~最終話~
「勿忘草」遂に最終話です。こうして本格的に小説を書くのは初めてなので、終わり方が納得いかなかったりするかもしれませんが、楽しんで読み終えて頂ければ満足ですっ
「え…っとつまり、実李ちゃんはお兄さんである椋君の元へ会いに来ただけであって、とりついていた訳ではないと」
「「Yes」」
「それで、椋君以外の人に見えたりしないはずなのに、霊感の強い私にはなぜか見えると…そういう事だよね?」
「「まったくその通りでございます」」
俺と妹は揃って頷いた。
偶然この女子生徒ーー浜姫咲優と帰る方角が一緒だったので、俺は妹についての事を彼女に一通り話した。
霊感があるせいなのか、浜姫は幽霊である妹にすぐに慣れ、今では後ろでガールズトークを繰り広げているほどだ。
「でも驚きましたよー!まさか私が見える人がいたなんて」
「私こそ驚いた!こうして幽霊と話せるなんて、思いもしなかったから。あ、敬語使わなくて平気だよ。私のことも普通に『咲優』って呼んでくれていいからね」
「本当!?じゃあじゃあ、私は『実李』って呼んでくれると嬉しいかも!」
というほのぼのした感じの。
妹と話している浜姫はとても楽しそうに、こんなことを言った。
「私、こんなにお喋りするのを楽しいと思ったの、初めてだなあ。今まで友達って呼べる人もいなかったし…実李となら、お友達になれそうな気がする」
「本当、嬉しい!死後でも友達ができるなんて!」
でも…と、突然妹が暗い表情になったので、どうしたのかと俺と浜姫は顔を見合わせた。そして、思い出した。
妹がこの世にいれるのは、今日この一日だけ。翌朝には、もういない。
俺たちが思っている事を悟ったのか、妹はぎこちない笑みを浮かべて場を和ませようとした。が、
その目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「なんでだろう、本当はここにいちゃいけない存在なのに…私、まだここに居たいよ…!」
「実李……」
妹の泣き顔に、俺はどうしたら良いのか分からなかった。ただただ、妹のすすり泣く声を聞いている事しか、出来なかった。
その時、俺はふと小さい頃の記憶が頭に浮かんだ。辿っていくとーーああ、そうだ。妹はいつも泣いていたんだ。思い起こせば、確か俺が喧嘩で妹を散々泣かせてきたのが一番の原因だった気がする。あの日も俺は妹にーーー。
この世からいなくなってしまう前に、〈あの事〉について全部話さなければ。そう思うと同時に、俺は言葉を紡ぎ始めていた。
「なあ、実李。今さらこんな話をされるのは嫌だと思うけれど、お前が死ぬ直前まで、俺たち喧嘩して口きいてなかった事覚えてるか?」
言うと、妹は泣き腫らした赤い目でこちらを見つめ、頷いた。
「うん…お兄ちゃん、私が死んでもその事気にしてたんだ。本当は私が悪かったのに、謝る前に死んじゃったから。まだちゃんと謝ってなかったんだよね。ーーあの時はごめんね?お兄ちゃん」
「違う。違うんだよ。謝るのは俺の方なんだ。あの朝、俺が実李にあんな事を言ったから…」
喧嘩のきっかけは、今考えると些細なことだった。
実は俺は(あまり人には言いたくないが)植物を育てるのが趣味で、部屋に色とりどりの花を育てていた。俺がそれらを大切にしている事を、妹は家族の誰よりもよく知っていた。
だがある日、そんな妹が誤って鉢植えの一つを割ってしまった。冷静に考えれば、鉢植えなんてすぐにまた買うことが出来るのに、俺はとても腹をたて、それから一週間くらい妹と口をきかなかった。
けれど、あいつは俺と仲直りしようと、あの日の朝ーー俺の誕生日に新しい鉢植えを買ってきてプレゼントしてくれたのだ。
なのに俺はその行動が気に入らなくて、つい言ってしまった。
『なんだよ今さら、誕生日にあわせて謝れば許してもらえるとでも思ったのかよ!そんなものいらねえよ、捨てちまえ‼』
とても酷い事をしてしまった、と思ったが遅かった。あの時のあいつの顔が忘れられない。
唇をかんで下を向き、泣きそうになるのを必死に堪えていたあの表情。
そのままあいつは何も言わずに家を出て、
学校へ行く途中、信号無視した乗用車に轢かれてこの世を去ったのだ。
「今さらこんな事言っても、しょうがないかもしれないけどーー。あの時は、ごめん。それから…俺の誕生日にプレゼントしようとしてくれて、ありがとう」
やっと、本当のことを言えた。
俺が笑いかけると、妹は少し驚いたように目を見開いて、同じように笑った。
その顔が、少しだけ風景に滲んで見えた。
驚いた。あの目つきが悪くて怒りっぽくていつもだるそうにしているお兄ちゃんが、私に謝ってきたなんて。それほど根に持ってたっぽいけど、実は私、あの事あんまり気にしてなかったんだよな。でも、仲直りできたんだからまあいいか。めでたしめでたし。
そんなことを思いながら、私は窓の外にぽっかりと浮かんでいる大きな満月を見上げた。
もう、行かなきゃ。
まだやりたい事がいっぱいあったけど、いつまでもここにいてはいけない。
私は最後に、すぐ隣で眠っているお兄ちゃんに「おやすみ」と告げて、この世をあとにした。
とっても素敵なプレゼントを残して。
あれから俺は、妹の夢を見なくなった。
まああいつに面と向かって謝ることが出来たし(少し恥ずかしかったが)、心の中で知らない内に区切りがついたのだろう。
余談だが、俺の部屋に一つ新しい花が増えた。渡したかったのに渡せなかった、俺へのプレゼント。それを妹の生まれ変わりだと思いながら、今大切に育てている。
花の名前は、勿忘草。
花言葉は「私を忘れないで」。
「勿忘草」最終話まで読んで下さったそこの貴方!本当にありがとうございます!前書きでも申した通り、「小説書くの初めて!」という奴なので、勉強のために感想とかどんどん送っちゃって下さい。お願いします。話が変わりますが、前回話していた浜姫さん、あんまり出番なかったですね…いつか彼女が主人公の物語も書いてみたいものです。それでは、またいつか。小説の中でお会いしましょう!