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モブだって主人公になりたい!  作者: 玉村ピコ
第一章
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第一章 7. 決闘、そして思わぬ再会…

 ―――どうしてこうなったんだろう……?

 キヨの武器はギルドの屋根裏から拾ってきた小さな剣が一本だ。人間相手なので鞘付きである。

 キヨの左右に陣取った双子の手には、いつものあのナイフが握られている。こちらももちろん黒革の鞘が付いたままだ。

 レストランの前の通りには、見物人の人だかりができていた。大通りではないが、そこそこの道幅のある通りなのが幸いだったのか不運だったのか。こんな衆目にさらされて俺は一体何をやってるんだろう?とはキヨの内心の吐露だ。本当に、どうしてこうなったのかわからなかった。

 数メートル先にはレヴァインの長身がある。両手には噂の双剣。異なる世界の武器にもかかわらず、偶然にも双子の持つ特大ナイフに似ていた。当然鞘に覆われたままだが、それでも体をバラバラに切り刻まれそうな怖さがあった。

 背後を見ると、ローランとシルバーが人垣の一番前で見守っていた。二人とも少しだけ心配そうに見える。

 ―――だからァ、心配するくらいならどうして止めてくれないんだよぉ…!

「キヨ、始めるぜ」

 既にどっちかわからなくなった双子のどちらかが、キヨの右手側から言ったのが合図だった。

 気づいたときにはレヴァインの剣が目の前に迫ってきていた。

「わっ」

 咄嗟に剣を突き出して上体を後ろに逸らす。が、そんなもので避けられはしなくて、衝撃がモロに剣を握った手に来た。だが、あの距離を詰めてきたレヴァインの攻撃にしては大したことはない。

 不審になって目を向けると、先に繰り出されてきた双剣の一本を防いでいたのは双子の片割れのナイフだった。

 もう一本がキヨの剣に当たったのだ。それもかなり衝撃を弱められていたのは、双子のもう片方がレヴァインの肩に攻撃を仕掛けていたからだった。

 それが当たったのかどうかはわからない。そこまで読み取った段階で、猛烈なラッシュが始まったからだ。

 キヨにできたのは、「わー」とか「ひー」とか言いながら剣を振り回すことのみ。

 レヴァインの動きを目で追うこともできなかった。

 すべてを把握できたわけではなかったが、どうやら双子はキヨを盾にしたり囮にしたりしてレヴァインに対しているように感じられた。素人同然のキヨの動きはレヴァインには読みづらいのだろう、それを利用してレヴァインがキヨを狙ってくればキヨを守り、双子を狙ってくればキヨの影から攻撃を仕掛けていたように思う。

 もっとも、そんな分析ができたのは後になってからなのだが。

 それでも劣勢は明らかだった。

 ステラの攻撃は一つ一つの衝撃が半端ない。流すように防いだと思っても流しきれない力に圧されて少しずつ体勢が崩される。動作の遅れを見逃される訳もなく、レヴァインの剣戟で三人は開始地点から大きく後退させられていった。

 勝敗を決したのはレヴァインの大きく踏み込んでの攻撃―――技の一種のように見えた―――だった。

 踏み込んできた足が、ぐぅんと伸びたように錯覚した。来る、と思ったときには双剣がクロスからの薙ぎ払い攻撃の軌跡を描いていて、キヨはそれを胸でまともに受けた。と思ったが、たぶんそれも双子の剣が受け止めてくれたのだと思う。最後は三人揃って後ろに大きく吹っ飛ばされ、群衆の叫び声の中に落ちた。

 逃げ惑いなぎ倒された人だかりの中にあって、いち早く三人の落下地点へ移動して受け止めてくれたのはシルバーだった。無論、キヨは双子のおまけとして。

「大丈夫か」

 衝撃で頭がくらくらする。剣の衝撃を受けた胸も肺が潰れたように苦しかった。だが、とりあえず無事だ。

 キヨは頭を振りながらどうにか自分の足で立ち上がり、シルバーに礼を言った。シルバーは腕の中の双子にかかりきりで聞いていなかったが。

 キヨはまがりなりにもステラなので、衝撃にもある程度の耐性があるが、双子は見た目にも華奢な一般人だ。さすがの二人も最後の一撃は堪えたと見えて、しばらく起き上がれそうになかった。

