~第二話~
お話の終盤に、新たな登場人物である女の子が出てきます。次回詳しく書いていくので、楽しみにして頂けると幸いです。
つまらない。本当につまらない。どうしてこんなに面白くないのだろう。自分の感覚がおかしいのだろうか。と心配になってくるぐらいだ。
ちなみに、今は午後の国語の授業中。教室をざっと見渡すと、ほとんどが退屈な気持ちと眠気に負けて机につっぷしていた。まあ、いつもと変わらない日常風景だ。
「へえー、ここがお兄ちゃんの学校かあ。意外と教室狭いんだね。あっ!すごーい!窓から富士山が見えるよ‼ねえねえ見て見てお兄ちゃん、ねえ、話聞いてる~?ねえってば~」
…俺の周りでギャンギャン騒ぐ妹(幽霊)を除けば。
「うるさいな。騒ぐなら外でやれ。こっちは授業中なんだよ、授業中!」
「いいじゃん別に。私の姿や声は他の人には認知されないんだから」
そう言われて、俺は今朝の会話を思い出す。
どうやらあの話は本当らしく、翌朝には妹はちゃんとあの世へ帰ってくれるらしい。それはおいておくとして、俺は根本的な問題である「誰かにバレたらどうしよう…」ということを気にしていたのだが、さっき妹が言っていたとおり、俺以外の人には気付かれないらしい。
それを聞いた時にはほっとしたが、矢継ぎ早に繰り出される会話に自分だけで相手をしなくてはいけないのは結構辛いものがある。
と、俺が物思いにふけって話を聞いてくれないことをつまらなく思った妹が、だだをこね始めた。
「ねえ、こんなに高校の授業ってつまんないの?お兄ちゃんも大変だねぇ。私、中学生で死ねてある意味幸せなのかもしれない」
「おい。やめろよそういう事言うの。お前が死んだ時、父さんも母さんもすごく悲しんだんだぞ」
妹の言った事が少し頭にきたのでそう言うと、あいつはばつが悪そうになった。
「分かってるよ。そんなこと。それよりさあ、なんか面白いこと考えようよ!ずっと思ってたんだけど、あの国語の先生の頭中途半端にはげてて“朧月夜”みたいだね」
「ブフフゥ‼?」
……不覚にも、笑ってしまった。
「お兄ちゃん、大丈夫?そんなに落ち込まなくても…」
放課後、部活へ行く奴やこれから遊びに行く奴らで混み合っている廊下で、俺は一人(幽霊は含まず)どんよりと歩いていた。
いやだ。もういやだ。あの後、それまで寝ていた奴も含めクラス全員の視線を集めてしまった俺は『授業中に自作のギャグで一人ウケまくっている可哀想な人』みたいなレッテルを貼られてしまった。
もちろん、あの朧月…いや、国語教師の中で俺の評価はかなり下がってしまっただろう。
明日からどうやって皆と接したらいいのか。そんな事を考えてしまうと、割と本気で泣きたくなってくる。そもそも、どうして俺がこんな目に遭わなくてはいけなかったのか。静かな怒りが沸々とわきあがってくるのを感じる。そうだ、事の発端といえば、
「お前のせいだあああ‼」
「うわあああ‼いきなりどうしたのお兄ちゃ
「元はといえば全部お前のせいじゃねえか!クソッ、『お兄ちゃんに迷惑はかけないから高校行かせて』っていうのは嘘だったのかよ‼」
「うっ…そ、それは私もちゃんと悪いと思ってるよ、反省してるよ?」
「嘘つけ!あああもおおお、明日からどんな顔してクラスで過ごせばいいんだよおお‼もう…もう……皆大嫌いだあああ‼」
「ちょっとお兄ちゃん、廊下のど真ん中でわめくのやめなよ…ますます変な人扱いされちゃうよ?」
あきれた妹がそう言うが、もうなんだっていい。可哀想?変な人?ハッ、好きに言ってろ!
「……あの、」
「うるせえ‼そんなに可笑しかったらそこで笑ってろ‼あーっはっはっはっ‼‼」
一人でわめく事のどこが可笑しい!
「…あの!」
そこで俺は、誰かに話しかけられている事にようやく気付いた。
見ると、休み時間にいつも本を読んでいるようなイメージの、おとなしそうな女子生徒が立っていた。
確か同じクラスだったような…なんだか急に恥ずかしくなった俺は、無理に平然を装おうとしてぎこちない口調になってしまった。
「ん?な、なんだよお前。何か用か?」
尋ねると、彼女はゆっくりと口を開いて
「……君、幽霊にとりつかれてるけど大丈夫?」
とんでもない事を言ってきた。
俺がポカンとしていると、相手は急にあたふたし始め、矢継ぎ早にこんな事を言った。
「ご…ごめんなさい!いきなり赤の他人にそんな事言われたら“なんだコイツ”って思うよね…でも私、昔から霊感が強くて嫌でも視えちゃうから、どうしても気になって。そ、それで君には中学生くらいの女の子の霊がとりついてるんだけど…」
ーー中学生くらいの女の子の…霊…?
「ちょっと待て。お前、コイツが見えるのか…?」
言いながら俺は、今の発言で一番その可能性がある……妹を指さす。
「え?う、うん…そうだけど…もしかして、君にも“視える”の…?」
………。
「ーー実李さん?」
「いっいやっ違うんだよこれは私も予想していなかった事態であって断じて私の責任では…ってやめてお兄ちゃんそんな目で私を睨まないでええ‼」
「あ、あの…?」
まったく。今日はとんだ厄日だな。俺はうんざりしながら、おろおろしている女子生徒に言った。
「詳しい事はこれから話す。とりあえず場所を変えようか」