憧れの刑事になったら、上司が幼女だった件。
1話:新人刑事、幼女と出会う。
俺の名前は新橋。今日からここ、N市の警察署で刑事になるんだ!
昔から刑事物のドラマが好きで、そこに出てくる刑事がかっこよくて、俺もいつかあんな風になってやる! なんて思い、今日ようやく夢が叶った。いや、叶えて終わりじゃなく、今日から始まるんだ!
そんな思いを胸に、職場となる警察署へと入る。窓口で配属となる部署の場所を確認し進んでいくと、ぽすんと、俺の太ももぐらいの位置に人がぶつかった。
見下ろして見ると、平日の朝方だというのに小さな女の子がいる。女児もののブラウスにミニスカート、ハイソックスにスニーカーを履き、髪はツインテールにまとめ背中にはリュックを背負っている。なんでこんなところに女の子?
ぶつかった女の子の方は凄く不機嫌そうに俺のことを見上げてきた。顔はかわいいのに機嫌が悪いせいかちょっとアレだな……。
とりあえずその女の子に目線を合わせてしゃがむ。
「大丈夫かい? 怪我はなかったかい?」
女の子はコクリと頷き、そのまま立ち去ってしまった。……愛想のないガキだなぁ……。っていかんいかん。警察官ともあろうものが、ガキだなんて思うもんじゃないな。
そんなアクシデントがありながらも、ついに刑事課の部屋の前へとたどり着く。ここから俺の一歩が始まるんだ……!
俺は勢いよくドアを開け、力強く挨拶をする。挨拶は社会人の基本だ。
「今日から刑事課に配属になりました、新橋といいます! 若輩者ですがよろしくお願いします!」
45度の角度でお辞儀をする。すると、1番近くにいた男が俺の近くまで来て頭をあげるように促した。
頭をあげると、俺よりも少し年上だろうか。ガタイのいい若い刑事がいた。
「話は聞いてる。俺は先崎。階級は警部補、お前の教育係になる。それからもう1人、警部とチームで動くことになるんだが……まだ来てないんだ」
「先崎警部補ですね! よろしくお願いします!」
そんな調子で挨拶していると、ドアの方から甲高い声が聞こえてくる。
「あーくっそー! 朝からついてないぜー。なんだって男の股間に体当たりせにゃならんの……だ……ってお前ー!」
「あー! さっきの幼女!」
随分とかわいらしい声でぼやきながら、女の子が刑事課の部屋へと入ってくる。
俺は一般の人がここに入るのはマズイと女の子を追い返そうとするが、先崎警部補が軽く会釈をし、挨拶の言葉を放って固まってしまう。
「おはようございます、小山内警部。彼が今日から入った新人の新橋ですよ」
「……へ? えええええええええ!?!?!?」
初日だというのに、刑事課の部屋に俺の絶叫が木霊した。
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2話:新人刑事、幼女と張り込みをする。
衝撃の初出勤から1ヶ月が経った。
なんでも小山内警部はとある事件の犯人を追っている最中に、その犯人の仲間に後ろからバットで殴られ気絶させられ毒物のような何かを飲まされて今の姿になってしまうという、まるで某名探偵漫画のようなことになってしまったらしい。そんな恐ろしい薬? 毒? が実在しているのか……。当然そのことは機密扱いである。
機密とはいえ殺されたわけでもなく、かといって元に戻る見込みもなかったわけだが、その犯人を捕まえることができれば元に戻れるかもしれなから刑事でいさせて欲しいという本人の希望で、今こうして警部として仕事をしているのだ。世間一般には小山内警部の娘扱いになっているのだが。
「新橋、書類はできたのか」
と、その小山内警部が俺のデスクの側まで来ていた。話し方は男前というか、刑事の威圧感を出そうとしているのかキツめの話し方をしているのに、声が幼女のそれなのでギャップが酷すぎる。
そして俺の作った書類を確認しようとするも身長が足りていないので、踏み台を持って来て覗き込んでいるのだ。踏み台を持って移動する様は、お母さんのお手伝いをしようとする様子と似ててかなりかわいい。……中身が小山内警部でなければ。
「ふむ……まぁ大体大丈夫だな。それ先崎の机に乗せておけ。俺と張り込みに行くぞ」
「え、あ、はいっ!」
張り込みという言葉に、俺は少なからず興奮した。いかにも刑事っぽい仕事がついにやって来たからだ。