 そして見物人たちの騒ぎが収まった頃、通りの向こうから別の声が聞こえてきた。

「レヴィ!」

 その声の主をキヨは知っていた。

「………キャセラ」


 金髪碧眼の貴公子が人混みを掻き分け…るまでもなく、モーゼのごとく人垣が割れて現れた。ジオギルドの金と銀の双璧の相方である、キャセラ・ビリシオンその人である。一緒にいるのはレヴァインと店に来ていた若者で、恐らくキャセラのところまでご注進に走ったのだろう。

「レヴィ、なにをやってるんだ!」

「キャス…」

 まずいところを見つかった、という表情でレヴァインが一瞬目を泳がせた。が、気の強そうなイメージのまま、ふんと不敵な笑みを浮かべて返す。

「俺がどこで何をしようがお前には関係ない」

「何を馬鹿なことを言ってる。お前はジオの看板を背負っていることをなんだと思ってるんだ。大体いつも言ってるだろう…」

「うるせえな」

 説教モードに突入しそうなキャセラを遮る。そのレヴァインの視線が、目の前にぼぅっと突っ立っていたキヨに向いた。思わずキヨはびくりと反応してしまう。

 気のせいか、レヴァインの視線が痛ましいものでも見るような眼差しに見えた。だがそれも一瞬のことで、彼は不機嫌そうに口元を歪めると顔を逸らしてしまった。

 そのわずかなやりとりで気がついたのか、キャセラが背後にいるキヨを振り向いた。

「あ、ひょっとして君が喧嘩騒ぎの相手のステラか?」

 相変わらず、キャセラのキラキラしいことといったらない。今日はダンジョンではないので鎧は身につけておらず、萌黄色のシャツに焦げ茶色のベスト姿だった。いつもよりラフな服装に見える。急いで来たからだろうか、キヨにとっては貴重な私服姿である。

 ―――鼻血出そぉ………。

 キヨは間近で話しかけられ、真っ赤になってコクコク頷くしかできない。レヴァインとはまた違うオーラに圧倒されて声が出なかった。

 興奮で今にも倒れそうだというのに、キャセラは肩まで伸びたサラサラの金髪をかすかに揺らめかせて、キヨの方にかがみ込んできた。

「血が出てるな…、大丈夫?」

 心配そうに眉をひそめるそんな表情までが麗しい。

 キャセラの手が、キヨの顔に伸ばされる。指先が唇の端にそっと触れただけで、キヨの体に電流が流れた。

 びくりと体を揺らしたキヨに驚いて、キャセラはすぐに手を引っ込めてしまった。

 ――――あぁ…。

「すまない痛かったか? ええと…ポーションがあったはず」

 慌てて懐を探り出す美青年を止めたのは、歩み寄ってきたローランだった。

「ポーションならこちらにもあるから結構よ」

「あなたは……」

 キャセラは近づいてきたローランを見て、わずかに表情を緊張させた。

「ローランですね。ローランギルドのマスターの」

「ええ」

「この度はうちのギルド員がご迷惑をかけてしまったようで、申し訳ありません」

 腰を折って謝罪しようとするのを小指の立った手で制して、ローランは苦笑いを浮かべた。

「謝らないでちょうだい。止めなかったこちらも悪いんだもの」

「しかし…」

「あなたには前に助けてもらったこともあるんだから、それで帳消しよ」

 にこっと笑ってみせたローランに、キャセラは疑問符の浮かぶ顔を向けた。

「助けた…?」

 かたや街を代表する花形ギルド、かたや借金で首が回らない落ちぶれギルド。ほとんど関わりを持ったこともなく、キャセラ自身ローランと直接会って言葉を交わしたのは初めてだったはず。

