泉宿を勧めようかと…」

「は、はぁ…」

「ねー、おじちゃん? そこって"ふるーつ牛乳"あるの~?」

「おj…うん。他にも果物ジュースとかチョコレートミルクっていう

とっても甘いお菓子を砂糖代わりに使った牛乳もあったはずだよ」

「ちょこれーとみるく!! おかーさん! わたしおじちゃんの言ってる

オンセンがいい!!」

「えぇ…?」


 アンギル族の母はやはり怪しい男の怪しさを警戒しているので

乗り気ではなさそうだ。しかし子供のほうはすっかりチョコレートミルクに

気をとられているので母の服を引っ張ってはせがみ続ける。


「あー…案内するだけなんで、見るだけ見てみませんか? 最近宿の主人が

若い娘さんに代替わりして従業員も女性中心でやってますんで

危ないことは無いと保証しますよ?」


 怪しい男の言い分を素直には信じられないアンギル族の母だが、

さっきから服を引っ張っては行きたい行きたいと騒ぐ子供がそろそろ本格的に

ぐずりそうだったので、仕方なく男の案内を受けることにした。



 案内された温泉宿は看板に"アオザクラの湯殿ゆどの"と人界交易語であるアルト語で…

上書きされたように濃く書かれていた。中を覗いてみれば、確かに屋内では同族や

ハーピー族に外国人からの見た目ではちょっと区別できないがゴブリナと思わしき

従業員らが忙しなく接客していた。ついでに言えば警備も大半が女性の軍人等

という、あまりにも女性だらけなので男湯側の利用者たちはちょっと…いや、

かなり肩身が狭そうだ。


「ね? 大丈夫そうでしょう? 見てくださいよ、男性常連客の気まずそうな顔…

お陰で俺も逃げるようにね…? ここの先代はドワーフかと見まがうレベルの

髭もじゃムキムキ胴長なゴブリンで店名も"益荒ゴブ男火炎牙城"って名だったのに…

娘に代替わりしたかと思えば…先代の頃の男臭さがまるで最初から

そんなもの存在しなかったかのような雰囲気に…」

「はぁ…」


 言われてみれば確かに全体的に花模様だの、お洒落なチェックの

カーテンに柑橘系の御香の匂いが漂っているし、備品も丸みと清潔感を重視した

モノだけで辛うじて嘗ては男臭さを臭わせていたであろう多種族の筋肉男の

裸像と思われる…それらにさえフリフリな服を何枚も重ね着させられ

頬紅まで施されているのだ。


「…っていうか何であの裸像は撤去せずあんな格好に…?」

「あぁ…聞いた話では先代が"お願いだから撤去だけは止めてくれ"と

土下座して頼んだら…あんな事に…ファッションセンターごぶやまの

最新モデルの服を当代の娘さんの趣味でゴッテリと…」

「おかーさん…何かあの石像さん……かわいそう」


 確かに筋肉男が着るとしたらかなり特殊な趣味というか性癖である。

昔は筋肉美の裸像なだけに、正直アンギル族の母目線でも中々キツイものがある。


「…普通に浴衣で良いだろうに…あれはオネェもやらない駄コスだろ…」

「え? 何ですかオネェって…?」

「あ、失礼。こちらの話です」

「???」


「およー…こりゃまた随分と様変わりしちゃったねー?」 

「「「「「?!?!」」」」」


 アンギル族の親子などを含めた外国人たちは「?」だが、それ以外の

ゴブリンランド国民は全員が敬礼などの敬意表明行動に走った。

ふと気づけば怪しい男は姿を消していた。


「…あーん…? 匂うぞ…?」


 周囲の大半から敬礼を向けられているゴブリナの少女…? いや、丸い角と

四枚の翼から見るにゴブル族の亜種インプ族なのだろうが、明らかに

彼女に対するゴブリンランド国民の態度は上位者への向けるそれだ。


「み、みみみ神子アルパさま…?! な、なぜこのような場所に…?!」

「あたしがここに来る=神だってわかろうよー?」

「す、すみませんゴブっ!! …で、ではここにま、まさか賢者さまががっ!?」

「ここの初代店主が作ったころから神ってば結構な頻度で通ってたんだよー?

それから毎度ホブゴブリンに化けてはさー…?」


 言いつつ男湯へ入ろうとするアルパを流石に止めに入る女店主。


「ちょちょちょ!? いくら神子様とはいえこちらは男湯ですから!?」

「いや神も男じゃん。いるとしたらもうここしかないじゃん?

最近はもう変身じゃなくて魔力阻害のフードとかで変装するからさー?

匂いで探さないといけないんだよねー?」

「ごごご勘弁ください!! 流石に神子様とは言え男湯への立ち入りわわわ?!


 店主の制止もなんのその。男湯へ進むアルパ。脱衣所の男達は阿鼻叫喚である。


「い…いまのうちに…」


 どういうわけかコソコソしている一人の黄肌のホブゴブリナが店舗から

出て行こうと騒ぎの反対方向へ動いていたが。


「オット手ガ滑ッチャッタァ」

「ぎゃわー!?」


 いつの間にか背後に立つアルパに羽交い絞めされる。


「な、あ何にをするんですかぁアルp…神子様ぁ!?」

「おんやー…? なぁんで普通にあたしの名前を呼ぼうとしたんですかねー?

そんなの神みたいに呼びなれてないと出来ないと思うんですがねー?」

「あ、ちょ、どこ触って…?!」

「ほー? やっぱコッチまでは化けられないとー? 神ぃー? 甘いよー?」

「うぐぐぐぐ…!?」


 観念したのか、ホブゴブリナの体が薄ぼんやりと光れば、ホブゴブリナは

大間賢司の姿に戻って「「「けけけけけけ賢者様ァ!?」」」の大叫喚。


「おかーさん? お風呂入らないのー?」

「…もうちょっと静かになってから入りましょうね」


 有翼人族のゴブリンランド評価は大概が「時々同じ顔の人間族の変な男が現れて

神子とか言う大邑長の一番偉いらしい女長が取り押さえにくる謎習慣がある

妙なところ。ただしオンセンは本当に気持ちいいから絶対行くべし」である。

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