今までは事務仕事ばかりだったので、ここに来てようやくといった感じなのだ。
「あ、適当な私服に着替えろよ。スーツで来るんじゃないぞ」
小山内警部のこのセリフは、現地に着いた時に思い知らされることになる。
「あの……警部……」
「おにーちゃん! 今は警部って呼んじゃだめなんだよ! ……車の中で打ち合わせしたよなぁ? ちゃんと役通りに動け」
一体どうしてこうなってしまったんだ……。
車での移動中に、今回の張り込みの目的などを聞いていた。もちろん、小山内警部は免許は持っているがアクセルペダルに足が届かないので助手席だった。チャイルドシートに乗って。
郊外のマンションに空き巣が出没しているらしく、次はこのマンションが怪しいだろうと、近くの公園で張り込んでいるわけなのだけれど。なぜか小山内警部はブランコで遊んでいる。しかも俺を呼ぶときは「おにーちゃん!」なんてかわいらしく呼んでいる。普段は呼び捨てなのに……。
俺はさすがにこの歳で公園にいるのは恥ずかしいので、木陰のベンチに腰をかけた。……のだけれど、すぐに小山内警部にブランコを押すようにせがまれた。
「その位置だとマンションが見えないだろうが。お前ここに何しに来たか分かってんのか」
「……すいません……」
ブランコに乗る幼女を押しながら上司に説教をされる俺。……俺は一体何をしているんだ……。
そんなときだった。警部が突然ブランコを降りてマンションの方へと走って行く。俺も慌ててそれを追いかける。
1階にある部屋の中に、靴のままタンスを漁っている男の姿があった。
「俺は玄関側に行く。お前はベランダからこっちに追い込め」
「は、はい!」
俺は言われた通りにベランダから窃盗犯の方へと近づいて行く。
ちょうど金品を盗み終えたのか、窃盗犯と鉢合わせる形だ。
「け、警察だ! 窃盗の現行犯で逮捕する!」
「ちぃっ!」
窃盗犯は当然のように玄関から出て行こうとするが、そっちには小山内警部が待ち構えている。……ってあの幼女じゃ犯人を逃しちまう!
急いでベランダから家屋へ入り、窃盗犯を追いかけて玄関ドアを開けると、窃盗犯が宙を舞っていた。なんで!?
「ガキだと思って油断したな。窃盗の現行犯で逮捕する」
そういって小山内警部は窃盗犯の手を後ろに回して手錠をかける。窃盗犯の顔の位置から警部のパンツ見えてませんか。
あんぐりと口を開けてその様子を見ていると、小山内警部から檄が入る。
「おら新橋! ぼさっとしてないで本部に、いや、先崎に連絡しろ! そんでこいつここで見張っとけ!」
「は、はい!」
連絡してものの数分で先崎警部補も駆けつけ、犯人は無事に捕まった。
俺の初張り込みは、怒涛の中で終わったのだった。
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3話:新人刑事、幼女と夕飯を食す。
「いやぁ、初めてにしてはよくやったんじゃないか、うん」
「そうですかね……」
その日の夜。初犯人逮捕ということで、先崎警部補が晩飯を奢ってくれると、屋台のラーメン屋に連れて来てもらっていた。こんな店、まだあるんだなぁ。
犯人逮捕は怒涛のうちに終わってしまい、張り込み中も小山内警部に怒られ、戻ってからも結構こってりと絞られた。
「まぁ、あの人の下につくと普通の張り込みじゃなくなるからな……。今度は俺と普通の張り込みも行くから、そんなに気を落とすな。ほら、せっかくのラーメンが伸びちまうぞ」
「はい……」
あんなとんでもな操作だったのに怒られたのが結構堪えてしまっていた。
あまり食べる気にもなれないでいると、後ろから声が聞こえて来た。どこか聞き覚えのある高くかわいらしい声だ。
「ちわーっす、いつもの醤油ラーメン1つ……ってお前らもいたのか」
「お疲れ様です」
「お、お疲れ様です! 小山内警部!」
「あーあー、そうかしこまるな。今は勤務時間外だし、いいから食え食え」
面倒臭そうに食事を促す小山内警部。それを分かっていたかのように、先崎警部補は食べ始めたので俺も同じように食べていく。
食べながら、先崎警部補と小山内警部は話をしていた。
「小山内さん珍しいですねこっちに来るなんて」
「うちのやつが娘を連れて外で食べるって書き置きがあってな……家に何もないからこっちに来たのよ」
うちのやつ……ってことは警部は既婚者!? しかも子持ち!?