 まったく心当たりのなさそうな男前の顔を見上げて、キヨの心は急速にしぼんでいった。

 そのとき、キヨの後ろから甘ったるい声が聞こえてきた。

「あー疲れたァ~、今日はもう歩けそうにないぜシルバー」

「宿まで運んでってくれよマイダーリン」

 振り返ると、ダンジョン内の湖で初めて会った時のように双子がシルバーの両腕に抱き上げられるところだった。形だけ見ると幼児が父親の腕に抱かれるのと同じ絵ヅラのはずなのに、なぜこうもいかがわしく見えてしまうのか…。

 シルバーはその体勢のまま近づいてくる。本気で二人を抱えていく気のようだ。

「今日はありがとなキヨ、それにローランも」

「そっちの、レヴィも。楽しかった、またヤろうぜ」

 恐れ知らずに愛称呼びをかました双子は、さらにダメ押しのウィンクをダブルでダークエルフの美丈夫にお見舞いした。

 面食らうというよりフリーズ状態のレヴァインの横では、目を見開いたキャセラが双子たちを―――正確には、どうやら二人を抱えたシルバーを凝視していた。

 2メートルを軽く越すシルバーの体格に驚いている様子だった。

「明日は俺たちだけで情報収集しようかと思う」

「また後日な、キヨ」

 あっさりとした挨拶に、キヨも「うん」とだけ返した。今日はもういっぱいいっぱいで、これ以上は頭も体も受け付けそうになかった。

 そうしてシルバーが踵を返そうとしたのを、思わずというふうに引き止めたのはキャセラだった。

「君たち」

 シルバーが、半身だけ振り返る。

 片手を上げて二三歩近づいた姿勢のまま、キャセラは戸惑ったようにしばし止まる。

「―――あ、えっと、君たちは?」

 今更のようにキャセラが尋ねると、シルバーの肩に片頬をつけたまま双子の一人が答えた。

「俺たちは今日この街にやってきたんだ」

「そうか…。ということは、ステラではない?」

 シルバーに抱えられた双子はキャセラよりも高い位置から、気位の高い猫のように目を細めた。

「もしギルドに興味があるようなら、うちのギルドを訪ねてみてくれ」

 キヨも、周囲を取り巻いていた者たちも、誰もが大きく目を見開いた。ざわりとどよめきが起こる。

 ―――これ、勧誘、だ。

 あの『ジオ・ギルド』への誘い。

 信じられないような、その一方で、当然とも思えるような…。

 最強ギルドのトップステラを見下ろしながら、双子はふふんと鼻で笑うような顔をした。

 それはこの街ではあってはならない無作法だった。

 キャセラはそのステータスに見合わないほど腰が低く、誰に対しても礼儀を失わない好青年なのでそうは感じさせないが、本来は誰もが敬い、礼儀を払うべきは彼の方なのである。

 だが、そうわかっていてもその高飛車な双子の表情はあまりに様になっており、誰にも違和感を抱かせないものがあった。

 たとえキャセラが勧誘したかったのがシルバーだけだったとしても、選択権はこの双子にある、と誰もが確信できるほどに。

「考えとくよ」

「またな、王子様」

 小馬鹿にしたような響きのセリフを残して、人人一体の三人は人垣を抜けて去っていった。


 その夜。

 キヨはギルド本拠地の自室のベッドで眠れぬ夜を過ごしていた。

 煎餅布団ならぬ煎餅ベッドとでも言いそうな、粗末な寝台である。だが眠れないのはそれが原因ではなかった。

「……………気づいてもらえなかったなァ……………」

 というか、そもそもあの人は、キヨの顔を覚えていなかったのだ………やっぱり。

 ローランが「助けてくれたから」チャラだと言ったとき、キャセラは本気でわかっていない顔をしていた。一ヶ月前、ダンジョン外の森で少年を火吹きドラゴンから救ったことなどもう忘れているのだ。もしくは、その時助けたのがリカ一人だったと思っているのかも…。

