第捌枚 丹槻
1年が経った。友達も増えた。学校生活はそれなりに充実している。寮も男女混合だが丹槻寮特有のしきたりも楽しい。黄田も秋田も左真似も違う寮のため、常に気張っておく必要は無かった。運動テストは本校も併せて2位だし、学力もトップ10には入っている。「田原!」と声をかけてきたのは雪恋。凄い可愛いらしいのだが言う程興味は無い。ただ勉強を教えるだけの仲だ。彼女の能力は「周囲に移動する」らしい。少し詳しく説明すると、誰かを想像するとその人の近くに移動出来るらしい。今も「それ」で来たのだろう。「理科一分野教えて!」「どうせ理科一分野だろ?」同時に声が響く。「分かってんじゃん!」「やっぱそうじゃねぇか。」再び同時。「じゃあ教えてくれるよね?」と雪恋。「はいはい、いいですよ。」と俺。「ありがとう!」「教えねぇと付き纏うだろ?」「そんな訳ないじゃん!」「とか言って何回部屋に押し掛けられたと思ってんだ…?」「そっ、そんな話はいいから、教えて!」「晩飯の後な。自習室来い。」「オッケー!」そうして雪恋が去った後、友達の浪裏がソーダをくれた。その後浪裏は最座寮に用がある、と言って走って行った。さて、どうしようか。晩飯まであと5時間あるし、今は寮にいるから校舎に戻ってもいいのだが、総島寮の奴らが教室に集まっている。当然黄田もいるから、出くわすと殴りたくなる。というか木曜の6時間以外全て3時間しか授業ないとか正気かこの学校。それで本分校併せて国内四強の宋洋堂大学、北學苑中央大学、まくる川大学、論糸館大学に合格する人がいるのだから、おお怖い。なんて考えながら部屋に戻ろうと廊下を進むと、ルームメイトの舞妻と出会った。こいつはさっき紹介した宋洋堂大学の十一代目学園長、舞妻篤二の娘だ。金持ちではあるが比較的自由らしく、休みの日にはたまに父親が来て談笑している。「おーい、話聞いてる?」「あぁすまん。聞いてなかった。」「じゃもう一回言うよ。今度は聞いててね。」「分かった。」「5時から役職会議あるから来いって。」役職会議というのは、寮長、副寮長2名、階層長、副階層長2名、通告係3名で行われる会議だ。寮長と言っても全員同学年だ。なにせ俺らの学年の人数が多すぎたがために分校が出来たのだから、同級生しかいない。因みに俺は雪恋と副寮長、浪裏は階層長、舞妻は通告係だ。ついでに全員の名前を挙げておく。
寮長 鼓
副寮長 田原 雪恋
階層長 浪裏
副階層長 田平 甲木
通告係 舞妻 枕沢 樫辺
この9人で色々と話し合う。とはいえそんなに堅苦しいものではなく、来月の部屋清掃大会はどうするか、とか体育祭での走順などを決めたりする。「ほらまたぼうっとする!誰かいるの?」「いや、ごめん。もう一回言ってくれる?」「ちゃんと聞いててよ!まぁ何も言ってないけどね。」「なんだよそれ!」「えへへ。」「えへへ、じゃねぇよ…。」俺は舞妻の方が雪恋より可愛いと思うのだが、どうなんだろうか…。「照れるから止めてもらっていい?」「あ…。」そう、こいつの能力は人の考えていることが分かる、というものだ。人の心を読むのとは違う。後者は何かに対してこう思っている、というもの、前者は脳で考えている事が分かる、というような違いだ。たまに能力が受動的に発動するらしい。にしてもタイミング悪すぎるだろ…。「ごめん、嫌な思いさせたかな。」「ううん、大丈夫!弱味として心に留めて…」「違う!違うから!単純に俺は雪恋よりお前の方が…」「へぇ、ちょっと残念だな…。」「え?どういうこと?」「なんでもない!一回部屋戻ろ?」「ああ。」一緒の部屋と言っても完全に同じ、ということではなく、部屋のドアを開けると廊下があって、ここから俺の部屋と舞妻の部屋がある、といったものだ。俺の部屋の中から舞妻の部屋に行く事も出来る。
部屋に戻って、襖を開ける。すると舞妻の部屋と繋がるのだ。「さっ、じゃあ計画を立てよう!」「ああ。」計画というのは、秋田や黄田、左真似をどう潰すか、である。彼女も俺の計画に賛同してくれている。というのも、舞妻は秋田に過去振られており、それなりの恨みがある。
暫くの話し合いの上、俺が考えていた計画と舞妻の考えていた計画を折り合わす形になった。まとめると、
1.秋田は好意を寄せている千手にリークして精神的に壊す
2.黄田は試合中に過失的に腱を潰す
3.左真似は俺がアプローチして感情的に落とす
と、こんな感じだ。3番は少し心配だが、1番は千手が俺の知り合いであるが故に、2番は目のリハビリをしている間バスケの猛練習をしていたからかなり上手くなったから為せる。3番が心配なのは、左真似を鹿伊からどう心移りさせるか、である。左真似は今年も同じクラスなので、話す機会はある(今年から2クラス)。そんなこんなで役職会議の呼び出しがかかる。てな訳で、今語るのはここまでだ。
悪いやつに仕上がりました。