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朱殷の死神  作者: 暇人
2/2


「・・・・っぱぁ・・・・・ん?もう朝か」


窓から差し込む光が朝が来た事を教えてくれる。山奥にひっそりと建っている山小屋の中で、酒を嗜む男。外から吹き抜けてくる風が男の朱殷に染まった髪をなびかせる。


「・・・・あれぇ?もうなくなっちゃったのかぁ・・・・」


男が新しい酒瓶をとろうとしたその時


バンッ


いきなり小屋の戸が勢いよく開いた。こんな朝早く、それもこんな山奥にどんな用があるというのか。しかし逆光のせいで影しか見えない。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


丁度太陽が雲に隠れたのか日が遮られ影の正体があらわになる。


「・・・・ん?・・・・・誰だ?」


そこにいたのはまだ若い青年。それにしてもどこかで見た事があるような・・・・・


「誰?!人の妹さらっておいて!・・・・・・・って、はぁぁ」


青年は男の周りに転がっている数個の酒瓶を見てため息をつく。


「あ!思い出した!・・・・確か玉を片方落としちまった奴だよな?大丈夫だったか?」


「これをどう見たら大丈夫なの?!」


「・・・そうか」


「はい?」


「結局あのあと玉・・・見つかんなかったんだな・・・・・残念だったな」


男は立ち上がり青年の肩に手を置くと優しく微笑んだ。


「ちげぇよ!体の話です!ほら体中に血が!」


「・・・・まあ大丈夫さ・・・・・ほら一つでも玉があれば男は生きてける」


「だから違うって言ってるでしょうが!・・・・・・まったく。それで、妹はどこにいるんですか?」


「ん?お前の玉はここにはないぞ?」


「妹って言ってるだろ!」


「妹?・・・ああ、あいつのことか?」


すると男は隣の部屋を指でさした。そこには少女が一人ぐったりと横たわっていた。少女の服は赤く染まりきっておりそれは床にもにじんでいる。


「ト、トリア!」


青年が抱き起し体を揺さぶるが返事がない。


「・・・・・すぅぅ・・・・・すぅぅ」


だがその代わりに穏やかな寝息が聞こえてきた。どうやら眠っていただけらしい。


「はぁよかったぁ・・・・・ん?なんかいつもより顔が赤いような」


そう少女の頬は赤く、それになんだか体温も少し高い気がする。


「むぅぅ・・・・・・・兄貴?」


「おきたのか、トリ――――――


「おりゃああああ!」


「えっ?」


気づいた時には宙に浮いていた。というより吹き飛んでいた。


「ストラィィク!・・・・ひっく」


理由は簡単、少女が青年を投げ飛ばしたというだけ。


青年という球は部屋の戸を突き飛ばし男の真横まで吹っ飛んでいった。そして男と目が合う。


「あ、あんた妹に酒飲ませたでしょ」


「あいつが勝手に飲んだんだよ。それより野球か?俺も入れろよ」


「へ?」


「いいぞ。じゃあ、お前がバッターであたしがピッチャーね」


男は空の酒瓶を持ち上げると立ち上がった。


「OK。ほら、ボール」


「うがっ!」


今度は頭をつかまれたかと思うと投げ飛ばされ地面に打ち付けられる。そしてまた頭をつかまれ持ち上げられる。


「じゃあ、いくぞぉ!」


「よっしゃ、ドントこいや!」


少女は球を振り上げ、男は空の酒瓶を構えているのが見えた。


「あの、冗談だよね?そんなので打ったら死んじゃうよ!」


「だいじょぶだ。男は基本、玉があれば死なねぇんだよ」


「そ、そんなこ――――――


「はあっ」


「はあああああ!」


パキンッ!