 キヨは魂まで抜け落ちそうな勢いでため息を吐き出した。

「レヴァインには雑魚呼ばわりされるし」

 雑魚というのは、キヨの中では『モブ』と同義語。キヨにとっての禁止ワードである。

 レヴァインには、微妙に哀れまれていたような気もするし。

 そのうえ、双子たちがジオギルドにスカウトされた。

 リカがジオギルドに入ったときですらドン底まで落ち込んだというのに、今度はスカウトである。

 しかも、「お前誰だっけ?」扱いをされたキヨの目の前で…。

「はぁぁああぁぁぁ~~~~~」

 うつうつもんもんとした夜は更けていく。


 翌朝、盛大に寝坊したキヨが階下に降りていくと、テーブルには既に朝食の支度が整えられていた。

「ごめんっローラン、今日俺の当番だったのに」

「あらおはよ、キヨ。いいのよーこれくらい」

 ギルドマスターが家事当番に組み込まれているギルドもそうそうないだろう。しかし零貧ギルドの悲しいところ、そもそもたった一人のギルド員であるキヨが留守の時はローラン一人ですべてこなさなければならないのである。

 バタバタと駆け込んできたキヨににこやかに返すと、ローランは可愛らしく小指を立てた手でカップを持って「さ、食べましょ」と言った。

 ドーンは郊外にギルド経営の大規模な農場があるので食材が豊かだ。日本生まれの現代っ子であるキヨでもとくに不満は感じない。

 卵とベーコンを香ばしく焼いたものをトーストされたパンに乗せ、キヨはもそもそと食べ始めた。新鮮なミルクを入れたガラスコップに朝日が差し、キラリと目を射すのが寝不足の目に痛かった。

「それにしてもすごかったわねぇ、昨日の子たち」

 フルーツのジャムをスプーンで掬いながらローランが口を開いた。

「シンとユエのこと?」

「決まってるじゃない。―――あの子たち、どうする気かしら…?」

「どうって…ジオギルドに入るかどうかってこと?」

「それもあるけど……。なんだかずっとこちらの世界を探るのに必死、って感じだったじゃない? やっぱりあちらに帰りたいのかしらねぇ?」

「必死って、あいつらが?」

 確かにローランにはたくさん質問をしていたが、どちらかというと帰りたがっているというよりはただこの世界を知りたがっているようにキヨには思えた。それにいつでも余裕綽々で、とても必死な様子には見えなかったのだが。必死だったのは唯一、シルバーを泥棒猫から守る時だけ…か?

「そうよぅ。あたしをわざと怒らせようとしたり、レヴァイン坊やの挑発に乗ってみたり」

「わざと? ……だったの? あれ」

 初対面でシルバーに色目を使うローランを禁止ワードで制したときのことか?

「ずっとあたしの出方を窺ってるって感じだったでしょ? レヴァインのときはたぶん、もう少し踏み込んで彼の強さを見極めたかったんでしょうけど?」

「えーっ、相手はトップステラだぜ? いくらなんでも一般人がそんなこと考えるかな?」

「あたしもそういうのを見る目があるわけじゃないけど、あの子たちってやっぱりすごく強いと思うのよねぇ。ステラとか一般人とか、それ以前に」

 結果的に見てもそれは確かなのだろう。レヴァインとのあの攻防がそれを物語っている。

「あ、でも昨日のレヴァインは全然本気じゃなかったと思うわよ。たぶん実力の1割にも満たない力しか出してないと思うわ」

「え、そこまで言う?」

「言うわよ~。だって彼、おそらくだけど…キヨのLvがわかってたみたい」

 ぐっとパンをのどに詰まらせ、キヨはどんどんと胸を叩いた。慌ててミルクで流し込む。

「な…なんだってぇ~!?」

 改めて芝居がかった仕草でそう叫ぶキヨをローランは呆れた顔で見遣る。

「ステラバッジを晒しといて何言ってんのよぅ! レヴァイン坊やはテラの文字を少し勉強してるってことでしょ。第一、キヨのステラバッジってまだスッカスカで見るとこほとんどないじゃない」

