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朱殷の死神  作者: 暇人
1/2


高価な代物が並んだ立派な建物の中。椅子に座った老体とそれの首元に刀を突き付ける青年。外から激しい金属音と漢たちの雄叫びが一つになって聞こえてくる。そして二人の間には沈黙。


「ではあとのことはお主に任せるぞ」


片方は穏やかな目、もう一方も穏やかだが瞳にはいっぱいの涙。


「ああ・・・・あんたの代わりは俺が・・・・・だからあんたは―――――――


そういった時には涙は頬をつたい零れ落ちる。


それは太陽の暖かな光を反射しきらめきながら落ちていき、そして地面に触れると同時に・・・・・・


「――――――死ね」


散った


***


曇天の空、雲の隙間から満月が不気味に顔をのぞかせる。その光に照らされているのは町の廃墟。ここはオステン王国。


「・・・・・あっちにいったぞ!」


長く続いていた大陸戦争に敗北したこの国はほとんど廃墟と化していた。国王は殺され、王族のほとんどが処刑された。逃亡した王族は戦争に勝利したヴェステン王国から指名手配され、町中には賞金を我が手にと武装した者たちが漂っている。


「あいつらは俺のもんだ!」


「お前ら邪魔だ!俺が億万長者になるんだよ!」


風のふきぬける音や虫の鳴き声にまじって無数の足音と男の怒鳴り声。何十人もの大群が先頭の二人をおって細い道を押し合っている。彼らも賞金をねらう者の一部。


追われている二人は先程から道を曲がったりわざと傾斜が急な道を選んだりしているのに全く諦める様子がない。むしろ男達との距離は少しずつ縮んでいる。このままでは追いつかれるのも時間の問題だろう。