瓶が割れる音と鈍い打撃音。男が打った青年は見事、天井に突き刺さった。


「しゃぁぁあ!ホームランだぜ!俺の勝ちだな!」


「いや、天井がなかったらキャッチしてた!今のは引き分け!」


「そういうのを負け惜しみって言うんだよぉ・・・・・・・・あれぇ」


バタッ


男は力尽きるように倒れると大きないびきをかいて寝てしまった。


「最後まで立ってた方が勝ち・・・・・・だからこれで私の・・か・・・ちぃ・・・・」


少女も同じようにして寝てしまった。




***




空が淡い朱色に夕日によって染まっていく。


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


小屋の中では三人が輪になって座っている。一人は顔を包帯で覆い尽くされ、他の二人は顔色がよくない。


「・・・・・あの」


「・・・・・・・」


包帯が話しかけるが男は死んだように動かない。


「あ、あの―――――「うっせぇぇぇえ!」


「うごっ!」


突然男が声をあげ殴りかかってきた。もちろん包帯には避ける術などなくまたしても吹っ飛ぶ。


「い、いきなりなにするんですか!」


「うっせえ!話かけんじゃねえ!頭にひび――――――「お前もうるせぇえ!」


「うぎゃっ!」


今度は男を少女が思い切り殴る。男も青年どうよう吹っ飛ぶ。


「てめぇやったなあ!」


男は素早く起き上がり、そして少女の胸倉をつかむと体を強く揺さぶりはじめた。


「や、やめろお!・・・・うぅ・・・っ!」


するとやられるがままだった少女がいきなり男の腹部を蹴った。男の腕を振りほどいてトイレに駆け込む。


「や、やったなぁ・・・・・・うぐっ・・・・」


男の方は外に駆け出していってしまう。




数分後、戻ってきた二人の表情は先程よりはましなものになっていた。


「・・・・・あのぉ」


「・・・・・ああん?なんだよ」


「・・・・いや、そのぉ・・・・僕たち・・・」


青年は少女の方をチラチラ見ながら何か言いにくそうにしている。


「なんだ?お前シスコンなのか?」


「違います!・・・・・僕たちは・・・・お・・・おう」


「あ~・・・・・別に言わなくてもいいよ。お前らどうせここの王族かなんかなんだろ」


「え?」


その言葉に警戒心をかくせない青年。


「そりゃあ、こんなところでじじぃに追いかけまわされるのなんてそれ以外ないだろ」


「・・・・・・」


「まあ、そんな固くなんなって。俺は別にあのじじぃ達みたいなのじゃないから」


「・・・・・・・なんでですか」


「ん?」


「なんで・・・・僕達を売れば、それは一生遊んで暮らせるような大金が手に入るんでしょう?」


「別に金なんていらねぇよ。言っただろ、男は玉さえあれば生きてけるって」


「・・・・・・・」


青年は黙り込んでしまった。別に冗談を真に受けているのではなく、こちら真意が知りたいのだろう。すると後ろから肩を叩かれた。


「なあ、飯は?飯はどこにあるの?」


今まで存在感がないと思っていたが飯を探していたらしい。それにしても青年に比べて呑気なものだ。


「飯なら隣の倉庫に・・・・・待てっ」


食料のありかを聞くとすぐに駆け出して行ってしまった。よほど腹を空かしていたらしい。


「ったく」


「あのぉ」


「なんだ?」


「倉庫に食べ物はどれくらい・・・・」


「まあ、ざっと半年分はあるな」


「・・・よかったぁ」


それを聞いた青年はなぜか安堵の表情。


「どうかしたのか?」


「いやぁ、何でもないです。それより自己紹介がまだだったですね。僕はシャルル・フォン・オステン。シャルでいいです」


「シャルか・・・・・」


「あなたは?」


「俺か?俺は・・・・・・・」


そこで何故か男の言葉は途切れてしまった。何か聞かれるとまずいのだろうか。


「どうしたんですか?」


「あ、ああ。俺は・・・・・・グリム。グリムでいい」


「グリムさんですか」


「ああ。で、お前の妹さんは?トリアって言ってたけど」


「ヴィクトリアです。でもトリアでいいと思いますよ」


すると外から何か物音が聞こえてきた。動物のものではないのでトリアのものだろう。食料でも漁っているのだろうか。まあ、食料には余裕があるからそこまで気にはしていないが。


「ったく。お前の妹は待つってことができないのか?」


「いやぁあれには僕も困っていたんですよ」


外に出ると案の定、倉庫の戸が開いており中からはゴミが少しはみ出ていた。それでも見えるゴミの量から相当の大食いという事が・・・・・


「おい、お前あまり食べす・・・・・・は?」


思わず言葉を失ってしまった。なぜなら目の前に広がっていたのは、ここがゴミ集積所と見間違えるような光景。


「・・・・・あっ、カップ麺食べたいからお湯沸かし―――――いてっ!」


倉庫の床一面に広がるゴミ、そして備蓄しておいた食料が半分まで減っていた。


「・・・・・おい、お前が言ってたのってこれのことか?」


「・・・・・・はい」


「どう見てもよくないだろ。なんだ?あいつは腹の中にブラックホールか四次元ポケットでも搭載されてんのか?実は秘密結社に改造された強化人間なのか?」


叩かれた頭をかかえ悶えるトリア。彼女の腹部は妊娠しているのではと思うほど膨れていた。


「・・・・・それってどころらへんが強化されてるんですか?・・・・・それに残念ですがあれは生まれつきです」


「てか、真面目にあれ消化まにあってんの?間に合ってたらそれはそれでやばくないか?」


するとトリアの動きが止まった。嫌な予感しかしない。


「と、トイレ」


「ふざけんな!そんな所ですんじゃねぇ!食いもんが腐るだろうが!」


トリアはこくりと頷くと慎重に小屋の中へ戻っていった。それにしても改めてみると一人でこれだけの量を食べたのだとは信じられない。


「・・・・・すいません」


何となくだろうがシャルが頭を下げてくる。表情からわかるがこいつもあいつには相当苦労してきたのだろう。まあ、それが苦痛だったかは知らないが。


「はぁぁ、気にすんな。それにしても・・・・・・・」


グリムはオレンジ色に染まった空を見上げる。シャルも同じように空を見上げた。


「・・・・・・・・あの野郎とんだ化けもんに育てやがって」


グリムの声は吹き抜けた風にかきけされてしまう。


「え?何か言いました?」


「・・・・・いいや、なんでもねぇよ」

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