「娘さんおいくつでしたっけ」
「中学3年。最近思春期なのかあんまり話ししてくれなくてなぁ……」
多分思春期だけが問題じゃないと思う。俺も親父が幼女になったら話する自信ないわ。
「お酒控えるっていってませんでした?」
「たまにいいだろ……ってかお前は俺の保護者か」
「署内ではそう言われますよ」
いつの間にか小山内警部の手にはお猪口と徳利が握られている。多分日本酒だろう。
……ってちょっとまってちょっとまって!?
「小山内警部ってお酒飲んでいいんですか!?」
「いいも何も、俺43だぞ?」
小山内警部って43歳だったのか……ってそうじゃなくて!
「身体に悪影響とかは……」
「悪影響が怖くて酒が飲めるかよ」
会話噛み合わねえええええええええ!!
「新橋はその幼い身体でお酒を飲んでいいのかって聞きたいんですよ。正解はあんまりよくない、だけどな」
俺のあまりにもな様子に、先崎警部補が正解を教えてくれた。ってよくないのかよ!
なんて騒いでる間に、徳利を振って中身がないか見てる小山内警部。見た目は幼女なのに、行動は完全におっさんだ。
「ちっ、もうなくなった。月一しか飲めないのにこれしか飲めないんじゃストレスもたまっちまうぜ」
「我慢してくださいよ。前の時みたいにプリン体溜まりますよ」
「溜まってもいいから飲みたい……ダメ?」
小首を傾げて人差し指を唇に当てながら、小山内警部はそういった。確かにかわいいが、やっていることはお酒のお代わりをねだっているだけである。
「ダメです。俺が奥様に怒られちゃいますよ」
「ちっ」
やんわりと止める先崎警部補に、舌打ちをする小山内警部。
と、警部の前にハーフサイズのラーメンが置かれる。
「小山内警部それで足りるんですか?」
「この身体になってから、前よりも食が細くなってな……普通のサイズなんて頼んだら残しちまう」
俺の質問にそう答えると、はふはふとラーメンを食べ始めた小山内警部。こういうところはかわいいと思うんだけど……。
ってあれ、なんか警部と普通に話せているぞ。
そろそろ行くかと、先崎警部補が俺を促す。
「小山内さん、俺ら先に行きますので。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
挨拶をして出て行こうとすると、小山内警部に話しかけられる。
「お疲れさん。新橋、明日からもしっかりな」
「は、はい。お疲れ様です」
なんか、昼と違って優しい?
なんて思っていると、先崎警部補がポツポツと話し始める。
「小山内さん、自分の油断であんな姿になっちゃったから結構厳しく当たるんだけど、本当は優しい人なんだよ。厳しくしてくれるのは俺らを自分のような目に合わせたくないからなんだよな。だから、気にするなとは言わないけど、あんまり落ち込みすぎるなよ。じゃあ、俺こっちだから。お疲れ様」
「あ、はい。お疲れ様です」
言うだけ言って、先崎警部補は歩いて行ってしまった。
けど、小山内警部のことが少し分かった気がする。
また明日からも頑張ろうと思うのだった。