 ローランが言うには、ステラバッジというのは派手に光るものらしい。

 たとえばキャセラなどなら、スキルや魔法、特殊アビリティなどの表示が魔法陣のように球体を彩り、幾重にも連なってバッジを飾っているはずである。その線描一本一本が細い光の線なので、ステラバッジは眩しく輝くのが普通なのだ。

 キヨのステラバッジはLv表示の他はほとんどなんの文字も描かれておらず、向こう側の景色が透けて見える寂しいものだった。

 たとえテラの文字が読めなかったとしても、それこそ一般人が目にしたとしても、よっぽどLv低いんだな~というのは一目瞭然ということだ。

「あ………。もしかしてレヴァインの目にちょっと憐憫入ってたのって…」

「キヨがLv3だってことまでわかっちゃってたってことだと思うわよ。付け加えるなら、双子ちゃんたちはレヴァインがキヨのLvを把握してることを承知してたと思うわ」

「あ、なるほど。それで三対一の勝負にしてくれたのか…」

 確かに双子があのときああ言ってくれなかったら、キヨはレヴァインにズタボロにされていたかもしれないのだ。

「違うわよ!」

「え?」

 ローランが肩をそびやかすのを、キヨはきょとんと見返した。

「う~んまったく違うってわけでもないんでしょうけど…。そもそもね、双子ちゃんたちは最初二人だけでレヴァインと勝負しようとしてたでしょ?」

「あ、うん」

 そこに割り込んだのがキヨだったわけだ。

「え、つまり双子にとっちゃ俺は邪魔者だったってこと?」

「一瞬そうなりかけたけど、あなたのLvを見たレヴァインの表情を見て、双子ちゃんたちはそこにつけこんだのだと思うわ」

「つけこむ……?」

「双子ちゃんたちの目的がなんだったかってことがわかれば話は簡単よ」

 双子にとってはお誂え向きなことに、街でもトップクラスのステラから喧嘩を仕掛けてきたので、ここはひとつ売られた喧嘩を買ってやれとばかりに挑発に乗る。しかし乗ったはいいがほんとに本気を出されたら一般人の体ではもたないかもしれない。ところがさらにそこへ据え膳のキヨが割って入ってきた。レヴァインはどうやらLv3相手には本気を出す気はないらしいと察し、さらに割り込むことで双子はまんまと直にトップステラと手合わせすることに成功した――――というわけだ。

「つまり、あの子たちはステラというのがどの程度のものなのかが知りたかったんだと思うわよ」

「俺ってなんなの!!!!」

 両手で顔を覆ってキヨは叫んだ。

 双子に利用されたことはともかくとして、己のカモネギっぷりが悲しい。というか恥ずかしい。

「キヨは立派だったわよぅ。ギルドマスターとしてすっごく誇らしかったわァ!」

 ローランはキャピっとした仕草で両手を組み合わせる。掛け値なしの嬉しそうな顔から、一転、申し訳なさげな表情になってキヨに謝ってきた。

「キャセラくんに余計なことを言っちゃって、ごめんなさいね」

 例の「助けられてチャラ」のことだろう。キャセラがキヨのことを思い出せなかったのはローランのせいではないのだから、ローランが謝る事ではない。

「気にすんなって。全部俺のモブ顔のせいなんだしさ」

 自虐的にキヨが笑うと、ローランは痛ましいものでも見るような目でこちらも微笑み返した。

「あのときは双子がKY発言かましてくれたおかげで更なる悲劇に至らずにすんだし」

「ああ、双子ちゃんたちもほんとにね、根はいい子たちよね」

 ローランのその言葉に、キヨは「………ん?」と首をかしげた。

「もしかしてあれも計算ずくだったりする!? 俺めっちゃ気ィ遣われてたァ!??」

 再び己の顔面を両手で覆ってキヨは羞恥死しそうな気分に陥った。

「まあまあ。レヴァインの件と差し引きゼロってことでいいんじゃなァい?」

 のんきなテラの言葉に救われたんだか追い討ちかけられたんだかわからなくなるキヨであった。


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