「うお!」


そして次の角を曲がった時、不幸な事にそこには壁がそびえ立っていた。―――否、人とぶつかったのだ。


「・・・・・あ、あの、すいません」


だがその人物の体は壁と思わせるほど硬く、そして勢いよくぶつかったのにもかかわらず微動だにしなかった。


「ちょっとさ、君達こんな夜遅く危ないだろ。それに・・・・・・・」


話の途中いきなり男は二人の背後を見て目を見開いた。当然後ろからは追手が迫ってきている。男は素早く反転すると全力疾走。


「な、なんだってんだ?!」


いきなり巻き込まれた男は困惑しながらも全力で走り続ける。すると右側の肩からフードを被った少女の小さい顔がひょこっと出てきて


「もうちょっと早く。追いつかれちゃうよ」


「誰?・・・って、おい!なんで乗ってんだ!」


今度は左側から幼くはないがまだ若い青年の顔が


「そうだよ、乗せてもらってるんだから文句は駄目だ。すいません、うちの妹が」


「何さりげなくお前まで!・・・・ってやべ!」


かなりの距離を走ってきたはずだが追手の勢いは増すばかり。それでも少しずつ差は広がっている。


「ちくしょぉぉおおお!」


男は暗闇の中、延々と走り続けるのだった。


***


建物の影に隠れていた二人は辺りを確認してから外に出る。かなり遠くまでいったのか追手達の声や足音はもう聞こえなかった。


「・・・・・あの人には悪いけど何とか逃げ切れたね」


「墓でもつくれば許してくれるって」


二人は角を曲がるときにこっそり男の背中から飛び降りていたのだ。追手も男もそれぞれ必死のようで誰一人気が付つかなかった・・・・・・・・


「まあ、お墓は家族の方に任せて僕たちは早くここから――――――



はずだった



「いやぁ、俺家族いないんだわぁ。それにまだ墓をたてられちゃ困るしなぁ」


どこからかあの男の声が聞こえてくる。だがあたりを見回しても人影など一つも見えないし音も聞こえたない。


パンッ


「きゃっ」


「うわっ」


突然の音に思わず悲鳴をあげてしまった。反射的に振り向くと自分達の代わりに追われていたはずの男がニヤニヤしながら立っていた。片手に血だらけのナイフを持って。


「ほんと最初はビックリしたよぉ。いきなりじじぃの大群に追われるんだから。その上全部おしつけられるし」


「あ、ああ、今から助けに行こうと思ってたんですよ。な、なあ妹よ!」


「すいませんでした。今までの事は全部この兄に言われてやっていたんです。私そんな事とはしらず・・・」


青年が弁解しようとする一方で少女は震えた声でそんないかにもな嘘を言い出した。


「・・・・・・・女の方、確かお前は俺におぶさってもらっている時に文句ばかり言ってきたな。よし、まずはお前からだ」


「・・・・・あ、あのぉ冗談ですよね?」


男は脅すようにナイフを弄びながら少女に近づいていく。そして男と少女の間合いがほぼ無くなった時




「おりゃぁあ!」


男の体が吹っ飛んだ。


男はそのまま家の壁に体を叩きつけられる。男が叩きつけられた壁は罅が広がり、所々はがれだしている。


「お、おい・・・・・・・お前女のくせにどんなバカ力してやがんだ」


「ふっ、まだまだだな。出直して来い、小僧」


少女の態度は先程とは一変し、腕を組みながら偉そうに見下してくる。


「誰だよ・・・・・・・ってかこれドッキリ用ナイフ!ほら!」


男はそういうと握っていたナイフを自分の胸に突き刺すが、血は流れてこず刃の部分を指で押すと引っ込んだ。


「そんなの知らないもん。それにお前が弱いだけじゃん。・・・・ぷっ、女に負けるとか弱す――――いだっ!」


「ざまぁ見やがれ!言っとくけどな、俺は本気だしてねぇから。三十パーだけだから」


男の投げたおもちゃのナイフが鼻に直撃し目尻に涙を浮かべる少女。男はそれを見ながらゲラゲラ笑っている。


「大の大人がよく言うよ!私なんて十パーも出してないから!」


「ハイハイ、ヨカッタデスネ」


「あの、こんな事してる場合じゃあ・・・・・・・」


青年の言葉など二人は聞いておらずレベルの低い言い争いを続ける。その周りでは顔をにやつかせた中年の男達が・・・・・


「ねえええええぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ん?何がないんだ?玉か?どっかで落としてきたのか?」


「兄貴、頭大丈夫?」


いきなりの叫び声に二人もいったん矛を収める。


「なんだぁ、一人ネズミが混じってんじゃねぇか」


聞き覚えのない声に二人は自分達がどういう状況なのか理解した。どうやら先程の奴らとは別の賞金首狙い。


「ネズミって俺のこと?い、いやぁ。勘弁してくださいよぉ。お、俺も同業者っすよ」


「同業者?そりゃぁ、なおさら放っておけないなぁ」


冷や汗が男の頬をつたう。どう見ても三人でどうにかできる数じゃない。いや、このバカ力の少女ならまだ勝算はある。だが少女が他の二人を庇いながら戦えるとは思えないし、青年の方はあまり頼りにならないだろう。すると地面に転がる血だらけのナイフが目に入った。


そして男は何を思ったのか素早くナイフを拾い上げると少女の首に突き付け


「お前らそれ以上近づいてみろ!この女を殺すぞ!」


「はぁあ?」


そして少女の耳元で何かをささく。最初は困惑気味だった少女の顔も話を聞くと・・・・・・・


「たずぅげぇぇてえええ!」


と涙と鼻水を周囲にまき散らし、男の拘束に激しく抵抗する。


「てめぇら何やってやがる?」


こちらの不審な行動を怪しんだ一人が何の躊躇なく近づいてきた。


「近づくなと言っただろうが!」


男はそういってナイフを少女の胸に突き刺した。


「うっ・・・・・ゲホッ!グエエェェェ」


すると少女の口から大量の血が滝のように流れだした。その後、少女は白目を剥いて動かなくなった。青年を含め周りの者は目の前の光景に言葉を失う。廃虚らしい沈黙が長い間つづく。


「ほら!道を開けろ!早くしろ!」


いきなりのことで男達は頭が活動を停止したようですんなり道を開ける。


「あばよお!坊主どもお!」


「おい!余計な事はするな!てかお前も走れ!」


「・・・・・はっ!」


正気に戻り振り向くと男の首にまたがった少女が手を振っているのが遠くに見えた。それにしてもどれだけ早ければこの一瞬であれほど遠くまで行けるのか。当然もう今からでは追いつけないだろう。


そんな中、残された青年は・・・・・・


「お、おい!そいつだけでも捕まえるぞ!」


「ですよねええ!」



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